紅魔館の中心――
かつて図書館の奥深くに封じられていた“未来の核”が、静かに脈動していた。
滅びの未来が消え、世界が再構築されたあとも、その光だけは消えずに残っている。
レミリアはその前に立っていた。
美鈴が消えた場所。
美鈴が未来を守った場所。
そして――
レミリアが未来を差し出す場所。
◆
レミリアはゆっくりと手を伸ばした。
その手は震えていた。
恐怖ではない。
喪失の痛みでもない。
――覚悟の震え。
「美鈴……
あなたが守った未来を……
今度は私が守る番よ」
その声は、静かで、強かった。
咲夜が後ろから叫ぶ。
「お嬢様!!
どうか……お考え直しを……!」
パチュリーも声を震わせる。
「レミィ……
未来を差し出すということは……
あなたが“未来へ進めなくなる”ということよ……
永遠に、今のまま……」
レミリアは振り返らなかった。
「それでもいいの。
美鈴がいない未来なんて……
私には必要ないもの」
その言葉に、二人は何も言えなくなった。
◆
影が、静かに前へ出た。
「レミリア・スカーレット。
未来を差し出す儀式は――
“未来の核”に自らの運命を捧げること」
レミリアは影を見つめた。
「どうすればいいの?」
影は手を広げた。
「未来の核に触れ、
自らの未来を“否定”する。
それだけでいい」
レミリアは息を呑んだ。
「未来を……否定する……」
影はうなずいた。
「お前が未来を持たなくなれば、
美鈴の未来は“空いた場所”に戻る。
それが唯一の方法だ」
◆
レミリアは未来の核に手を伸ばした。
その光は、紅と青が混ざり合った色。
美鈴とレミリアの願いが残した光。
レミリアはそっと呟いた。
「美鈴……
あなたはいつも……私の前に立って……
私を守ってくれた……」
手が核に触れる。
「今度は……私があなたを守る番よ」
核が脈動し、レミリアの手を包み込む。
◆
影が告げる。
「レミリア・スカーレット。
問う。
お前は――
自らの未来を差し出すか?」
レミリアは迷わなかった。
「差し出すわ。
美鈴の未来と引き換えに」
影は静かに言った。
「では――
未来を否定せよ」
レミリアは目を閉じた。
そして、静かに、はっきりと告げた。
「私は――
未来を持たない」
その瞬間――
未来の核が激しく光を放った。
◆
紅魔館全体が揺れ、空気が震え、時間そのものが軋む音がした。
パチュリーが叫ぶ。
「レミィ!!
未来の流れが……逆流してる……!!」
咲夜が目を見開く。
「お嬢様の……未来が……消えていく……!」
影は静かに言った。
「これで……美鈴の未来は戻る。
だが――
レミリア、お前は“未来へ進めない存在”となる」
レミリアは微笑んだ。
「構わないわ。
美鈴が戻るなら……」
◆
未来の核がさらに強く光り、レミリアの影が揺らぎ始めた。
パチュリーが叫ぶ。
「レミィ!!
あなたの“未来の影”が……消えていく……!」
咲夜は震える声で言う。
「お嬢様……
これ以上は……!」
レミリアは振り返らず、ただ核を見つめた。
「美鈴……
あなたが守った未来を……
私はあなたと歩きたいの……」
その瞬間――
レミリアの背後にあった“未来の影”が、完全に消えた。
影が告げる。
「レミリア・スカーレット。
お前は今――
“未来を持たない存在”となった」
◆
未来の核が最後の光を吸い上げる。
レミリアの胸の奥から、小さな光の粒が引き抜かれた。
それは――
レミリアの未来そのもの。
レミリアは息を呑んだ。
「これが……私の未来……」
光は核に吸い込まれ、二度と戻らなかった。
レミリアの体から、未来の気配が完全に消えた。
影が静かに言った。
「終わった。
レミリア・スカーレットの未来は――
今、完全に消えた」
咲夜が膝をついた。
「お嬢様……!」
パチュリーは唇を噛んだ。
「レミィ……
あなたって子は……!」
◆
未来の核が静かに脈動し、青い光が溢れ出した。
影が告げる。
「レミリアの未来が空いたことで――
美鈴の未来が戻る」
レミリアは息を呑んだ。
「美鈴……!」
青い光が形を成し始める。
腕。
肩。
胸。
髪。
瞳。
美鈴の姿が、ゆっくりと世界へ戻ってくる。
だが――
その瞳はまだ閉じたままだった。
レミリアは震える声で呼んだ。
「美鈴……
美鈴……!」
美鈴の唇が、わずかに動いた。
『……お嬢……様……?』
レミリアの瞳から、涙が溢れた。
「美鈴……!!
戻ってきて……!!」
美鈴の瞳が、ゆっくりと開いた。
その瞳は、いつもの優しい青。
美鈴は、レミリアを見つめた。
「……ただいま……
お嬢様……」
レミリアは美鈴を抱きしめた。
強く、強く、まるで二度と離さないように。
「おかえり……
美鈴……!!
おかえり……!!」
美鈴はレミリアの背中に手を回し、静かに微笑んだ。
「……戻ってきました……
お嬢様のところへ……」
◆
影が、静かに二人を見つめていた。
「レミリア・スカーレット。
お前は未来を失った。
だが――
その代わりに“願いの未来”を得た」
レミリアは美鈴を抱きしめたまま、影を見た。
「願いの……未来……?」
影はうなずいた。
「未来を持たないお前は、
“運命に縛られない存在”となった。
だからこそ――
美鈴と共に歩む未来を、
自分の手で選び続けられる」
美鈴はレミリアの手を握った。
「お嬢様……
これからは……
ずっと一緒に……」
レミリアは涙を拭い、微笑んだ。
「ええ……
未来がなくても……
私はあなたと歩くわ」
◆
未来の核が、最後の光を放ち、ゆっくりと消えていく。
紅魔館は完全に元の姿を取り戻し、風が優しく吹き抜けた。
美鈴はレミリアの手を握りしめたまま、静かに言った。
「お嬢様……
これからの未来は……
どうしましょうか……?」
レミリアは微笑んだ。
「決まってるわ。
あなたと一緒に――
選んでいく未来よ」
美鈴は微笑み返した。
「はい……お嬢様」
その瞬間、二人の未来は確かに動き出した。
運命ではなく、願いによって。