静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第11話 揺れる館、目覚める門番

 紅魔館が、悲鳴を上げていた。

 

 美鈴が未来の中心から戻った瞬間、館全体を包む魔力が暴走し、

壁は波打ち、床は歪み、天井は脈動するように明滅している。

 

 まるで紅魔館そのものが“未来の揺らぎ”に耐えきれず、

形を保てなくなっているかのようだった。

 

 レミリアは美鈴を抱きしめたまま、震える声で叫んだ。

 

「美鈴! あなた……何を見たの!」

 

 美鈴は荒い息のまま、レミリアの肩に手を置いた。

 

「お嬢様……未来を……選べるんです。

 紅魔館が滅びる未来も……救われる未来も……全部、見ました」

 

 レミリアの瞳が揺れた。

 

「そんな……あなたが未来に触れたら……!」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「大丈夫です。

 私は……まだここにいます」

 

 その言葉に、レミリアは胸を押さえた。

 

――まだ、ここにいる。

だが、いつまで?

 

 その不安が、レミリアの心を締めつける。

 

 

 

 

 そのとき、紅魔館の奥から轟音が響いた。

 

 咲夜が駆け込んでくる。

 

「お嬢様! 館の魔術構造が崩壊寸前です!

 このままでは、紅魔館が“未来の裂け目”に飲まれます!」

 

 パチュリーも現れ、息を切らしながら言った。

 

「美鈴……あなたの運命が揺れたせいで、

 紅魔館の“器”が耐えられなくなっているのよ……!」

 

 美鈴は立ち上がった。

 

「私が……止めます」

 

 レミリアが叫ぶ。

 

「ダメ! あなたが動けば、未来が――!」

 

 美鈴は振り返り、レミリアを見つめた。

 

「未来は……動いてほしいんです。

 滅びる未来より、ずっといい」

 

 レミリアの表情が崩れた。

 

「美鈴……お願い……行かないで……」

 

 美鈴は優しく微笑んだ。

 

「大丈夫です。

 私は、戻ってきます」

 

 その言葉は、未来を見た者の覚悟だった。

 

 

 

 

 紅魔館の中心部――“魔力炉”へ向かう廊下は、すでに異常空間と化していた。

 

 壁がねじれ、床が波打ち、未来の断片がちらつく。

 

 燃える紅魔館。

 消える紅魔館。

 救われる紅魔館。

 

 それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。

 

 美鈴は拳を握りしめた。

 

「……怖くないわけじゃない。

 でも……進まなきゃ」

 

 そのとき――

影が現れた。

 

 黒い霧が渦を巻き、廊下の中央に立つ。

 

「紅美鈴。

 お前は、未来を選んだ。

 だが――まだ“覚醒”していない」

 

 美鈴は影を見つめた。

 

「あなたは……誰なんですか?」

 

 影は静かに答えた。

 

「私は“運命の監視者”。

 だが――それは表の顔にすぎない」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「私は、かつて紅魔館が生まれたときに作られた“守護者”。

 紅魔館が運命を歪めすぎないよう、

 未来の均衡を保つための存在だ」

 

 美鈴は目を見開いた。

 

「紅魔館の……守護者……?」

 

 影はうなずいた。

 

「レミリアの能力は強すぎる。

 運命を変えれば、必ず“反動”が生まれる。

 その反動が、滅びの未来を呼び寄せている」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

「じゃあ……紅魔館が滅びるのは……

 お嬢様のせいじゃなくて……?」

 

 影は首を振った。

 

「違う。

 “未来を変えようとしたこと”が原因ではない。

 “未来を変えようとしながら、真実を隠したこと”が原因だ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「レミリアは、お前を守るために嘘をついた。

 その嘘が、運命の流れを歪めた。

 だから紅魔館は滅びに向かっている」

 

 美鈴は震えた。

 

「お嬢様が……私を守ろうとして……

 紅魔館が……?」

 

 影は静かに言った。

 

「だからこそ――

 お前が“真実を知り、選ぶ”必要がある」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「私は……紅魔館を救いたい。

 お嬢様も、みんなも……誰も失いたくない」

 

 影はうなずいた。

 

「ならば――

 進め。

 紅魔館の中心へ。

 お前の力で、未来を掴め」

 

 美鈴は深く息を吸い、影の横を通り抜けた。

 

 影は静かに呟いた。

 

「紅美鈴……

 お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」

 

 

 

 

 その頃、レミリアは震える手で胸を押さえていた。

 

「美鈴……どうか……無事で……」

 

 咲夜がそっとレミリアの肩に手を置く。

 

「お嬢様。

 美鈴は……強い子です」

 

 レミリアは涙をこぼした。

 

「強いから……怖いのよ……

 あの子は……自分を犠牲にしてしまう……」

 

 パチュリーが静かに言った。

 

「レミィ。

 美鈴はもう“選んだ”のよ。

 あなたを守る未来を」

 

 レミリアは目を閉じた。

 

「美鈴……

 どうか……帰ってきて……」

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