86-エイティシックス-DIE NEUE THESE   作:ふそう

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【機体名】 突撃砲型(ゲパルト)(Gepard)
【全高】 2.5m(低姿勢構造)
【全重量】 約45t
【武装】 88mm高初速長砲身対戦車砲 ×1、前方固定式7.62mm機銃 ×1
【概要】防衛線の維持、および遠距離からの拠点低伸砲撃に特化した、低重心の六脚型レギオン。旋回砲塔を完全に廃止し、車体(多脚の基部)に直接「88mm高初速長砲身対戦車砲」を固定している。砲塔がない分、正面装甲が極めて厚く、ジャガーノートの57mm砲を正面から完全に弾き返す。驚異的な初速を誇る88mm砲は弾道が極めて低く直線的で、遮蔽物ごとジャガーノートをピンポイントで狙撃・消滅させる。ギラッフェが上空から敵を「炙り出し」、逃げた敵をこのゲパルトが遠距離から「狙撃」する複合キルゾーンを形成する。
【戦術的弱点】砲の射角(左右)を調整するためには、多脚ロボットの車体そのものを旋回させる必要がある。そのため、機動力を活かして側面に回り込まれると反撃能力を完全に失う。


第Ⅱ章 Ⅲ話

 

〈ミニ・ヒストリカル・ドキュメンタリー〉

 

"サンマグノリア共和国大統領、オーギュスト・ド・プリムヴェールは、自らに与えられた権限に基づき、リベルテエガリテ警視庁総監、共和国警察長官、国防野戦警察隊長官に対し、私はここに次の通り命ずる"

 

"Ⅰ.内務省長官の命を受けた随時指名するリベルテエガリテ警視庁総監、極西部、西部、中央部、東部の各警察管区本部長が治安維持の観点から必要または望ましいと共通して判断した場合、内務省長官がグランミュール山脈以西のセレナークティカ領域を特別治安活動重点領域に指定し、治安上の脅威となる集団を当該領域から一掃することを許可し、指示する"

 

"Ⅱ.当該領域への残留、身柄拘束の権利は、内務省長官がその裁量により課す制限に従うものとする"

 

"Ⅲ.内務省長官は、当該領域から一掃される集団に対し、本命令の目的を達成するために他の措置が講じられるまでの間、必要な留置手段、輸送手段、その他の便宜を提供する義務と権限を有する。"

 

"Ⅳ.特別治安維持活動重点領域に認められたセレナークティカ領域に適用される制限の遵守を強制するために、各警察管区本部長が要請し、リベルテエガリテ警視庁総監、共和国警察長官、国防野戦警察長官が適切と判断し、内務省長官が認可した、その他の措置を講じることを承認し、指示する。

これには国家機関、ならびに管区、州、郡、市町村機関の支援を供出させる権限が含まれる"

 

"Ⅴ.全ての国家行政機関、地方行政機関、独立機関およびその他の組織に対し、この大統領令を遂行するにあたって必要となる全ての支援を提供する事を指示する"

 

"Ⅵ.オーギュスト・ド・プリムヴェールは更に、集団の移送及び移住先として、2139年2月27日の大統領令に基づく内務省長官による統制区域、司法省長官による禁止区域および制限区域に指定された地域を指定する"

"資料:〈治安維持の為の特別警察行動遂行に必要となる権限付与についての大統領命令六六〇九号〉

 

"年月日:星歴二一三九年九月十二日

 

"所蔵:ギアーデ合衆国国立エイティシックス記念館"

 

 


 

 

「レーナ!」

 

ヴラディレーナと同じロングブーツのヒールの音を立てながら、ヴラディレーナを背後から捕まえて前に押し出した刹那、ガラス瓶は大理石の床に勢いよく落下し、粉々に砕け散った。

流石のヴラディレーナも驚きを隠せない顔をしたが、すぐに何が起きたかを察した彼女は床から顔を上げて、視線の先にいる連中を睨み付ける。

 

「行くよ、レーナ」

 

ヴラディレーナの危機を救ったのは、空軍幼年学校同期のアネットだった。

フルネームはアンリエッタ・ペンローズ。

全大洋の縁海である北海に浮かぶ島国、〈アルビオン王国〉からの移民にルーツを持つ貴族の家系の古白銀種である。

空軍での階級は技術少佐。

ヴラディレーナと同じ黒い軍服の上に白衣を来た彼女は初等学校からの幼なじみで、空軍幼年学校で飛び級に飛び級を重ねた今は互いにたった一人の同い年の友人である。

 

去り際に一言言っておこうとしたが、それを止めたのはアンリエッタだった。

ヴラディレーナはアンリエッタに手を掴まれ、引きずられる様にして、聖女マグノリアの像を頂上に戴くゴミに汚れた噴水がシンボルの広間から立ち去っていった。

背後で続く、罵詈雑言大会に参戦したらしいプリムヴェール少年団や白銀少女隊の大合唱。

 

「見ろよ、古白銀種とは言え腐ってもサンマグノリア人のくせに、獣婚趣味のアルビオン人の血を引いた同族の女に引き摺られていくぞ!此れは我等(ノヴス)が勝利に違いないぞ!」

 

新白銀種(ノヴス)の血統、至尊にして穢すべからず!新白銀種の血統、至尊にして穢すべからず!!」

 

「死ね!そんなに(エイティシックス)が好きなら、いっそ勝手に放牧地(八十六州)に行って、勝手にレギオンと戦え!ついでに死ね!!じゃないと殺すぞ古白銀種(ウェトゥス)女!!?ブウブウ!!!ブウブウ!!!」

 

「モーモー!」

 

「メェーメェー!!」

 

「コケェェーッ!!」

 

本気の真顔や怒顔で、無駄に上手い豚や牛や羊や鶏の鳴き真似を交えて煽る子供達。

獣婚趣味とやらは、周辺諸国で今も続く古白銀種と有色種の婚姻関係を指す誹謗中傷だ。

周辺諸国にも有色種の国民はいるし、あの忌まわしい大統領令が発出される直前にサンマグノリアから難民として逃れる事が出来た元サンマグノリア人の有色種も少なくない。

例えば、アンリエッタの祖先のルーツがあるアルビオン王国の現国王アーサー五世の妻であるアリシア王妃は有色種だ。

ギルマンティス極東部一帯を国土とする〈ユーロピア連合共和国〉の名門財閥の娘で、民族は赤系種(ルベラ)瑪瑙種(アガット)

王太子ケルヴィンの妻であるヴィルヘルミーネ王太子妃も、ロア・グレキア連合王国の平民出身の有色種で、民族は紫系種(ウィオラ)宵菫種(アイオラ)である。

星歴二一三九年八月三十一日には、アルビオンの首都ペンドラゴンに本部を置く〈汎アルバンティス共同体国際司法裁判所〉が、"有色種のサンマグノリア共和国民及び有色種と婚姻関係にある白系種に難民としての庇護を与えるに、人種と国籍さえあれば条件として充分である"との判決を出している。

雪花種(アラバスタ)の女王の王配が〈ヴァルト盟約同盟〉出身で、黒系種(アクィラ)黒鉄種(アイゼン)の人物であるブランカ王国や、イゾラビアンカ共和国の裁判所も同様の判決を出している。

そんな周辺諸国民に、此の国(サンマグノリア)の新白銀種の、特に若年層は生理的な拒絶反応を示しているのだ。

 

「良く聞きなさい子供達!古白銀種(ウェトゥス)が大勢死んだのも、有色種(コロラータ)などと称するヒト型の獣が我等に絶滅させられるのも、全ては自業自得である!彼等は自ら望んだ罰を受けたのだ!国同士の友義を踏みにじる、好戦的で危険な民族なのだ。此の国には必要ない!!」

 

子供達を引き連れてきては何やら議論に熱中していた青年白衛団の若者達による、唐突なアジ演説を始める始末だ。

 

「此の国の正統な主権者たる我々(ノヴス)お前達(ウェトゥス)にしているのは、差別では無く、区別だ!同じように我々が有色種(コロラータ)にしているのも虐殺ではなく、管理だ!野蛮で、戦いを仕掛ける以外に能がない無知蒙昧な有色種は、理性を重んじる我々が管理し続けなければならない!!被害者面をするな!!!」

 

「我等新白銀種(ノヴス)は貴様達古白銀種(ウェトゥス)の悪辣なる策略によって無理矢理戦争という状況下に引きずり込まれたのだ!

昔から東部から深東部にかけて住んでいたお前達が、我等の全能さを妬んでありもしない軍事的脅威なるものをでっち上げ、ギアーデに挑発を繰り返し、其れに飽き足らず、遂には一部の部隊が暴走してギアーデに先制攻撃を仕掛けたのだ!ルドルフⅢ陛下は戦を望んでなどいなかった!!」

 

「古白銀種がいる限り、八十六州に穢れた色付きが生き残りがいる限り、戦争は終わらない!!返せ!平和を返せ!?旧態依然の野蛮人め!!」

 

「死して尚もレギオンと化して我等に牙を剥き続けるエイティシックスこそが、真の敵である!

我等次世代の新白銀種はエイティシックスを、其れを飼い慣らしている貴様らを未来永劫糾弾し続け、憎み続ける事を宣言する!!

八十六州の生き残りも、レギオンと化す前に必ずや絶滅させてみせる!!!」

 

「国を守っているのはお前らではない!共和国人民の皇帝陛下を仰ぐ我等新白銀種の威厳だ!

攻めてくるレギオンの数が少ないのは、我等新白銀種の威厳が奴らの人工知能をも恐れおののかせているからだ!

決してエイティシックスを戦わせているからなどではない!!

新白銀種の誇りと血筋!其れに威厳!此れこそが真の祖国防衛の盾なのだ!!」

 

「平和を破壊し、戦争を招いた疫病神め!我等次世代の新白銀種は皇帝陛下のもとに団結して貴様らと主戦派と戦い、必ずや勝利する!

そして其の暁には、偉大なる新白銀種民族の明星たるオーギュスト陛下とルドルフⅢ世の絆は取り戻され、レギオンは矛を収め、戦争は終わり、悪辣なる主戦派の屍の上に真の正義と平和が回復するであろう!!!

通信が繋がらない?ギアーデ帝国は滅んだ?たわけ!そんなものはアルビオン人による妨害工作だ!誤報だ!!

貴様はサンマグノリアの人間で軍人であるのに、外国の情報を信じるというのか!?・・・」

 

"勝手に色々妄想でっち上げて、勝手に其れを真実だと思い込んで、支離滅裂な事を言っているのはそっちでしょう・・・"

 

ヴラディレーナは思った。

今の演説内容でさえ、管理するだの絶滅させるだの、有色種が戦争を仕掛けて来ただの此方が先制攻撃をしただの、主張に一貫性がない。

恐らく彼等は、自分が何を言っているかも理解していないだろう。

 

案の定、今の演説内容を巡って早速口論が始まった。

彼等青年白衛団は表向きは統一された組織に見えるが、実態は団長(名誉団長は皇帝)を務める現皇帝オーギュストの弟ティベール大公(正式には人民大公)の六男で、末端とは言え皇族の一員である十八歳のギヨーム王子を筆頭とする十数人程度の若年皇族達による集団指導体制である。

其の指導部内部ですら、皇族同士の歴史認識や主義主張の違いによる衝突が激しいのである。

古白銀種や其の他白系種への敵意を除けば、彼等の主義主張に統一性がないのは、此れが原因だろう。

 

九年前に戦った将兵達と遺族の名誉の為に言えば、サンマグノリア共和国軍はギアーデに先制攻撃などしていない。

侵略を仕掛けてきたのはギアーデだ。

彼等の言う"平和の誓い"とは即ち例の不戦条約の事を指しているのだろうが、其の最中ですらギアーデ領邦は軍備を増強し続けていた事は完全に無視している。

 

もし本当にルドルフⅢ世が平和を望んでるなら、何故レギオンの統帥権を行使してすぐにでも侵攻を止め、通信を回復させて、停戦や和平を呼び掛けないのか?

他に統帥権を有していた副帝や、諸領邦の君主達は?

 

ルドルフⅢ世は彼等が嫌う古白銀種で、そもそもギアーデは多民族国家だが、其の点についてはどうなのか?

 

攻めてくるレギオンの数が少ないのは事実だが、其れは向こうが此方のジャガーノートが貧弱過ぎて優先して叩くべき脅威と認識しておらず、他に優先すべき目標を、確実に生き残っているであろうギルマンティス州等の国々を叩きに行っているからだ、とは考えないのか?

 

若年皇族は兎も角、そもそも彼等が神聖視する皇帝や成年皇族達にしろ、大統領にしろ、憂国騎士団にしろ、先制攻撃を仕掛けてきたのはギアーデ帝国だと認めていて、サンマグノリア共和国軍がギアーデに先制攻撃をしたなどと言った事は一度もないが?

 

そして、当のギアーデ帝国が既に存在していない事を皇帝も政府も議会も宣言しているが?

 

ギアーデ帝国が既に存在しないという情報については、ヴラディレーナも一定の信用を抱いている。

情報源が外国だからだ。

四年ほど前、アルビオン王立海軍の情報収集艦が自走機雷型(ゼーシュテルン)の脅威を承知で北海を航行した際、阻電攪乱型(アインタークスフリーゲ)の強烈な電磁妨害(ジャミング)の合間にわずかに傍受できていた帝国内のあらゆる通信が途絶え、それきり二度と捕捉できなった。

 

此の情報をアルビオン王国首都ペンドラゴンの、一年を通して白系種と有色種達の大規模デモ隊に取り囲まれて屋外公衆トイレ扱いをされ、頻繁に消費期限切れのウナギ入りゼリーやらハギスやら、〈ロア=グレキア連合王国〉発祥のニシンの塩漬け発酵食品の缶詰を投げ込まれたり、態々田舎からバキュームカーで乗り付けてきた人がホースで肥料を撒き散らしていくらしいサンマグノリア共和国公使館から送られてきた皇帝は、オーギュストの名において国家の公式見解とする方針を示した。

此れを受けて、ジョシュア・リューブリック大統領の内閣は此の方針に則った法案を人民議会、元老院、汎白系種評議会に提出し、新白銀種議員の圧倒的な賛成で承認された。

 

そうした、ちょっとした疑問すら抱かず、事実確認もしない彼等は自らの主張の矛盾や支離滅裂さにも気づかないらしい。

 

こうなってはもう、何を言っても無駄だ。

此方が何か言えば言うほど、彼等はより結束し、意固地になり、凶暴化し、ありとあらゆる攻撃を加えるだけだろう。

"教育行政分離法"のもと、教育省が民族間の対立構造を維持する為に、新白銀種と古白銀種・その他白系種・準白系種で学校施設やカリキュラムを分けて、後者である自分達にはエイティシックスがサンマグノリア共和国の市民だった戦前と全く変わらない教育を施しているのにも、ある意味感謝すべきかもしれない。

 

此れについては、あの新白銀種の大人達も困った事になっているらしい。

青年白衛団では、中央のみならず、各派閥や其の末端グループ、果ては個人が"独自研究"や"独自議論"の結果をもとに勝手に独自の教科書を作成し、其れを勝手に新白銀種向け学校に配布し、勝手に押し掛けては正規の歴史教師を押し退けて勝手に授業をしているのである。

国が公認した新白銀種向け学校用の教科書は破り捨ててしまう。

押し掛けて来なくても、生徒達が勝手に呼ぶ。

拒否した教師は黙るまで殴ったり、蹴る。

其れが親であろうと同じだ。

最近では暴力を避けるために、学校側が積極的に白衛団を招聘したりする様になったらしい。

そうして授業を占拠し、根拠の無い陰謀論そのものの教科書という名の怪文書を使った授業しか受けて来なかった彼等の相手をする新白銀種の大人達は大変だろうと、此の点についてはヴラディレーナとアンリエッタも多少は同情を禁じ得ない。

尤も、その原因は新白銀種の大人達なのだが。

 

「おい、うるせぇよガキ共!アジ演説なら余所でやれ!!テレビが聴こえねぇじゃねぇか!!!?」

 

演説を遮る様に、野太い男性の怒声が響く。

酒保という名目で開設された馬券売場で買った馬券を手に競馬の試合を見ていたり、サッカーくじを手にサッカーの試合を見ていた新白銀種の尉官の酔っぱらい集団が、テレビの中継が聴こえないと文句を言ったのだ。

 

すると青年白衛団の連中は、直ぐ様攻撃の矛先を尉官の集団に向ける。

 

「何だと貴様ら!我等は崇高なる誓いを立てているだけだ!!古白銀種共を永久に糾弾し、有色種を絶滅させるという崇高なる誓いを!!此れは次世代の新白銀種としての権利だ!!!」

 

「貴様らこそなんだ、アルビオン人の貧乏な労働階級が始めた玉蹴りがそんなに面白いか?アルビオン人が始めた獣臭い非文明的下等生物に人間が乗って走るだけのゲームがそんなに面白いか!?サンマグノリア人として、新白銀種として恥ずかしくないのか!!!?」

 

 

青年白衛団が言う獣臭い下等生物。

此の場合は即ち馬の事だ。

軍団兵戦争開戦前後に生まれた新白銀種の十代や、開戦後に生まれた十歳未満の新白銀種の幼児達には、人間のみならず、他の動物や昆虫、植物にさえ差別意識を抱いて、動物虐待等といった形で平然と其れを露にする子が今や珍しく無いというか、かなり多い。

宗教的価値観に理解を示し、其れに由来する道徳や生命倫理を重んじる古白銀種と、無神論をベースに文明を築いてきた新白銀種との文化的違いも遠因だろう。

 

去年、純金製の皇帝オーギュストの銅像に鳩が糞をした様子や、オーギュストの銅像が建立された公園の木に蜂が巣を作ったり、銅像の周りに雑草が生えていたり、散歩中の飼い犬に飼い主が用を足さていたり、酔っ払い男が野糞をしたり、皇族の肖像画が飾られている美術館の監視カメラに子供が悪戯で変顔をしているのを団員が撮影してSNSに投稿した。

 

すると学生達が全国規模で鳩やカラス等の鳥や昆虫を不忠鳥だとか、不忠獣だとか、不忠虫だとか、不忠草だとか、不忠糞だとか、不忠顔だとか、意味不明な事を言い始めた。

そして、子供と酔っ払いは直ちにSNS上で特定されて、子供は学校の下級生や上級生から集団暴行を受けて病院に搬送。

酔っ払い男は会社を解雇された挙げ句青年白衛団の手で撲殺された。

動物や植物については見つけしだい片っ端から殺したり伐採して回ったのも有名な話だ。

 

小学生から大学生に至る学生達による破壊活動は全国規模に拡大し、過激を極めた。

新白銀種が経営する牧場や養豚場が襲撃されて放火されたとか。

穀物を啄む野鳥を畑ごと焼き払おうとして、作物だけ燃えたとか。

漁港が襲撃されて漁船が放火され、漁師が岸壁から突き落とされたとか。

花屋が放火されたとか。

動物園で暴動を起こしたとか。

ペットを飼っている新白銀種の家に押し入るとか。

蜂が巣を作りそうな森や林にガソリン撒いて火を放ったとか。

庭の木や街路樹を勝手に伐採したり。

虫がよって来ないように花壇の花を勝手に抜いて捨てたとか。

観光スポットになっている歴史ある城の壁に描かれた動物達の絵を勝手に塗りつぶしたりとか。

博物館の標本や剥製を手当たり次第に壊したとか。

大使館の敷地に侵入して花壇を荒らしたとか。

其れをまるで戦果の様に誇らしげにSNSに投稿したとか。

此の手の話にはこと欠かない。

 

新白銀種の大人達も、流石に黙認出来なかった。

行政職員は破壊活動を防ぐ為に、例えば緑地課の職員は街路樹にプリムヴェール皇族の写真を張り付けて、伐採から守ろうとしたが、逆に学生達の激昂を買った。

中には養鶏家の人に反撃されて、助けを求めて警察に通報した所をそのまま逮捕された中学生グループもいたが、すると学生達は大人数で連行先の警察署を襲撃した。

 

社会的影響があまりにも大きくなりすぎて、遂に皇帝府も重い腰を挙げざるを得なかった。

皇帝や皇族達が現地指導と称して各地を訪問し、動物園の動物達と触れ合ったり、植物園の職員を激励したり、家畜に餌をあげたり、老舗の花屋を訪問したり、自分達が飼っているペットと遊んだり、ガーデニングをする様子を公開する等の対策を講じた事で漸く学生達の大部分は落ち着きを取り戻した。

中にはプリムヴェール皇族と同じペットを飼いたいとか言い出したり、ガーデニングを趣味に始めてみる者さえいた。

だが一部では、それらの仕事に従事する人への差別意識や偏見は残った。

そこまで動物を嫌っているのに、ベジタリアンなのかと問われればそうではない。

食料品としては普通に店で買って普通に好んで食べるのである。

此れまた自らの主張の矛盾や支離滅裂さを示す一つの証と言えよう。

 

 

別の男子は、公の場でタイトルからしてかなりハードな、外国産の月白種(アデュラリア)のアダルト動画を見ていた佐官の若者達に突っかかっていた。

 

「おい、其所の貴様だ!貴様も、子供の前で月白種(アデュラリア)の女の裸などにうつつをぬかして!新白銀種としての誇「ちょっと!アラン!其の女誰よ!?」・・・えっ?」

 

「アラン、誰よ此の女?」

 

乱入してきたのは、青年白衛団の男子メンバー(アランという名前らしい)の彼女とおぼしき同年代の少女。

やはり空軍の軍服を着ているが、彼等のメンバーではないらしい。

 

「いや、アマンダ違うんだ。彼女は僕の班の副班長で・・・「「じゃあ何で二人揃って同じ指輪着けてんのよ!?しかもそれ、この間私買ってって言ったのに、また今度ねって・・・」」

 

突然始まった男女のいざこざ。

其れは例のアダルト動画を見ていた若手佐官に突っかかっていた男子の身にも起きている様で、先程までヴラディレーナに陰口を叩いていた多数の女性士官達に取り囲まれている。

女性差別がどうだのこうだのと言われ、口論になっていた。

女性士官達の体臭と香水がきつすぎたのか、泥酔していた中年士官が二人揃って嘔吐した。

此れにも女性士官達は"自分達が臭いとでも言いたいのか"、"女性への侮辱ではないか"などと激怒。

その隙を見た若手佐官達は、そそくさと逃げていく。

 

「だぁ!もぅ!うるせぇしくせぇし!?喧嘩なら余所でやれって何度も言ってんだろ!!?」

 

「うるさいわね!あんたらには関係ないでしょ!?引っ込んでなさいよ!!!」

 

「痛ぇな!何すんだ厚化粧の若造りババァ!!」

 

「何ですって!?」

 

「アランはねぇ!?この間デートで夜のシャロン塔の展望台に行った時ねぇ!?私に"君の美しい白銀髪が此の黒い鋼鉄の塔によく映えているよ"って褒めてくれたんだから!」

 

「私だって、アランから"ここから見るリベルテエガリテの夜景と同じくらい今日の君は綺麗だよ"って・・・」

 

「た、隊長!?貴方この前シャロン塔を"聖なる白亜の都市には相応しくない黒い鉄の塊だ"って、従業員を相手に批判を仰ってたじゃないですか!?壊せとまでは言わないがせめて白に塗り直せと社長に言えって・・・」

 

「ば、馬鹿者!憂国騎士団リベルテエガリテ第二区議会議員団団長のご子息でいらっしゃる隊長殿が、その様な矛盾を犯す筈ないだろうっ!口を慎し、あ痛っ!?・・・」

 

「私が今アランと話してるんだから!横からゴチャゴチャ口挟まないでっ!黙ってなさいよデブ!!」

 

突き飛ばされて尻餅をついてしまった少年、デイブ・メターボのズボンの股から聴こえた、"ビリッ"という音。

 

「あっ・・・やばい、ズボンの股が裂けた・・・」

 

「いいぞー若いの!もっとやれ!!」

 

「うっせぇっつってんだろうが!!!」

 

それから間も無く、青年白衛団の狂信的若者達対、酔っぱらい達対、浮気男対、彼女対、浮気女対、女性士官達による、物は投げるは、髪を引っ張るは、カツラを奪って投げ捨てるは、誰かの吐瀉物や溢した酒に足を滑らせて転ぶは、股間を蹴り上げるはの、人種差別主義者という名の怪獣達による大乱闘が幕を開けた。

凄い形相で高級ブランド物のハイヒールを振り回す女性士官。

アランはアマンダから平手打ち二発の後に胯間を蹴られ、メターボは両手で破れた部分を隠しながら内股歩きで何処かへと去っていく。

周りでは野次馬に集まった将兵達がこぞってスマートフォンで動画を撮影してはSNSに投稿。

こうして撮影された動画は周辺諸国の人々からコメディ扱いされ、アルビオンでは公共放送の番組による高貴な新白銀種特集で流されたり、物真似コメディアンのコントのネタにされる事もある。

 

一方、少年団や白銀少女隊の子供達は、大人達の本気の乱闘に慌てながらも語録だけはしっかりと携えて逃げていく。

遂先程迄とは異なるカオスな場に変貌したのを耳にしたヴラディレーナとアンリエッタは足を止め、"ちょっとだけ覗いていこうか"と二人で顔を合わせたが、結局は其の場を後にした。

 

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