竜骨の学者 ──スカイリム漂流記   作:スカイリム愛好家

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第六話

彼女はマサの前まで歩み寄ると、丁寧に、しかし武人らしい率直さで頭を下げた。

「同胞団の方々の客分として、世話になっている者です。レモネードと申します。……あなた、ただ道に迷ったというお顔ではありませんね。何か、ご用があってこの館の扉を叩かれたのでしょう。よろしければ、聞かせていただけますか」

 

マサは、値踏みでも侮りでもない、純粋な問いを湛えたその蒼い瞳を見返した。ごちゃごちゃとした探り合いは不要だろう。彼は率直に本題を切り出した。

 

「古代墳墓へ同行する、腕の立つ前衛を雇いたい。これは宮廷魔術師のファレンガーからの依頼で、行く先には危険なドラウグルがいることが予想される」

一度言葉を切り、自分のローブの袖に目を落とす。

「俺も魔術師なんだが、さすがに敵が多数いると一人では危険でね。腕のいい、頼りになる前衛が要る。出発は明日か、遅くても明後日になる」

 

レモネードは腕を組み、マサの言葉を一つ一つ吟味するように、ゆっくりと頷いた。彼女の蒼い瞳に、戸惑いでも警戒でもない、静かな関心の光が灯る。

「古き死者の眠る墓所……ドラウグル相手の前衛、ですか」

彼女は呟き、ふと、その口元に子供のような好奇の気配がよぎった。だがすぐに硬さを取り戻し、真剣な目をマサに戻す。

 

「宮廷魔術師さまのお声がかりとあれば、いかがわしい仕事ではないのでしょう。それは結構。……ですが、お引き受けする前に、いくつか確かめさせてください」

 

彼女は指を一本立てた。武人の、しかし礼を失わぬ問いかけだった。

「一つ。その墓所は、どちらに? ホワイトラン領の墳墓でしたら、わたしも土地の見当がつきます。道のりと、地形の険しさを知っておきたいのです」

 

もう一本、指が立てられる。

「二つ。報酬の話。わたしは傭兵ではありませんが、命を懸ける以上、相応の取り決めは要ります。それと——これが一番大事なことですが」

 

彼女は少しだけ身を屈め、マサと視線の高さを合わせた。声が、ふっと柔らかく、しかし芯の通ったものになる。

 

「わたしの剣は、亡き父に仕込まれた『生きて帰る剣』です。手柄や宝より、二人とも生きてあの扉をくぐり直すことを、何より重んじます。もし墓所の奥が手に余ると見たら、わたしは退きましょうと申し上げる。……それでも構わない、と仰るなら。わたしは、喜んでお供します」

 

奥でアエラが、肉を齧りながら鼻を鳴らした。「お人好しめ。墓荒らしの護衛とはな」だがその声に、本気の侮りはもうなかった。レモネードは取り合わず、ただ静かにマサの返事を待っている。

 

 

マサは迷わず答えた。

 

「行き先は、リバーウッドを見下ろす山中の〈ブリークフォール墓地〉だ」

 

彼女の目が、ああ、と得心したようにわずかに細められる。

「あの墓所ですね。リバーウッドの村から見上げると、山の中腹に石の楼が突き出ている……古くから、近づくなと言い伝えられている場所です。麓までの道のりは知れています。村まで半日、そこから峠を登る形になりましょう」

 

土地を知る者の確かな口ぶりだった。マサは頷き、彼女の最も大事な問いに答える。

「『生きて帰る』。その方針でいい。無理と見たら退く、それで構わん」

 

その言葉に、彼女の張り詰めていた肩から、ふっと力が抜けた。蒼い瞳が和らぐ。

「……そう言っていただけて、安堵しました」レモネードは小さく頭を下げた。「手柄のためにこちらの制止を聞かぬ雇い主は、少なくありません。あなたは、話の通じる方のようだ。ええ、お引き受けします」

 

そして報酬の話になった。マサは正直に告白した。

「報酬だが、生憎こういう仕事の相場を知らなくてね。いくらぐらいが適切なのだろうか」

 

すると彼女は、かえって好ましげに口元をほころばせた。

「相場をご存じないと正直に仰る方も珍しい。……では、ふっかけずに申し上げますね」一拍おいて、「行程込みの護衛仕事なら、二百から、危険な相手なら四百ゴールドあたりが相場です。古き死者が相手となれば、本来は高い方を頂くところ。ですが——」

 

彼女は人差し指を立て、悪戯っぽく、しかし誠実に続けた。

 

「わたしは法外は申しません。前衛のお代として三百ゴールド。それと、道中の宿と食事を持っていただければ結構です。もし墓所で宝の類が出たなら……折半とは言いません、いくらか分けていただければ、それで十分。命を預け合う仕事に、欲をかいて角を立てたくはありませんから」

 

奥のアエラが、呆れたように天井を仰いだ。「だから、お人好しめと言うんだ」だが、もう誰も笑ってはいなかった。

 

「それでいい。ではよろしく頼む。出発は明日でいいだろうか?」

 

「ええ、明日で。願ってもないことです」

レモネードは胸に手を当て、軽く頷いた。

 

 

「では、夜明けにホワイトランの城門前で落ち合いましょう。わたしは旅装を整えておきます——古き死者は炎を嫌いますから、油と火口は多めに。あなたの魔術と噛み合うよう、立ち位置も道々で擦り合わせておきたいですね」

 

彼女はそこで言葉を切り、ふと、その端正な顔に年相応の——いや、それより幾分幼い、純粋な好奇の色をのぞかせた。

「……正直に申しますと、少し、心が逸っています。村の見回りと盗賊の追い払いばかりの日々でしたから。こうして遠出のお供をするのは、久方ぶりで」

 

すぐに彼女は咳払いし、表情の硬さを取り戻した。

 

「いえ、浮かれているわけではありません。命懸けの仕事だと、承知しています。ただ——よい縁になればと、そう思うだけです」

 

アエラは角杯を干し、もう興味を失ったように仲間との賭け事に戻っていく。館の喧噪は、また元の熱気を取り戻していた。契約は、結ばれた。

 

 

ジョルバスクルの扉を背にすると、夜の冷気が頬を刺した。マサは閉まりかけの市場を抜け、まだ灯りの漏れる一軒の雑貨屋に滑り込んだ。店主は揉み手で迎える、抜け目のないノルドの商人だ。

 

「いらっしゃい! 何でも揃ってるよ、金さえ払えばな。さあ、何が入り用だい?」

旅支度だと告げると、商人は手際よく品を並べた。丈夫な背負い袋、数日分の携帯食料、そして水袋。リフテンで野営の道具一式は揃えていたから、かさばる消耗品の補充と、それを担ぐ袋があれば事足りた。

 

「全部で四十五ゴールド、まけといてやるよ」商人は硬貨を数えながら、世間話のように付け足した。「旅かい? 物騒だぜ、近頃は。空から火を吐くのが降ってくるってんだから。……ま、あんたにゃ関係ねえか。生きて帰りな」

 

次いでマサは城門を出て、跳ね橋の脇の厩へ向かった。夕闇の中、厩番がランタンを手に馬の世話をしている。馬が欲しいと告げると、男は一頭の鹿毛を引いてきた。

 

「こいつは大人しくて足も丈夫だ。八百ゴールド。安くはねえが、自分の足で雪道を歩くこと思えば安いもんさ」

代金を払うと、厩番は手綱を渡しながら釘を刺した。

 

「言っとくが、墓だの洞窟だのにゃ連れて入れねえぞ。ああいう所の前にゃ繋いでおくしかねえ。リバーウッドあたりまでなら、村はずれに繋いで宿の小僧に小銭握らせときゃ見ててくれる。盗まれて泣くなよ」

 

支度は整った。あとは体を休めるだけだ。その夜、〈馬と狩人亭〉の二階で、マサは深い眠りに落ちた。旅の疲れも、山道の緊張も、温かい寝床と階下の遠い喧噪に溶けていく。

 

 

夜明け前の薄青い光の中、城門前にはすでにレモネードの姿があった。昨夜の鋼の鎧ではなく、動きやすい革の胴衣に茶のマントを羽織り、腰に剣と盾を提げている。漆黒の髪は後ろで一つに束ねられ、蒼石の簪が朝の光に淡く光った。彼女はマサと、その手綱の先につながれた馬を見て、軽く目を瞠る。

 

「おはようございます。……馬まで用意なさったのですね。用意のいいことです」

 

感心した様子で、しかしすぐに悪戯っぽく付け足した。

 

「わたしは歩きで構いませんよ。なに、村の見回りで足は鍛えてあります。荷だけ馬に持たせて、あなたが乗られては? 魔術師は体力を温存してこそでしょう」

 

二人は門を出て、黄金の平原を南西へ歩き出した。末蒔月の朝は澄んで、麦の穂が朝露に光り、遠くでマンモスの群れがゆったりと地平を移っていく。竜の影も、盗賊の気配もない、穏やかな道行きだった。

道々、レモネードはよく喋り、よく問うた。押しつけがましさはなく、むしろ世間話を楽しむような気軽さで。

 

「魔術師の方と旅をするのは、初めてです。村にも、薬を煎じる婆さまくらいはいますが、火や氷を操る方となると……正直、少し緊張しています」

 

彼女は前を向いたまま、ふと笑った。

 

「あの山道で氷の巨人を呼んで盗賊を追い払った、という話、城下でも噂になっていましたよ。血を流さずに、と。……あなた、ずいぶんとお優しい戦い方をなさるのですね」

 

昼を回る頃、道は白い川に沿って下りはじめた。川音が近づき、製材所の水車の軋みが聞こえてくる。木組みの家が十数軒、川の両岸に肩を寄せ合う、小さな村——リバーウッドだ。その背後、針葉樹に覆われた山の中腹に、灰色の石の楼が、墓標のように突き出ているのが見えた。

ブリークフォール墓地。あれが、目指す場所だった。

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