静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

24 / 26
第24話 未来を捧げる紅い儀式

 紅魔館の中心――

かつて図書館の奥深くに封じられていた“未来の核”が、静かに脈動していた。

 

 滅びの未来が消え、世界が再構築されたあとも、その光だけは消えずに残っている。

 

 レミリアはその前に立っていた。

 

 美鈴が消えた場所。

美鈴が未来を守った場所。

そして――

レミリアが未来を差し出す場所。

 

 

 

 

 レミリアはゆっくりと手を伸ばした。

 

 その手は震えていた。

恐怖ではない。

喪失の痛みでもない。

――覚悟の震え。

 

「美鈴……

 あなたが守った未来を……

 今度は私が守る番よ」

 

 その声は、静かで、強かった。

 

 咲夜が後ろから叫ぶ。

 

「お嬢様!!

 どうか……お考え直しを……!」

 

 パチュリーも声を震わせる。

 

「レミィ……

 未来を差し出すということは……

 あなたが“未来へ進めなくなる”ということよ……

 永遠に、今のまま……」

 

 レミリアは振り返らなかった。

 

「それでもいいの。

 美鈴がいない未来なんて……

私には必要ないもの」

 

 その言葉に、二人は何も言えなくなった。

 

 

 

 

 影が、静かに前へ出た。

 

「レミリア・スカーレット。

 未来を差し出す儀式は――

 “未来の核”に自らの運命を捧げること」

 

 レミリアは影を見つめた。

 

「どうすればいいの?」

 

 影は手を広げた。

 

「未来の核に触れ、

 自らの未来を“否定”する。

 それだけでいい」

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「未来を……否定する……」

 

 影はうなずいた。

 

「お前が未来を持たなくなれば、

 美鈴の未来は“空いた場所”に戻る。

 それが唯一の方法だ」

 

 

 

 

 レミリアは未来の核に手を伸ばした。

 

 その光は、紅と青が混ざり合った色。

美鈴とレミリアの願いが残した光。

 

 レミリアはそっと呟いた。

 

「美鈴……

 あなたはいつも……私の前に立って……

 私を守ってくれた……」

 

 手が核に触れる。

 

「今度は……私があなたを守る番よ」

 

 核が脈動し、レミリアの手を包み込む。

 

 

 

 

 影が告げる。

 

「レミリア・スカーレット。

 問う。

 お前は――

 自らの未来を差し出すか?

 

 レミリアは迷わなかった。

 

「差し出すわ。

 美鈴の未来と引き換えに」

 

 影は静かに言った。

 

「では――

 未来を否定せよ」

 

 レミリアは目を閉じた。

 

 そして、静かに、はっきりと告げた。

 

「私は――

 未来を持たない

 

 その瞬間――

未来の核が激しく光を放った。

 

 

 

 

 紅魔館全体が揺れ、空気が震え、時間そのものが軋む音がした。

 

 パチュリーが叫ぶ。

 

「レミィ!!

 未来の流れが……逆流してる……!!」

 

 咲夜が目を見開く。

 

「お嬢様の……未来が……消えていく……!」

 

 影は静かに言った。

 

「これで……美鈴の未来は戻る。

 だが――

 レミリア、お前は“未来へ進めない存在”となる」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「構わないわ。

 美鈴が戻るなら……」

 

 

 

 

 未来の核がさらに強く光り、レミリアの影が揺らぎ始めた。

 

 パチュリーが叫ぶ。

 

「レミィ!!

 あなたの“未来の影”が……消えていく……!」

 

 咲夜は震える声で言う。

 

「お嬢様……

 これ以上は……!」

 

 レミリアは振り返らず、ただ核を見つめた。

 

「美鈴……

 あなたが守った未来を……

 私はあなたと歩きたいの……」

 

 その瞬間――

レミリアの背後にあった“未来の影”が、完全に消えた

 

 影が告げる。

 

「レミリア・スカーレット。

 お前は今――

 “未来を持たない存在”となった」

 

 

 

 

 未来の核が最後の光を吸い上げる。

 

 レミリアの胸の奥から、小さな光の粒が引き抜かれた。

 

 それは――

レミリアの未来そのもの

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「これが……私の未来……」

 

 光は核に吸い込まれ、二度と戻らなかった。

 

 レミリアの体から、未来の気配が完全に消えた。

 

 影が静かに言った。

 

「終わった。

 レミリア・スカーレットの未来は――

 今、完全に消えた」

 

 咲夜が膝をついた。

 

「お嬢様……!」

 

 パチュリーは唇を噛んだ。

 

「レミィ……

 あなたって子は……!」

 

 

 

 

 未来の核が静かに脈動し、青い光が溢れ出した。

 

 影が告げる。

 

「レミリアの未来が空いたことで――

 美鈴の未来が戻る」

 

 レミリアは息を呑んだ。

 

「美鈴……!」

 

 青い光が形を成し始める。

 

 腕。

 肩。

 胸。

 髪。

 瞳。

 

 美鈴の姿が、ゆっくりと世界へ戻ってくる。

 

 だが――

その瞳はまだ閉じたままだった。

 

 レミリアは震える声で呼んだ。

 

「美鈴……

 美鈴……!」

 

 美鈴の唇が、わずかに動いた。

 

『……お嬢……様……?』

 

 レミリアの瞳から、涙が溢れた。

 

「美鈴……!!

 戻ってきて……!!」

 

 美鈴の瞳が、ゆっくりと開いた。

 

 その瞳は、いつもの優しい青。

 

 美鈴は、レミリアを見つめた。

 

「……ただいま……

 お嬢様……」

 

 レミリアは美鈴を抱きしめた。

 

 強く、強く、まるで二度と離さないように。

 

「おかえり……

 美鈴……!!

 おかえり……!!」

 

 美鈴はレミリアの背中に手を回し、静かに微笑んだ。

 

「……戻ってきました……

 お嬢様のところへ……」

 

 

 

 

 影が、静かに二人を見つめていた。

 

「レミリア・スカーレット。

 お前は未来を失った。

 だが――

 その代わりに“願いの未来”を得た」

 

 レミリアは美鈴を抱きしめたまま、影を見た。

 

「願いの……未来……?」

 

 影はうなずいた。

 

「未来を持たないお前は、

 “運命に縛られない存在”となった。

 だからこそ――

 美鈴と共に歩む未来を、

 自分の手で選び続けられる

 

 美鈴はレミリアの手を握った。

 

「お嬢様……

 これからは……

 ずっと一緒に……」

 

 レミリアは涙を拭い、微笑んだ。

 

「ええ……

 未来がなくても……

 私はあなたと歩くわ」

 

 

 

 

 未来の核が、最後の光を放ち、ゆっくりと消えていく。

 

 紅魔館は完全に元の姿を取り戻し、風が優しく吹き抜けた。

 

 美鈴はレミリアの手を握りしめたまま、静かに言った。

 

「お嬢様……

 これからの未来は……

 どうしましょうか……?」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「決まってるわ。

 あなたと一緒に――

 選んでいく未来よ

 

 美鈴は微笑み返した。

 

「はい……お嬢様」

 

 その瞬間、二人の未来は確かに動き出した。

 

 運命ではなく、願いによって。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。