静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第24話 未来を捧げる紅い儀式

 紅魔館の中心――

かつて図書館の奥深くに封じられていた“未来の核”が、静かに脈動していた。

 

 滅びの未来が消え、世界が再構築されたあとも、その光だけは消えずに残っている。

 

 レミリアはその前に立っていた。

 

 美鈴が消えた場所。

美鈴が未来を守った場所。

そして――

レミリアが未来を差し出す場所。

 

 

 

◆

 

 レミリアはゆっくりと手を伸ばした。

 

 その手は震えていた。

恐怖ではない。

喪失の痛みでもない。

――覚悟の震え。

 

「美鈴……

 あなたが守った未来を……

 今度は私が守る番よ」

 

 その声は、静かで、強かった。

 

 咲夜が後ろから叫ぶ。

 

「お嬢様!!

 どうか……お考え直しを……!」

 

 パチュリーも声を震わせる。

 

「レミィ……

 未来を差し出すということは……

 あなたが“未来へ進めなくなる”ということよ……

 永遠に、今のまま……」

 

 レミリアは振り返らなかった。

 

「それでもいいの。

 美鈴がいない未来なんて……

私には必要ないもの」

 

 その言葉に、二人は何も言えなくなった。

 

 

 

◆

 

 影が、静かに前へ出た。

 

「レミリア・スカーレット。

 未来を差し出す儀式は――

 “未来の核”に自らの運命を捧げること」

 

 レミリアは影を見つめた。

 

「どうすればいいの?」

 

 影は手を広げた。

 

「未来の核に触れ、

 自らの未来を“否定”する。

 それだけでいい」

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「未来を……否定する……」

 

 影はうなずいた。

 

「お前が未来を持たなくなれば、

 美鈴の未来は“空いた場所”に戻る。

 それが唯一の方法だ」

 

 

 

◆

 

 レミリアは未来の核に手を伸ばした。

 

 その光は、紅と青が混ざり合った色。

美鈴とレミリアの願いが残した光。

 

 レミリアはそっと呟いた。

 

「美鈴……

 あなたはいつも……私の前に立って……

 私を守ってくれた……」

 

 手が核に触れる。

 

「今度は……私があなたを守る番よ」

 

 核が脈動し、レミリアの手を包み込む。

 

 

 

◆

 

 影が告げる。

 

「レミリア・スカーレット。

 問う。

 お前は――

 自らの未来を差し出すか?」

 

 レミリアは迷わなかった。

 

「差し出すわ。

 美鈴の未来と引き換えに」

 

 影は静かに言った。

 

「では――

 未来を否定せよ」

 

 レミリアは目を閉じた。

 

 そして、静かに、はっきりと告げた。

 

「私は――

 未来を持たない」

 

 その瞬間――

未来の核が激しく光を放った。

 

 

 

◆

 

 紅魔館全体が揺れ、空気が震え、時間そのものが軋む音がした。

 

 パチュリーが叫ぶ。

 

「レミィ!!

 未来の流れが……逆流してる……!!」

 

 咲夜が目を見開く。

 

「お嬢様の……未来が……消えていく……!」

 

 影は静かに言った。

 

「これで……美鈴の未来は戻る。

 だが――

 レミリア、お前は“未来へ進めない存在”となる」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「構わないわ。

 美鈴が戻るなら……」

 

 

 

◆

 

 未来の核がさらに強く光り、レミリアの影が揺らぎ始めた。

 

 パチュリーが叫ぶ。

 

「レミィ!!

 あなたの“未来の影”が……消えていく……!」

 

 咲夜は震える声で言う。

 

「お嬢様……

 これ以上は……!」

 

 レミリアは振り返らず、ただ核を見つめた。

 

「美鈴……

 あなたが守った未来を……

 私はあなたと歩きたいの……」

 

 その瞬間――

レミリアの背後にあった“未来の影”が、完全に消えた。

 

 影が告げる。

 

「レミリア・スカーレット。

 お前は今――

 “未来を持たない存在”となった」

 

 

 

◆

 

 未来の核が最後の光を吸い上げる。

 

 レミリアの胸の奥から、小さな光の粒が引き抜かれた。

 

 それは――

レミリアの未来そのもの。

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「これが……私の未来……」

 

 光は核に吸い込まれ、二度と戻らなかった。

 

 レミリアの体から、未来の気配が完全に消えた。

 

 影が静かに言った。

 

「終わった。

 レミリア・スカーレットの未来は――

 今、完全に消えた」

 

 咲夜が膝をついた。

 

「お嬢様……!」

 

 パチュリーは唇を噛んだ。

 

「レミィ……

 あなたって子は……!」

 

 

 

◆

 

 未来の核が静かに脈動し、青い光が溢れ出した。

 

 影が告げる。

 

「レミリアの未来が空いたことで――

 美鈴の未来が戻る」

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「美鈴……!」

 

 青い光が形を成し始める。

 

 腕。

 肩。

 胸。

 髪。

 瞳。

 

 美鈴の姿が、ゆっくりと世界へ戻ってくる。

 

 だが――

その瞳はまだ閉じたままだった。

 

 レミリアは震える声で呼んだ。

 

「美鈴……

 美鈴……!」

 

 美鈴の唇が、わずかに動いた。

 

『……お嬢……様……?』

 

 レミリアの瞳から、涙が溢れた。

 

「美鈴……!!

 戻ってきて……!!」

 

 美鈴の瞳が、ゆっくりと開いた。

 

 その瞳は、いつもの優しい青。

 

 美鈴は、レミリアを見つめた。

 

「……ただいま……

 お嬢様……」

 

 レミリアは美鈴を抱きしめた。

 

 強く、強く、まるで二度と離さないように。

 

「おかえり……

 美鈴……!!

 おかえり……!!」

 

 美鈴はレミリアの背中に手を回し、静かに微笑んだ。

 

「……戻ってきました……

 お嬢様のところへ……」

 

 

 

◆

 

 影が、静かに二人を見つめていた。

 

「レミリア・スカーレット。

 お前は未来を失った。

 だが――

 その代わりに“願いの未来”を得た」

 

 レミリアは美鈴を抱きしめたまま、影を見た。

 

「願いの……未来……?」

 

 影はうなずいた。

 

「未来を持たないお前は、

 “運命に縛られない存在”となった。

 だからこそ――

 美鈴と共に歩む未来を、

 自分の手で選び続けられる」

 

 美鈴はレミリアの手を握った。

 

「お嬢様……

 これからは……

 ずっと一緒に……」

 

 レミリアは涙を拭い、微笑んだ。

 

「ええ……

 未来がなくても……

 私はあなたと歩くわ」

 

 

 

◆

 

 未来の核が、最後の光を放ち、ゆっくりと消えていく。

 

 紅魔館は完全に元の姿を取り戻し、風が優しく吹き抜けた。

 

 美鈴はレミリアの手を握りしめたまま、静かに言った。

 

「お嬢様……

 これからの未来は……

 どうしましょうか……?」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「決まってるわ。

 あなたと一緒に――

 選んでいく未来よ」

 

 美鈴は微笑み返した。

 

「はい……お嬢様」

 

 その瞬間、二人の未来は確かに動き出した。

 

 運命ではなく、願いによって。

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