竜骨の学者 ──スカイリム漂流記   作:スカイリム愛好家

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第三十二話

懐の戦利品は、死の匂いを纏ったまま重かった。マサは市場の喧騒に耳を半分預けながら、頭の中で冷静にそれらの値踏みを始めていた。墓所から持ち帰った品々は、死者の怨念を金貨に換えるためのただの素材に過ぎない。

 

 吸命の魔力が付与された名匠の大剣、死霊術師が使っていた低位の氷の杖、ドラウグルたちが着込んでいた上質な古代ノルドの武具一式。これらは、腕の立つ戦士や魔術師にとっては価値ある品だろうが、マサ自身の戦い方には合わない。無用の長物だ。市場の商人たちに売り払えば、当座の路銀どころではない、まとまった金になる。

 

 だが、手放すべきでないものもある。

 ずしりと重い竜の骨と鱗。常人にはただの珍しい素材にしか見えぬだろうが、ドヴァキンであるマサには、その内に秘められた力が分かる。いつか鍛冶の技を極めた時、これらは比類なき武具となるだろう。今はまだ、その時ではない。

 そして、羊皮紙に記された呪文、『死の従徒』。死体を永久に僕として蘇らせるという、禁忌の死霊術の奥義。これを金に換えるなど、愚者のすることだ。知こそが力。この知識は、マサの力をさらに深めるための鍵となる。

 グランドソウルジェムをはじめとする魂石も同様だ。魔法の武具を生み出し、強力な呪文を支えるための燃料。金で買えぬこともないが、これほど上質なものは稀だった。

 

 ふと、マサの思考は一つの剣に留まった。炎の魔力を帯びた、古代ノルドの片手剣。これも自分には不要だが、捨てるには惜しい業物だ。マサは隣を歩くリディアに目を向けた。彼女は、街道での一件をまだ引きずっているのか、硬い表情で前を見据えている。

 マサは荷袋からその剣を取り出すと、無造作に彼女へ差し出した。

「これも持っておけ。氷の剣と使い分けろ」

 リディアが、驚いてマサと剣を交互に見る。

「炎を嫌う敵には氷を、冷気の敵には炎を。相手の弱みに合わせて振れる方が、戦いを有利に運べる」

 淡々とした、純粋に戦術的な判断からの言葉だった。リディアは一瞬ためらった後、恭しく剣を受け取った。そして、もとより腰に下げていた氷の剣と並べるように、逆の腰へ佩いた。鞘に収まった二振りの古代剣が、カチリと音を立てる。

「……なるほど。トロルや氷の精霊には炎を、今日の墓守王のような相手には氷を。剣を選べるのは、心強い。戦士冥利に尽きます」

 霜と炎、二つの古代の刃を備えた従士は、どこか誇らしげに見えた。その横顔から、先刻までの翳りが少しだけ晴れている。マサはそれに気づかぬふりをして、商人の方へと歩き出した。

 

 残りの品々を売り払うべく、マサは武具屋〈戦乙女の炉〉のエイドリアン、市場の雑貨商ベレソア、そして錬金屋のアルカディアを順に回った。卓に並べられた戦利品を前に、彼はサイノッドで磨いた弁舌の限りを尽くして交渉に臨んだ。付与された魔法の質、素材の希少性、武具としての出来栄え。理路整然と価値を説き、少しでも有利な値を引き出そうと試みる。

 だが、相手も海千山千の商人だった。ホワイトランの女鍛冶エイドリアンは、腕を組んでにこりともしない。

「学者先生、こちとら鉄の値段で食ってるんだ。あんたの難しい講義は、大学でやってくれ」

 冷えた弁舌は、学問の徒を論破するには十分でも、日々の駆け引きで生きる商人の財布の紐を緩めさせるには、いささか温度が足りなかった。結局、どの店でも相場通りの値で手を打つことになった。

 

 それでも、全ての取引を終えたマサの財布はずしりと重くなっていた。ぼやくほどの損ではない。本当に価値ある竜の素材も、魔法の書も、魂石も手元に残した。これだけあれば、ホワイトランに家を買うための頭金にも手が届くだろう。

 

 リディアが、腰の二振りの剣の具合を確かめながら、隣で言った。

「ずいぶん、懐が温かくなりましたね」

 そして、真っ直ぐにマサを見据える。

「……それで、これからどうします。あの『友』とやらに、会いに行くのですか」

 ウステングラブの墓所の奥、そこに置かれていた謎の書付。リバーウッドの宿屋で待つという、差出人不明の『友』。グレイビアードの角笛を奪った者の正体を、知る時が来た。

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