紅魔館の魔力炉が光に包まれた直後――
館全体が、悲鳴を上げた。
床が裂け、壁が波打ち、天井が歪む。
未来の断片が暴走し、現実に干渉し始めている。
燃える未来の炎が廊下を舐め、
消えた未来の虚無が床を侵食し、
救われる未来の光が断片的に瞬く。
紅魔館は、三つの未来が同時に存在する“矛盾の空間”と化していた。
◆
魔力炉の中心で、美鈴は膝をついていた。
覚醒の光がまだ体を包み、未来の流れが美鈴の中を駆け巡っている。
「はぁ……はぁ……
これが……未来を選ぶって……」
意識が遠のきそうになる。
だが、胸の奥には確かな“光”があった。
――私は、紅魔館を守る。
その願いが、美鈴を支えていた。
影が静かに言った。
「紅美鈴。
お前は未来を掴んだ。
だが――滅びの未来は、まだ消えていない」
美鈴は顔を上げた。
「どういう……ことですか……?」
影は魔力炉の中心を指した。
「滅びの未来は“意思”を持つ。
未来の中で最も強い“収束”は、時に形を持つ」
美鈴は息を呑んだ。
「まさか……!」
その瞬間――
魔力炉の中心から、黒い腕が伸びた。
空間を裂き、床を砕き、未来の闇が形を成していく。
それは“怪物”だった。
紅魔館が燃える未来から生まれた、滅びの象徴。
黒い霧をまとい、人の形をしているようで、していない。
未来の絶望が凝縮した存在。
影が言った。
「滅びの未来が……お前を殺しに来た」
美鈴は震える足で立ち上がった。
「……来るなら……来なさい……
私は……紅魔館を……守る……!」
怪物が咆哮した。
その声は、未来の断末魔そのものだった。
◆
その頃、魔力炉の外では――
レミリアが魔力炉へ向かって走っていた。
咲夜が叫ぶ。
「お嬢様! 危険です!
魔力炉は今、未来の裂け目と繋がっています!」
レミリアは振り返らない。
「美鈴がいるのよ!
あの子を一人にできるわけないでしょう!」
パチュリーが息を切らしながら言った。
「レミィ……あなたが行けば、未来の揺らぎがさらに強くなる……!」
レミリアは叫んだ。
「それでも行く!
美鈴を……失いたくない……!」
その声は、主ではなく――
ただの少女の叫びだった。
◆
魔力炉の中。
滅びの怪物が美鈴へ迫る。
美鈴は拳を握りしめた。
「私は……負けない……!」
怪物の腕が振り下ろされる。
美鈴は未来の流れを掴み、その腕を弾き返した。
光が爆ぜる。
影が呟く。
「……やはり、お前は“運命の門番”だ。
未来を拒み、未来を選ぶ力……
紅魔館のために作られた、最後の鍵」
美鈴は怪物を睨んだ。
「私は……鍵なんかじゃない……
私は……門番です……!
紅魔館を守るために……ここにいるんです……!」
怪物が咆哮し、再び襲いかかる。
美鈴は未来の光を拳に集めた。
「紅魔館は……滅びません!!」
拳が怪物を打ち砕く。
黒い霧が散り、未来の断片が弾け飛ぶ。
だが――
怪物は再び形を取り戻した。
影が言った。
「滅びの未来は強い。
お前一人では……押し切れない」
美鈴は歯を食いしばった。
「でも……諦めません……!」
そのとき――
「美鈴!!」
レミリアが魔力炉へ飛び込んできた。
美鈴は振り返った。
「お嬢様……!」
レミリアは美鈴の手を掴んだ。
「一人で戦わせるわけないでしょう……!
あなたは……私の大切な門番なんだから……!」
美鈴の胸が熱くなった。
影が呟く。
「……これが、紅魔館の“本当の力”か」
レミリアは美鈴の手を握り、怪物を睨んだ。
「美鈴。
未来を変えるのは……あなた一人じゃない。
私も一緒に戦うわ」
美鈴は涙をこぼした。
「お嬢様……!」
怪物が咆哮し、二人へ迫る。
レミリアは翼を広げた。
「行くわよ、美鈴!」
美鈴は拳を握った。
「はい……!」
二人の力が重なり――
未来が震えた。