紅魔館が、悲鳴を上げていた。
美鈴が未来の中心から戻った瞬間、館全体を包む魔力が暴走し、
壁は波打ち、床は歪み、天井は脈動するように明滅している。
まるで紅魔館そのものが“未来の揺らぎ”に耐えきれず、
形を保てなくなっているかのようだった。
レミリアは美鈴を抱きしめたまま、震える声で叫んだ。
「美鈴! あなた……何を見たの!」
美鈴は荒い息のまま、レミリアの肩に手を置いた。
「お嬢様……未来を……選べるんです。
紅魔館が滅びる未来も……救われる未来も……全部、見ました」
レミリアの瞳が揺れた。
「そんな……あなたが未来に触れたら……!」
美鈴は微笑んだ。
「大丈夫です。
私は……まだここにいます」
その言葉に、レミリアは胸を押さえた。
――まだ、ここにいる。
だが、いつまで?
その不安が、レミリアの心を締めつける。
◆
そのとき、紅魔館の奥から轟音が響いた。
咲夜が駆け込んでくる。
「お嬢様! 館の魔術構造が崩壊寸前です!
このままでは、紅魔館が“未来の裂け目”に飲まれます!」
パチュリーも現れ、息を切らしながら言った。
「美鈴……あなたの運命が揺れたせいで、
紅魔館の“器”が耐えられなくなっているのよ……!」
美鈴は立ち上がった。
「私が……止めます」
レミリアが叫ぶ。
「ダメ! あなたが動けば、未来が――!」
美鈴は振り返り、レミリアを見つめた。
「未来は……動いてほしいんです。
滅びる未来より、ずっといい」
レミリアの表情が崩れた。
「美鈴……お願い……行かないで……」
美鈴は優しく微笑んだ。
「大丈夫です。
私は、戻ってきます」
その言葉は、未来を見た者の覚悟だった。
◆
紅魔館の中心部――“魔力炉”へ向かう廊下は、すでに異常空間と化していた。
壁がねじれ、床が波打ち、未来の断片がちらつく。
燃える紅魔館。
消える紅魔館。
救われる紅魔館。
それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。
美鈴は拳を握りしめた。
「……怖くないわけじゃない。
でも……進まなきゃ」
そのとき――
影が現れた。
黒い霧が渦を巻き、廊下の中央に立つ。
「紅美鈴。
お前は、未来を選んだ。
だが――まだ“覚醒”していない」
美鈴は影を見つめた。
「あなたは……誰なんですか?」
影は静かに答えた。
「私は“運命の監視者”。
だが――それは表の顔にすぎない」
美鈴は息を呑んだ。
影は続ける。
「私は、かつて紅魔館が生まれたときに作られた“守護者”。
紅魔館が運命を歪めすぎないよう、
未来の均衡を保つための存在だ」
美鈴は目を見開いた。
「紅魔館の……守護者……?」
影はうなずいた。
「レミリアの能力は強すぎる。
運命を変えれば、必ず“反動”が生まれる。
その反動が、滅びの未来を呼び寄せている」
美鈴は胸を押さえた。
「じゃあ……紅魔館が滅びるのは……
お嬢様のせいじゃなくて……?」
影は首を振った。
「違う。
“未来を変えようとしたこと”が原因ではない。
“未来を変えようとしながら、真実を隠したこと”が原因だ」
美鈴は息を呑んだ。
影は続ける。
「レミリアは、お前を守るために嘘をついた。
その嘘が、運命の流れを歪めた。
だから紅魔館は滅びに向かっている」
美鈴は震えた。
「お嬢様が……私を守ろうとして……
紅魔館が……?」
影は静かに言った。
「だからこそ――
お前が“真実を知り、選ぶ”必要がある」
美鈴は拳を握った。
「私は……紅魔館を救いたい。
お嬢様も、みんなも……誰も失いたくない」
影はうなずいた。
「ならば――
進め。
紅魔館の中心へ。
お前の力で、未来を掴め」
美鈴は深く息を吸い、影の横を通り抜けた。
影は静かに呟いた。
「紅美鈴……
お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」
◆
その頃、レミリアは震える手で胸を押さえていた。
「美鈴……どうか……無事で……」
咲夜がそっとレミリアの肩に手を置く。
「お嬢様。
美鈴は……強い子です」
レミリアは涙をこぼした。
「強いから……怖いのよ……
あの子は……自分を犠牲にしてしまう……」
パチュリーが静かに言った。
「レミィ。
美鈴はもう“選んだ”のよ。
あなたを守る未来を」
レミリアは目を閉じた。
「美鈴……
どうか……帰ってきて……」