静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第4話 影は門を見ている

 翌朝。

紅魔館の庭には、まだ夜の冷たさが残っていた。

 

 美鈴は門の前に立ちながら、胸の奥に沈む“ざわつき”を振り払えずにいた。

 

――お嬢様は、私に嘘をついた。

 

 そう断言するほどの確信はない。

だが、昨日のレミリアの表情は、明らかに“何かを隠している者”のものだった。

 

「知らないままでいてほしい」

 

 その言葉は優しい。

けれど、美鈴の心には小さな棘のように残っている。

 

――私は、本当に知らないままでいいの?

 

 そんな思いが、青空の下で静かに膨らんでいく。

 

「……はぁ。考えても仕方ないですよね」

 

 美鈴は軽く伸びをした。

その瞬間――

 

 空気が揺れた。

 

 風ではない。

魔力の波でもない。

 

 “視線”だ。

 

 誰かが、門を、そして美鈴を見ている。

 

 美鈴はゆっくりと目を閉じ、気配を探った。

 

――湖の上。

 

 昨日と同じ場所。

 

 美鈴は目を開けた。

 

 湖面に、黒い影が立っていた。

 

「……来た」

 

 影は昨日よりも輪郭がはっきりしている。

まるで、この世界に馴染み始めているかのように。

 

 影は声を発した。

 

「紅美鈴。

 昨日はよく立っていたな」

 

 美鈴は一歩前に出た。

 

「今日も、通すわけにはいきません」

 

 影は笑った。

昨日と同じ、音のない笑い。

 

「通るつもりはない。

 今日は“観察”に来ただけだ」

 

「観察……?」

 

「お前の運命を、だ」

 

 美鈴の背筋が震えた。

 

 影は続ける。

 

「紅魔館の主は、お前に真実を隠している。

 それは、お前が“鍵”だからだ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「鍵……?」

 

「そうだ。

 紅魔館の未来を変える鍵。

 そして――滅びを呼ぶ鍵でもある」

 

 美鈴は首を振った。

 

「そんな……私が、滅びを呼ぶなんて」

 

 影は静かに言った。

 

「お前は自覚していない。

 だが、お前の運命は“流れを乱す”。

 存在するだけで、運命の線が揺らぐ」

 

 美鈴は言葉を失った。

 

 影はさらに続ける。

 

「紅魔館は、運命を歪める器。

 その中心に立つのは、本来レミリアではない」

 

 美鈴の心臓が跳ねた。

 

「……じゃあ、誰なんですか?」

 

 影は答えなかった。

ただ、美鈴を見つめる。

 

 その沈黙が、答えそのものだった。

 

 美鈴は震える声で言った。

 

「お嬢様は……私を守ろうとしているんです。

 だから、真実を隠しているんです」

 

 影は首を振った。

 

「違う。

 レミリアは“恐れている”のだ。

 お前が真実を知り、運命を変えてしまうことを」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

――私が、運命を……?

 

 影は湖の上で揺らぎながら言った。

 

「紅美鈴。

 お前は、いずれ選ばねばならない。

 “紅魔館を守る運命”か――

 “紅魔館を壊す運命”か」

 

 美鈴は震える声で言った。

 

「私は……壊したりしません。

 紅魔館は、私の大切な場所です」

 

 影は静かに告げた。

 

「ならば、真実を知れ。

 レミリアが隠した“未来”を」

 

 その瞬間、影の輪郭が大きく揺れた。

 

「……時間だ。

 また来る」

 

 影は霧散し、湖面に溶けた。

 

 美鈴はその場に立ち尽くした。

 

 胸の奥で、何かが軋む。

 

――私は、鍵?

 

――お嬢様は、何を恐れているの?

 

――紅魔館の未来って……?

 

 答えはどこにもない。

ただ、青空だけが広がっている。

 

 美鈴は拳を握った。

 

「……知らないままでなんて、いられない」

 

 その言葉は、誰に向けたものでもない。

だが、確かに“決意”だった。

 

 その瞬間、紅魔館の奥で、レミリアが小さく息を呑んだ。

 

 まるで、美鈴の決意を感じ取ったかのように。

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