86-エイティシックス-DIE NEUE THESE 作:ふそう
【機体名】
【全高】 50.0m /
【全重量】約500t
【武装】30mm多砲身機関砲 105mm自動装填式二連装速射砲、20連装70mmロケットランチャー、対戦車自律誘導ミサイル、四連装12.7mm重機関銃
【概要】
◼航空攻撃能力を持てないレギオン側が航空戦力の代替として開発した、超大型八脚対地制圧プラットフォームで、人類側の戦闘ヘリやガンシップに相当する役割を与えられた機体。
見た目に反して高い機動力を持つ巨体から放たれる105mm速射砲の弾幕は、ジャガーノートはおろか、この世のありとあらゆる装甲車両の天板装甲やコンクリート製トーチカを容易に粉砕する。
◼武装を30mm多砲身機関砲と四連装12.7mm重機関銃のみに、或いは連装105mm砲や対地ロケットランチャーのいずれかに限定した、200トン級の軽量高機動型も存在する。
◼巨体を支えるため、装甲には新開発の軽量多孔質合金が使用されており、その重量は容積に対して驚異的な軽さに抑えられている。
【戦術的弱点】直下および内懐への俯角限界。ただし、単機での運用は稀であり、通常は斥候型《アーマイゼ》や軽戦車型《パンター》を随伴させ、その弱点を補っている。
第Ⅱ章Ⅰ話
〈ミニ・ヒストリカル・ドキュメンタリー〉
「ハンドラー・ワンよりアンダーテイカー、地上監視レーダーによれば敵迎撃部隊がポイント三〇二、及び五〇四に多数。
小隊規模の
スピアヘッド機甲戦隊は麾下の歩兵型戦隊と共に速やかに迎撃せよ」
「・・・てか?この戦力差じゃ全滅だなぁ、お前ら」
〈笑い声〉
「行けよ早く!死ね!豚!!」
「
〈笑い声〉
「・・・ああ!そしたらまたレギオンになったお前らを俺はまた殺せるなぁ!何度も何度も!!だから此の仕事はやめられねぇんだ!!」
〈笑い声〉
"(ナレーター)下品な笑い声を上げる男。だがこの直後、男の様子は一変する"
「・・・・・・・あぁ?なんだこれぇ?」
「・・・やめろ・・・」
「・・・なんだよ・・・来るなっ・・・黙れよぉ・・・うるせぇっ・・・!?」
"(ナレーター)つい先程迄の威勢が嘘の様に、得たいの知れない、並々ならぬ恐怖におののく男・・・そして"
「うぁ・・・うああぁっ!?」
〈絶叫〉
"(ナレーター)此れを最後に、指揮管制官とスピアヘッド戦隊との知覚同調による交信は一切途絶えた"
"音声記録:旧サンマグノリア共和国空軍本部に秘密裏に残され、戦後発見された星歴二一四八年三月当時の指揮管制官とスピアヘッド戦隊戦隊長シンエイ・ノウゼン大尉級機間の交信記録
"音声記録回収地点:現在、国際統制地域リベルテエガリテ地区と呼ばれる旧サンマグノリア共和国首都リベルテエガリテ第一区ブランネージュ宮殿旧空軍本部"
"西暦二〇三八年四月・星歴二一五八年四月・共通紀年八年四月放送 国際共同製作番組 NHKスペシャル 「~アンダーテイカー ~死神、葬儀屋、戦帝と呼ばれた少年」より"
大小四十余りの国が割拠する、星歴世界の地球において唯一"大陸"を冠した陸地。
〈アルバンティス州〉、〈ギルマンティス州〉、〈オリエンティス州〉、〈ケントラティス州〉、〈アースランティス州〉の五大州からなる、〈パンゲア大陸〉。
同じく星歴世界の地球において唯一の"大洋"である、〈
其の北半球極西部に位置するアルバンティス州にあって、島嶼部を除いて南北西を海に囲まれた巨大な半島状の大陸部を、地学では〈セレナークティカ亜大陸〉と呼ぶ。
東のギルマンティス州とは西ミュール山脈と東ミュール山脈からなる〈グランミュール山脈〉で隔てられた此の大地は、星歴初期から二千年以上の時を経た現在に至るまで一貫して"広義の
より正確には、
そして此の大地は、星歴初期から二千年以上の時を経た現在に至るまでほぼ一貫して〈サンマグノリア共和国〉の名を冠した巨大国家の領域であった。
サンマグノリア共和国は、秦字(西暦世界で言う処の漢字)では
古代セレナークティカに〈大殲滅〉を引き起こした〈山の民〉が興した、所謂"復活した共和制セレナリア"三代目執政官セザール・ド・マニョル。
セレナークティカ亜大陸を統一し、彼の下で各地を分割統治した軍事貴族達の投票で統一セレナークティカの初代皇帝に選ばれたセザールが、自らの家名を統一新国家の名に冠したのが、選挙君主制貴族共和主義国家〈サンマグノリア共和国第一共和政〉の始まりである。
以来二千年間、サンマグノリア共和国は一時の分裂と再統一を、領土の増減を繰り返しながらも、今日迄世界地図の上に存在し続けてきた。
かつての軍人貴族を祖とする血統貴族のみが権力を握った〈第二共和政〉。
広大な亜大陸を三人の自称皇帝が割拠した〈三共和国時代〉を経て、血統貴族達に加えて新たに頭角を現した軍人貴族達と富裕平民達が新たに特権階級を形成した〈第三共和政〉
三共和国時代にサンマグノリア共和国からの分離独立状態を維持し続けてきたエルドラド半島を割拠した七つの共和制国家群が再征服され、東ではグランミュール山脈から深東部一帯にかけて点在した古白銀種や有色種諸国が自発的に自国の版図に加わったり、組み込まれていった時代。
其れまでの選挙君主制から一転し、議会の承認を必須としつつも特定の一族が皇帝の地位を独占する事実上の世襲君主制に移行した〈第四共和政〉。
世襲君主制が反帝政革命によって打倒された後、〈人民国会〉そのものが国家の最高機関として存在した時期や、十三人の執政官による集団指導体制のもとで統治された時期が混在した〈第五共和政〉。
民選の大統領が国家元首と最高行政官を兼ねる、本格的な近代的民主共和制が完成した〈第六共和政〉。
多くの政党や政治団体が私兵集団を擁し、一般市民を巻き込んだ過激な街頭闘争をはじめ、互いの選挙地盤に支持母体、政治家個人の支援団体や個人のSNSアカウントへのサイバー攻撃合戦が当たり前になっていた〈第七共和政〉。
民選ながらも終身任期の中央集権強化型大統領制のもと、政治情勢が安定性を回復した〈第八共和政〉。
そして星歴二一四八年四月現在、民主的な手続きで選ばれた民選大統領と、憲法で其の地位が保障されたプリムヴェール家が世襲制の皇帝を輩出する二重権力体制を確立した〈第九共和政〉に基づいて統治されている。
其れは星歴世界において最も長く存続した国家の一つとして、星歴世界最古の共和国として、星歴世界史上初の近代共和制国家として記録される程、大変長い歴史のある此の国にとっては先祖返りに他ならなかった。
星歴二一四八年現在のプリムヴェール皇家による治世、八年あまり。
現皇帝オーギュストが大統領を称していた時代を含めれば、二十二年。
オーギュストの実父であるカイユスが大統領だった時代を含めれば、四十二年に及ぶ。
◇
その日は最高気温が十三度と、四月にしては季節外れの寒さだった。
青々としたリベルテエガリテの空に天高々と突き上げられた剣。
手にするのはサンマグノリア共和国を象徴する女性、或いはその擬人化された姿である聖女マグノリアの右腕だ。
像の全高は百メートル。
長さは右腕の部分だけで三十メートル、剣の長さも同じく三十メートルもある。
彼女が立つのは北緯四十五度線直上、地上五百メートルの場所。
ウエディングケーキを思わせる階層構造からなる外観のサンマグノリア共和国
元々は新
開戦前年の星歴二一三八年に完成。
現在は皇帝一家の宮殿やプリムヴェール皇族の邸宅、摂政委員会、政府機関としての皇帝府とその各外局、宮内省、愛国者会議、民族尊厳委員会、結党七年目を迎えた指導政党〈聖マグノリア純血純白憂国騎士団〉本部、その他の政府及び国家機関が入居する世界樹宮殿はサンマグノリア共和国一の高さの超高層建築であり、宮殿としても世界一の高さを誇る。
宮殿正面の中央広場を挟んで向かいに横たわるのは、リューヌ宮殿である。
幾つもの尖塔が建ち並ぶ中央に高さ八十四メートルの中央塔が聳えるこの建物は、凡そ三百年前の樹立された第六共和政の時代に建設された歴史ある建物だ。
皇帝制導入後の現在も"大統領府"として、選挙で選ばれた上で此の国の行政権を預かる大統領の執務の拠点となっている
これ等の建物を中心にしてリベルテエガリテの緻密な都市計画は整備されている。
広々と真っ直ぐなメインストリート。
に沿って高さの統一された彫刻に飾られた白亜のファザードが壮麗な近代建築の群れが形造る巨大都市が、青々とした空の下に拡がっているのだ。
◇
「・・・御覧の通り、今日の天気は一日を通して快晴。ですが気温は此の時期としては平年よりかなり寒く・・・」
建物という建物に設けられた街頭ビジョンに映る生来の銀髪銀瞳が特徴的な
サンマグノリア共和国の広域行政主体で最上位の〈共和国大管区〉の一つである〈首都圏大管区〉の中心、首都リベルテエガリテは、かつての第四共和政の時代にはレタセモアと言った。
正式名が"ラ・カピタル・ドゥ・ラ・グロワール・レヴォリュショネール、サンボル・ドゥ・リベルテ・エト・エガリテ"とやたら長い事から、一般的にリベルテエガリテと短縮して呼ばれる事で有名な、凡そ七億五千万人の人口を抱える超大国の首都。
市域人口二千万人、首都圏全域で五千万人を擁する巨大都市の中枢たるリベルテエガリテの風景は、〈
「・・・暖かい服装をしてお過ごし下さい」
街路樹の緑とアンティークな鋳鉄の黒い街灯は、暖かい春の陽光と青い空に絵画を思わせるコントラストを成している。
街角のカフェのオープンテラスでは、生来の銀髪銀瞳を煌めかせた新白銀種の老若男女がテーブルの上に並べられた出来立てのケーキと紅茶を挟んで笑いさざめく。
街の彼方此方に設けられた広場の一つでは大道芸が披露され、新白銀種の子供達の人集りが歓声を上げる様子を親達が微笑ましげに見つめている。
「この寒さは今週一杯続く見込みで、来週以降は再び平年並みに気温が戻る予想となっております。それでは皆様、良い週末を」
番組の終わりを告げる背景音楽と女性キャスターの声が途切れ、続いて流れてきたのはサンマグノリア共和国国歌「五色旗行進曲」の演奏。
それと同時に街頭ビジョンに姿を現したのは先程とは別の新白銀種の女性。
名をエミリア・ウェーバーと言った。
ジョシュア・リューブリック大統領の内閣で官房長官を務めるアーヴィン・ウェーバーを父に持つ彼女が着る紺青の詰襟の女性用士官服は、共和国の帝政移行を記念して、皇帝オーギュストと皇后ルイーザの間に生まれた八人の子、其の一人であるジェルメーヌ・ド・プリムヴェール皇女自らが新たにデザインしたという女性用士官服。
其れが彼女が〈空軍及び野戦空軍〉の所属である事を無言の内に示している。
「時刻は星歴二一四八年四月十四日の午前八時となりました。サンマグノリア共和国最高国防指導評議会空軍及び野戦空軍部より、本日最新の戦況を発表致します」
五色の色が各々自由、平等、博愛、正義、高潔を象徴する共和国国旗が、エミリア・ウェーバーの背後で、都市の至る所で、人々の白銀の頭上で誇らしげに翻る。
「前線戦争地帯第一戦線第十七戦区に侵攻した旧ギアーデ帝国製完全自律式無人戦闘兵器群〈レギオン〉機甲部隊は、我がサンマグノリア共和国空軍及び野戦空軍が誇る
軍隊調の勇ましい戦果発表を垂れ流す街頭ビジョンの下で、生来の銀髪銀瞳を煌めかせた老若男女が、対面或いはスマートフォン越しの会話に花を咲かせながら歩道を行き交う。
祖国が今正に戦時下にあるにも関わらず、誰も見向きもせず、聞き耳すら立てない。
「尊敬する凛々しき皇女様。
イヴォーヌ・ド・プリムヴェール皇女殿下が自ら機体の設計開発に携わられたジャガーノート。
自ら作業服をお纏いなり、技術者達による試作機の組み立ての輪に加わり、各種試験にも立ち会いになられたジャガーノート。
五体満足のエイティシックスを搭載し、レギオンに優る戦闘能力、高機動力、作戦遂行能力を付与するよう指導されたジャガーノート。
先進的かつ人道的な無人兵器にして我等が祖国の護国の盾たるジャガーノートは、本日も国防の任を全うしております」
銀髪銀瞳の両親と手を繋いだ銀髪銀瞳の幼い男の子が、年齢相応の楽しげな高い笑い声を上げて歩いていく。
確りとおめかしをして、楽しいお出かけの真っ最中らしい。
「有能なる戦区本部長と各戦隊指揮管制官によるの戦闘指揮と、其れを支援するチームの下で行われる先進的かつ人道的な無人兵器による戦闘。
危険極まる最前線に兵力を投じる事なく、敵に国土を侵させず、祖国防衛の任の完遂を可能とした我らが祖国の人道的かつ先進的戦闘システムの有用性は、この様に疑いようがありません」
無関心を貫く銀髪銀瞳の市民達に囲まれる中、只一人だけ。
長い銀髪の一房を赤く染め、冬仕様の白いフロックコートの下にサンマグノリア共和国空軍・野戦空軍の紺青を黒に染めた軍服を纏い、ガーターベルト付の白いハイソックスと膝下迄の筒丈がある黒の女性士官用ロングブーツに両足を固めた一人の少女の銀瞳が、白く、冷たい眼差しで街頭ビジョンを見つめていた。
彼女の背中には、共和国陸海空軍で運用される主力アサルトライフルが背負われていて、ホルスターには拳銃が収められている。
"国境から四百キロ内陸のヴォルーハ川流域に迄に攻め込まれているのに、国土を侵されていないはないでしょう・・・"
"まあそれでも、国境からグランミュール山脈迄はまだ一千キロはあるから、そう見えるのかもしれないけれど"
彼女の言うヴォルーハ川流域西岸には、〈バルタ線〉と呼ばれる二百年前から存在する歴史ある要塞線がある。
ボリス・バルタ将軍の名を冠した此の要塞こそが、前線戦争地帯と後方戦争地帯とを隔てる一つの境だ。
グランミュール山脈一帯に設定された〈グランミュール閉鎖領〉の北、旧ルジアーナ州にある軍需工場に付属した走行試験場を隊列を組んで行進する、真の意味で自動運転中のジャガーノートを背景に誇らしげな微笑みを浮かべた銀髪銀瞳の新白銀種の女性の言葉は続く。
楽観的というより非現実的な戦況報道は開戦直後から繰り返されたいつものことで、多くの市民はそれを疑うこともない。
「しかし、我等共和国人民が真に称えるべきは、祖国防衛の為に避けられぬこの戦争で、人民が誰一人として涙を流さずにいられる理想郷を強大な指導力を以て祖国の大地に実現して下さったプリムヴェール家の方々であり、また、祖国の為に休む間もなく粉骨砕身する〈聖マグノリア純血純白憂国騎士団〉の方々であります」
一千四百万平方キロに及ぶ〈セレナークティカ=サンマグノリア〉領域。
東に隣接するギルマンティス州と、其処に存在する大ギアーデ帝国とは、グランミュール山脈という標高三千~四千メートル級の山々が連なる天然の防壁と、四百万平方キロに及ぶ広大な〈ギルマンティス=サンマグノリア〉地域、地域区分で言う処の〈深東部〉に護られている。
両者合わせて凡そ一千八百万平方キロに及ぶ、セレナークティカ亜大陸からグランミュール山脈を隔てたギルマンティス州側の深東部に至る広大な国土面積は、世界最大の二千五百万平方キロという国土面積を誇る〈大ギアーデ帝国〉に次ぐ世界第二位である。
そんな、サンマグノリア共和国のセレナークティカ側に暮らす七億五千万人の内、実に六億人を占める新白銀種市民達にとって、
"・・・誰も死んでない訳がないじゃない"
"市民権を返すだなんて嘘をついて、集まって来た人達をあんな欠陥機に乗せて、自分達で嬲り殺しにして遊んでるくせに"
軍服の少女が、誰にも聴こえない程小さく、だが確かにそう呟いた。
彼女の言葉は事実である。
だが、今、グランミュールの向こうは生きた人間等一人も存在しない死地であり、戦争地帯最前線の戦場にも公式に人間と扱われる将兵も戦死者と数えられる死者もいないというのが、サンマグノリア共和国政府の公式見解であり、市民達が其れを支持しているのもまた事実だ。
「醜悪なる亡国の遺物を、共和国の正義が討ち滅ぼす日が、近い将来必ずや訪れるであろう事は疑いありません」
信号が変わり、横断歩道を渡る軍服の少女がふと、一見一幅の絵画のような、春の光の大通りを見回した。
白亜一色の外壁を持つビルディングに銀髪銀瞳の人の波。
街頭ビジョンに映る女性キャスター。
カフェの学生や恋人たち。
通りを行きかう沢山の人々。
すれ違った親子連れ。
そして、少女自身さえも。
青い空を除けば、正に白と銀だけの世界。
だが、少女の幼き頃の記憶に残る景色は、決してこれではない。
「我らが新白銀種民族の祖国、永久不滅のサンマグノリア共和国、万歳!」
此の国の名がサンマグノリア
かつてこの国の深東部には古来から有色種が多数派を占める地域もあったし、他国からの移民も積極的に受け入れてきた歴史がある。
新古白銀種を除いた所謂"狭義の
夜を纏う
光の金色の
紅い色彩の華やかな
青い瞳の涼やかな
赤褐色の瞳と髪が特徴の
紫色の瞳や髪色が特徴の
白人系も、黒人系も、黄人系も問わず、様々な色彩の
健康的であれ、不健康的であれ。
身体が自由であれ、不自由であれ。
少なくとも表向きには。
だが、今の首都のメインストリートを行き交う誰にも、その姿は無い。
それどころか首都全体、八十五ある州のどこにも、今や有色種の姿は殆ど見られない。
戦前、サンマグノリア共和国にはセレナークティカ側で六億人の新白銀種、一億人の古白銀種、五千万人の白系種に準白系種と、五千万人の有色種の合わせて八億人。
深東部側で一億人の古白銀種と五千万人の其の他白系種、五千万人の有色種の、合わせて十億人の人口を擁していた。
此れはオリエンティス州の〈東華共和国〉の二億人や〈西華帝国〉の五億人、〈北華無産主義共和国連邦〉の七億人、〈南華合省国〉の八億人より多く、大ギアーデ帝国とは肩を並べる数字である。
だが、今はセレナークティカ側にいる七億五千万人だけだ。
五千万人の有色種は追い出され、深東部側にいた二億人は見捨てられた。
今見かけるのは七億五千万人の共和国市民で多数を占める六億人の
戦前は二億人いた
残りの五千万人は
他に居るとすればサンマグノリア共和国があるセレナークティカ極西部最南端のエルドラド半島の沖合に位置する島国〈ブランカ王国〉や〈ラクテア共和国〉。
南のアルブ海に浮かぶ島々を国土とする〈イゾラビアンカ共和国〉。
北海の島々を国土とする〈アルビオン王国〉等の白系種諸国から来た、
皇帝が掲げる〈白銀聖土〉の方針に従った政府の政策により、外交関係者と商用目的以外での入国が厳しく統制されている為だ。
そんな、厳しい条件をクリアして入国した白系種系外国人達は表面的には儀礼上の礼節や笑顔を振り撒いているが、一度大使館やホテルに帰れば、窓の外に溢れるサンマグノリア人達、特に新白銀種に向けて、嫌悪と侮蔑、或いは恐怖の感情をあからさまにした視線を突き刺している。
「親愛なる共和国人民の皇帝陛下、万歳!」
此の国の国家元首の役職名は皇帝であり、正確には〈サンマグノリア共和国人民皇帝〉と称する。
開戦翌年の星歴二一四〇年に改正されたサンマグノリア共和国憲法によれば、サンマグノリア共和国は"第九共和国"であり、皇帝は"共和国人民の皇帝"であり、"共和国の国家元首"であり、"立法・行政・司法等国政全般の最高決定権保持者にして責任者"であり、"絶世の愛国者"であり、"平和主義者であり"、"新古白銀種民族最高権威"であり、其の地位は"プリムヴェール家と其の一族、大統領内閣、騎士団指導部が参加する愛国者会議で選出された後、議会の追認を得て皇帝に即位する"と定めている。
一方、大統領は旧憲法時代から引き続き国民の直接選挙で選出される。
但し、立候補出来るのは愛国者会議と民族尊厳委員会による二重の審査を合格した者だけ。
オーギュストが大統領だった時代には既に任期は終身制だったが、現在では任期は一期五年連続二期迄である。
嘗ては此の大統領こそが、サンマグノリア共和国の国家元首だった。
「愛国心、民族愛、同胞愛、生命愛に満ち溢れた賢者が集う、聡明なる聖マグノリア純血純白憂国騎士団万歳!」
此の国にはかつて、多種多様な考えを持つ政党が存在していたと言う。
だが、今では憂国騎士団という巨大政党の下に、幾つかの中小規模の政党が小判鮫の様に付き従うばかりだ。
中でも、憂国騎士団に次ぐ規模を擁する〈白銀国家再建促進同盟〉には、皇帝府直属の〈共和国親衛隊〉と〈皇室衛兵〉、憂国騎士団直属の〈甲冑隊〉から現役を退いて政界進出した予備役将校が多数在籍している。
他にも、〈国民治安維持推進運動〉には各州警察の警察予備役資格者が多数在籍。
〈新白銀種団結繁栄党〉にはサンマグノリア共和国軍の退役軍人や予備役将校が。
〈全共和国経済産業活性化連合会〉は商工会議所をはじめ経済界や産業界に強いパイプを持つ人々が。
〈優良遺伝子擁護推進国民会議〉は最早言うまでもなく優生学や社会ダーウィニズムを支持する人々が。
〈知識青年政治運動〉は、現体制を熱烈に指示する組織化された学生組織〈青年白衛団〉を母体としており、これらの政党が議会における所謂〈最強硬右派〉と呼ばれる勢力の一翼を担っている。
議会制度も改められた。
第四共和政時代に建てられ、世界一豪華な宮殿として知られる〈ブランプレヌ宮殿〉に置かれるサンマグノリア共和国の議会は、従来の人民国会と元老院に加えて新たに〈汎白系種評議会〉が設置され、人種別の〈三院制〉となった。
人民国会は新白銀種による議会で、議席数は三千。
元老院が古白銀種による議会で、議席数は千。
汎白銀種評議会が新古白銀種に加えて現在のサンマグノリアでは極少数派の白銀種以外の白系種による議会で、議席数は六百。
しかもその内三百十議席は新白銀種に割り当てられているから、古白銀種と其の他白系種の議席は二百九十議席しかない。
つまり、古白銀種と白系種が協力して法案を提出したり、逆に法案に反対したとしても、新白銀種議員だけで完全に否決出来る仕組みが整っている訳である。
また、あくまでも共和国市民とは別の特別住民である
「類い稀に見るサンマグノリア第九革命万歳!」
確かに、建前上は共和国の名と共和政の形式を残しつつも、ある特定の一族が輩出する事実上世襲制の皇帝が国を統治するという体制を二十二世紀の現代で復活させたというのは、歴史上類い稀に見る出来事ではあるだろうが。
「自由、平等、博愛、正義、高潔の象徴たる五色旗と、国旗が象徴する共和国に栄光あれ!!」
サンマグノリア共和国の誇るべき国是と、其れを象徴する五色の旗は今も健在である。
だが、その精神は最早無いと断言していい。
無くなったのはギアーデとの戦争のせいではない。
無くしたではなく、捨てられた。
捨てたのはこの国の主権者たる市民達だ。
少女がこの世に生を受ける前から、市民達自らが、革命以来の伝統たる国是を疎み、嫌い、否定し、そして、九年前に始まった戦争を契機に躊躇無く完全にかなぐり捨てた。
女性アナウンサーの声に代わって、共和国国歌「五色旗行進曲」の厳粛な調べが再び街に響く中、少女は銀髪銀瞳の人の群れを鬱屈とした表情のまま歩き続けた。
少女の名はヴラディレーナ・ミリーゼ。
弱冠十六歳のサンマグノリア共和国空軍中佐にして、セレナークティカでは少数派である