魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓。プレアデス専用サロンには、珍しく静かな空気が流れていた。
円卓を囲むのはセバス・チャンと、プレアデスの6名。アルベドから与えられた一週間という猶予の中、それぞれがアインズマスについて考えを巡らせてきたものの、今日が初めて意見を持ち寄る日だった。
円卓の中央には、ラナーが提示した五つの柱が書かれた魔導紙が置かれている。
誰も口を開かない沈黙を破ったのは、セバスだった。
「皆さん」
穏やかな声だった。
「ラナーの分析は、実に見事でした。しかし、私は五つ全てを考える必要はないと思っています」
「と、おっしゃいますと?」ユリが静かに訊いた。
「この第三の柱だけを考えてみてはいかがでしょう」
セバスの指先が、魔導紙の一節を静かになぞる。
――揺りかごの創造。
「アインズ様は、民を重労働から解放し、誰もが安心して暮らせる世界を創造されました。であれば、私たちはその理念を形にすることを考えればよいでしょう」
誰も異論を挟まなかった。
むしろ、その言葉はプレアデスたちの胸に自然と落ちていく。
では、具体的には何をすればよいのか――。
各自が案を出すものの、どれも決め手にかけていた。
話し合いは続くものの、次第に同じところを巡るようになり、再び静寂が訪れる。
その時、ユリがゆっくりと口を開く。
「皆さん」
全員の視線が長女へ向く。
「私たちは、何を贈るかばかりを考えていました」
一呼吸置き、柔らかな微笑みを浮かべる。
「ですが、本当に考えるべきなのは、誰を笑顔にしたいのかではありませんか?」
その一言で、空気が変わる。ユリは続けた。
「私は、子どもたちだと思います。子どもたちは、この国の未来です。未来を育むことこそ、『揺りかご』という理念に最もふさわしいのではないでしょうか」
「その通りですね」セバスが穏やかに頷く。
「未来ある子どもたちへ贈り物を届ける。それは、アインズ様がお築きになった世界への、私たちなりの感謝の形になるでしょう」
方向性は決まった。
しかし、新たな問題が浮かび上がる。
「誰が届けるんすか?」
ルプスレギナが率直に尋ねた。
「ユリ姉?」
「私ではありません」ユリは静かに首を横へ振った。
「私が一人だけ表に立てば、他の5人が陰に隠れることになります」
「じゃあソリュシャン?」
ソリュシャンは、小首を傾げながら不気味な笑みを浮かべた。
「子どもというのは、成長途中の実に味わい深い素材……」
「却下よ」ユリがソリュシャンの言葉を遮った。
「じゃあナーベラル?」
「は?」ナーベラルが、心底不愉快そうに眉をひそめる。
「なぜ私が、人間の子どもなどのために働かねばならないの?」
「でも、アインズ様のためっすよ?」
「そ、それとこれとは話が別っ」
分かりやすく視線が泳いだが、誰も追及しなかった。
「シズ?」
「……無理」
「エントマ?」
「難しい……」
一人ずつ名前が挙がるたびに、皆が首を横に振る。
その様子を見守っていたセバスが、静かに立ち上がる。
「私が参りましょう」
全員が顔を上げた。
「セバス様が、ですか」ユリが尋ねる。
「ええ」
セバスは柔らかな笑みを浮かべた。
「私は執事です。誰かに仕え、その人の幸福を願うことが私の務めです。未来ある子どもたちへ贈り物を届ける役目であれば、私以上の適任者はいないでしょう」
その言葉には、一切の気負いがなかった。
「どうやって配るんすか?」
ルプスレギナの問いに、シズが短く答えた。
「……ソウルイーター」
一同が、シズを見る。
ソウルイーターは、魔導高架鉄道やアンデッドバスを牽引する存在として、人々に親しまれている。
「……ソウルイーターが贈り物を積んだソリを牽引すればいい」
「いやいやいや。地上を走って届けてたら夜が明けちゃうっすよ?」
「空を駆けさせればいいのではなくて?」
ソリュシャンの一言に、ナーベラルが眉をひそめた。
「あれが飛べるとは思えない」
誰もその懐疑に答えられなかった。
その時――。
コンっコンっ。扉がノックされた。
ここはプレアデス専用サロンだ。今ここには6人全員が揃っている。セバスもいる。
他にここへ来る者などいないはずだ。一体、誰だろう。全員が顔を見合わせる。
ちょうど立ち上がっていたセバスが扉を開けた。
すると、そこに立っていたのは――宰相アルベド。
ザっ! あまりの珍客に驚愕したプレアデスたちが一斉に立ち上がった。
まさか、あの時のこと――アインズ様との記念写真撮影未遂事件――で罰を与えに来たというのか――。
6人は顔面蒼白になりながら、アルベドの言葉を待った。
「アインズマスの相談をしていたのでしょう? どんな案を考えていたのかしら」
「はい。良い案が出たのですが、一つ困っていることがあるのです」
セバスが顎髭をさすりながら、話し合った内容をアルベドに説明した。
「良いアイデアね……。わかったわ。ソウルイーターに空を駆けさせる方法は、私が預かりましょう」
そうセバスに言った後で、アルベドはプレアデスたちの方へ顔を向けた。
「アインズマスのイベントとして、あなたたちにやってもらいたいことがあるの」
そこでアルベドから告げられたのは、プレアデスたちにとって予想だにしない話だった。