竜骨の学者 ──スカイリム漂流記   作:スカイリム愛好家

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第七話

ファレンガーの助言が、マサの頭の片隅で蘇る。古い遺跡には、古くからの土地の噂がつきものだ、と。性急に踏み込む前に、まずは村で耳を傾けるのが賢明だろう。

「少し、村で話を聞いてみよう。あの墓地への道筋や、何か言い伝えがないか」

マサがそう言うと、レモネードも頷いた。二人は馬を村はずれの柵に繋ぎ、宿屋の厩番らしき小僧に銅貨を数枚握らせて、見張りを頼んだ。

 

 

昼下がりのリバーウッドは、製材所から響く規則正しい鋸の音と、川のせせらぎに包まれていた。だが、山の上の楼——ブリークフォール墓地の名を口にすると、村人たちの顔は一様に曇った。

井戸端で洗濯をしていた老婆は、胸の前で印を切り、皺だらけの顔を振る。

 

「あの墓所のことかい。およしなさいな。あそこにゃ、大昔の死人が眠ってる。生きたまま動く、干からびた亡者さ。物見遊山で登っていった若い衆が、何人も戻ってこなかったんだよ」

川沿いの鍛冶場で槌を振るっていた屈強な主は、手を止めて唸った。

 

「近頃、人相の悪い連中が何人か、あの山道を登っていくのを見たな。盗賊の類だろう。墓荒らしのつもりかもしれんが……まあ、出てくることはあるまいよ。亡者の餌食になるのが関の山だ」

 

話を聞くうちに、レモネードが眉を寄せ、マサに小声で囁いた。

 

「盗賊が先に入っている、と。……厄介ですが、好都合かもしれません。連中が罠や亡者を起こしてくれていれば、こちらの目印になります」

 

彼女の蒼い瞳は、どこまでも冷静に状況を見据えている。

仕掛け扉の噂を尋ね回るうち、何人かが口を揃えて、村の中ほどにある一軒の家を指さした。〈リバーウッドの雑貨屋〉と古びた看板が掛かっている。

「あそこの主人に聞きな。ルーカンは、古い言い伝えに詳しい。……それに、今ちょうど、墓所がらみで揉めてるって話だ」

 

 

扉を開けると、まさにその「揉め事」の真っ最中だった。カウンターの奥で、恰幅のいい男と、黒髪の若い女が激しく言い争っている。

 

「だから、衛兵になど頼らん! 俺自身の手で取り返してみせる!」

「兄さんが行ってどうするのよ、店もろくに守れないくせに!」

 

二人は、マサたちの入店に気づくと、はっと口をつぐんだ。男——店主らしい——はばつが悪そうに咳払いを一つし、客商売の笑みを取り繕う。

 

「いらっしゃい。お見苦しいところを。……ルーカン・ヴァレリウスだ。何か入り用かね」

だが、妹らしき女が、まだ憤懣やるかたない様子で会話に割り込んできた。

「お客さん、聞いてよ。うちに泥棒が入ったの。盗まれたのは〈黄金の爪〉——うちの家宝なの、金でできた竜の爪の飾りよ。それがね、盗んだ間抜けは、よりにもよってあのブリークフォール墓地に逃げ込んだのよ!」

 

ルーカンが渋面で後を継いだ。

 

「あんたら、あの墓所に用があるのかい? なら……話が早い。あの〈黄金の爪〉は、ただの飾りじゃないんだ。じいさんの代からの言い伝えでな。古代人があれを作ったのは、あの墓所の奥の——どうしても開かぬ仕掛けの扉を、開けるためだったとか。爪に秘密が刻まれてる、と」

 

彼は身を乗り出した。その目に、切実さと商人の抜け目なさが混じり合う。

「取り返してくれたら、礼ははずむ。あんたらが墓所の奥へ行きたいなら、どのみちあの爪が要るはずだ。悪い話じゃないだろう?」

 

 

話が具体的になるにつれ、マサの表情から皮肉な薄笑いが消えていた。彼はカウンターに片肘をつき、冷静に問いを重ねる。

 

「報酬と、詳しい経緯を聞かせてもらおうか」

 

その問いに、ルーカンは算盤を弾く商人の顔になり、カミラは身を乗り出して経緯をまくし立てた。

「報酬かい。そうだな……」ルーカンは顎を撫でた。「あれは金の値打ち以上に、家の名にかかわる品でな。取り返してくれたら、四百ゴールド出そう。それと、墓所の奥で見つけた物は、爪以外なら好きに持っていって構わん。古い墓だ、銀貨か、付呪の品の一つや二つは眠ってるだろうさ。悪くない取り分だと思うがね」

 

カミラが、待ちかねたように口を挟む。

 

「盗んだ男はね、アーヴェルっていう、口の上手い流れ者だったの。何日か前から村をうろついて、やたら愛想がよくて……正直、わたし、ちょっといい人だと思っちゃってたのよ」

 

彼女は決まり悪げに頬を膨らませた。

「それが、隙を見て店の〈黄金の爪〉をかっさらって、そのまま山道を駆け上がっていったの。みんな見てたわ。あの男、前から墓所の財宝を狙ってたみたい。先に登った盗賊の仲間と、つるんでたんじゃないかしら」

 

ルーカンが苦々しく頷く。

「ああ。あの墓所には、ここしばらく盗賊が巣くってる。アーヴェルもその一味か、さもなきゃ抜け駆けして奥の宝を狙ったか……どっちにしろ、もう墓所の中だ。古い亡者に食われてなけりゃの話だがな」

 

レモネードが腕を組み、静かに状況を整理した。

「先に入った盗賊が複数。加えて、目当ての男が一人、奥へ。そして古き死者。……入口あたりで、まず盗賊と当たることになりそうですね」

 

彼女はマサを見た。

「数が多ければ、あなたの召喚と範囲の魔術が効くでしょう。狭い墓所の中なら、なおさら。わたしが前で受け、隘路に誘い込みます」

 

その言葉には、確かな信頼が滲んでいた。マサは頷き、ルーカンに向き直る。

 

「わかった。その依頼、引き受けよう」

 

店主の顔にあからさまな安堵が浮かび、カミラは「気をつけてね、ほんとに」と心配そうに眉を下げた。

 

 

村はずれで身支度を整え直し、二人は製材所の脇から伸びる細い峠道へと足を踏み入れた。針葉樹の影が濃くなり、川音が遠ざかっていく。道は九十九折りに山腹を這い上がり、空気が一段、肌を刺すように冷たくなっていく。やがて木立が切れると、灰色の巨石を積み上げた古代の楼が、苔と霜をまとって眼前にそびえ立った。ブリークフォール墓地。風が、石の隙間で低く唸っている。

 

 

楼の前の平場に、焚き火の煙が一筋、立ちのぼっていた。崩れた石壁の陰、そして見張り台の上で、人影が動く。革鎧に、錆びた得物。先に登ったという盗賊どもだ。まだこちらには気づいていない。

レモネードが片膝をつき、声を潜めた。

 

「……見張りが二人、いえ、焚き火の傍にもう一人。三人は居ますね」

 

彼女は剣の柄に手をかけ、マサを振り返る。蒼い瞳が、戦士の落ち着きを湛えていた。

 

「どう仕掛けますか? わたしが正面から引きつけてもいいし、あなたの魔術で先手を取ってもいい。……指図を、いただけますか」

 

マサは、指先に意識を集中した。蒼白い火花が、彼の指の間で編まれていく。

息を吐くより早く、彼はそれを解き放った。

 

空気が裂けた。閃光が一条、見張りの盗賊の胸板へ突き刺さる。男が苦悶の声を上げる間もなく、稲妻は第二の獲物を求めて跳ねた。焚き火の傍の二人目へ、さらに見張り台の弓兵へと、青白い枝を伸ばして連鎖する。三つの体が同時に硬直し、髪と革鎧の焦げる臭いが風に混じった。崩れ落ちる音が三つ、続けざまに響き、あとには燃え残りの焚き火が、ぱちりと爆ぜる音だけが残った。

一瞬の出来事だった。

 

レモネードは抜きかけていた剣を、ゆっくりと鞘に戻した。その蒼い瞳が、感心と、ほんの少しの戦慄を湛えてマサを見ている。

 

「……噂は、本当だったのですね」

彼女は焦げ付いた死体を一瞥し、低く呟いた。

「正面から斬り結ぶのが馬鹿らしくなる。これは頼もしい。──ですが、敵に回した時のことを考えると、少しぞっとしますね」

 

彼女は小さく苦笑し、すぐに戦士の顔へ戻った。

 

 

マサが盗賊たちの懐から金貨を拾い集める間に、レモネードは背負い袋から鋼の胸当てを取り出し、革の旅装の上に手早く締め直した。

 

「ここから先は、旅装のままとはいきませんね」

鋼の盾を腕に通し、剣の鞘を確かめる。その万全の備えを見て、マサは口を開いた。

 

「基本的に君が前、俺が後ろ。今回は俺の魔術の腕を見せるために使ったが、魔力には限りがある。基本は君に戦ってもらって、君一人では無理そうなら魔術を使う、でいいかな?」

 

レモネードは即座に、しかし考え抜いた目で頷いた。

 

「ええ、理に適っています。それがお互い、一番長く戦える形でしょう」彼女は盾を軽く打ち鳴らした。「わたしが前で受け、敵を狭い通路へ誘い込みます。一度に大勢が来たら——あるいは、わたしの手に余る相手が出たら、遠慮なく仰ってください。意地は張りません。それも『生きて帰る剣』の内です」

 

彼女はふと、声を落として付け加えた。

 

「古き死者(ドラウグル)は、火を嫌うと聞きます。わたしが斬り結んで動きを止めますから、好機にあなたの炎を。……では、参りましょうか。後ろは、お任せします」

 

楼の正面、墓道への入口が黒々と口を開けている。中から、黴と、何か古く乾いたものの匂いが流れ出していた。冷気が、二人の足元を撫でていく。

マサは頷き、レモネードに続いた。二人の姿は、墓所の闇へと吸い込まれていった。

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