魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓、第六階層。
天井のない蒼穹(そうきゅう)の下、巨大樹が枝葉を大きく広げ、深い森を静かに見守っていた。
そこには、エルフの双子――アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレが、ラナーから渡された資料を前に並んで座っていた。
「うーん……」腕を組んだアウラが唸る。
「む、難しいね……」マーレも困ったように資料を見つめた。
アルベドから与えられた猶予は一週間。
ラナーが示した五つの柱は、どれも納得できる。
だからこそ、自分たちに何ができるのか分からなかった。
「『武力なき支配』はデミウルゴスの仕事だし」
「『揺りかご』は……セバスさんたち、かな……」
「『平和的な熱狂』はカンデーズだよね」
一つずつ候補を消していくたび、自分たちの役割は遠ざかっていく。
長い沈黙が流れた。
やがてアウラが立ち上がる。
「考えてても仕方ない」
アウラは大きく伸びをすると、森を振り返った。
「マーレ、仕事しよう」
「う、うん」
二人は資料を閉じ、それぞれ森へ向かった。
アウラは魔獣たちの様子を見て回り、マーレは巨大樹の周囲に新しい苗を植えていく。
それは二人にとって、何度も繰り返してきた日常だった。
夕暮れ。マーレは一本の若木の前で足を止めた。
「……あれ?」
昼間に植えたばかりの魔法植物。
その葉が、薄く青白い光を放っている。
「これ……夜だけ、光るんだ……?」
不思議そうに葉へ触れる。
昼間には何の変哲もなかった葉が、日没とともに淡く発光し始めていた。
マーレは思わず笑みを浮かべる。
「きれい……」
その呟きを聞きつけたアウラが歩み寄ってきた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、これ……見て」
アウラは若木を見た瞬間、目を丸くした。
青白い光は派手ではない。
けれど森の闇の中では、それが星明かりのように優しく輝いていた。
「へぇ……こんな植物あったんだ」
「昼は普通なんだけど……夜だけ光るみたい……」
二人はしばらく無言で、その小さな光を眺めていた。
ふと、アウラの頭の中で何かが繋がった。
「これって……」
アウラの視線が巨大樹へ向く。
「もし、この光る植物を何千本も育てて……」
巨大樹の幹へ、枝へ、葉へ、蔦のように絡ませたら――。
頭の中に、一つの光景が完成した。
夜空へ向かって伸びる一本の巨大樹――枝という枝が青白く輝く。
それはまるで、天空から星を降ろしたかのような幻想的な光景。
「マーレ!」
アウラは思わずマーレの両肩を掴んだ。
「これだよ!」
「え?」
「この巨大樹を、世界で一番綺麗な木にするんだ!」
「世界で、一番?」
「そう!」
アウラは興奮したまま空中へ地図を描き始める。
「ノヴァリア中央公園……そこに一本だけ植える。昼は立派な大樹……でも夜になると、世界で一番綺麗に光る。世界中の人が、その巨大樹を見るために集まる……」
マーレの瞳も少しずつ輝き始める。
「み、みんな、写真を撮るね」
「うん! でも、それだけじゃない。アインズマスの日に結婚する人も出てくる。世界で一番幸せな日に、世界で一番綺麗な木の下で、ブラッドのウェディングドレスを着て写真を撮る。それが世界中の憧れになるんだ!」
マーレは思わず笑顔になった。
「毎年、新しい夫婦が、その木の下で幸せになるんだね」
「そう。ただの木じゃない。幸せを誓う場所。家族が集まる場所。友人たちとの思い出になる場所」
――それは、毎年、世界中のみんなが帰ってくる場所。
「決まり!」
二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。
二人が育てる巨大樹――それは一本の樹ではない。
世界中の人々が、大切な人との思い出を刻み続ける――祝祭そのものの象徴となる。