静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第6話 揺らぐ紅い館

 その日の紅魔館は、どこかおかしかった。

 

 廊下を歩けば、空気がざらつく。

壁にかけられた絵画は、ほんのわずかに“位置が違う”。

 

 美鈴は門番の仕事を終え、館内の見回りに入っていた。

 

――何かが、ずれている。

 

 その感覚は、影に言われた言葉を思い出させる。

 

「お前は、運命を揺らす」

 

 美鈴は首を振った。

 

「そんなわけ……ないですよね」

 

 だが、胸の奥のざわつきは消えない。

 

 階段を下りると、パチュリーの図書館の扉が半開きになっていた。

 

「パチュリー様? 小悪魔さん?」

 

 返事はない。

 

 美鈴はそっと扉を押し開けた。

 

――その瞬間。

 

 視界が、歪んだ。

 

 図書館の本棚が波打ち、床が揺れ、天井が遠ざかる。

まるで世界そのものが“ずれて”いくような感覚。

 

「っ……!」

 

 美鈴は思わず壁に手をついた。

 

 頭の中に、何かが流れ込んでくる。

 

――瓦礫。

――炎。

――崩れ落ちる紅魔館。

――門の前で倒れる、自分。

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「これ……未来……?」

 

 そのとき、背後から声がした。

 

「見えたのね、美鈴」

 

 振り返ると、パチュリーが立っていた。

その顔色はいつもより悪く、魔力の揺らぎが全身から漏れている。

 

「パチュリー様……今のは……」

 

 パチュリーはゆっくりと歩み寄り、美鈴を見つめた。

 

「あなた、運命の“揺らぎ”に触れたのよ」

 

「揺らぎ……?」

 

「紅魔館の未来が不安定になっている。

 その中心にいるのが――あなた」

 

 美鈴は言葉を失った。

 

 パチュリーは続ける。

 

「レミィは、あなたに真実を隠している。

 それは、あなたが“鍵”だから。

 紅魔館の未来を変える力を持っているから」

 

 美鈴は震える声で言った。

 

「でも……私はただの門番で……」

 

「ただの門番なら、運命の揺らぎは見えないわ」

 

 パチュリーの言葉は静かだが、重かった。

 

「あなたは、運命の流れに干渉できる。

 無意識のうちに、ね」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

――私が、紅魔館を壊す?

――私が、未来を変える?

 

 そんなはずはない。

でも、さっき見た“未来の断片”は――

 

「パチュリー様……紅魔館は、本当に滅びるんですか?」

 

 パチュリーは目を伏せた。

 

「未来は一つじゃない。

 でも、滅びの未来が“強くなっている”のは確かよ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

 パチュリーは続ける。

 

「影は、運命の監視者。

 レミィの“運命改変”を止めようとしている。

 そして――あなたを観察している」

 

 美鈴は震えた。

 

「どうして……私なんですか」

 

 パチュリーは美鈴の肩に手を置いた。

 

「それは、あなた自身が知るべきこと。

 でも――」

 

 パチュリーは美鈴の目をまっすぐ見つめた。

 

「美鈴。

 あなたは、もう“知らないまま”ではいられない」

 

 美鈴は目を閉じた。

 

 胸の奥で、何かが決壊する。

 

「……私、知りたいです。

 紅魔館の未来を。

 お嬢様が隠している真実を。

 影が言った“鍵”の意味を」

 

 パチュリーは静かにうなずいた。

 

「なら、動きなさい。

 運命は、あなたを中心に揺れ始めている」

 

 その瞬間――

 

 紅魔館全体が、低く唸った。

 

 空気が震え、床が揺れ、魔力が渦を巻く。

 

 パチュリーが顔を上げた。

 

「……来たわね」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「影が……?」

 

 パチュリーは首を振った。

 

「違う。

 “未来の歪み”が、紅魔館の内部に侵入したのよ」

 

 美鈴は拳を握った。

 

「……行きます」

 

 パチュリーは微笑んだ。

 

「ええ。

 あなたの選択が、紅魔館の未来を決める」

 

 美鈴は走り出した。

 

 揺れる紅魔館の中へ。

自分の“運命”へ。

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