静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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エピローグ 紅魔館、ふたたび朝が来る

 未来の核が消え、世界が静かに落ち着きを取り戻してから――

紅魔館には、久しぶりに“朝”が訪れた。

 

 霧の湖に差し込む光は柔らかく、風は穏やかで、紅魔館の赤い壁は、まるで新しく塗り直されたように輝いていた。

 

 その門の前に――

美鈴は立っていた。

 

 いつものように、背筋を伸ばし、柔らかな笑みを浮かべて。

 

 まるで、何も変わっていないかのように。

 

 だが――

確かに変わっていた。

 

 美鈴の胸には、レミリアが差し出した“未来”の温もりが宿っていた。

 

 

 

 

 美鈴は深呼吸をした。

 

「……いい朝ですねぇ」

 

 その声は、以前より少しだけ優しく、少しだけ強くなっていた。

 

 妖精メイドたちが駆け寄ってくる。

 

「美鈴さん! 本当に戻ってきたんですね!」

「よかったぁ……!」

「おかえりなさい!」

 

 美鈴は照れくさそうに笑った。

 

「ただいま。

 みんな、心配かけました」

 

 妖精たちは泣きながら抱きついてくる。

 

 美鈴はその頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 咲夜が静かに歩み寄る。

 

「……お帰りなさい、美鈴」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「ただいま戻りました、咲夜さん」

 

 咲夜は一瞬だけ目を伏せ、そして小さく息を吐いた。

 

「……もう二度と、勝手に消えないでくださいね」

 

 美鈴は苦笑した。

 

「努力します」

 

 咲夜は肩をすくめた。

 

「努力じゃなくて、絶対です」

 

 その言葉には、咲夜なりの優しさが込められていた。

 

 

 

 

 パチュリーが現れ、本を閉じながら言った。

 

「美鈴。

 あなたの“未来の流れ”……

 以前より強くなっているわ」

 

 美鈴は首を傾げた。

 

「強く……?」

 

 パチュリーはうなずく。

 

「レミィが未来を差し出したことで、

 あなたの未来は“固定されない未来”になった。

 つまり――

 あなたはもう、運命に縛られない」

 

 美鈴は驚いた。

 

「そんな……すごいことに……」

 

 パチュリーは微笑んだ。

 

「ええ。

 レミィの未来があなたを守っているのよ」

 

 

 

 

 そのとき――

紅魔館の扉が静かに開いた。

 

 レミリアが姿を現した。

 

 夜の貴族らしい気品を保ちながらも、その瞳はどこか柔らかく、そして少しだけ寂しげだった。

 

 美鈴はすぐに駆け寄った。

 

「お嬢様!」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「おはよう、美鈴。

 今日も……いい朝ね」

 

 美鈴は胸が熱くなった。

 

「はい……

 お嬢様のおかげで……

 本当に、いい朝です」

 

 レミリアは美鈴の手をそっと握った。

 

 その手は温かく、確かに“今”に存在していた。

 

 だが――

レミリアの背後には、未来の影がなかった

 

 美鈴は気づいていた。

 

 レミリアはもう、未来を持たない。

 

 だからこそ――

美鈴はその手を強く握り返した。

 

「お嬢様……

 これからは……

 私が未来を引っ張りますから」

 

 レミリアは驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。

 

「ええ……お願いね、美鈴」

 

 

 

 

 その日から、紅魔館の日常は少しだけ変わった。

 

 美鈴は以前よりも強く、以前よりも優しく、以前よりも“未来を感じる”ようになった。

 

 レミリアは未来を持たない代わりに、今を深く生きるようになった

 

 美鈴が淹れるお茶を、ゆっくり味わうようになった。

 

 美鈴が門の前で風に吹かれていると、そっと隣に立つようになった。

 

 美鈴が笑うと、レミリアも笑うようになった。

 

 未来はない。

だが――

今がある

 

 そして、二人で選ぶ“これから”がある

 

 

 

 

 ある日の夕暮れ。

 

 美鈴は門の前で空を見上げていた。

 

 レミリアが隣に立つ。

 

「美鈴。

 あなたは……後悔してない?」

 

 美鈴は微笑んだ。

 

「もちろんです。

 お嬢様と一緒にいられるなら……

 それが、私の未来ですから」

 

 レミリアはそっと美鈴の手を握った。

 

「……ありがとう、美鈴」

 

 美鈴は照れくさそうに笑った。

 

「こちらこそ……

 お嬢様、ただいま」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「おかえり、美鈴」

 

 紅魔館の空に、静かで温かな風が吹いた。

 

 未来はなくても、二人の“これから”は続いていく

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