静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

13 / 27
第13話 未来が牙をむく

 紅魔館の魔力炉が光に包まれた直後――

館全体が、悲鳴を上げた。

 

 床が裂け、壁が波打ち、天井が歪む。

未来の断片が暴走し、現実に干渉し始めている。

 

 燃える未来の炎が廊下を舐め、

消えた未来の虚無が床を侵食し、

救われる未来の光が断片的に瞬く。

 

 紅魔館は、三つの未来が同時に存在する“矛盾の空間”と化していた。

 

 

 

◆

 

 魔力炉の中心で、美鈴は膝をついていた。

 

 覚醒の光がまだ体を包み、未来の流れが美鈴の中を駆け巡っている。

 

「はぁ……はぁ……

 これが……未来を選ぶって……」

 

 意識が遠のきそうになる。

だが、胸の奥には確かな“光”があった。

 

――私は、紅魔館を守る。

 

 その願いが、美鈴を支えていた。

 

 影が静かに言った。

 

「紅美鈴。

 お前は未来を掴んだ。

 だが――滅びの未来は、まだ消えていない」

 

 美鈴は顔を上げた。

 

「どういう……ことですか……?」

 

 影は魔力炉の中心を指した。

 

「滅びの未来は“意思”を持つ。

 未来の中で最も強い“収束”は、時に形を持つ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「まさか……!」

 

 その瞬間――

魔力炉の中心から、黒い腕が伸びた。

 

 空間を裂き、床を砕き、未来の闇が形を成していく。

 

 それは“怪物”だった。

 

 紅魔館が燃える未来から生まれた、滅びの象徴。

 

 黒い霧をまとい、人の形をしているようで、していない。

 

 未来の絶望が凝縮した存在。

 

 影が言った。

 

「滅びの未来が……お前を殺しに来た」

 

 美鈴は震える足で立ち上がった。

 

「……来るなら……来なさい……

 私は……紅魔館を……守る……!」

 

 怪物が咆哮した。

 

 その声は、未来の断末魔そのものだった。

 

 

 

◆

 

 その頃、魔力炉の外では――

レミリアが魔力炉へ向かって走っていた。

 

 咲夜が叫ぶ。

 

「お嬢様! 危険です!

 魔力炉は今、未来の裂け目と繋がっています!」

 

 レミリアは振り返らない。

 

「美鈴がいるのよ!

 あの子を一人にできるわけないでしょう!」

 

 パチュリーが息を切らしながら言った。

 

「レミィ……あなたが行けば、未来の揺らぎがさらに強くなる……!」

 

 レミリアは叫んだ。

 

「それでも行く!

 美鈴を……失いたくない……!」

 

 その声は、主ではなく――

ただの少女の叫びだった。

 

 

 

◆

 

 魔力炉の中。

 

 滅びの怪物が美鈴へ迫る。

 

 美鈴は拳を握りしめた。

 

「私は……負けない……!」

 

 怪物の腕が振り下ろされる。

 

 美鈴は未来の流れを掴み、その腕を弾き返した。

 

 光が爆ぜる。

 

 影が呟く。

 

「……やはり、お前は“運命の門番”だ。

 未来を拒み、未来を選ぶ力……

 紅魔館のために作られた、最後の鍵」

 

 美鈴は怪物を睨んだ。

 

「私は……鍵なんかじゃない……

 私は……門番です……!

 紅魔館を守るために……ここにいるんです……!」

 

 怪物が咆哮し、再び襲いかかる。

 

 美鈴は未来の光を拳に集めた。

 

「紅魔館は……滅びません!!」

 

 拳が怪物を打ち砕く。

 

 黒い霧が散り、未来の断片が弾け飛ぶ。

 

 だが――

怪物は再び形を取り戻した。

 

 影が言った。

 

「滅びの未来は強い。

 お前一人では……押し切れない」

 

 美鈴は歯を食いしばった。

 

「でも……諦めません……!」

 

 そのとき――

 

「美鈴!!」

 

 レミリアが魔力炉へ飛び込んできた。

 

 美鈴は振り返った。

 

「お嬢様……!」

 

 レミリアは美鈴の手を掴んだ。

 

「一人で戦わせるわけないでしょう……!

 あなたは……私の大切な門番なんだから……!」

 

 美鈴の胸が熱くなった。

 

 影が呟く。

 

「……これが、紅魔館の“本当の力”か」

 

 レミリアは美鈴の手を握り、怪物を睨んだ。

 

「美鈴。

 未来を変えるのは……あなた一人じゃない。

 私も一緒に戦うわ」

 

 美鈴は涙をこぼした。

 

「お嬢様……!」

 

 怪物が咆哮し、二人へ迫る。

 

 レミリアは翼を広げた。

 

「行くわよ、美鈴!」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「はい……!」

 

 二人の力が重なり――

未来が震えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。