静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第12話 紅魔館の心臓へ

 紅魔館の奥へ進むほど、空気は重く、熱く、そして冷たかった。

 

 矛盾した温度が同時に存在し、

廊下はねじれ、天井は波打ち、

未来の断片がちらついては消える。

 

 燃える紅魔館。

 消えた紅魔館。

 救われた紅魔館。

 

 それらが重なり合い、現実と未来の境界が曖昧になっている。

 

 美鈴は拳を握りしめ、前へ進んだ。

 

――怖い。

でも、止まれない。

 

 影の言葉が胸に残っている。

 

「紅美鈴。

 お前こそが、紅魔館の“真の守護者”だ」

 

 その意味を、まだ完全には理解できない。

だが、進むべき道は分かっている。

 

 

 

◆

 

 紅魔館の中心部――“魔力炉”の扉が見えた。

 

 巨大な鉄扉は、赤く脈動している。

まるで心臓の鼓動のように。

 

 美鈴が手を伸ばすと、扉はひとりでに開いた。

 

 中は――異様だった。

 

 空間が歪み、床も天井も存在しない。

ただ、紅い光の渦が中心で回転し、

その周囲に未来の断片が浮かんでいる。

 

 燃える未来。

 消える未来。

 救われる未来。

 

 それらが互いにぶつかり合い、紅魔館の魔力炉は悲鳴を上げていた。

 

 美鈴は一歩踏み出した。

 

「……ここが、紅魔館の心臓……」

 

 そのとき――

影が現れた。

 

「来たな、紅美鈴」

 

 美鈴は影を見つめた。

 

「ここで……未来が決まるんですね」

 

 影はうなずいた。

 

「紅魔館の魔力炉は、レミリアの能力を増幅する“器”。

 だが今は、未来の歪みが流れ込み、暴走している」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「止める方法は……?」

 

 影は美鈴を見つめた。

 

「お前が“未来を選ぶ”ことだ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 影は続ける。

 

「未来は無数にある。

 だが、紅魔館の魔力炉は“最も強い未来”に引き寄せられる。

 今は――滅びの未来が強すぎる」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

「じゃあ……私が、救われる未来を強く思えば……?」

 

 影は静かにうなずいた。

 

「そうだ。

 お前の“願い”が、未来を形作る」

 

 美鈴は目を閉じた。

 

――紅魔館を守りたい。

――お嬢様を守りたい。

――咲夜さんも、パチュリー様も、小悪魔も……

――誰も失いたくない。

 

 その願いが胸に満ちていく。

 

 だが――

 

 影の声が落ちてきた。

 

「だが、忘れるな。

 未来を変えれば……お前の未来が削られる」

 

 美鈴は目を開いた。

 

「それでも……私は守りたい」

 

 影は静かに言った。

 

「ならば――

 “覚醒”しろ」

 

 その瞬間、魔力炉が激しく揺れた。

 

 未来の断片が美鈴の周囲に集まり、光の渦が美鈴を包み込む。

 

 美鈴は叫んだ。

 

「う……ああああああっ……!」

 

 未来が流れ込む。

無数の可能性が、美鈴の意識を引き裂こうとする。

 

 燃える未来。

 消える未来。

 救われる未来。

 そして――

 “美鈴がいない未来”。

 

 美鈴は歯を食いしばった。

 

「私は……ここにいる……!

 紅魔館を……守る……!」

 

 光が爆ぜた。

 

 

 

◆

 

 そのとき、魔力炉の外でレミリアが叫んだ。

 

「美鈴!!」

 

 咲夜がレミリアを押さえる。

 

「お嬢様! 今入れば危険です!」

 

 レミリアは涙をこぼした。

 

「美鈴……お願い……戻ってきて……!」

 

 パチュリーが呟く。

 

「レミィ……美鈴は今、未来と戦っている。

 あなたのために」

 

 レミリアは震える声で言った。

 

「そんなの……望んでない……

 私は……美鈴が生きていてくれれば……それだけで……!」

 

 その叫びは、魔力炉の中へ届いた。

 

 

 

◆

 

 美鈴の意識が揺れた。

 

 レミリアの声が聞こえた。

 

――美鈴……生きていて……

 

 美鈴は涙をこぼした。

 

「お嬢様……

 私は……生きて帰ります……

 だから……未来を……変えさせてください……!」

 

 その瞬間――

美鈴の体から、紅い光が溢れた。

 

 影が呟く。

 

「……覚醒したか。

 紅美鈴――

 “運命の門番”として」

 

 美鈴は未来の渦へ手を伸ばした。

 

「私は……救われる未来を選ぶ!!」

 

 光が爆発し、紅魔館全体が震えた。

 

 未来が――動いた。

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