86-エイティシックス-DIE NEUE THESE   作:ふそう

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【機体解説】猟犬型《ヤークトフント》
【全高】1.6m
【重量】 1t
【最高速度】 90km/h
【概要】
人間側で言う装甲歩兵、随伴歩兵に相当する、四足歩行式の小型対人・対軽装甲戦闘用レギオン。
人間と同等かやや大きい程度のサイズであり、市街地及び建物内部、地下壕などの掃討や制圧を主目的としている。
その最大の特徴は、従来のレギオンに見られた「特定の武装に特化した単一設計」ではなく、モジュール化された12.7m重機関銃や7.62m軽機関銃、自動擲弾発射機その他の多種多様な兵装を選択・換装できる柔軟性にある。
四足歩行による高い悪路走破性と、小型軽量ゆえの静粛性を活かし、敵の死角から音もなく接近する戦術を得意とする。
【憲兵型(回収仕様)の存在】
前線兵士たちの間で最も忌むべき存在として恐れられているのが、武装を一切排除した「憲兵型」と呼ばれる派生機である。
この機体は、各種非殺傷製武器の他、頑強な炭素繊維製の拘束アームを装備している。
その役割は、敵を「生きたまま捕らえ、連行すること」にある。
脱出装置が作動しなかった、あるいは機体大破により脱出不能となったプロセッサーや兵士のもとへ、この「憲兵型」は群れをなして這い寄る。
そして、対象の四肢を冷徹に拘束し、後方で待機している回収輸送型(タウゼントフュスラー)のもとへ連行する。
状況次第ではレギオン側の脳髄回収工場へと直接輸送する事もある。




第Ⅱ章Ⅵ話

 

〈ミニ・ヒストリカル・ドキュメンタリー〉

 

「民衆が『オーギュスト最高、オーギュスト万歳』と叫ぶ声が、大統領府から二キロ離れた大使館にいた私の耳にハッキリと聴こえてきました。

窓の外に見た、道路を埋め尽くす民衆の銀髪は海岸に打ち突ける白波の様に大きく波だっていました。

その中に、波に揉まれながらもしっかりと浮かぶ黒、赤、青、緑は有色種の共和国市民達です。

選挙戦以前は新白銀種という特定の一民族の優越性を公言して憚らなかったオーギュストに、彼からしてみれば蔑みの対象である有色種が新白銀種に混ざって万歳を叫んでいたのです。

私はこんな感想を抱きました。

『彼等が、あの時自分達は自分達に対する絞刑吏に万歳を叫んだのだという事を自覚する時が来なければ良いが』、と・・・』

 

"映像資料:TTS(Tokyo Television System)テレビのインタビューに答える、星歴二一二六年のオーギュスト・ド・プリムヴェールの大統領就任式の様子を語るハッサン・エル・サイド駐日レグキード大使の発言。星歴二一二六年当時の彼は駐燦レグキード大使館に勤務する書記官だった"

 

"西暦二〇三七年・共通紀年七年十二月放送:TTSテレビ 「報道の力」より"

 

 


 

 

サンマグノリア共和国の空軍組織は、西から順に〈西部空軍管区〉、〈中央空軍管区〉、〈東部空軍管区〉、〈深東部空軍管区〉の四つの管区毎に防衛担当地域が分けられているが、開戦以来一貫してレギオンと対峙し続けているのが深東部である。

かつてサンマグノリア共和国深東部にあって、東方辺境地域圏を構成していた、ギルマンティス州西部に拡がる八十六州最果ての地である、深東部空軍管区を改組した深東部戦線前線戦争地帯。

南北最長二千キロに及ぶ最前線は、戦前の分管区毎に第一から第四の大きく四つの戦線に分かれており、それらは更に細かい戦区によって構成される。

その各戦線にあって、レギオンの侵攻が最も激しい最重要の防衛拠点が第一戦区であり、故に戦線全体から古参兵を集めた精鋭部隊が配置される。

第四戦線司令部付第一戦区第一戦隊〈スレッジハマー〉。

第三戦線司令部付第一戦区第一戦隊〈ロングボウ〉。

第二戦線司令部付第一戦区第一戦隊〈レザーエッジ〉。

そして、第一戦線司令部付第一戦区第一戦隊〈スピアヘッド〉。

彼らが各戦線の第一戦区における作戦行動を一手に引き受ける主要部隊であり、其の指揮管制は各戦線司令部の司令官が自ら担う。

不文律ではあるが、戦線司令官職の椅子は若年皇族が占める。

 

ヴラディレーナの様に、一つの戦線の下に幾つもある戦区の中の一個戦隊を指揮するのとは次元の違う話だ。

戦線司令官となれば、司令部に直属する第一戦区第一戦隊の指揮管制は当然の事として、其処に所属する他戦区本部長、其の下で各戦隊を指揮する指揮管制官達をも監督し、統率しなければならないからだ。

人員の充足率次第だが、場合によっては、他戦区本部長を兼任し、各戦隊の直接指揮も代行せねばならない。

 

「まだ新米佐官の私達などに、務められる大任とは思えませんが……」

 

大将昇進を下命されたラディスラフも、無言で姉の意見に同意を示す。

カールシュタールは苦笑する。

 

「ギアーデ帝国から第四共和国の側に寝返って以来、幾度となくギアーデ帝国の侵入を食い止めたルーチカシロカ王冠領を率いたミリーゼ王家。

其の傍流の更に傍流として、唯一其の血筋を残し、歴史に名高いヤロスラフ・ミリーゼ大統領を輩出した家柄の末裔。

幼年学校九十一期生の中で最初に少佐昇進を果たした才媛才子がそれを言うのかね? 謙遜も過ぎるといらぬ反感を買うぞ、レーナ元帥(・・)、ラディ大将(・・)?」

「すみません、ジェローム小父様」

 

レーナ、ラディとファーストネームを略して呼んだカールシュタールに、二人も部下としてではなく頭を下げた。

ジェローム・カールシュタール中将は亡くなったヴラディレーナの父ヴァーツラフ・ミリーゼ少将の親友で、共に九年前に壊滅した共和国正規軍の生き残りだ。

小さい頃は家に来た彼に遊んでもらったこともあるし、父の死後も葬儀の手配から今に至るまで、何くれとなく世話を焼いてくれている人物である。

 

 

「実を言うと、昔から成り手を探すのが難しかったのだよ、アンダーテイカーが配備される戦隊のハンドラーの」

 

「ですが、第一戦線と言えば全域が激戦区で、其の中でも第一戦区は最激戦区。

其所を守る第一戦隊は最強精鋭部隊でしょう? 

その指揮を任されるは共和国軍人として、またとない名誉なのではありませんか?

それこそ、現第一戦線司令官でおられるシャルル皇子殿下が。

或いは深東部戦線総司令官でおられるイヴォーヌ空軍元帥閣下が兼任するか、空軍大元帥でおられる皇帝陛下が直接指揮なさるのが適任かと思うのですが。

あのような、顕示欲や陶酔心で満ちた方々なら尚更に」

 

「ぷっ」

 

然り気無く皇族批判を口にしたヴラディレーナに、ラディスラフは思わず噴き出した。

カールシュタールも思わず苦笑いをしてしまう。

彼女の言う事は正論なのだが、真面目に職務を果たす者はヴラディレーナ含めて極少数派である。

殆どの指揮管制官は与えられた司令部区画と各自の管制室でテレビを見たりネットサーフィンをしたりビデオゲームをしたり、そもそも其所にいなかったり、酷い者では指示も情報も与えずプロセッサー達が死んでいく様を刺激的な映画のように楽しんだり、自隊の全滅までの日数を他の戦区と競ったりしている。

それはそれとして。

 

「うむ、部隊についてはまあそうなのだがね……」

 

カールシュタールはしばし、言い淀んだ。

 

「……今度の再編で新たに配備されるスピアヘッド戦隊隊長機、パーソナルネーム〈アンダーテイカー〉には、ちょっとしたいわくがあってね」

 

アンダーテイカー。

葬儀屋という意味だ。

確かに奇妙な名前だと、ヴラディレーナは思った。

 

「それを知る指揮管制官からは〝死神〟と呼ばれて恐れられているのだが、その・・・・担当者を、壊してしまうのだそうだ」

 

「え?」

 

思わずレーナは聞き返してしまった。

ラディスラフもカールシュタールの話に興味があるのか、頬杖をついた姿で聞き入っている。

逆ならともかく、プロセッサーが指揮管制官をどうこうする等、聴いたことがない。

 

"プロセッサーが、ハンドラーを壊すとはどういう事か?"

 

"そもそもどうやって?"

 

「怪談の類ではないのですか?」

 

「勤務中に部下を呼びつけて与太話をするほど暇ではないよ」

 

カールシュタールの話は続く。

 

「だが事実として、アンダーテイカーが此れ迄配備されてきた戦区本部長や各戦隊の指揮管制官には、担当部隊変更や退役の申請をした者が異常に多いんだ。

最初の出撃の直後に部隊変更を申請した者もいるし、表には一切出ていないが・・・因果関係は不明だが退役後自殺した者までいる。

今回も、指揮管制を担当していた戦区本部長が自殺未遂を起こしてね。

彼の麾下にいる指揮管制官達も、全員既に異動してしまった。

其れを聞いた皇帝陛下に皇后陛下、イヴォーヌ皇女殿下が、第一戦線司令官シャルル殿下の直属にアンダーテイカーを配備する事に反対を示されたという訳なんだ。

其処で、第一戦区自体を深東部戦線から独立させる案が決定されたんだが、その総司令官の人事で壁にぶつかった訳だ。

イヴォーヌ皇女殿下が就任する案にも、皇帝陛下が直接指揮なさる案も、どれも拒絶されてね。」

 

指揮管制官には、親兄弟や親戚が憂国騎士団所属の議員や党員だと言う新白銀種も珍しくない。

自分達、人類の絶対的頂点たる新白銀種は常に絶対強者であり、勝者であると公言する事で世間からの支持を得る彼らの身内に自殺者や自殺未遂者、PTSD患者が出た。

それも劣等生物の生ける屍(エイティシックス)が原因でそんな状態に追い込まれたとなれば、遺される家族が社会的にも、世間体的にも致命的なダメージを被る事は免れない。

まして其れが皇族の人間なら尚更だろう。

それを防ぐための隠蔽措置としての、自己都合での退役や担当部隊変更、経歴改竄を含めた人事異動は少なくないのだ。

其れでも何処からか噂は漏れ伝わるもので、実際に妻や夫から離婚を切り出されたり、親に勘当された者もいるという。

 

「……自殺、それに自殺未遂・・・ですか?」

 

「信じがたい話だろう。……『死霊の声』とやらに、退役してなお付きまとわれたのだそうだ」

 

「……」

 

それはやはり、ヴラディレーナにはまるきり怪談の類にしか聞こえない。

沈黙するヴラディレーナ。

ラディスラフも、再び手に顎を乗せて俯きながら何やら考え込んでいる。

 

「皇帝府、最高国防指導評議会、国軍省、空軍本部、空軍野戦総隊司令部、深東部戦線総司令部、第一戦線司令部。

此れら全てが人選が決まり次第さっさと第一戦区を分離して、全権を委任したい、その後は好きにしていいと言っていてね。無論、此れは全くもって前例の無い事なんだが・・・」

 

カールシュタールが此処まで言った処で、ラディスラフは顔を上げた。

そして今日、この場に呼ばれてから初めてまともに言葉を発する。

 

「・・・我々姉弟がその独立戦線総司令部とやらに着任したら、後は好きにしていい。

それはつまり、防衛計画や補給計画の立案、指揮管制その他を含めた全権が委譲される。

深東部戦線から分離されるという事は、独立戦線は深東部戦線ではなく野戦空軍空挺野戦総隊の直属となり、他の空軍管区と同格の地位が与えられる事になると、そういう事ですね?」

 

「そうだよ、ラディ」

 

カールシュタールは、顔を上げたラディスラフの問いに俯いた。

まともに彼の言葉を聴くのは本当に久しぶりだった。

 

「エクスキャリバー使用の為のアクセス権限、中央政府及び軍の指揮命令系統が機能不全になった場合の、前線での組織的戦闘・兵站能力維持を目的とした、一連の非常措置についてもですね?」

 

カールシュタールは肯定の意を込めて頷いた。

 

「・・・『最終手段の書簡』についても、皇帝から頂けると?」

 

此れにもカールシュタールは肯定の意を込めて頷いた。

ラディスラフの言う書簡とは、最悪の事態が発生した場合に核兵器使用の是非を含めた幾つかの選択肢を委譲する書簡の事だ。

核攻撃等の事態でサンマグノリア共和国の中央政府機構が壊滅し、皇帝と指定された代替意思決定者(通常は皇族だが、皇族も全滅した場合は大統領等の内閣高官)の全員が職務不能、空軍本部も機能しない事態と場合に、残存する空軍管区または戦線総司令官が取るべき行動に関する命令が記されている。

 

サンマグノリア共和国では保有する五千発の戦略級熱核弾頭と一万発の戦術級熱核弾頭は空軍によって運用されている。

先述の事態が発生したら、予め策定されている幾つかの生存確認手順を踏み、結果として中央政府と空軍本部が消滅したと判断された場合に書簡を開封し、其所に記された選択肢の何れかを実行する事になる。

 

ラディスラフは再び頬杖をついた。

視線は窓の方に向け、今度は口元も覆う様に。

今回の人事は事実上、皇帝の勅命。

しかも憲法の規定は永久条項として、皇帝勅命の不可逆性を保障している。

つまり、一度皇帝が発した勅命は、皇帝自身でさえも取り消す事は出来ないし、其れに矛盾する新たな勅命も出せない。

 

"「プリムヴェール家とオーギュストの辞書に、誤りという文言は無い」"

 

皇帝や皇族達が常に公言し、憂国騎士団が日々皇家の全能を宣伝するのに使っている言葉だ。

皇族語録の最初のページにも書かれている。

余談だが、オーギュストは本名であると共に、彼の一人称でもある。

 

つまり、其れを帯びた自分達は今後、例えば武器弾薬等の補給物資の手配に携わる兵站局や、実際の輸送に携わる輸送軍相手に永久に皇帝の力を使えることになる。

だから。

 

"いいな、それ"

 

ラディスラフが、声を出してそう言いたげに口を動かしていたのを、カールシュタールもヴラディレーナも分からなかった。

きっとヴラディレーナは唇を引き結ぶ。

 

「やります。独立戦線総司令官としての任も、スピアヘッド戦隊の指揮管制官としての任も、全霊を以て」

 

ラディスラフも、俯いていた顔を右手から上げると、一回だけ頭を上下に小さく降って同意を示した。

カールシュタールは目を細める。

 

"まったく。本当に、この子達は・・・"

 

「最低限、でいいのだよ。必要以上のことはしなくていいんだ。……ところでレーナ、指揮下のプロセッサー達と交流など持とうとしたり、守ろうとしたりするのも、もう控えなさい」

 

「部下について知るのも、部下の安全を確保するのも、指揮官の務めです。

拒まれない限り交流を持つのは当然のことです」

 

カールシュタールは柔らかな苦笑で嘆息した。

デスクの引き出しから書類束を取り出して、おどけた様子でひらひらと振る。

 

「お小言ついでにもう一つ言うがね、いい加減、戦闘詳報に本名を書いたりだとか・・・、配備ではなく配属と書いたりだとか、損害報告書に破壊ではなくと戦死だとか記載するのはやめたらどうかね。

公的に死地を含めた前線に人間はいないことになっているのは、当然知っているだろう?

此処だけの話だが、人事局にも何度も苦情が来ていてね・・・。

毎度毎度、間違った記載を修正する此方の身にもなってくれと・・・」

 

カールシュタールのお小言は続く。

 

「それにレーナ、此の間の戦闘の際、広報局主催の爆撃体験ツアー参加者が飛ばした無人爆撃機や自爆機を、ヨハネス准尉に命じてバルタ線の遠隔自動対空機関砲で撃ち落とさせたろう?

其の機体を操縦していた参加者達というのが実は・・・、憂国騎士団や促進同盟のお偉方の御孫さんやら、大統領の御孫さんやら、皇帝府事務局国家安全保障問題担当補佐官のご子息やら・・・。

それに、休暇を取得して参加していた第四戦線司令官クレマン皇子と其の婚約者だった様でね・・・。

全員同じ高校に通う学友同士だったか・・・。

ともかく、各所から申し入れ(・・・・)が来たそうだ。

広報局内部からは、"こんな事が続けばスポンサーが付かなくるかも分からない、何とかしてくれ"と言う声を頻繁に耳にする。

・・・レーナ、君にとっては抗議のつもりなのだろうが・・・、今の時代、こんな抗議をしても、気にする者はもういないのだよ?」

 

 

広報局主催の爆撃体験ツアーや立入禁止領域見学ツアーでは、軍が保有する無人爆撃機や無人攻撃機、無人偵察機、自爆無人飛行機を、民間人が操縦出来る。

勿論、爆弾の投下や、機銃掃射の体験(・・)も。

機体には国籍標記の他にスポンサー企業のロゴが描かれ、得たスポンサー収入の一部は広報局の背広組や制服組のポケットにしまいこまれるそうな。

 

公式に案内される飛行範囲は、グランミュール山脈閉鎖領と共に所謂"狭義のエイティシックス達"の強制収容先である〈絶対統制領域〉を東西から挟み込むラヴィ・ミュール以東から後方戦争地域以西の間の立入禁足領域。

補給任務で飛行する有軍機がいる空域であるから、管制の都合上敵味方識別装置を作動させている。

 

だが中には、腕に自信のあるツアー参加者が指導担当者や監督責任者に私的な追加料金(・・・・)を手渡して、敵味方識別装置を切断して貰ってから超低空飛行で飛行禁止空域に侵入してくる者も珍しくない。

そうして侵入した後、現地生存者が住む町や、FOBや行軍中の戦隊目掛けて爆弾を落としたり、機銃掃射したり、進路上に地雷を投下して邪魔したり、直接機体を突っ込ませたりする。

彼等にとって、自衛の対空装備を持たず、随伴歩兵の対空射撃に委ねる他無い機体が必死に四足を回して逃げ回る姿は、"害獣駆除ゲーム"以外の何物でもないのだ。

 

「だからと言って、黙認するつもりはありません」

 

九年前、セレナークティカ亜大陸側の各地に暮らしていた有色種《コロラータ》に対して、当初は敵性外国人或いは破壊工作員と見なして行われた追放と強制収容。

 

深東部に暮らしていた白系種と有色種を外患誘致を犯した重犯罪者や既に死亡と見なして行われた書類上の死刑執行又は戦時死亡宣告。

そのいずれにも、何の根拠も正統性も無い。

それが亡き両親から受け継いだ、常日頃からのミリーゼ姉弟と養子達の主張だ。

 

"一度手にした娯楽化された戦争を、娯楽化された差別を、娯楽化された迫害を、娯楽化された殺人を、市民達は死んでも手放そうとしない"

 

皇帝も、皇族も、大統領も、政府閣僚も、憂国騎士団も、オールドメディアも、ニューメディアも、自分達新白銀種は強者であり勝者だと高らかに言う。

それを新白銀種の市民達は疑う事なく無条件に支持している。

一度自分達が弱者や敵だと認識した相手はとことん踏みつけ、虐げ、屈辱感を、不快感を与え続ける事。

そうしていつの日か、耐えかねた彼らが立ち向かってくるのを、圧倒的大多数の新白銀種同胞達がスクラムを組んで共に粉砕し、敗北させた相手の無様な姿を嘲笑する事。

それが己の優越を錯覚できて、自分達が強者だと、勝者だという証明だと信じて疑わないからだ。

 

「誤ちを黙認するのは、それに加担することです。

これら絶対的な人類悪と言うべき一連の所業の、共犯者になる事です。

そんな事、赦されるべきでは……」

 

「レーナ」

 

そう穏やかに呼ばれてヴラディレーナは口を噤む。

 

「君は少し、理想を求めすぎる節があるな。他人にも、自分にも。理想というのはね、手が届かないほど高いから理想というのだよ」

 

「……ですが」

 

此処で、理想主義を捨てきれない姉に、ラディスラフは彼なりの助け船を差し伸べた。

 

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