紅魔館の奥へ進むほど、空気は重く、熱く、そして冷たかった。
矛盾した温度が同時に存在し、
廊下はねじれ、天井は波打ち、
未来の断片がちらついては消える。
燃える紅魔館。
消えた紅魔館。
救われた紅魔館。
それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。
美鈴は拳を握りしめ、前へ進んだ。
――怖い。
でも、止まれない。
影の言葉が胸に残っている。
「紅美鈴。
お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」
その意味を、まだ完全には理解できない。
だが、進むべき道は分かっている。
◆
紅魔館の中心部――“魔力炉”の扉が見えた。
巨大な鉄扉は、赤く脈動している。
まるで心臓の鼓動のように。
美鈴が手を伸ばすと、扉はひとりでに開いた。
中は――異様だった。
空間が歪み、床も天井も存在しない。
ただ、紅い光の渦が中心で回転し、
その周囲に未来の断片が浮かんでいる。
燃える未来。
消える未来。
救われる未来。
それらが互いにぶつかり合い、紅魔館の魔力炉は悲鳴を上げていた。
美鈴は一歩踏み出した。
「……ここが、紅魔館の心臓……」
そのとき――
影が現れた。
「来たな、紅美鈴」
美鈴は影を見つめた。
「ここで……未来が決まるんですね」
影はうなずいた。
「紅魔館の魔力炉は、レミリアの能力を増幅する“器”。
だが今は、未来の歪みが流れ込み、暴走している」
美鈴は拳を握った。
「止める方法は……?」
影は美鈴を見つめた。
「お前が“未来を選ぶ”ことだ」
美鈴は息を呑んだ。
影は続ける。
「未来は無数にある。
だが、紅魔館の魔力炉は“最も強い未来”に引き寄せられる。
今は――滅びの未来が強すぎる」
美鈴は胸を押さえた。
「じゃあ……私が、救われる未来を強く思えば……?」
影は静かにうなずいた。
「そうだ。
お前の“願い”が、未来を形作る」
美鈴は目を閉じた。
――紅魔館を守りたい。
――お嬢様を守りたい。
――咲夜さんも、パチュリー様も、小悪魔も……
――誰も失いたくない。
その願いが胸に満ちていく。
だが――
影の声が落ちてきた。
「だが、忘れるな。
未来を変えれば……お前の未来が削られる」
美鈴は目を開いた。
「それでも……私は守りたい」
影は静かに言った。
「ならば――
“覚醒”しろ」
その瞬間、魔力炉が激しく揺れた。
未来の断片が美鈴の周囲に集まり、光の渦が美鈴を包み込む。
美鈴は叫んだ。
「う……ああああああっ……!」
未来が流れ込む。
無数の可能性が、美鈴の意識を引き裂こうとする。
燃える未来。
消える未来。
救われる未来。
そして――
“美鈴がいない未来”。
美鈴は歯を食いしばった。
「私は……ここにいる……!
紅魔館を……守る……!」
光が爆ぜた。
◆
そのとき、魔力炉の外でレミリアが叫んだ。
「美鈴!!」
咲夜がレミリアを押さえる。
「お嬢様! 今入れば危険です!」
レミリアは涙をこぼした。
「美鈴……お願い……戻ってきて……!」
パチュリーが呟く。
「レミィ……美鈴は今、未来と戦っている。
あなたのために」
レミリアは震える声で言った。
「そんなの……望んでない……
私は……美鈴が生きていてくれれば……それだけで……!」
その叫びは、魔力炉の中へ届いた。
◆
美鈴の意識が揺れた。
レミリアの声が聞こえた。
――美鈴……生きていて……
美鈴は涙をこぼした。
「お嬢様……
私は……生きて帰ります……
だから……未来を……変えさせてください……!」
その瞬間――
美鈴の体から、紅い光が溢れた。
影が呟く。
「……覚醒したか。
紅美鈴――
“運命の門番”として」
美鈴は未来の渦へ手を伸ばした。
「私は……救われる未来を選ぶ!!」
光が爆発し、紅魔館全体が震えた。
未来が――動いた。