魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase9-9 吸血姫が彩る祝祭の紅

ナザリック地下大墳墓、第二階層。冷たく静謐(せいひつ)な空気が満ちる死蝋玄室。

 

その最奥に腰掛けた吸血鬼、シャルティア・ブラッドフォールンは、小さくため息をついた。

「……はぁ」

 

普段であれば、誰よりも誇らしく語るはずの『ブラッド』の最新デザイン画が、今日は机の上に広げられたままになっている。

 

その姿を見守っていた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちは、不安そうに顔を見合わせた。

「シャルティア様……」

一人がおずおずと声を掛ける。

「ブラッドは、今や魔導国だけではなく、世界中の女性がシャルティア様のお召し物に憧れております」

「左様です。アインズ様がシャルティア様のために拓いてくださったこの道は、今や莫大な富をもたらしております」

 

シャルティアは静かに首を横へ振った。

「……だからでありんす」

その赤い瞳には迷いが宿っていた。

机の上の一枚のドレス画を優しく指でなぞる。

「この『ブラッド』は、わたくしの誇り。アインズ様から賜った宝物でありんす」

その声は震えていた。

「だからこそ……アインズ様の聖誕祭に、この宝物をどう捧げればよいのか……それが分からないのでありんす」

 

誰も答えられなかった。

ブラッドは完成している。人気もある。利益も生んでいる。

だが、それだけでは「祝祭」にならない。

 

部屋に静寂が落ちる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その時だった。

コンっコンっ。重厚な扉が静かに叩かれた。

シャルティアが頷くのを見て、ヴァンパイア・ブライドの一人が扉を開ける。

 

一人の女性が姿を現す。

守護者統括アルベドだった。

純白のドレスを揺らしながら歩み寄る姿は、まるで女神のように美しい。

 

「アルベド……」

「ご機嫌よう、シャルティア」

いつものように皮肉を含んだ微笑。

 

しかし今日は、その手に一冊の企画書があった。

「あなたに頼みたい仕事があるわ」

シャルティアが顔を上げる。

「仕事……でありんすか?」

「ええ」

アルベドは企画書を机へ置いた。

「ヒルマ・シュグネウスとシン・ワーナベから提出された企画よ」

シャルティアは目を細める。

 

アルベドが企画書のページを開いて説明する。

「彼らはこう提案してきたの」

静かに読み上げる。

「ブラッドの新作発表会を、聖誕祭最大のファッションショーにしたい、と」

「……!」

シャルティアの瞳が大きく見開かれた。

「内容はこの通りだけど、企画名は私が変えたわ」

アルベドは一拍置いてから、静かな声で言った。

「アインズマス・コレクション」

 

その瞬間、シャルティアは立ち上がった。

赤い瞳が、一瞬で輝きを取り戻す。

「アインズマス・コレクション……!」

それはただの新作発表会ではない。アインズの名を冠した祝祭。

その中心で、自分のブランドが輝く。

「やりんす!」

シャルティアの声が弾けた。

「やらせていただくでありんす!」

 

ヴァンパイア・ブライドたちも歓声を上げる。

「アインズ様がくださったブラッドを!」

「アインズ様への感謝と共に!」

歓喜が一気に部屋を満たした。

 

アルベドは満足そうに頷く。

「ただし、この企画には、もう一つ提案があった」

アルベドは静かに言う。

「プレアデスもモデルとして参加させる」

「プレアデスを?!」

「そう。あなた一人ではなく、プレアデスの6人も」

 

シャルティアは一瞬だけ驚いた。しかし、その驚きはすぐ笑みに変わる。

「わかっていんす」

シャルティアは力強く頷いた。

「アインズ様がお望みなのは、ナザリック全員が輝くことでありんしょう」

アルベドも静かに微笑む。

「確かに伝えたわよ」

 

アルベドは扉へ向かって数歩歩いたところで、ふと足を止めた。

肩越しに振り返る。その笑みには、先ほどまでとは違う冷たい色が混じっていた。

「また、あの『ツーショット写真』の時のように、アインズ様に、見苦しく、抱き付いたりしないことね」

その一言だけを残し、ピシャリ――扉は閉じられた。

 

静寂――。数秒後、

「なっ……!」

シャルティアは何か言い返してやろうと、扉を開けたが、もう廊下には誰もいなかった。

 

部屋には再び静寂が戻る。

しかし、先ほどまでとはまったく違う静寂だった。

 

シャルティアは胸へ手を当てる。

そこにはもう迷いはない。

(……見ていてくださりんせ)

 

アインズ様から授かった道。アインズ様から授かった居場所。そのすべてを込めて。

「わたくしがいただいた『ブラッド』で、この世界を一番美しい『紅』に染め上げてみせしんす」

 

すぐに新たなドレスの裁断が始まった。

アインズマス・コレクション――その華やかな舞台が、静かに産声を上げた。

 

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