静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第5話 紅い主の見る未来

 紅魔館の最上階。

レミリア・スカーレットは、薄暗い部屋の中でひとり佇んでいた。

 

 窓の外には、青空の下で門を守る美鈴の姿が見える。

その背中は、いつも通り穏やかで、どこか無防備だった。

 

――美鈴。

あなたは、もう気づき始めているのね。

 

 レミリアは胸の奥に小さな痛みを覚えた。

 

「お嬢様」

 

 咲夜が静かに現れる。

その表情は、いつもよりわずかに硬い。

 

「影が、再び湖に現れました」

 

「ええ。見ていたわ」

 

 レミリアは窓から目を離さずに答えた。

 

「美鈴は……何かを言われたようです」

 

「そうでしょうね。

 あの存在は、美鈴に“真実”を見せようとしている」

 

 咲夜は眉をひそめた。

 

「美鈴に真実を知られれば、紅魔館の運命は――」

 

「変わるわ」

 

 レミリアは静かに言った。

 

「良い方向に、とは限らない」

 

 咲夜は息を呑んだ。

 

 レミリアはゆっくりと振り返り、咲夜を見つめる。

 

「咲夜。

 あなたには、少しだけ“未来”を見せておくわ」

 

 レミリアは手を伸ばし、咲夜の額に触れた。

 

 瞬間――

咲夜の視界が白く染まる。

 

 次に見えたのは、崩れ落ちる紅魔館だった。

 

 瓦礫。

 炎。

 裂けた空。

 そして――

 

 門の前で倒れている、美鈴の姿。

 

 咲夜は息を呑んだ。

 

「……これは……!」

 

「未来の一つよ。

 紅魔館が滅びる未来」

 

 レミリアの声は静かだった。

 

「私は、この未来を変えようとしている。

 そのために紅魔館を“器”として強化し続けてきた」

 

 咲夜は震える声で言った。

 

「美鈴が……倒れている……」

 

「ええ。

 美鈴は“鍵”だから。

 紅魔館の運命を変える鍵であり――

 滅びを呼ぶ鍵でもある」

 

 咲夜は唇を噛んだ。

 

「だから……美鈴には真実を隠しているのですね」

 

 レミリアは目を伏せた。

 

「美鈴は優しすぎる。

 真実を知れば、必ず自分を犠牲にする。

 それが、私には耐えられない」

 

 咲夜は静かにうなずいた。

 

「……ですが、お嬢様。

 美鈴はもう“知らないまま”ではいられないでしょう」

 

 レミリアは窓の外を見つめた。

 

 美鈴は、門の前で静かに空を見上げている。

 

 その姿は、いつも通り穏やかで――

しかし、どこか決意の影があった。

 

「ええ。

 美鈴は、もう動き始めている」

 

 レミリアは小さく息を吐いた。

 

「運命の歪みは、彼女を中心に広がっていく。

 影も、それを止めようとしている」

 

 咲夜は問う。

 

「お嬢様。

 美鈴は……どうすべきなのでしょうか」

 

 レミリアは目を閉じた。

 

「それを決めるのは、美鈴自身よ。

 私は……ただ見守るしかない」

 

 その声は、紅魔館の主ではなく――

ひとりの少女の、弱さを含んでいた。

 

 レミリアはそっと呟いた。

 

「美鈴。

 どうか……あなたの選ぶ未来が、紅魔館を救うものでありますように」

 

 その祈りは、誰にも届かない。

ただ、静かに空へ溶けていった。

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