静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

7 / 26
第7話 未来の欠片が歩く館

 紅魔館が、呻いていた。

 

 床が低く震え、壁の魔力が軋み、空気がざらつく。

まるで館そのものが“何かを拒絶している”ようだった。

 

 美鈴は廊下を駆け抜けながら、胸の奥のざわつきを抑えられずにいた。

 

――未来の歪みが、館の中に侵入した。

 

 パチュリーの言葉が頭の中で反響する。

 

「どこ……どこにいるんですか……!」

 

 美鈴は角を曲がった瞬間、息を呑んだ。

 

 廊下の先に、“それ”がいた。

 

 人の形をしている。

だが、輪郭が揺れ、色が抜け落ち、まるで“未来の影”が歩いているようだった。

 

 美鈴は一歩後ずさる。

 

「……影、じゃない。

 でも……似てる……」

 

 未来の歪みは、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

足音はない。

ただ、空間が歪む音だけが響く。

 

 美鈴は拳を握った。

 

「ここは……通しません」

 

 歪みは反応しない。

ただ、美鈴を“認識”したように揺らぎが強くなる。

 

 その瞬間――

 

 視界が白く弾けた。

 

 瓦礫。

 炎。

 崩れ落ちる紅魔館。

 そして――倒れている自分。

 

「っ……!」

 

 美鈴は頭を押さえた。

 

 未来の断片が、また流れ込んでくる。

 

 歪みが近づくほど、未来が侵食してくる。

 

「来ないで……!」

 

 美鈴は叫んだ。

 

 その瞬間――

空気が、弾けた。

 

 美鈴の足元から、淡い光が広がる。

風が逆巻き、廊下の空気が一瞬で澄んだ。

 

 未来の歪みが、後退する。

 

 美鈴は目を見開いた。

 

「……今の、私……?」

 

 無意識に、運命の流れを押し返した。

 

 歪みは揺らぎながら、再び美鈴へ向かってくる。

 

 美鈴は震える拳を握りしめた。

 

「私は……紅魔館を守る……!」

 

 光が再び広がり、歪みを押し返す。

だが、完全には消えない。

 

 そのとき――

 

「美鈴!」

 

 咲夜が現れ、ナイフを投げ放った。

ナイフは歪みに触れた瞬間、空間に吸い込まれるように消えた。

 

「……物理攻撃は通らないわね」

 

 咲夜が歯を食いしばる。

 

 美鈴は息を切らしながら言った。

 

「咲夜さん……これ、未来の……」

 

「分かってる。

 パチュリー様から聞いたわ」

 

 咲夜は美鈴の前に立ち、構えた。

 

「美鈴、あなたは下がって――」

 

「いえ。

 私が……やらなきゃいけない気がするんです」

 

 咲夜は振り返った。

 

 美鈴の瞳は、いつもの柔らかさの奥に“決意”が宿っていた。

 

「……あなた、もう気づいているのね」

 

 美鈴はうなずいた。

 

「私が……鍵なんですよね」

 

 咲夜は言葉を失った。

 

 そのとき――

紅魔館全体が大きく揺れた。

 

 天井から魔力の火花が散り、壁が波打つ。

 

 咲夜が叫ぶ。

 

「美鈴! 紅魔館の魔術構造が崩れ始めてる!

 このままじゃ――」

 

「滅びの未来が、近づいてる……」

 

 美鈴は呟いた。

 

 歪みが再び美鈴へ向かってくる。

 

 美鈴は深く息を吸い、拳を握った。

 

「……来なさい」

 

 その瞬間――

美鈴の背後で、空間が裂けた。

 

 黒い霧が溢れ、影が姿を現す。

 

「紅美鈴。

 お前は、選ばねばならない」

 

 美鈴は振り返る。

 

 影の瞳が、美鈴を射抜いた。

 

「“紅魔館を救う運命”か――

 “紅魔館を壊す運命”か」

 

 美鈴は震える声で言った。

 

「私は……守りたい。

 紅魔館も、お嬢様も、咲夜さんも、パチュリー様も……

 みんな……!」

 

 影は静かに言った。

 

「ならば――

 真実を知れ」

 

 その瞬間、影の手が美鈴の額に触れた。

 

 視界が白く染まる。

 

 未来が、開く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。