第一話【有象無象の妖怪】
昨日の雨と打って変わり本日は快晴也。流れ続ける汗は止まる事を知らないらしく拭ど拭ど収まらない。服が肌に引っ付いて不快な昼頃、湖に涼みに行こうと思いついたところで何時もの天狗の姉ちゃんが新聞を届けに来た。
「今日の新聞ですよ~」
「前にも言ったが来る時間がバラバラ過ぎやしないか?朝早く来る時もあれば夜遅く来る時もある。魔法の森の手前に古道具屋があるだろ、そこの店主が言うには外の世界の人間は朝早くから新聞を届けるそうだ。情報を速く伝えるためにな」
「外の世界の人間は時間に厳しいんですねぇ。規則と社会に忠実と言いますか」
まぁ私は妖怪なんで、と言い残し飛び去っていく天狗の姉ちゃん。縦社会の天狗様が何を言ってんだか。まぁでかい事が起こった時は我先にとばら撒いてくれるので別に構わないが。
手に持った綺麗に折り畳まれた新聞を開き一番最初に目に留まったのは今から行こうと思っていた湖での出来事。
【無様!紅魔館への襲撃者返り討ちに遭い晒しモノに】
湖の中央には小さくない島があり其処には西洋の建物が建っている。
【紅魔館】
鮮やかな赤で染め上げられた巨大な建物。数百年前から湖の島に佇む屋敷には其の名の通り紅の魔が住んでいる。
記事によれば襲撃を掛けた間抜けな妖怪たちがいたが返り討ちに合い全滅。見せしめとして建物の周りに死体が吊るされているそうな。趣味の悪い事で。
あの姉ちゃんは紅魔館の住人に取材を頼んだ結果一連の流れを知る事ができたと書かれている。吊るしたモノは少ししたら片付けるらしい。
後は大天狗が白狼天狗に手を出して天魔直々に処罰を受けた事や人里を襲おうとした下級妖怪がいたとか細々とした事だけだった。
「襲撃があった場所に、というのは拙いかもしれん。襲撃犯の残党だと思われても嫌だしなぁ」
あの紅の屋敷にいるのは吸血鬼と呼ばれる妖怪だ。
人の血を吸う鬼。
どんな妖怪かは詳しくは知らないが其の強さと種族としての誇りは高く天魔や大天狗と同様大妖怪の域だと天狗の姉ちゃんも言っていた。実際に一度だけ其の強さをお目に掛かる機会があったのだが、確かに其の通りであった。
昔、吸血鬼を倒し自らの力を誇示しようと企んだ馬鹿共に無理矢理連れて行かれた事があった。大して強くなかろうと一体でも戦力が欲しかったと言われたが、そんな理由で連れて行かれた此方としては堪ったものじゃない。連れて行かれる間行きたくない離しやがれと喚き散らしたが効果はなく湖までの道中永遠と奴等を倒せば自らの力を証明できる、好きなだけ戦う事ができる、女がどうたらと語られたがそんなものに興味等湧かん。吸血鬼について聞いていた身としては屋敷に近づこうとすら思わないからである。湖には涼みに来るが。
いざ湖に近づけば離れた場所にいるというのに嫌でもその強さが伝わってきて嫌な汗が流れ出す。圧倒的な格、比べる事すら烏滸がましいという格の差を久しぶりに見せつけられた。普段は感じない力が流れてくる時点で嫌な予感しかしない。此方の様子に気付いてるのではと思い攻撃を仕掛けようと意気込む連中をほっといて尻尾を巻いて逃げた。
逃げたは逃げたのだがどうなるのか気になって遠目で見ていたのだが。吸血鬼、流石鬼と呼ばれるだけはある。其処等の連中が幾ら集まっても戦いになりゃしなかった。ありゃあ一方的な蹂躙だ。禍々しい程の力を込めた妖力の塊が何千何万と降り注ぐ光景は今でも鮮明に覚えている。
俺なんて其処等の雑魚と変わらん。だから仲間が仇討に来たと誤解されたら困る。逃げ切れる自信は此れっぽちもありゃしない。
今回は湖で涼むのは変更だな。
其れじゃあ何処に行こうか。
一、魔法の森。ジメジメしているので無理だ、古道具屋も日は遮れても暑いだろう。彼処の道具は動力なるものがなければ動かない。唯一動く物は寒い時期にしか役目がない。
二、人里。外から流れてきた氷菓子なる物が美味そうだが紅魔館と同じで妖怪の襲撃を受けたそうだし時間を置くべきだ。
三、妖怪の山。正確には妖怪の山ではなく近くに流れる川だな。天狗が管理する土地であり居るのは天狗と友好的な河童ぐらいだ。基本的には友好的な種族だ。涼しめる、行こう。
全く、馬鹿者共の所為で人里へ行けなくなるとは。以前獲った物を売りに行った時の銭が残っているというのに。
「そうだ、今度夜雀の所にでも行こうか。いや今晩にでも行こうそうしよう」
ここ最近人肉どころか米も何も食っていないのを思い出した。記憶を掘り返せば腹に入れたのは酒ぐらいしかない。飲んだくれか何かか俺は。
先ずは妖怪の山だ、早く涼もう。
「お前か。ここは妖怪の山だ余所者は立ち去れ」
「よう久しぶりじゃねぇか白狼天狗の」
家を出て真っ直ぐ来た妖怪の山の近く、天狗たちの縄張り付近でさっそく哨戒に見つかっちまった。気配を消してくれば良かったか。いや臭いでバレるか。
「気配や臭いを消しても妖力を抑えようとも私の目は誤魔化せないぞ」
考えている事が筒抜けな様。私の目はって事は目に関する能力を持っているのだろうか其れともただ単に目が良いだけのか。今はどうでもいい。
「俺は涼みに来ただけだ、天狗様に喧嘩を売りに来たんじゃあない。川なら良いだろう?」
「ここ一帯は我等天狗の縄張り。余所者が入って良い訳がないだろう」
「天狗の縄張りとは言うが天狗だけじゃなく他の奴らもいるだろう、河童とか。彼奴等は良いのか」
「河童たちとは盟約を結んでいる。もし盟約に背いたとしても河童程度我等天狗の力でどうとでもなる。故に縄張り内にいるのだ」
「其れじゃあ俺一人くらい良いではないか。大天狗や烏天狗どころかお前さんだけでどうとでもなる程の力しかない」
「どうとでもなる?信じられないな。今力を感じぬのは分かる。だが隠しているだけかもしれない。誰だってそう警戒する、私だってそうだ。もしその言が本当の事だとしても盟約を結んですらいない余所者であるお前を通す訳にはいかない」
「…」「…」
お互いの主張は通らず。其れじゃあ盟約結ぼうじゃないか、とはならないだろうしなぁ。折角此処まで来たのだから融通してくれてもいいだろうに。天狗の姉ちゃんの言う通り頑固というか生真面目というか。
「それでも通るというなら…」
「おいおいおい待てって。別に無理に通ろうとしてる訳じゃねぇだろ物騒な物構えんなって。今日は暑いだろ?川に涼みに来ただけなんだ」
背負った剣に手を掛け鞘から抜こうとしたところに此処に来た理由を言い行動を止め様としたが効果はあった様で動きが止まる。
「湖に行け」
「お前下っ端とはいえ天狗なのに知らんのか。さっき俺の所に来た烏天狗が持ってきた新聞には湖で色々あったと書かれていた。警戒してるかもしれんだろ」
「知っている」
知ってて勧めてるのか。
「分かった、あぁ分かった。それじゃあ俺は折角暑い中此処まで来たのに来た道を引き返して湖に行きますとも。着いた所で仇討に来たと勘違いされて殺されてしまうかもしれないなぁ。何処かの白狼天狗の所為で死んでしまうかもしれないなぁ」
「……態とらしく言われても私は主張を変えない、それが決まりだ」
天狗は縦社会、他の群れを成す妖怪とは違い独特の社会を築き規則に厳しい。一部は規則に緩いそうだがそれは一部であって大半がこうなのであろう。
「降参だ、俺は家に帰る。不貞寝でもして夜に夜雀の所にでも行く」
「そうしろ、それがお前のためだ」
「違いない。それじゃあな白狼天狗」
態々ここまで来たというのに涼むことができず、この暑い中を蜻蛉返りとはとんだ無駄骨だ。不貞寝だ不貞寝。寝て時間を潰し夜雀の所に行くしかない。
のろのろと来た道を戻る。見上げれば木の隙間から木漏れ日が降り注いでいる。木の上を飛んでも良いのだが上を飛べば太陽の光が降り注ぐ。これ以上日に当たり続けると暑さとイラつきで可笑しくなってしまいそうだ。
森の中を少しでも太陽から逃れる様に陰を縫うように飛んでいく。少し離れた所には森の妖精たちが無邪気に遊んでいるのが見える。自然から生まれる妖精には暑さ寒さは効かないのだろうか。いや、昔遊んでやった青と緑の妖精たちは暑さを感じていた筈。単に無邪気なだけか。
戻ってきた我が家。裏手に周り縁側の手前に干しておいた布団を抱え家に入る。干したおかげで布団が温かい。家の中に取り込み敷き直そうとするが部屋の埃の溜まり具合が酷い事に気付く。家を出る前はそこまで気にならなかったのだがここ数日暑さで何もする気が起きなかった故に放置していたのが拙かった。
「家を出る前は気にもしなかったがかなり埃が溜まっている。掃除でもするか」
そんな訳で久しぶりに部屋を掃除した、自室だけではなく家中を。適当に掃除すれば良かったんだがどんどんやる気が湧いてきてな、気が済むまでとことんやり尽くしたのである。その後布団を敷き直して寝た。
夢を見た。昔の記憶。今までの軌跡。
だが割愛。
「大切な物だがせめて嫌な記憶は出てくるなと思っても仕方ない」
一つ一つの記憶が大切な物だ。だが嫌な記憶は大切でも嫌なものなのである。
障子が開け放たれた先から真っ赤な太陽が見える、日が暮れ始めていた。半刻程で日が沈み切り夜が訪れるだろう、妖怪の刻が。
まぁそんな事は置いといて早速夜雀の所に行こう。銭の入った袋を手に取り中身を確認する、ひぃふぅみぃよぉ……三十に八、十分だ。袋を懐に仕舞い込み家を出る。
昼とは違い今の時間は涼しく快適である。足取りも軽くなるってものだ、飛んでるのだが。
すーっと飛んでいく事半刻。日が完全に沈み空には丸いお月様と星たちが輝き始めている。星と言えば今生きているこの大地も月と同じ星の一つだと知った時は大層驚いた。名前は確か地球だったか。大地の球とは良く言ったものだ。
戦争の際倒さなければならない目前の敵の事を忘れ思わず見惚れてしまいその所為で賢者様に睨まれた時は肝が冷えた。勝手に連れて来られた此方からすれば巫山戯るなと言いたかったが相手が相手という事で何も言い返す事が出来ず死なない程度に戦場を駆けずり回った。
そんなことを思い出していると明かりが見えてくる。
【八目鰻屋】
夜雀の女が経営している妖怪の店。最近は店を出す妖怪が増えてきているのだがその初期の一人だ。変わり映えしない生活に変化を求めてするモノや金を得る為にするモノ、何か目的があってするモノまで色んな奴がいる。
夜雀はなんだったか、確か“焼き鳥撲滅”だったか。鳥妖怪だけにそんな理由で始めたと聞いた時は呆れたものだ。もし魚の妖怪が居たらどうするのだろうか。魚料理撲滅運動でも始めるのだろうな。古道具屋の店主もそんな奴らの一人だ、半分だけだが。
掛かった暖簾を片手で上げて空いている椅子に座る。空いていると言っても今日は自分以外客は居ない。
「おう久しぶりに来た、特の八目鰻と強いの」
「あら久しぶりね、強いのって言うけど銘は?」
「何でも。強いて言うなら合うのを」
焼き鳥撲滅運動の方は順調なのだろうか。いや人里の外でやっていれば効果もへったくれもないだろうに。
久しぶり、か。最後に来たのは何時だったか、確か半年くらいか。
「七ヶ月と一週間振りよ」
「よくそんな事覚えてるな。というかなんでお前らは俺の考えが読めるんだ、心を読む能力でもあるのか」
白狼天狗然り夜雀然り、後人里の教師と竹林の白髪。
「あんたの顔に書いてあるのよ『最後にあったのって確か半年だったかなぁ』って」
「顔に書いてあるって、そんなにも分かりやすいのか?」
「ある程度付き合ってるとあんたが何考えてるか分かるようになるのよ、あんた分かりやすいから」
そんなに付き合いがあったか?それはいいとして分かりやすいのか、自分で言うのはあれだがかなりの場数を踏んできたと自負している。表情を顔に出さない様にするのには自信があったのだが数百年生きてもまだ井の中の蛙な様だ。鍛錬でもしてみるか。
割と真剣に考えていた所で今は酒だと考えを終わらせ先に出てきた漬物とおひたし、揚げ物をつまみに酒を飲む。屋台の中でせっせと料理を作る姿はもう一人前の料理人だな。焼き鳥撲滅を掲げて始めた時とは比べようのない程洗礼されてた手付き。
徳利を傾け冷酒をお猪口に注ぐ、が。
「む、もうないか」
つまみで一本目の徳利を空けてしまった、二本目を追加で頼む。
お猪口の中の少しの酒と残ったつまみを箸で突いていると。
「おまちどうさま、八目鰻です」
運ばれてきた八目鰻と新しい徳利。お待ちかねの物が来た。それじゃあいただきますかね。
「ごっそうさん」
「ありがとうございました」
あの後八目鰻に舌鼓を打ってたら徳利二本を追加していた。久しぶりに固形物を食ったけどやっぱり良いもんだ。料理は素晴らしいねぇ。
「それじゃあお会計」
「はいこちらです」
店主が領収書を差し出してくる、酒が四に八目鰻の文字の横に書かれる金額を手渡す。
「それじゃ」
「またのお越しを」
暖簾を潜り屋台を後にする。あぁ食った食った、久しぶりの飯は最高だった。今まで酒に回していた分の金を飯に回すべきか。一気に買って置いてあるのもあるしな。
帰り道、見上げた空に浮かぶのはほんの少し欠けた丸い月。今日の月は小望月、別名幾望。幾は「近い」という意味で満月(望月)に近い月だから幾望と呼ばれるそうな。
明日になればこの月が完全な丸い月、満月になる。
月の光に当てられた妖怪は一時だけとはいえ力が増す。満月に近づく毎にその強さは増していき満月が昇っている間は力が一番漲る。どういう原理で力が満ちているのかは知らん。
月の光の影響で低級妖怪が狂暴化し見境なく暴れ出す事もよくあり戦争の時も力が増したが暴れ出すモノがいて大変であった。前方の敵と戦う前から後方からの攻撃を気にしなきゃならないとは。
「グアァァアアアアアア!」
「ガァ、ガァア……!」
満月の一日前でも狂暴化するモノはする、現に目の前で狂暴化した妖怪たちが暴れている。酔いが回り警戒なんてせず大丈夫だろうと思っていた所為で帰り道の途中で面倒なのに出会っちまった。
四足で歩く獣型が蟲型に飛び掛かり木程の体躯を持つ奴が小柄な妖怪に殴り掛かっている場に丁度遭遇してしまった。
ドッ!ドガァ!
小さい奴の姿が一瞬ブレ殴り掛かった巨体が吹き飛ばされ取っ組み合う二体を巻き込んで地面を転がりあの小さいのがぶっとばしたのかと理解する。
理解してる場合じゃないさっさとここから離れた方がいいかもしれん。
「グルル……ッ!」
「キシャァ」
「ガァアアァァァ!!」
暴れていた三体が小さい奴の方を向きじっとしている。先程までの暴れっぷりが嘘のように。
「理性もなく襲いかかるとは哀れな奴、殺してあげる」
小柄な奴の声が聞こえる。動きからして理性が残っている様子。溢れ出る妖力が膨れ上がり一帯を包み込み、俺の膝は震え出し背中を冷や汗が流れ落ちる。
「グルァァァ!!」
「キシャシャ!!」
「ガァァァァ!!」
妖力を受けた三体が一斉に飛び掛かり。
「飲み込め」
三体が一瞬の内に飲み込まれた。
攻撃が届くことはなく三体は金色の髪を持つ妖怪の前から消え去った。見えたのは金髪の足元、月明りでできた黒い影が広がり三体の元に伸びていき宙に浮く三体を包み込み地面に戻るところだった。
あぁ思い出した彼奴は闇を操る妖怪だった筈、だけど可笑しい。
「お前も今の奴らの仲間か?さっさと掛かってこい、喰らってやる」
これ程の力を持っていただろうか。膨れ上がった妖力、三体の妖怪を一瞬で飲み込む闇。記憶では妖力は中級の下か下級の上。能力も辺りを暗くしたりする、そんな程度だった筈。
「来ないのならこちらから行くぞ?」
こんなにも攻撃的だったか。
「相手の力量も測れぬ愚か者たちが多くてな、出会うモノ全て襲ってくるのでてっきりお仲間だと思ってしまった。許せ」
「……いや別に気にしてないんで」
今までの記憶が鮮明に浮かび上がり次の記憶に押し出される様に消えていく、久し振りの走馬灯を見た。なんだかんだ言って昔の事を覚えてるもんだと現実逃避をする間もなく争いに巻き込まれた。
「夜は力が戻っているのでな、力を入れ過ぎてしまった。まぁ殺す気だったのだ仕方なかろう?」
「そーですねー」
殺す気だったから仕方ない?俺には其の理屈が分からない。此処は常識に捉われてはいけないらしいが流石に可笑しい。まぁこうして殺されずに生き延びられたのは奇跡だろう。昔の事を思い出したついでに気付いたのだが今まで幾度となく命の危機に遭遇し毎度しぶとく生還を果たしているなと自分の運の良さに驚かせる。逆に幾度も巻き込まれる悪運に辟易とする。
遡る事数刻前。
『来ないならこちらから行くぞ?』
そう一言聞こえた瞬間地面を蹴り横に跳ぶ俺。そして先程までいた場所を通過する闇色の妖力の弾丸の群れ。
【弾幕】
ある程度力を持ちコントロールできるモノなら低級妖怪や妖精や人間でも放つことのできる攻撃手段。自らに宿る力を形にし放つ攻撃。妖力や霊力、魔力に神力などを消費するため其の総量が高ければ高いだけ量と質を上げることができる。
此奴が何時もと同じなら其処まで対処に困ることもなかったのだが今日は違った様で吸血鬼や妖怪の賢者と同等の弾幕が飛んでくると直感し必死に避ける。それに加えてどんなモノでも喰らい飲み込んでしまいそうな闇が弾幕の間を縫いながら襲い掛かってくる。生涯何度目かの死を覚悟した。
だが何も向こうだけ強くなっている訳ではない、俺も満月に近いおかげで強くなってる。とはいえ俺の実力じゃあ多寡が知れている。
一が二になろうと百には勝てない。
故に戦う事等捨てて避ける事に全力を尽くそうと思ったのだが、身体を掠める弾幕に避けきれないと察し此方も弾幕を生み出し向こうの弾幕にぶつけて爆破。ついでに其の衝撃で闇を吹き飛ばす。
『余所見をするとは随分余裕だな』
『ガッ!グハァ』
だが高速で近づく闇妖怪に反応できず蹴り飛ばされ地に堕ちる。攻撃に対処していようがしていまいがどの道やられていた様だ。ふらつきながらも立ち上がり飲み込もうとする闇を転がり避けたところで弾幕に吹き飛ばされ地面を再度転がる。雨で湿った泥に塗れて地面を痛みにのた打ち回る。
『ぐぅ…うぅ…』
『逃げられると思っているのか?おめでたい奴だ』
近づいてくる。逃げきれない。殺される。
『他の雑魚とは違ってよく逃げる。弾幕に弾幕をぶつけて爆破させ他の弾幕も誘発、闇も衝撃で吹き飛ばしその隙に逃げる。こんな手を使ったのはお前が初めてかもしれん、雑魚のくせによく考えたな。まぁ私から意識を逸らしたのが間違いではあったが』
動きが止まる。周りに漂う闇が体に触れる手前で止まる。
『多少は使えるかもしれないな。お前何処かに属しているか?』
『ぞ、属す…?何処にも、属してない。一人だ…』
なんだ?なんでそんな事を訊く?何処かに属すモノを殺すのを躊躇っている?確かに敵討ちがあるかもしれない。其れなら正直に一人だと言うんじゃなかった。
『私の下僕になれ。手足となる権利をやろう』
は?
そんなこんなで下僕となった。まぁ生きているなら儲けものだ。誇り?そんなもん俺にはない。こちとら有象無象の雑魚妖怪、高い力もないし強力な能力もない無い無い尽くしの名も無き一人一種族の妖怪だ。限度はあるが生きる為なら何でもする。
其の後俺が暴れていた奴らと違い襲う気がなかった事を伝えなんとか信じてもらえたのだが下僕の任は解かれる事はなかった。面倒事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。
「力が戻ったと言ってたが其れはどういう事だ…ですか?封印でもされていたんですか?」
「別に媚び諂わなくても良いぞ、まぁ目障りな事をすれば殺す」
下僕なのに殺すのか。どうせ雑魚だよ俺は。換えなんて幾らでもいるんだろ。
「ん?今いる下僕はお前だけだぞ」
俺しかいないようだ。また心を読まれた、もう声に出すのも面倒である。
「封印の事だろう?昔話をしよう。私は何千年もの昔、闇を操り何万と言う妖怪を統べる大妖怪として君臨していた」
自分で大妖怪とか言うなよ、弱く見えるぞ。
ドゴァ!
「グヘ!」
「何時でも殺せる事を忘れるなよ雑魚が」
蹴り飛ばされた。すみません。
「ふん、続けるぞ。ある時そんな私を恐れた当時の人間の王が私を殺そうと考えた。私の元にやってきた何百と言う陰陽師や呪術師、戦士と戦った。
結果は私の勝ちだ。数十年そこいらしか生きていない人間に殺される程軟じゃない。攻撃をしてくる者共を殺して殺して殺し続けた。ふと気づくと襲いかかる人間の後ろで陰陽師共が私を取り囲む様に立っていた。私は何かしようとしているが大した事もないだろうと多寡を括った、それが間違いだった。
陰陽師共がしようとしていたのは殺すための準備ではなく封印するための準備だった。戦っていた土地に流れる龍脈、辺り一面に漂う力、川のように流れる血、長年積み上げた技術、その場にあるもの全てを使った強大な封印。何百もの人間を犠牲にした術式によって私は封印された。下に見ていた人間にな」
同族を犠牲にしてまで封印するとは恐れ入ったぞ人間。だが其処封印が解けているんだが。此れは拙くないか?
「お前は此れからどうするんだ。まさか人間に復讐とか妖怪を支配するとか考えてないよな」
「そんなことは考えていない、封印されている間にできたもう一つの人格の所為で今の生活を捨てる気がないからな」
「封印されている間にできたもう一つの人格?どういう事だ」
なんでも全てを封印されていた訳ではない様だ。どれ程の労力を費やしたのかは知らないが大妖怪には後一歩届く事はなく封印する事ができたのは力と魂のみ。何もない空虚な身体、そんな身体に何が起こったのか新たな魂が産まれてしまった。その幼い魂は残りかすの力を持って今の今まで生きてきた。肉体だけ残っていたのなら殺してしまえば良かっただろうに其れを行わなかった事が不可解だが恐らく自らの命すらも犠牲にして術式を発動したか何かであろう。
だが最近其の封印が弱まり元の力と魂が目覚めたが其の所為で此れまで体に宿っていた人格と封印されていた二つの人格が同時に存在しているそうだ。
「封印が解けたとはいえ未だ完全ではない。満月の日の前後数日の夜しか力と私と言う人格は表に出てくる事ができない。普段はもう一人が表に出ているのだ」
難儀ですね。
「まったくだ」
二つの人格、だが二人共争う事もなく二人で一つの身体で生きていく事にし仲良くしている。
下僕となった俺はこの後こいつに付き合う事になりまた夜雀の所に戻り酒を飲む事に。また来たのかと言われて無理矢理連れて来られたと伝えたら蹴り飛ばされた。
一晩中話と酒に付き合い明け方人格が入れ替わる前に別れ家に帰った。今日、というか昨日だが、大変な一日であった。
「だが何も向こうだけ強くなっている訳ではない…」
主人公は満月に近いから増幅していると勘違いしていた。
正確には満月に近いから元の力が戻っている、が正しい。
「一人一種族」
天狗や河童の様に複数存在する種族ではなく一つの種族に一人しか存在しない事を指す。
例:八雲紫、風見幽香
複数存在する種族より一人一種族の方が数が多い。
幻想郷にいる大半が一人一種族(うろ覚え知識)
「戦争」
妖怪の賢者が幻想郷の妖怪たちを引き連れて何処かに戦争を仕掛けた。
そこで主人公と出会っている、が覚えてるかは不明。
主人公:一人一種族。
自称弱い。他称弱い。本当に弱い。運がそこそこ良い。
何百年か生きている。賢者が仕掛けた戦争に参加していた(無理矢理)
天狗の姉ちゃん:文屋の烏天狗。
家族関係の姉とは違う意味の姉、姐さんの亜種。新聞を契約しているので渡しに来る。
白狼天狗:哨戒をしている白狼天狗。
目に関する能力があるっぽい。生真面目。主人公と面識あり。
夜雀:八目鰻の屋台を経営している女将。
焼き鳥撲滅を掲げている。主人公と顔馴染み。
闇妖怪:闇を操る妖怪。
普段は弱いが満月の前後の夜封印が弱まる。封印がないと強い。
書き終わって「これは一万文字いったろ」って思ってたけど7700ちょいしかいってなかった。誤字や変な所の指摘はどんどん送ってください。
2015年10月25日。追記。文章を更新し9176文字に。