魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓、第二階層。冷たく静謐(せいひつ)な空気が満ちる死蝋玄室。
その最奥に腰掛けた吸血鬼、シャルティア・ブラッドフォールンは、小さくため息をついた。
「……はぁ」
普段であれば、誰よりも誇らしく語るはずの『ブラッド』の最新デザイン画が、今日は机の上に広げられたままになっている。
その姿を見守っていた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちは、不安そうに顔を見合わせた。
「シャルティア様……」
一人がおずおずと声を掛ける。
「ブラッドは、今や魔導国だけではなく、世界中の女性がシャルティア様のお召し物に憧れております」
「左様です。アインズ様がシャルティア様のために拓いてくださったこの道は、今や莫大な富をもたらしております」
シャルティアは静かに首を横へ振った。
「……だからでありんす」
その赤い瞳には迷いが宿っていた。
机の上の一枚のドレス画を優しく指でなぞる。
「この『ブラッド』は、わたくしの誇り。アインズ様から賜った宝物でありんす」
その声は震えていた。
「だからこそ……アインズ様の聖誕祭に、この宝物をどう捧げればよいのか……それが分からないのでありんす」
誰も答えられなかった。
ブラッドは完成している。人気もある。利益も生んでいる。
だが、それだけでは「祝祭」にならない。
部屋に静寂が落ちる。
その時だった。
コンっコンっ。重厚な扉が静かに叩かれた。
シャルティアが頷くのを見て、ヴァンパイア・ブライドの一人が扉を開ける。
一人の女性が姿を現す。
守護者統括アルベドだった。
純白のドレスを揺らしながら歩み寄る姿は、まるで女神のように美しい。
「アルベド……」
「ご機嫌よう、シャルティア」
いつものように皮肉を含んだ微笑。
しかし今日は、その手に一冊の企画書があった。
「あなたに頼みたい仕事があるわ」
シャルティアが顔を上げる。
「仕事……でありんすか?」
「ええ」
アルベドは企画書を机へ置いた。
「ヒルマ・シュグネウスとシン・ワーナベから提出された企画よ」
シャルティアは目を細める。
アルベドが企画書のページを開いて説明する。
「彼らはこう提案してきたの」
静かに読み上げる。
「ブラッドの新作発表会を、聖誕祭最大のファッションショーにしたい、と」
「……!」
シャルティアの瞳が大きく見開かれた。
「内容はこの通りだけど、企画名は私が変えたわ」
アルベドは一拍置いてから、静かな声で言った。
「アインズマス・コレクション」
その瞬間、シャルティアは立ち上がった。
赤い瞳が、一瞬で輝きを取り戻す。
「アインズマス・コレクション……!」
それはただの新作発表会ではない。アインズの名を冠した祝祭。
その中心で、自分のブランドが輝く。
「やりんす!」
シャルティアの声が弾けた。
「やらせていただくでありんす!」
ヴァンパイア・ブライドたちも歓声を上げる。
「アインズ様がくださったブラッドを!」
「アインズ様への感謝と共に!」
歓喜が一気に部屋を満たした。
アルベドは満足そうに頷く。
「ただし、この企画には、もう一つ提案があった」
アルベドは静かに言う。
「プレアデスもモデルとして参加させる」
「プレアデスを?!」
「そう。あなた一人ではなく、プレアデスの6人も」
シャルティアは一瞬だけ驚いた。しかし、その驚きはすぐ笑みに変わる。
「わかっていんす」
シャルティアは力強く頷いた。
「アインズ様がお望みなのは、ナザリック全員が輝くことでありんしょう」
アルベドも静かに微笑む。
「確かに伝えたわよ」
アルベドは扉へ向かって数歩歩いたところで、ふと足を止めた。
肩越しに振り返る。その笑みには、先ほどまでとは違う冷たい色が混じっていた。
「また、あの『ツーショット写真』の時のように、アインズ様に、見苦しく、抱き付いたりしないことね」
その一言だけを残し、ピシャリ――扉は閉じられた。
静寂――。数秒後、
「なっ……!」
シャルティアは何か言い返してやろうと、扉を開けたが、もう廊下には誰もいなかった。
部屋には再び静寂が戻る。
しかし、先ほどまでとはまったく違う静寂だった。
シャルティアは胸へ手を当てる。
そこにはもう迷いはない。
(……見ていてくださりんせ)
アインズ様から授かった道。アインズ様から授かった居場所。そのすべてを込めて。
「わたくしがいただいた『ブラッド』で、この世界を一番美しい『紅』に染め上げてみせしんす」
すぐに新たなドレスの裁断が始まった。
アインズマス・コレクション――その華やかな舞台が、静かに産声を上げた。