今日も今日とて何時も通りに3回以上電車を乗り継いで、大学へ向かう。
大学受験で本腰入れるのが遅かったせいで、俺は第一志望から第三志望までことごとく落ちまくり、最終的に片道1時間半もかかる大学にしか行けなかった。
正直辛い…。
通学時間が馬鹿長いのもそうだけど、大学は小中高とは違ってクラスとか無いから友達作りにくいし、サークルは20歳未満の酒とタバコを強要する飲みサーばっかだし、授業のコマ数は朝から晩まで一週間びっしりだし、もうやってらんないよ…。
大学は人生の夏休みなんて誰かが言ってたけど、意外と高校の時よりも時間がないよ。
あー!もう大学行きたくない!眠い!寝たい!このまま電車に乗ってどっか遠い場所に消えてしまいたい…。
そんな事を考えながら俺は満員電車の中でゆらゆらとふらつきながら何とかつり革に捕まって立ち続ける。
そして、あと三駅で大学の最寄りに着くと言うタイミングで目の前の席が空いてしまった。
しかも、その席は一番端っこの席。
特等席と言うやつだ。
座りたい!物凄く座りたい!でも、座ったら絶対に寝てしまう。
でも、数分くらいなら…。
俺は結局欲望に抗えずに席に座って爆睡してしまう。
そして次に目を覚ますと…。
「はっ!ヤバ!寝てた!今なに駅!」
そこには見知らぬ光景が広がっていた。
「ここどこ?え?俺さっきまで電車にいたのに…。」
先程まで満員電車にいた筈の俺は、何処かアンティークな雰囲気と近未来さを併せ持つ高級ホテルのような落ち着きを持った空間で目を覚ました。
「誰じゃお前は!俺の列車にどうやって入った!」
突然、見知らぬ怒鳴り声が聞こえて、そちらに振り向くと、そこには車掌服を来たネズミ(?)と白いドレスに黒いコートを羽織った赤髪の綺麗な女性が立っていた。
***
私は姫子。
銀河を又にかけるナナシビトであり、星穹列車のナビゲーターよ。
とは言ってもこの星穹列車には
数年前、私はたまたま故郷で座礁していた星穹列車を見付けた。
星間航行という分野に憧れがあった私は青春の全てを捧げてこの星穹列車の修理に取り掛かったわ。
そして今、私はかつてのナナシビトが歩んだ旅路を辿っている。
ずっと夢だったナナシビトに慣れてとても満足している日々を送れているわ。
でも、この広い宇宙の中をただ一人で巡るのは流石に退屈ね。
元々知り合いや友人が特別多い方ではなかったけれど、誰とも話さない日々が続くと気持ちが滅入ってしまうわ。
そろそろ新しい乗員を募集しようかしら…。
などとラウンジでコーヒーを飲みながら真剣に悩んでいると…。
ーーーゴトッ!
突然パーティー車両の方から物音が聞こえてきた。
「何かしら?」
私は不思議に思い、音の出所を探る為にパーティー車両の中に入る。
するとそこには車掌服を着た兎とも熊ともとれない謎の小動物がいた。
「フムフム…。食料は申し分無いようじゃな!」
その小動物は何やらパーティー車両のバーの冷蔵庫を漁っている。
「ね、ねえ…。」
「っ!誰じゃ!」
それはこっちのセリフなのだけど…。
私が声をかけるとその小動物は慌ててこちらに振り向いた。
「私はこの星穹列車のナビゲーターの姫子よ。」
「ああ、俺の列車を直してくれた奴か。すまんの自己紹介が遅れて。俺はこの列車の車両のパムじゃ!」
車両?
…と言うことはこの小動物がこの列車の本当の持ち主?
故郷にいた頃、星穹列車に関する過去の文献を私は何度も読んだことがある。
そこには星穹列車とは開拓の星神アキビリィが作った物…つまり開拓の造物であり、列車の主導権を握る車掌もまた開拓の造物の一部なのだと言う。
このパムの発言を信じるなら、彼(?)はアキビリィが作り出した造物で、恐らく私が座礁した星穹列車を直して開拓の旅に出たことで、十分な開拓の力が溜まったから復活(?)したんだと思うわ。
何はともあれこれで望んでいた話相手が出来たということかしら。
「車掌さんね。勝手に列車に乗ってしまった事を謝罪するわ。それと改めてこれからよろしく。」
「そんなこと気にするでない!星穹列車は来るものは拒まん!改めて歓迎するぞ姫子。」
パムは少し尊大な言い方で私を歓迎し、手を出して握手を求めてきた。
私は身を少し屈めてその握手に応じた。
しかし、その直後。
ーーーやっば!寝てた!今なに駅!
今度はラウンジの方から音…いえ、声が聞こえてきた。
「なんじゃ?他にも誰か乗っておったのか?」
「いえ、そんな筈無いわ。私はずっと一人だったもの。」
パムのこの反応を見るに、恐らく声の主はパムとは関係の無い存在。
つまり、パムとは違い、開拓の力によって復活した元星穹列車の乗員などではなく、この列車に勝手に足を踏み入れた侵入者と言うことになる。
そう考えて、私は警戒心を最大にして身長にラウンジに入る。
すると…。
「ここどこ?え?俺さっきまで電車にいたのに…。」
ラウンジにはとんでもない美貌を持つ絶世の美女がそこにいた。
髪色は太陽のように光り輝くオレンジ色、髪型は前髪が重めなショートボブカット、瞳は見るものを魅了する輝きを放つ白銀色で肌はキメ細やかで透き通るように白い。
身長は目算で178cm、顔はお人形さんのように整っていて小顔、そして目付きは少しつり目気味でクールな印象を持ち、胸は私より少し小さいくらい。
しかし、そんな美貌とはミスマッチなグレーのパーカーと裾がしわしわになっているジーパンと泥で汚れたスニーカーを履いていた。
そんな服装を覗けば私でさえも見惚れてしまうような美貌を持つ美女がソファーに座って焦った表情を浮かべていた。
「誰じゃお前は!俺の列車にどうやって入った!」
「うわあああ!なんだ!ネズミが喋った!」
「ネズミとは失礼な!俺はパムじゃ!ネズミなどではない!」
この様子を見るに、悪意があって列車に侵入したって感じでは無さそうね。
「ねえ、あんた名前は?」
「えっとリモリです…。」
「そう、私は姫子よ。よろしくリモリ。あんたは何の目的があってこの星穹列車に入ったのかしら?」
「星穹列車?」
列車の事を知らないみたいね。
となるとますます謎だわ。
どうしてこんな子がどうやって星穹列車に入ってきたのかしら。
「星穹列車って言うのは、簡単に言うと銀河を旅する列車よ。」
「銀河を…旅?…って事は…もしかしてここ宇宙?」
「ええ、そうよ。」
「嘘でしょ…。さっきまで大学の最寄り方面の電車に乗っていたのに…。」
電車…。
確か電力で動く列車の事よね。
私の故郷にもあったわ。
でも、その電車と一体何の関係があるのかしら?
「電車がどうしたのよ?」
「俺…。地球って星の日本って国の大学に通う男子大学生なんすけど…それで何時も通り通学の為に電車に乗って、電車内で寝落ちしちゃって、目が覚めたら…何故かここにいたんです…。」
色々と情報量が多いわね…。
少しずつ整理しましょう。
まずチキュウと言う星に関してだけど…聞いたこともない星だわ。
そんな星が存在する星系はこの世界には無かった筈よ。
同じ理由でニホンも知らない。
でも、正直これからの事はどうでもいいわ。
だってもっと衝撃的な事実がリモリの口から出てきたんだもの…。
「…え?…あなた男なの?」
「え?そりゃ見れば分かるでしょう?正真正銘の男ですよ。」
…何処からどう見ても女にしか見えないわ。
もしかして女性に見えて本当は男とか?
「自分が男って証明できる物持ってるからしら?」
「え?学生証くらいしか…。」
「見せなさい。」
「…はい。」
私はリモリから学生証を見せてもらう。
しかし、なんて書いてあるのかわからない。
学生証に書かれている文字が見たことない文字故に意味が理解出来なかった。
でも、不幸中の幸いか文字が分からなくても分かる部分があった。
それは写真だ。
学生証に写っているリモリの写真は今のリモリとは似てもにつかない男性の顔だった。
その写真を見て、私は一人だけで全てを理解した。
リモリは彼女は…いや、彼は恐らく異世界…または名前も知られていない辺境の星からこの星穹列車に転移してきたのよ。
しかも、性別が変化すると言うおまけ付きで。
恐らく見たこともない文字を綴るチキュウと言う星から来たリモリが共感覚ビーコン無しで私達と会話できているのはその女体化した肉体のお陰なのかもしれないわね。
「あんたの事情は大体分かったわ。」
「俺は全く分からんぞ!」
「俺も、自分の事ながら全く状況が理解できないんですが…。」
パムとリモリが言外に私に説明を求める。
「分かったわ、ちゃんと説明してあげる。まずパム、リモリは意図してこの星穹列車に侵入した訳ではないわ。理屈は分からないけれど、どうやら異世界の電車からこの星穹列車に転移してきたみたいね。」
「そ、そんな事があるのか?今までの開拓の旅でそんな現象一度も遭遇したことないぞ。」
ええ、パムの言いたいことは分かるわ。
私も自分で言ってて信じられないもの。
「でも、事実よ。そして、リモリ今のあんたは紛れもなく女よ。」
私は懐から手鏡を取り出してリモリに見せる。
「…嘘。これが俺?」
リモリは手鏡に写る自分の姿を見て絶句する。
気付いたら見知らぬ場所で、しかも性別が変わってるなんてショックでしょうね。
でも、私はリモリがショックから立ち直るのを待たずに口を開いてリモリに話し掛ける。
「驚いてる所悪いけれど、リモリあんたに私から一つこの星穹列車のナビゲーターとして提案があるの。」
「提案?」
「私達と一緒に開拓の旅に出ないかしら?勿論あなたが旅をしたくないと言うのなら、どこか安全で住みやすいに星にあなたを送ることも出来る。でも、もし私と一緒に旅するなら危険な体験と引き換えに安全な星では体験出来ない刺激的な経験を味併せてあげるわ。それに旅をしていれば、いつかあなたの故郷のチキュウも見つかるかもしれない。」
そう言うと、リモリはしばらく間を置いて考えた末に…。
「分かりました。俺もそのかいたく(?)の旅に参加します。」
「決まりね。パムもそれで良いかしら?」
「うむ、さっきも言ったが星穹列車は来る者を拒まない。歓迎するぞ!リモリ。」
こうして、私は一気に二人の仲間を得た。
「そうだわ、お近づきの印にコーヒーでもいかが?」
「うむ、いただこう!」
「俺もいただきます。」
私は二人に新しく淹れたコーヒーを渡す。
そして二人が同時にコーヒーを口に入れた瞬間…。
「「ブフォ…!」」
盛大に吹き出して気絶してしまった。
「あら?」
コーヒー苦手だったのかしら?
気絶した二人を横目に私は自分で淹れたコーヒーを優雅に啜るのだった。
「ンフフ…我ながら開拓的な味ね。」
少し更新頻度は遅めです。