魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓、第九階層。
荘厳な玉座の間は、かつてないほど張り詰めた空気に包まれていた。
玉座には、魔導王アインズ・ウール・ゴウンが静かに鎮座している。
その前には、各階層守護者、領域守護者ラナー、セバス、そしてプレアデスらが整然と平伏していた。
守護者統括アルベドが、一歩前へ進み出る。
その両腕に抱えられていたのは、人の背丈をはるかに超える巨大な巻物――『アインズマス完遂工程表』だった。
「アインズ様。これをご覧ください」
アルベドが静かに留め具を外す。
巨大な魔導紙は音を立ててほどけ、床へと流れ落ちる。幾重にも折り重なりながら玉座の間いっぱいに広がった工程表は、無数の線と区画で埋め尽くされ、見る者を圧倒した。
「各守護者からの案、そして人間側からはヒルマ、シン両名から提出された企画を統合し、完璧な工程表へとまとめ上げました」
(え、なにこれ……数千項目の工程表? 誰がチェックするの、これ……俺? いや無理だろ……)
アルベドが全体の概要を説明していく。
その膨大な情報量と、一切の妥協を許さない完璧なロジック。
アルベドのよどみのない説明が続く中、他の守護者たちは皆一様に、緊張した面持ちでアインズの反応を見つめている。
アインズは下顎の骨がガクガクと外れそうになるのを、精神安定の強制発動で必死に抑え込んだ。緑色の光がアインズの全身を包み、骸骨の貌(かお)は再び「冷徹な支配者」へと戻る。
「……ふむ。良いだろう」
アインズは、さも全てを把握したかのような重厚な声で頷いた。
「だが、アルベドよ。この計画、実に見事ではあるが、少しばかり『味』が足りないな」
「味……でございますか?」
アルベドが、啓示を待つ巫女のように瞳を輝かせ、身を乗り出した。
(あ……みんなの視線が痛くて、また余計なこと言っちゃった……。「味」って何だよ。でも、少しは「クリスマス」っぽさを出さないと……)
アインズは、かつて鈴木悟として過ごした、寂しくも煌びやかだった冬の記憶を掘り起こした。
「まず、アルベド。お前が言った『祝祭が始まる前夜』という考えは正しい。民たちが最も高揚する12月24日の夜――これを『イブ』と定義する。『アインズマス・イブ』と呼称し、祝祭の頂点として扱うがよい」
「アインズマス・イブ……! なんという深淵なる響き。前夜すらもアインズ様の御名で塗り替える。まさに、支配の極致にございます」
アルベドが恍惚とした表情で、胸の前で手を組んだ。
アインズは次に、アウラとマーレに顔を向けた。
「アウラ、マーレ。お前たちが育てる星樹……それもまた、祝祭の象徴として名を与えよう。『アインズマス・ツリー』だ。毎年、民たちがその樹の下へ集い、写真を撮り、忘れられない思い出を刻むための楔(くさび)とせよ」
「アインズマス・ツリー……! ありがとうございます、アインズ様!」
双子の守護者たちが、至上の名誉を授かった喜びに顔を輝かせた。
そして、アインズは静かにセバスを見た。
(さて、ここだ……。セバス・チャン……サンタクロース。……チャン・サンタクロース。……うん、いける!)
「セバスよ。子どもたちに贈り物を届けるお前の役割、実に素晴らしい。祝祭の期間、お前は特別な二つ名を名乗るが良い。『チャンタクロース』だ」
「……チャンタクロース」
セバスの鷹のような眼が、驚愕に見開かれた。
「おそれ多き幸せにございます。このセバス・チャン、『チャンタクロース』として、子どもたちに陛下の慈悲を、この命に代えてもお届けいたします」
アインズは骨の指で顎を擦った。
「それから……41人のメイドによるサプライズ・ライブ。彼女たちであれば、必ずや世界を熱狂させる舞台を見せてくれるはずだ。……良いだろう。メイドたちには私から話をしておこう」
(グループ名は、NZK41、とか?)
「では、準備に取り掛かれ。世界で最も煌びやかな『アインズマス』を、この私に見せてみよ」
「「「「「御意に!」」」」」
守護者たちが一斉に退出していく。
叡智という名の誤解が結集し、ついに『アインズマス』という巨獣が立ち上がった。
(あ……。「アインズマス・チキン」って言うの忘れた。……それにしても、セバスのチャンタクロース、本当に良かったのか?)
一人残ったアインズは、そんなことを思いながら静かに玉座を降りた。
そこへ、「アインズ様」――玉座の間に入ってきた者がいた。