魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~ 作:Camel おさ
ナザリック地下大墳墓、第九階層。
守護者たちが退出した玉座の間には、アインズとパンドラズ・アクターの二人だけがいた。
「アインズ様。折り入って、お願いがございます」
パンドラズ・アクターは、いつになく深々と頭を垂れた。
「なんだ、言ってみろ」
アインズは内心で身構えつつ、鷹揚(おうよう)に頷いてみせた。
「来る11月1日の記者会見――『アインズマス』の全貌を世界へお伝えする、その日だけは、この私に、『自由』をお与えいただけないでしょうか」
「自由?」
「はい」
パンドラズ・アクターはのっぺらぼうの顔を、これ以上ないほど真剣に――少なくとも本人はそのつもりで――アインズへ向けた。
「アインズ様がこの私を創造くださった、本来の設定のままに」
(……俺の黒歴史)
アインズは、思わずこめかみ――無いが――を押さえたくなる衝動に駆られた。
これまで、パンドラズ・アクターの記者会見には、どれほどヒヤヒヤさせられてきたか分からない。あの過剰な身振り手振り、意味不明なドイツ語混じりの絶叫。あれをやらせると、会見の中身よりも、その「演出」の方が話題をさらってしまう。だからこそ、普段は厳しく制限してきたのだ。
「なぜ、今回に限ってそう思う?」
アインズは慎重に尋ねた。
パンドラズ・アクターは、まるで信仰告白でもするかのように、両手を胸の前で組んだ。
「これまでの会見は、その多くが政策の発表でございました。だからこそ、私は自らを律し、理知的な報告者として振る舞うことを是としておりました」
「……うむ」
「しかし、此度は違います。これは政策ではない」
パンドラズ・アクターは顔をぐいと近づけた。
「アインズマスとは、アインズ様の生誕を祝う、世界でただ一つの祝祭。この福音を世界へ届けるには、単なる報告者の言葉では、あまりに……あまりに、力不足でございます」
パンドラズ・アクターの声に、次第に熱がこもっていく。
「アインズ様の偉大さを、その慈悲を、その神々しさを、世界の隅々にまで刻み込むには……全身全霊、この魂の全てを懸けた『表現』でなければ、とても御名に見合うものにはなりません」
アインズは、しばし沈黙した。
(いや、理屈めちゃくちゃだろ……。でも、まぁ、確かに今回だけは派手にやった方が、祝祭っぽい雰囲気は出るのか? というか、こいつを止め続けるの、結構疲れるしな……)
「……分かった」
「――!」
パンドラズ・アクターの肩が、ビクリと震えた。
「今回だけだぞ。今回、この一回だけ、お前の好きにやっていい」
アインズは、あくまで鷹揚(おうよう)な支配者の口調を崩さぬよう、慎重に言葉を選んだ。
「ポーズもドイツ語も好きにしろ。……ただし」
「ただし?」
「引き際は考えろよ。あんまりやりすぎて、記者たちが会見の中身より、お前のポーズの方を記事にするようなことになったら……次から、もっと厳しく制限するからな」
パンドラズ・アクターは、その場に崩れ落ちるようにして、深々と平伏した。
そしてガバリと顔を上げた。そののっぺらぼうの顔からは、傍目にも分かるほどの高揚感が滲み出ていた。
「感謝いたします、アインズ様! 必ずや、世界の隅々にまで、アインズ様の福音を届けてみせます!」
アインズは、そのパンドラズ・アクターの様子に、内心わずかに不安を覚えながらも、静かに頷いた。
(……大丈夫だよな? これ、大丈夫だよなっ?)
その一抹の不安が、五日後、現実のものとなる。