静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第12話 紅魔館の心臓へ

 紅魔館の奥へ進むほど、空気は重く、熱く、そして冷たかった。

 

 矛盾した温度が同時に存在し、

廊下はねじれ、天井は波打ち、

未来の断片がちらついては消える。

 

 燃える紅魔館。

 消えた紅魔館。

 救われた紅魔館。

 

 それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。

 

 美鈴は拳を握りしめ、前へ進んだ。

 

――怖い。

でも、止まれない。

 

 影の言葉が胸に残っている。

 

「紅美鈴。

 お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」

 

 その意味を、まだ完全には理解できない。

だが、進むべき道は分かっている。

 

 

 

 

 紅魔館の中心部――“魔力炉”の扉が見えた。

 

 巨大な鉄扉は、赤く脈動している。

まるで心臓の鼓動のように。

 

 美鈴が手を伸ばすと、扉はひとりでに開いた。

 

 中は――異様だった。

 

 空間が歪み、床も天井も存在しない。

ただ、紅い光の渦が中心で回転し、

その周囲に未来の断片が浮かんでいる。

 

 燃える未来。

 消える未来。

 救われる未来。

 

 それらが互いにぶつかり合い、紅魔館の魔力炉は悲鳴を上げていた。

 

 美鈴は一歩踏み出した。

 

「……ここが、紅魔館の心臓……」

 

 そのとき――

影が現れた。

 

「来たな、紅美鈴」

 

 美鈴は影を見つめた。

 

「ここで……未来が決まるんですね」

 

 影はうなずいた。

 

「紅魔館の魔力炉は、レミリアの能力を増幅する“器”。

 だが今は、未来の歪みが流れ込み、暴走している」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「止める方法は……?」

 

 影は美鈴を見つめた。

 

「お前が“未来を選ぶ”ことだ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「未来は無数にある。

 だが、紅魔館の魔力炉は“最も強い未来”に引き寄せられる。

 今は――滅びの未来が強すぎる」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

「じゃあ……私が、救われる未来を強く思えば……?」

 

 影は静かにうなずいた。

 

「そうだ。

 お前の“願い”が、未来を形作る」

 

 美鈴は目を閉じた。

 

――紅魔館を守りたい。

――お嬢様を守りたい。

――咲夜さんも、パチュリー様も、小悪魔も……

――誰も失いたくない。

 

 その願いが胸に満ちていく。

 

 だが――

 

 影の声が落ちてきた。

 

「だが、忘れるな。

 未来を変えれば……お前の未来が削られる」

 

 美鈴は目を開いた。

 

「それでも……私は守りたい」

 

 影は静かに言った。

 

「ならば――

 “覚醒”しろ」

 

 その瞬間、魔力炉が激しく揺れた。

 

 未来の断片が美鈴の周囲に集まり、光の渦が美鈴を包み込む。

 

 美鈴は叫んだ。

 

「う……ああああああっ……!」

 

 未来が流れ込む。

無数の可能性が、美鈴の意識を引き裂こうとする。

 

 燃える未来。

 消える未来。

 救われる未来。

 そして――

 “美鈴がいない未来”。

 

 美鈴は歯を食いしばった。

 

「私は……ここにいる……!

 紅魔館を……守る……!」

 

 光が爆ぜた。

 

 

 

 

 そのとき、魔力炉の外でレミリアが叫んだ。

 

「美鈴!!」

 

 咲夜がレミリアを押さえる。

 

「お嬢様! 今入れば危険です!」

 

 レミリアは涙をこぼした。

 

「美鈴……お願い……戻ってきて……!」

 

 パチュリーが呟く。

 

「レミィ……美鈴は今、未来と戦っている。

 あなたのために」

 

 レミリアは震える声で言った。

 

「そんなの……望んでない……

 私は……美鈴が生きていてくれれば……それだけで……!」

 

 その叫びは、魔力炉の中へ届いた。

 

 

 

 

 美鈴の意識が揺れた。

 

 レミリアの声が聞こえた。

 

――美鈴……生きていて……

 

 美鈴は涙をこぼした。

 

「お嬢様……

 私は……生きて帰ります……

 だから……未来を……変えさせてください……!」

 

 その瞬間――

美鈴の体から、紅い光が溢れた。

 

 影が呟く。

 

「……覚醒したか。

 紅美鈴――

 “運命の門番”として」

 

 美鈴は未来の渦へ手を伸ばした。

 

「私は……救われる未来を選ぶ!!」

 

 光が爆発し、紅魔館全体が震えた。

 

 未来が――動いた。

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