静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第11話 揺れる館、目覚める門番

 紅魔館が、悲鳴を上げていた。

 

 美鈴が未来の中心から戻った瞬間、館全体を包む魔力が暴走し、

壁は波打ち、床は歪み、天井は脈動するように明滅している。

 

 まるで紅魔館そのものが“未来の揺らぎ”に耐えきれず、

形を保てなくなっているかのようだった。

 

 レミリアは美鈴を抱きしめたまま、震える声で叫んだ。

 

「美鈴! あなた……何を見たの!」

 

 美鈴は荒い息のまま、レミリアの肩に手を置いた。

 

「お嬢様……未来を……選べるんです。

 紅魔館が滅びる未来も……救われる未来も……全部、見ました」

 

 レミリアの瞳が揺れた。

 

「そんな……あなたが未来に触れたら……!」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「大丈夫です。

 私は……まだここにいます」

 

 その言葉に、レミリアは胸を押さえた。

 

――まだ、ここにいる。

だが、いつまで?

 

 その不安が、レミリアの心を締めつける。

 

 

 

◆

 

 そのとき、紅魔館の奥から轟音が響いた。

 

 咲夜が駆け込んでくる。

 

「お嬢様! 館の魔術構造が崩壊寸前です!

 このままでは、紅魔館が“未来の裂け目”に飲まれます!」

 

 パチュリーも現れ、息を切らしながら言った。

 

「美鈴……あなたの運命が揺れたせいで、

 紅魔館の“器”が耐えられなくなっているのよ……!」

 

 美鈴は立ち上がった。

 

「私が……止めます」

 

 レミリアが叫ぶ。

 

「ダメ! あなたが動けば、未来が――!」

 

 美鈴は振り返り、レミリアを見つめた。

 

「未来は……動いてほしいんです。

 滅びる未来より、ずっといい」

 

 レミリアの表情が崩れた。

 

「美鈴……お願い……行かないで……」

 

 美鈴は優しく微笑んだ。

 

「大丈夫です。

 私は、戻ってきます」

 

 その言葉は、未来を見た者の覚悟だった。

 

 

 

◆

 

 紅魔館の中心部――“魔力炉”へ向かう廊下は、すでに異常空間と化していた。

 

 壁がねじれ、床が波打ち、未来の断片がちらつく。

 

 燃える紅魔館。

 消える紅魔館。

 救われる紅魔館。

 

 それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。

 

 美鈴は拳を握りしめた。

 

「……怖くないわけじゃない。

 でも……進まなきゃ」

 

 そのとき――

影が現れた。

 

 黒い霧が渦を巻き、廊下の中央に立つ。

 

「紅美鈴。

 お前は、未来を選んだ。

 だが――まだ“覚醒”していない」

 

 美鈴は影を見つめた。

 

「あなたは……誰なんですか?」

 

 影は静かに答えた。

 

「私は“運命の監視者”。

 だが――それは表の顔にすぎない」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「私は、かつて紅魔館が生まれたときに作られた“守護者”。

 紅魔館が運命を歪めすぎないよう、

 未来の均衡を保つための存在だ」

 

 美鈴は目を見開いた。

 

「紅魔館の……守護者……?」

 

 影はうなずいた。

 

「レミリアの能力は強すぎる。

 運命を変えれば、必ず“反動”が生まれる。

 その反動が、滅びの未来を呼び寄せている」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

「じゃあ……紅魔館が滅びるのは……

 お嬢様のせいじゃなくて……?」

 

 影は首を振った。

 

「違う。

 “未来を変えようとしたこと”が原因ではない。

 “未来を変えようとしながら、真実を隠したこと”が原因だ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「レミリアは、お前を守るために嘘をついた。

 その嘘が、運命の流れを歪めた。

 だから紅魔館は滅びに向かっている」

 

 美鈴は震えた。

 

「お嬢様が……私を守ろうとして……

 紅魔館が……?」

 

 影は静かに言った。

 

「だからこそ――

 お前が“真実を知り、選ぶ”必要がある」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「私は……紅魔館を救いたい。

 お嬢様も、みんなも……誰も失いたくない」

 

 影はうなずいた。

 

「ならば――

 進め。

 紅魔館の中心へ。

 お前の力で、未来を掴め」

 

 美鈴は深く息を吸い、影の横を通り抜けた。

 

 影は静かに呟いた。

 

「紅美鈴……

 お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」

 

 

 

◆

 

 その頃、レミリアは震える手で胸を押さえていた。

 

「美鈴……どうか……無事で……」

 

 咲夜がそっとレミリアの肩に手を置く。

 

「お嬢様。

 美鈴は……強い子です」

 

 レミリアは涙をこぼした。

 

「強いから……怖いのよ……

 あの子は……自分を犠牲にしてしまう……」

 

 パチュリーが静かに言った。

 

「レミィ。

 美鈴はもう“選んだ”のよ。

 あなたを守る未来を」

 

 レミリアは目を閉じた。

 

「美鈴……

 どうか……帰ってきて……」

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