静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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後日談 紅魔館、ゆっくりと流れる時間の中で

 美鈴はいつものように門の前に立っていた。

だが、以前と違うのは――

レミリアが毎朝、必ず顔を出すようになったこと。

 

「美鈴、おはよう」

 

「おはようございます、お嬢様」

 

 レミリアは未来を持たない。

だからこそ、“今”を大切にするようになった。

 

 美鈴が淹れるお茶を、ゆっくり味わうようになった。

 

 美鈴が風に吹かれていると、そっと隣に立つようになった。

 

 美鈴が笑うと、レミリアも笑うようになった。

 

 未来はない。

だが――

今がある。

 

 

 

 

 咲夜は、レミリアの変化に気づいていた。

 

 以前のレミリアは、“未来を見通す者”として振る舞っていた。

 

 だが今は――

美鈴の隣に立つ少女のような表情を見せる。

 

「お嬢様、今日はどちらへ?」

 

「美鈴と散歩に行くわ」

 

「……そうですか」

 

 咲夜は微笑んだ。

 

(あの方が笑うのは……美鈴のおかげね)

 

 そして、咲夜は決めていた。

 

 二人の時間を守るのが、自分の新しい役目だと。

 

 

 

 

 図書館でパチュリーは本を閉じた。

 

「レミィは未来を失った。

 でも……未来を失ったからこそ、

 “今を選ぶ自由”を得たのよ」

 

 小悪魔が首を傾げる。

 

「未来がないのに……自由なんですか?」

 

 パチュリーは微笑んだ。

 

「ええ。

 未来が決まっていないということは、

 どんな選択も“運命”にならないということ」

 

 小悪魔は目を丸くした。

 

「じゃあ……美鈴さんと一緒にいるのも……?」

 

「レミィ自身の“選択”よ。

 運命じゃなくてね」

 

 パチュリーは本を閉じ、静かに呟いた。

 

「……あの子は、ようやく自由になったのよ」

 

 

 

 

 美鈴は門の前で、レミリアが歩いてくるのを見つけた。

 

「美鈴、今日は湖まで行かない?」

 

「はい、お嬢様」

 

 レミリアは美鈴の手を取った。

 

 その手は、未来を持たない代わりに、今を強く掴む力を持っていた。

 

 美鈴は思う。

 

(私は……この人の“今”を守りたい)

 

 未来を守る力はもうない。

だが――

今を守る力なら、いくらでもある。

 

 

 

 

 湖のほとりで、レミリアは美鈴の肩に寄りかかった。

 

「美鈴。

 私ね……未来がなくても怖くないの」

 

 美鈴は優しく微笑んだ。

 

「どうしてですか?」

 

 レミリアは美鈴の手を握った。

 

「あなたがいるからよ」

 

 美鈴は胸が熱くなった。

 

「お嬢様……

 私も同じです。

 未来がどうであれ……

 お嬢様と一緒にいられるなら……

 それが私の未来です」

 

 レミリアは微笑んだ。

 

「じゃあ……これからも一緒に歩いてくれる?」

 

 美鈴は迷わず答えた。

 

「はい。

 お嬢様の“今”を、ずっと守ります」

 

 風が吹き、湖面が揺れ、二人の影が寄り添うように重なった。

 

 

 

 

 紅魔館の屋根の上で、影は静かに二人を見下ろしていた。

 

「未来を失った吸血鬼と、

 未来を取り戻した門番か……」

 

 影は微笑んだ。

 

「悪くない未来だ」

 

 そして、影は霧のように消えた。

 

 

 

 

 紅魔館には、今日も静かな風が吹く。

 

 美鈴は門の前に立ち、レミリアはその隣に立つ。

 

 未来はない。

だが――

二人が選ぶ“今”が続いていく。

 

 それこそが、この物語の“未来”だった。

 




あとがき

 この物語は、最初から“戦い”や“運命”を描くために始まったわけではありませんでした。
むしろ逆で――
ひとりの吸血鬼と、ひとりの門番が「互いを想う」という、ただそれだけの感情を、
どこまで丁寧に、どこまで静かに描けるかを追いかけた物語でした。

 レミリアは未来を失い、美鈴は未来を取り戻した。

 この対比は、悲劇でも救済でもなく、ただ“選択”の結果としてそこにあります。

 未来を失ったレミリアは、もう運命に縛られません。
未来に怯えることも、未来に期待することもない。
ただ“今”を生きる存在になりました。

 未来を取り戻した美鈴は、これから先の時間を歩むことができます。
その未来の中に、レミリアを連れていくことを選びました。

 未来を持たない者と、未来を持つ者。
その二人が手を繋いで歩くということ。

 それは、運命の物語ではなく、“願い”の物語です。



◆ この物語で描きたかったこと

 この物語で一番大切にしたかったのは、派手な戦闘でも、壮大な設定でもありません。

 「誰かを想う」ということが、どれほど未来を変える力を持つのか。

 レミリアは美鈴のために未来を差し出し、美鈴はレミリアのために未来を選んだ。

 その選択は、どちらが正しいとか、どちらが犠牲だとか、そういう単純な話ではありません。

 ただ――
二人が互いを想った結果、世界が少しだけ優しくなった。

 それだけで十分なのだと思います。



◆ 物語の終わりは、二人の“今”の始まり

 紅魔館の日常は戻り、美鈴は門に立ち、レミリアはその隣に立つようになりました。

 未来はない。
でも、今がある。

 未来はある。
でも、今を選ぶ。

 そんな二人が寄り添う姿は、どんな未来よりも美しいものです。

 この物語はここで幕を閉じますが、二人の“今”はこれからも続いていきます。

 静かに、優しく、確かに。



◆ 最後に

 ここまで読んでくれたあなたへ。
この物語が、あなたの心のどこかに小さな灯りのように残ってくれたなら、それだけで十分です。

 レミリアと美鈴の物語は、あなたが読み返すたびに、また別の“今”を生き始めるでしょう。

 そのときはまた、
二人の未来を――
あなたの手で選んであげてください。

 ありがとうございました。
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