皆さんは大晦日と元日をどうお過ごしになりますか?僕は七草君と過ごします。彼女?そんなん関係ないっしょ。
数年単位で手入れをされず棚や床に埃が何重にも重なり積もり積もっていた倉庫、其れが二人の手により綺麗さっぱり消え失せた。今では古今東西過去未来の様々な珍品の展示会へと変貌したではないか。とある古道具屋を思わせる倉庫はなかなかに趣があり其の手に精通する者を惹きつけてしまうのでは無いかと心配になってしまう。
「何を言っているんですか?」
「俺にも良く分からん」
役割を分担し只管に埃や汚れを掃除し続け、遂に終わりを迎えた。壁に飾られる大仰な造りの時計の針は六を指している。何とか晩飯の前に終わってくれたのだとほっとする。
だが掃除を行う事が本来の目的ではない。俺たちは本を取りに来たのだ。
「先程保存は万全などと言っていましたが、本当に大丈夫ですか?此の埃の溜まり様を見てしまっては信じられないのですが」
「お前も見ただろう、劣化しやすい物には適切な処置をしているのを。其れと同じで本の方も平気だ」
タンスの中の服も虫食いは存在しなかった、絵画は額縁に入れ密封しており色褪せていなかった。本はそういった物よりも厳重に管理しているから問題は無い筈だ。
「筈とは?」
「いや、問題は無い。より一層の対策を行い其の上から更に博麗の札を貼り外部から容易く干渉は出来ない様にしている」
こう何度も安全だ万全だ大丈夫だと繰り返していると何かの前振りの様に感じてしまう、此れがフラグか。
「其の名前を聞くのも久し振りの様な気がしますね」
「さっさと持って戻るぞ、汚れに汗が酷い。飯の前に水でも浴びたい所だ」
「沐浴ですか?料理を作る前には体を清めておきたいですね」
湯を沸かす暇が無いからな沐浴になってしまうか。
倉庫の奥には一度掃除の為に動かしまた其の位置へと戻した本棚が置いてある。硝子戸になっており其処から蒐集した本が見えるのだが出来るだけ光を当てていたくないと布を被せていたのだが、掃除を行うと共に取り除かれており無数の本が其の姿を見せている。
「いやぁ、圧巻の一言ですね」
「そうだろう、何十年も掛けこつこつと集めた成果だ」
「所狭しと本が並ぶのもそうですが、其れを収納する本棚の大きい事」
「そうだろう、然も俺の手作りだ。細部にこだわり過ぎた所為で完成に二年を費やした」
「そんな本棚が複数存在しているのですからね。人里の貸本屋も目じゃないですよ」
「そうだろう、此の地なら五本の指に入るであろう量だ」
そんな本棚が十、十も鎮座する一角は其の大きさと相まって荘重な雰囲気を醸し出していると俺は思う。一から作り出した物だけに思い入れがあるからなのだろうか。
本棚の前に近付き居候に好きな物を選んでくれと声を掛ける。久し振りに此処に来たのだからまた読んで見ようかなと戸を開けどれを持って帰ろうか考えてみる。目に付いた物を手に取って眺めれば懐かしい記憶が溢れてくる。此れは二年前の冬だったかに手に入れたものだ、あの日は凍った地面で足を滑らせ転び掛けたのを覚えている。
「良いんですか?」
後ろから声が掛けられる。お前の為に掃除までしたのだぞ?
「別にお前にくれてやる訳じゃないからな、取り扱いさえしっかりしてくれれば好きに見てくれて構わない。だが毎回結界を張るからな、本を戻したり取りに来る際は俺に声を掛けてくれよ」
「分かりました」
話は終わり本を選び出す居候。時間が惜しい、飯の支度の前には選び終わらなければ。
「うおわっ!目がぁ…」
「……どうした?」
「目が痛い……」
他の本棚に向かった居候が素っ頓狂な声を上げた。声に驚き振り向けば床へ蹲る姿が見える。何があったのかは知らないが抱えた本を取り落とさなかったのは褒めてやろう。
「どうした?」
「戸を開いたら妖気が溢れて危険だと下がろうとした瞬間に目が…」
目を擦りしょぼしょぼと瞬きをする居候と開けられた本棚から流れる妖気に何があったのかを知る。
「視覚阻害の術式を食らったか」
「じ、術式?」
「本の中には妖怪か書いた妖魔本や、魔女が作った魔法についての本がある。中には術式や呪いが掛けられているから気を付けてくれ。まぁ其処に一纏めているから嫌なら他の所から探してくれ」
「そういった事は先に言ってくださいよ…」
すまん、忘れていた。如何にも最近物忘れが多い気がする。
視力が回復してきた居候は近くの丸い机に本を置くと。
「フン!」
「ッ!?」
額がぁ…俺の額がぁ…。額を押さえて蹲る。此奴ぁ…。
二人選別中…
「そろそろ、ですかね」
「そうだな。持っていく本は持ったか。まぁ何時でも来る事が出来るからあまら持たなくても良いが」
背負った風呂敷の中には十冊程本が入っており中には奇跡的に揃った漫画本がある。居候は海の向こうの小説と辞典を持っている。辞典は俺が勧めておいた、文章が翻訳されているが分からない単語があるという事で役に立つだろうという俺の優しさだ。
持ってきていた掃除道具を手に持ち倉庫から出る。外に出れば誰も侵入させない為にしっかりと結界を貼り地上へと帰る。
「掃除ありがとうな」
「匿ってもらっていますから。其れに本も見せてもらっていますし」
「家の事ばかりではつまらんだろうからな、暇潰しの足しに成ればとな。こんな事しか出来なくてすまんな」
「いえ、貴方が良くしてくれているおかげで助かっています」
そうか、そうなら良いのだが。俺に出来る事があればやっていこう。
「何時も巫山戯ているのに偶に真摯に接っして来られると変な感じですね」
「何か変か?」
「何時も真摯な態度ならころっといってしまいそうだなと」
普段生きていく為に自分の事で手一杯な俺には常に他人に気を遣い続けるなどとてもとても。
「食っては寝て食っては寝てでしょうが貴方は。まぁそうなる事は無いでしょうが」
「そうだな、常になど俺らしさが無くなってしまう」
「巫山戯ているのが貴方らしさですか。変える事をお勧めします」
「其処迄言う事か」
「ですが変わらなくても良いかと。今も良いですから」
「どちらなんだお前は」
「フフフ」
「何故笑う」
「面白い方ですね。好きですよ、貴方みたいな方」
「……ったく。ほら行くぞ」
「待ってくださいよ照れ隠しですか?」
照れてなどいない、早く戻りたいのだ。全く、俺は弄るのは良いが弄られるのは嫌なのだ。ん?前にも言ったか?
梯子を登り重い蓋を開け横にずらす、這い出た先は倉庫の中。地下倉庫へと辿り着く為の入り口が判り易い場所にあるのは如何かと思い倉庫に作ったのだが今の所此処に作って良かったかは分からない。此処にも多種多様な物が置いてあるが盗まれても良いと判断した物だけが此処には在り、大切な物だけが地下に置かれる事を許される。まぁ深く考えずに選定しているのでもしかしたら高価な物や危険な物があるかもしれんがまぁ大丈夫だろう。
片手で持っていた掃除道具を置き続いて登ってきた居候が持つ道具を受け取り床に置く。
「ありがとうございます」
「おう。其れじゃあさっさと風呂に入るとするか。掃除道具は俺の方で片付ける、お前は本を本棚に入れておいてくれ」
「分かりました、ごゆっくり」
「軽く水を浴びるだけなのだがな」
倉庫から出る前に履いていた草履を手に持ち玄関に向かいしまう。其の儘ペタペタと足音を立てながら風呂場へ。ひんやりと肌寒い場所に居た所為で地上の暑さが心地良い、冷えた身体を熱が包み込みほんわかとする。
道具をしまい込み此れで掃除は終わった。漸く溜息が溢れ疲れが一気に押し寄せ体が重くなるがまだする事があると横になりたい願望を抑え風呂に入る。
水を浴び再度冷える身体、地下の比では無い程の冷たさに鳥肌が立つ。格子窓から差す光が身体を伝う水滴に反射し眩しい。
髪にも纏わり付いていた埃も洗い流し風呂を出る。再度冷えた体に纏わり付き温める熱に身を委ねて眠ってしまいたいが腹も減ってきた、飯を作って食ってから寝るとするか。
「おうい。風呂が空いた、ぞ?」
「あ、はい」
新しい甚兵衛に袖を通し清々しい気分で茶の間へとやってきた俺の目の前に飛び込んできたのは。
「どうも、お邪魔していま〜す」
幾日か振りにやってきた烏天狗だった。素性の分からぬ何者かに付けられた日に買ってきた茶菓子を何食わぬ顔で遠慮も無しに食べている姿には礼儀もへったくれも無い。
居候に目を向ければおどおどとし始めた。分かっている、どうせ押し切られたのだろう?
「そ、そうなんです」
「えぇ〜?私が悪いみたいに言わないでほしいですよ。家に入れたのは貴方でしょう?」
「あ、あれは脅迫紛いの事を言ってきて……」
「紛いでしょ〜?脅迫じゃないんだったら良いじゃない」
いや其れは可笑しい。お前もきっぱりと言い切れ、言ってやれ。
「いや、其れは無理、ですよ。だって脅してきて」
「私は別に脅してないって〜。間違えて何処かの山の何処かの白狼天狗のあられもない写真を間違えてばら撒くかもしれないって言っただけだも〜ん」
「こう言われてしまいました……」
なんて奴だ、人質と変わらないではないか。其の写真を一枚、いや種類があるのなら一枚ずつ貰おうか。
「お高いですよ?」
「新聞を金を払って取っているだろう」
「其れは新聞代ですよ〜写真代をください」
「お前の嘘八百新聞を購読しているのだから良いだろう」
「何ですか其れは〜!嘘など書いた覚えが──」
「──半年前の人里襲撃事件」
「あ」
「下級妖怪が人里を襲い負傷者が十数名出たが死傷者無し。其の際人里の外から来ていた妖怪が人間を助け暴れる妖怪を退治した」
「其れは……」
「彼は今迄何度も人里へ来ており人助けを行っていた。人里から出て迷子になった子供を助けた事があるとも人里を襲おうとした妖怪の集団に一人で立ち向かい勝利したとも言われており、人間からは英雄と呼ばれている」
此れは一体如何いう事なんだろうな?この記事に載る『彼』に当て嵌まるモノは其の時俺しか居なかった。だがこんな事はしていない、誇張されているのは明らかだ。
さて、嘘を書いた事が無いと?
「う、うぅ。わ、私は天狗ですよ!強くて偉いんですから!」
「其れが誇り高き天狗だと?話にならんお帰り願おうか」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬも椚も狗奴國も無い」
其れで、如何する?
「分かりました今回は引きます。ですが何時か其の鼻を明かすやりますよ!」
「其の前に新聞を正せ」
「いや〜なかなか記事になりそうな物がなくて。ニュースは制作室で作られるって言うじゃないですか。あ、此れが例の写真です」
「そんな言葉は知るか。どれどれ」
此れは酷い、此奴はこんな物を隠し持っていたのか。俺も気をつけなくてはな。
口の軽い奴の目の前で痴態を見せるとこうなるという指標になってくれた居候は顔を赤くしながらも俺が貰った写真を引っ手繰り破り始めた。細切れになる写真だがお前が片付けるんだぞ。
「あぁあぁ折角の写真が、まぁ其れはあくまでコピーですから大丈夫なんですが」
しょがねぇなぁ。おい複製と元の物、残っている物全て捨てろ、細切れに切り刻んでな。
「何でですか〜!」
新聞は今日から取らない事にす──
「──分かりました捨てます」
「ほ、本当ですか!?」
此奴が馬鹿正直に捨てるかは疑問だがな。其の時は本当に購読は止める。
其れで、何の用だ。大した事の無い用なら叩きだすぞ、居候が。
「特には無いんですけどね〜」
「お帰り頂いてもらえ」
「ちょっ待ってください冗談ですよ冗談〜。つれないなもう、そう硬いと生活大変じゃないですか?あ、貴方ですよ白狼ちゃん」
「なんだ此奴」
本当に何の用で来たのか言わんと二人掛かりで外に放り出しても良いと思えてきた。いややらなければならないだろう。
「いや〜久し振りに弄る事が出来ると思うとテンションが上がってしまいまして。まぁ其れは置いておいて、本題に入りましょうか」
最初から話してくれと声に出そうとしたが出来なくなった。おちゃらけた雰囲気が一瞬で鋭利な物に変わったからだ。
普段見ない此奴の一面を目の当たりにし一瞬驚いてしまったが直ぐに意識を切り替える。隣の奴も凛とした雰囲気に成っているのだから俺だけぼけっとしてては立つ瀬が無くなる。
「妖怪の山にて起こった事を話しに来ました。天魔様直属の天狗部隊によって共謀者と思わしき者たちが捉えられました。いやぁ流石直属の中から選び抜かれた精鋭ですね、戦闘能力だけで無くこういった事まで出来るとは」
「余計な話は要らん、其れだけでは無いのだろう?」
「そうなんですよ。此れ以上は見つからず全員捕まえたのかと思っていたのですがね、天魔様はまだだと言っていましたが。捕えられた天狗がこう言ったのですよ」
『我等の同胞は未だ存在し其の時を待っている』
「言葉通りに受け取ればまだ居るという事でしょうか」
「苦し紛れに此方を混乱させる為の虚言かもしれませんね〜そんな感じはしませんでしたけど」
「其の時というのが気になる。何かしようとしているのだろうな」
何をしようとしているのかが分からなければ意味が無いのだが。まぁてんぐたちが如何にかしてくれ。
「貴方のお友達からも言伝を頼まれていてね。白狼天狗からは『必ず安心出来るようにしてやるから待っていてくれ』河童からは『また将棋を指そう』。確かに伝えたわよ」
「ありがとうございます」
「其れで其の直属の部隊とやらは此れから如何すると?」
「まだ共謀者探しを続けるみたいですよ。まぁこんな早くに終わってもらってはより良い記事が書けませんしね」
こんな事まで記事にしようとしているのか?俺の事は伏せてくれるのだろうな?
「えぇ〜駄目ですか?」
「駄目だ」
「もし許可してくれれば此の娘が御奉仕してくれますよ〜?」
「何を言ってるんですか!」
其れはなかなかに興味を惹かれるが遠慮しておこう。そういうのは痛い目に遭うと相場が決まっているからな。
「何をしようとしているのか分からないのが現状ですのでもしかしたら此処に襲撃を掛けてくるやもしれません。そうなったらいの一番に私に其の時の情報をください記事にしたいので。生きていればの話ですが」
「お前は本当に嫌な奴だ」
此れで話は終わりだと言いずずっとお茶を飲み茶菓子を食い始める。何かを企んでいるのか、最悪此の家が無くなっても良い様に倉庫の物を地下に移すか。家具やら服やらも纏めて持っていくか?土竜の様に生活する羽目にならないでほしい。備え有れば憂い無し。早目に準備しておくに限る、か。
何も起きないでほしいが何かしら起きると俺の直感が告げている様に感じられ憂鬱な気分になる。面倒事は此れ以上は不要だ。
5831文字、普通だな!
次の投稿は年明けですねこれは間違いない。兄貴たちも幸せな新年を迎えて、どうぞ。