滅びの怪物が動いた。
黒い腕が空間を裂き、未来の炎が奔流となって襲いかかる。
レミリアが叫ぶ。
「美鈴、右へ!」
美鈴は未来の流れを掴み、炎の軌道を“ずらした”。
炎は美鈴の横を通り抜け、空間の裂け目へ吸い込まれる。
パチュリーが驚愕する。
「……未来の軌道を……操作した……!?
そんな芸当、普通は……!」
影が静かに言った。
「紅美鈴は“運命の門番”。
未来の流れを拒み、選び、変える力を持つ。
覚醒した今、その力はさらに強まっている」
咲夜が呟く。
「でも……その力を使うたびに……美鈴の未来が……」
レミリアは歯を食いしばった。
「そんなの……許さない……!」
◆
怪物が再び咆哮し、今度は虚無の波が押し寄せる。
触れれば存在そのものが消える波。
美鈴は拳を握りしめた。
「お嬢様……行きます!」
レミリアが頷く。
「ええ……一緒に!」
二人は同時に飛び出した。
レミリアの紅い魔力が虚無を押し返し、美鈴の青い光が未来の流れを固定する。
虚無の波が砕け散り、怪物の胸に隙が生まれた。
レミリアが叫ぶ。
「今よ、美鈴!!」
美鈴は未来の光を拳に集めた。
「紅魔館は……滅びません!!」
拳が怪物の胸を貫いた。
光が爆ぜ、怪物が後退する。
だが――
怪物はすぐに形を取り戻した。
影が呟く。
「滅びの未来は強い。
“未来の収束”そのものだからな」
レミリアが叫ぶ。
「そんなの……関係ない!!
美鈴と一緒なら……私は負けない!!」
美鈴は微笑んだ。
「お嬢様……!」
◆
そのとき――
美鈴の体が大きく揺らいだ。
レミリアが振り返る。
「美鈴!?
どうしたの……!」
美鈴の足元が、透けていた。
未来が削られ、存在が薄れている。
パチュリーが叫ぶ。
「まずい……!
美鈴の未来が……限界に近い……!」
咲夜が震える声で言う。
「このまま戦えば……美鈴は……!」
レミリアは美鈴の手を掴んだ。
「美鈴……もう戦わなくていい……!
お願い……これ以上は……!」
美鈴は首を振った。
「戦います……
私は……紅魔館を守りたい……
お嬢様の未来を……守りたい……!」
レミリアは涙をこぼした。
◆
影が静かに言った。
「紅美鈴。
お前が未来を選ぶ力は強い。
だが――
“最後の鍵”が必要だ」
レミリアが影を睨む。
「鍵……?
まだ何かあるの……!」
影はうなずいた。
「未来を確定させるには――
“二つの願い”が一致しなければならない」
美鈴は息を呑む。
「二つの……願い……?」
影はうなずいた。
「紅美鈴の願い。
そして――
レミリア・スカーレットの願いだ」
レミリアは震えた。
「私の……願い……」
影は静かに言った。
「レミリア。
お前はずっと“願い”を隠してきた。
美鈴のために。
紅魔館のために。
そして――自分自身のために」
レミリアは唇を噛んだ。
美鈴はそっとレミリアの手を握った。
「お嬢様……
私は……聞きたいです。
お嬢様の願いを」
◆
レミリアは震えながら、美鈴の手を握り返した。
「美鈴……
私は……ずっと……怖かったの……」
美鈴は目を見開いた。
レミリアは続ける。
「あなたが……いつか私の前からいなくなる未来が……
怖くて……たまらなかった……」
美鈴の胸が痛んだ。
レミリアは涙をこぼしながら叫んだ。
「だから私は……未来を歪めたの!!
あなたが死ぬ未来を……消したくて……
あなたがいなくなる未来を……否定したくて……
私は……運命をねじ曲げたの!!」
美鈴は息を呑んだ。
影が静かに言う。
「そうだ。
レミリアの“願い”は――
『美鈴がいなくなる未来を拒絶すること』
だった」
レミリアは美鈴の胸に顔を埋めた。
「美鈴……
私は……あなたがいない未来なんて……
生きていけない……!」
美鈴の目から涙がこぼれた。
◆
レミリアは震える声で言った。
「私の願いは……
あなたが生きていてくれる未来。
それだけなの……!」
美鈴はレミリアを抱きしめた。
「お嬢様……」
レミリアは続ける。
「紅魔館が滅びてもいいなんて……
本気で思ってるわけじゃない……
でも……
あなたがいない未来なんて……
私には……“滅び”と同じなの……!」
美鈴は涙をこぼしながら、レミリアの背中を優しく撫でた。
「お嬢様……
そんなふうに思ってくれて……
ありがとうございます……」
◆
影が静かに言った。
「二つの願いは、まだ一致していない。
美鈴は“紅魔館の未来”を望み、
レミリアは“美鈴の未来”を望む」
レミリアは美鈴を見つめた。
「美鈴……
あなたの願いは……何?」
美鈴は涙を拭い、レミリアの手を握りしめた。
「私の願いは――
お嬢様と一緒に未来を歩くことです」
レミリアは息を呑んだ。
美鈴は続ける。
「紅魔館を守りたい。
でも……
お嬢様と一緒にいたい。
その未来を……私は選びたいんです」
レミリアの瞳から、涙が溢れた。
「美鈴……!」
影が静かに言った。
「二つの願いが――
今、初めて一致した」
未来が震えた。
滅びの怪物が咆哮した。
未来が、決まろうとしている。