影の指先が美鈴の額に触れた瞬間、世界は音を失った。
色が消え、光が消え、ただ白い空間だけが広がる。
美鈴は息を呑んだ。
「ここは……?」
影の声が響く。
どこからともなく、しかし確かに美鈴の耳に届く。
「未来だ。
お前が“選ばなければならない”未来の一つ」
白い空間が揺れ、
次の瞬間――景色が変わった。
紅魔館が、燃えていた。
瓦礫。
崩れた塔。
裂けた空。
魔力の嵐。
美鈴は震える声を漏らした。
「……これ……紅魔館……?」
影は答えない。
ただ、美鈴に“見せる”。
炎の中で、咲夜が倒れている。
パチュリーは魔力を使い果たし、動かない。
小悪魔は泣き叫びながら瓦礫を掘り返している。
そして――
門の前で、美鈴自身が倒れていた。
美鈴は息を呑んだ。
「……私……?」
影の声が落ちてくる。
「これは“滅びの未来”。
紅魔館が崩壊し、お前も死ぬ未来だ」
美鈴は震える手で、自分の倒れた姿を見つめた。
「どうして……どうしてこんな……」
影は静かに言った。
「紅魔館は“運命を歪める器”。
レミリアは未来を変えようとしている。
だが、その力は不完全だ」
景色が揺れ、別の未来が映る。
今度は――紅魔館が“存在しない”。
湖だけが広がり、館の跡地には何もない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
美鈴は息を呑んだ。
「紅魔館が……消えてる……」
影は言う。
「これも未来の一つ。
運命の修正が働き、紅魔館そのものが“なかったこと”になる未来」
美鈴は膝をついた。
「そんな……そんなの……」
影は続ける。
「そして――」
景色が再び変わる。
今度は、紅魔館が輝いていた。
魔力が安定し、空は澄み、館は以前よりも強固な姿をしている。
レミリアが笑っている。
咲夜も、パチュリーも、小悪魔も無事だ。
美鈴自身も、門の前で穏やかに立っている。
美鈴は目を見開いた。
「これ……は……?」
影は言った。
「“救われた未来”。
紅魔館が滅びを回避し、運命を乗り越えた未来だ」
美鈴は震える声で問う。
「どうすれば……この未来に……?」
影は静かに答えた。
「お前が“鍵”として覚醒することだ」
美鈴は息を呑んだ。
「鍵……って……私は……何なんですか……?」
影は初めて、美鈴の目をまっすぐ見た。
「紅美鈴。
お前は――“運命の流れを乱す者”。
存在するだけで、未来を変える特異点だ」
美鈴は震えた。
「私が……未来を……?」
影はうなずく。
「レミリアはそれを恐れている。
お前が真実を知り、運命を変えてしまうことを」
美鈴は胸を押さえた。
「でも……私は……守りたいだけなのに……」
影は言った。
「だからこそ、お前は“鍵”なのだ。
優しさは、運命を動かす力になる」
美鈴は目を閉じた。
――私は、紅魔館を守りたい。
――みんなを守りたい。
――そのためなら、真実を知りたい。
美鈴は目を開いた。
「……教えてください。
私がどうすれば、紅魔館を救えるのか」
影は静かに告げた。
「まずは――
レミリアの“本当の願い”を知れ」
その瞬間、白い世界が崩れ始めた。
影の声が遠ざかる。
「紅美鈴。
お前の選択が、未来を決める」
美鈴は叫んだ。
「待って! まだ――!」
だが、世界は光に飲まれた。
次に目を開けたとき――
美鈴は紅魔館の廊下に倒れていた。
咲夜が駆け寄る。
「美鈴! 大丈夫なの!」
美鈴は震える声で言った。
「……お嬢様に……会わなきゃ……」
その瞳には、もう迷いはなかった。