竜骨の学者 ──スカイリム漂流記   作:スカイリム愛好家

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第十三話

「ふむ、性質としては悪くないが……」

マサは並べられた品々を一瞥し、困ったように呟いた。レモネードが指差したサークレットは、確かに彼が操る破壊と召喚の魔力に親和性があったが、その流れはあまりに粗雑で、精緻さに欠けていた。サイノッドの魔術師が身に着けるには、到底及ばぬ代物だ。

「そうだな、では……」

マサはサークレットには目もくれず、古びた革装丁の魔法書を二冊、指でなぞった。一冊は嵐の精霊を召喚する術式、もう一冊は深い傷さえ塞ぐ強力な治癒の呪文が記されている。

「雷の精霊召喚と、治癒の息吹。この二冊をもらおうか」

リサードは満足げに髭を撫でた。「良い目利きだ。サークレットを見送るとはな……だが、その判断、嫌いではない。安物を高く売りつけられぬのは、商人としては惜しいが」喉を鳴らして笑い、墓所で見つけた宝石と魂石を秤にかける。差し出された金貨で、空になった革袋が再び心地よい重みを取り戻した。

 

マサはその場で二冊の写本に目を通した。元サイノッドの魔術師にとって、新たな術式を己のものとすることに、さして時間は要らない。雷光を編み上げ、荒れ狂う嵐の化身を現世に繋ぎとめる召喚の理。生命の輝きそのものを呼び覚まし、裂けた肉を癒着させる治癒の式。それらが、乾いた砂が水を吸うように、すっと頭に馴染んでいく。

「では、息災でな、魔術師の御方。剣の御嬢さんも」

リサードが毛深い手を振る。二人は隊商に別れを告げ、再び北の街道——丘の上にそびえるホワイトランの城壁へと歩を進めた。竜の石板を、宮廷魔術師ファレンガーの元へ届けるために。

 

ホワイトランの城門をくぐり、坂を上り、二人は再びドラゴンズリーチの大広間へとたどり着いた。マサが竜の石板を差し出すと、書斎から飛び出してきたファレンガーは、まるで失われた至宝を前にした子供のように目を輝かせた。

「これは……! 本物だ、本物の竜の石板! どこを探しても見つからなかったものを、君は……ふむ、ふむ、この線刻——竜の塚の配置か。素晴らしい、実に素晴らしい!」

彼は石板に顔を擦りつけんばかりに近づけ、ぶつぶつと早口で古代の文字を読み解き始める。「これで研究が、デルフィンに見せれば、いや、まず解読を——」

 

その時だった。

大広間の扉が荒々しく開き、息を切らした衛兵が転がり込んできた。

「首長! 司令! 大変です——竜だ! 西の見張り塔に、竜が現れた! 塔が、燃えて——!」

玉座に腰かけていた首長バルグルーフが、ぐっと身を乗り出した。広間の空気が、一瞬で張り詰める。傍らに控えていた灰色肌の女戦士——軍司令イリレスが、即座に剣の柄に手をかけ、冷徹な声を放った。

「衛兵を集めろ。私が出る」

彼女の赤い瞳が、油断なく状況を測っている。

バルグルーフの鋭い眼光が、ファレンガーの隣に立つマサへと向けられた。

 

「お前——リバーウッドから竜の報せを運び、あの墓所から石板を持ち帰った、その腕の魔術師か」

首長は玉座から立ち上がった。その姿には、戦場をくぐり抜けてきた武人の威厳が満ちている。

「ファレンガーが手放しで褒める腕、そして竜の知識。見込んで頼む。イリレスと共に、西の見張り塔へ行ってくれんか。あの化け物が何者で、どう斃せるのか——お前のような者の目と力が要る」

彼の声に、懇願の色はない。それは、領地と民を守る統治者としての、揺るぎない命令の重みだった。

「無論、ただとは言わん。ホワイトランは、恩を忘れる街ではない」

イリレスが、値踏みするようにマサとレモネードを一瞥し、低く言った。

「……墓所の主を屠ったというなら、腕は確かなのだろう。足手まといにはなるなよ。竜は、これまで斬ってきたどんな相手とも違う」

 

マサは、バルグルーフの視線をまっすぐに受け止めて応じた。

「リバーウッドの話は知りませんが、石板を持ち帰ったのは私です」

そして、静かに、しかしはっきりと続けた。

「で、竜ですか。興味深いお話ですが、さすがに竜と戦うには条件や報酬についてお聞きしたい。並大抵の報酬では、竜と戦うことはできないのでね。死にゆくようなものですから」

バルグルーフは、マサの率直な物言いに、わずかに片眉を上げた。だが、そこに不快の色はない。むしろ、筋を通す相手を前にした時の、統治者の確かな関心が見て取れた。

「ふむ。リバーウッドの使いではなかったか。石板を持ち帰ったのがお前——なら、なおさら見込み違いではないな」彼は顎髭を撫で、力強く頷いた。「そして、その物言いも気に入った。竜を前に『喜んで死にに行きます』などと抜かす阿呆より、よほど信用できる」

首長は玉座の前まで進み出ると、はっきりと条件を示した。威厳のある、駆け引きを心得た声だった。

「報酬の話だな。よかろう、はぐらかさん。——まず、即金で千ゴールド。これは竜と相対する危険への対価だ。そして、生きて竜を斃して戻れば、お前をホワイトランの従士(セイン)に叙する」

彼は指を一本立てる。

 

「従士とは名誉だけの飾りではない。ホワイトランに屋敷を構える権利、お前に仕える従士付きの戦士(ハウスカール)を一人、そして——この街でお前が多少の無茶をしても、衛兵が目をつぶる程度の、私の庇護だ。余所者の魔術師には、悪い話ではあるまい」

傍らのイリレスが、焦れたように口を挟んだ。「首長、長居は無用です」彼女は冷たい目をマサに据えたままだ。「言っておくが、お前一人に竜を押し付けるわけではない。私が衛兵を率いて共に当たる。お前には、その知恵と魔術で——勝ち筋を見つけてもらいたいだけだ。塔まで馬を走らせれば、四半刻とかからん。……腹は決まったか」

その時、レモネードがそっとマサに身を寄せて囁いた。

「……竜、ですか。正直、わたしも見たことはありません。ですが、衛兵隊と、あなたの魔術と、わたしの剣。それだけ揃えば、勝ち目はある。あなたが行くなら、わたしも、契約の続きとして付き合いますよ。……生きて帰る、を守れるなら」

 

マサは一瞬黙考し、やがてバルグルーフに向き直った。

「いいでしょう。ではそれでお受けしたい」

首長は満足げに頷き、傍らの従者に合図した。ずしりと重い金貨袋が、すぐさまマサの手に渡される。マサはそれを受け取ると、今度は隣のレモネードへと視線を移した。

「ああ、あとレモネードさん。さすがにこの戦いに、いままでの契約の続きで挑ませるのは申し訳ない。追加で八百ゴールド払いましょう。手伝ってください」

彼は金貨袋から惜しげもなく金貨を分け、彼女に差し出した。レモネードは驚きに目を丸くしたが、やがて彼の真意を汲み、こくりと頷いた。

 

「支度の時間を少しいただきたい」

マサが言うと、イリレスは「衛兵の召集に少し手間取る。市場で済ませろ」とだけ短く告げて踵を返した。

マサはレモネードと共にドラゴンズリーチを駆け下り、市場の一角、薬草と小瓶の匂いに満ちた錬金薬店〈アルカディアの大釜〉に飛び込んだ。気のいいインペリアルの女主人アルカディアが、竜討伐と聞いて顔を青くしながらも、手早く棚の品を並べてくれる。

「竜に……? 正気なの。まあ、生きて帰るためなら、これを持っておきなさい」

彼女がカウンターに並べたのは、赤みがかった液体の満たされた小瓶だった。

「炎の耐性薬よ。今ちょうど五本ある。竜のブレスを浴びるなら、命綱になるはず」アルカディアは声を潜めた。「マジカの薬も、切らしてるよりはずっといい。……あなた、魔術師なんでしょう?」

彼女は続けて、青い液体のマジカ回復薬や、様々な効能を持つ薬瓶を指し示していく。そのどれもが、これから相対するであろう、神話の獣との死闘を予感させた。

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