静かなる門番と歪む運命   作:肩幅ひろし

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第8話 未来の門が開くとき

 影の指先が美鈴の額に触れた瞬間、世界は音を失った。

 

 色が消え、光が消え、ただ白い空間だけが広がる。

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「ここは……?」

 

 影の声が響く。

どこからともなく、しかし確かに美鈴の耳に届く。

 

「未来だ。

 お前が“選ばなければならない”未来の一つ」

 

 白い空間が揺れ、

次の瞬間――景色が変わった。

 

 紅魔館が、燃えていた。

 

 瓦礫。

 崩れた塔。

 裂けた空。

 魔力の嵐。

 

 美鈴は震える声を漏らした。

 

「……これ……紅魔館……?」

 

 影は答えない。

ただ、美鈴に“見せる”。

 

 炎の中で、咲夜が倒れている。

パチュリーは魔力を使い果たし、動かない。

小悪魔は泣き叫びながら瓦礫を掘り返している。

 

 そして――

 

 門の前で、美鈴自身が倒れていた。

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「……私……?」

 

 影の声が落ちてくる。

 

「これは“滅びの未来”。

 紅魔館が崩壊し、お前も死ぬ未来だ」

 

 美鈴は震える手で、自分の倒れた姿を見つめた。

 

「どうして……どうしてこんな……」

 

 影は静かに言った。

 

「紅魔館は“運命を歪める器”。

 レミリアは未来を変えようとしている。

 だが、その力は不完全だ」

 

 景色が揺れ、別の未来が映る。

 

 今度は――紅魔館が“存在しない”。

 

 湖だけが広がり、館の跡地には何もない。

まるで最初から存在しなかったかのように。

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「紅魔館が……消えてる……」

 

 影は言う。

 

「これも未来の一つ。

 運命の修正が働き、紅魔館そのものが“なかったこと”になる未来」

 

 美鈴は膝をついた。

 

「そんな……そんなの……」

 

 影は続ける。

 

「そして――」

 

 景色が再び変わる。

 

 今度は、紅魔館が輝いていた。

魔力が安定し、空は澄み、館は以前よりも強固な姿をしている。

 

 レミリアが笑っている。

咲夜も、パチュリーも、小悪魔も無事だ。

 

 美鈴自身も、門の前で穏やかに立っている。

 

 美鈴は目を見開いた。

 

「これ……は……?」

 

 影は言った。

 

「“救われた未来”。

 紅魔館が滅びを回避し、運命を乗り越えた未来だ」

 

 美鈴は震える声で問う。

 

「どうすれば……この未来に……?」

 

 影は静かに答えた。

 

「お前が“鍵”として覚醒することだ」

 

 美鈴は息を呑んだ。

 

「鍵……って……私は……何なんですか……?」

 

 影は初めて、美鈴の目をまっすぐ見た。

 

「紅美鈴。

 お前は――“運命の流れを乱す者”。

 存在するだけで、未来を変える特異点だ」

 

 美鈴は震えた。

 

「私が……未来を……?」

 

 影はうなずく。

 

「レミリアはそれを恐れている。

 お前が真実を知り、運命を変えてしまうことを」

 

 美鈴は胸を押さえた。

 

「でも……私は……守りたいだけなのに……」

 

 影は言った。

 

「だからこそ、お前は“鍵”なのだ。

 優しさは、運命を動かす力になる」

 

 美鈴は目を閉じた。

 

――私は、紅魔館を守りたい。

――みんなを守りたい。

――そのためなら、真実を知りたい。

 

 美鈴は目を開いた。

 

「……教えてください。

 私がどうすれば、紅魔館を救えるのか」

 

 影は静かに告げた。

 

「まずは――

 レミリアの“本当の願い”を知れ」

 

 その瞬間、白い世界が崩れ始めた。

 

 影の声が遠ざかる。

 

「紅美鈴。

 お前の選択が、未来を決める」

 

 美鈴は叫んだ。

 

「待って! まだ――!」

 

 だが、世界は光に飲まれた。

 

 次に目を開けたとき――

美鈴は紅魔館の廊下に倒れていた。

 

 咲夜が駆け寄る。

 

「美鈴! 大丈夫なの!」

 

 美鈴は震える声で言った。

 

「……お嬢様に……会わなきゃ……」

 

 その瞳には、もう迷いはなかった。

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