静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

25 / 27
エピローグ 紅魔館、ふたたび朝が来る

 未来の核が消え、世界が静かに落ち着きを取り戻してから――

紅魔館には、久しぶりに“朝”が訪れた。

 

 霧の湖に差し込む光は柔らかく、風は穏やかで、紅魔館の赤い壁は、まるで新しく塗り直されたように輝いていた。

 

 その門の前に――

美鈴は立っていた。

 

 いつものように、背筋を伸ばし、柔らかな笑みを浮かべて。

 

 まるで、何も変わっていないかのように。

 

 だが――

確かに変わっていた。

 

 美鈴の胸には、レミリアが差し出した“未来”の温もりが宿っていた。

 

 

 

◆

 

 美鈴は深呼吸をした。

 

「……いい朝ですねぇ」

 

 その声は、以前より少しだけ優しく、少しだけ強くなっていた。

 

 妖精メイドたちが駆け寄ってくる。

 

「美鈴さん! 本当に戻ってきたんですね!」

「よかったぁ……!」

「おかえりなさい!」

 

 美鈴は照れくさそうに笑った。

 

「ただいま。

 みんな、心配かけました」

 

 妖精たちは泣きながら抱きついてくる。

 

 美鈴はその頭を優しく撫でた。

 

 

 

◆

 

 咲夜が静かに歩み寄る。

 

「……お帰りなさい、美鈴」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「ただいま戻りました、咲夜さん」

 

 咲夜は一瞬だけ目を伏せ、そして小さく息を吐いた。

 

「……もう二度と、勝手に消えないでくださいね」

 

 美鈴は苦笑した。

 

「努力します」

 

 咲夜は肩をすくめた。

 

「努力じゃなくて、絶対です」

 

 その言葉には、咲夜なりの優しさが込められていた。

 

 

 

◆

 

 パチュリーが現れ、本を閉じながら言った。

 

「美鈴。

 あなたの“未来の流れ”……

 以前より強くなっているわ」

 

 美鈴は首を傾げた。

 

「強く……?」

 

 パチュリーはうなずく。

 

「レミィが未来を差し出したことで、

 あなたの未来は“固定されない未来”になった。

 つまり――

 あなたはもう、運命に縛られない」

 

 美鈴は驚いた。

 

「そんな……すごいことに……」

 

 パチュリーは微笑んだ。

 

「ええ。

 レミィの未来があなたを守っているのよ」

 

 

 

◆

 

 そのとき――

紅魔館の扉が静かに開いた。

 

 レミリアが姿を現した。

 

 夜の貴族らしい気品を保ちながらも、その瞳はどこか柔らかく、そして少しだけ寂しげだった。

 

 美鈴はすぐに駆け寄った。

 

「お嬢様!」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「おはよう、美鈴。

 今日も……いい朝ね」

 

 美鈴は胸が熱くなった。

 

「はい……

 お嬢様のおかげで……

 本当に、いい朝です」

 

 レミリアは美鈴の手をそっと握った。

 

 その手は温かく、確かに“今”に存在していた。

 

 だが――

レミリアの背後には、未来の影がなかった。

 

 美鈴は気づいていた。

 

 レミリアはもう、未来を持たない。

 

 だからこそ――

美鈴はその手を強く握り返した。

 

「お嬢様……

 これからは……

 私が未来を引っ張りますから」

 

 レミリアは驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。

 

「ええ……お願いね、美鈴」

 

 

 

◆

 

 その日から、紅魔館の日常は少しだけ変わった。

 

 美鈴は以前よりも強く、以前よりも優しく、以前よりも“未来を感じる”ようになった。

 

 レミリアは未来を持たない代わりに、今を深く生きるようになった。

 

 美鈴が淹れるお茶を、ゆっくり味わうようになった。

 

 美鈴が門の前で風に吹かれていると、そっと隣に立つようになった。

 

 美鈴が笑うと、レミリアも笑うようになった。

 

 未来はない。

だが――

今がある。

 

 そして、二人で選ぶ“これから”がある。

 

 

 

◆

 

 ある日の夕暮れ。

 

 美鈴は門の前で空を見上げていた。

 

 レミリアが隣に立つ。

 

「美鈴。

 あなたは……後悔してない?」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「もちろんです。

 お嬢様と一緒にいられるなら……

 それが、私の未来ですから」

 

 レミリアはそっと美鈴の手を握った。

 

「……ありがとう、美鈴」

 

 美鈴は照れくさそうに笑った。

 

「こちらこそ……

 お嬢様、ただいま」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「おかえり、美鈴」

 

 紅魔館の空に、静かで温かな風が吹いた。

 

 未来はなくても、二人の“これから”は続いていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。