眠い中書いたから文章可笑しいので、暇な時書き直します。
夜雀の店で鰻と酒を胃に納めた帰り道、勘違いから叩きのめされ最終的に下僕になって酒に付き合う事数刻、人格が入れ替わるという事でやっと解放され家に着いた時にはもう日が昇り始めていた。土と血で汚れた服を籠に入れ身体の汚れを濡らしたタオルで拭き取り敷きっぱなしにしていた布団に潜り込みさっさと眠りに就いた。
ドンドン。
「新聞ですよ~」
「……」
ドンドンドンドン。
「新聞ですよ~」
「……」
ドンドンドンドンドンドンドンドン。
「新聞ですよ~」
「……」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。
「新聞ですよ──」
「──分かった、分かったからそう戸を叩くな喧しい」
戸をしつこく叩く音が煩く目が覚めてしまった。立ち上がれば頭に痛みが走り身体がよろめく、昨日酒に付き合わせれたおかげで二日酔いになってしまったようだ。このまま眠っていたいが戸を執拗に叩き何度も声を挙げる相手がめげずに続けている、煩い所為で眠りに戻る事もできやしない。それに此のまま居留守をし続けて相手の逆鱗に触れたら拙い。
二日酔いの痛みと気持ち悪さに加えて睡眠を妨げられた事で苛立ちが募るがぐっと胸の奥にしまい玄関に向かう。居たのは予想通り天狗の姉ちゃんだった。
「おやすみ中でしたか?すみませんね。でももう昼過ぎですし」
家に帰ってきたのが今朝、其れから寝たんだまだ睡眠が足りない。もうちょい寝かせてくれよ。
「おやおや、辛そうですね。どうしました?二日酔いですか?」
「あぁ、そうだ」
一度目で結構酔ってたのに更に飲まされたおかげで頭がぐらぐらしてずきずきと痛む。さっさと薬を飲んで眠りたい。
「どれくらい飲んだんですか?」
「最初に徳利が四で……」
二度目に十……十二……其処までは覚えているのだが、はてさて其れからどれ程飲まされたのか記憶に残っていない。武勇伝や今の幻想郷に対する考え等訊いてもいない事をべらべらと喋り、飲めよ飲めよと酒を硝子で出来たコップなるものになみなみと注ぎ飲まされた。もっと飲めと一気に飲まされたりとやられた結果が此れだ。記憶があやふやになる程だったのに此処まで帰ってこれたのが奇跡である。
「あぁ……良く覚えてないがかなり飲んだのは覚えている」
「一人で飲んだんですか?誰かとですか?」
最初は一人で行ったんだが其の帰りに他の奴に絡まれて飲みに誘われた、誘われだと言っても強制的にだ。俺はもう一度飲みになど行きたくはなかった。断った時点で殺されそうだと感じ仕方なく行っただけだ。自分で言っていて泣きたくなる程の腰抜けっぷりだ。
「さっきから色々訊いてくるが記事にできるものじゃないだろこんな事」
「いやぁ何かあるかも、と思いまして。こういう思いもしないところにネタが転がってたりするんですよ?」
何時の間にやら手にメモ帳とペンを持っている。文屋の端くれと言うだけはある。手に持つ道具は見た目的に考えれば古道具屋で買った物なのだろうか。外の世界の物を扱っているのは彼処だけだ。
「記事は好きに作ればいい、だが俺の事を載せるのは止してくれ」
此奴に書かれた日にはどんな事を新聞に書かれるか分かったものじゃない。嘘は書く事はないが、面白可笑しく誇張して書く事で有名なのだ、此奴は。
「まぁあまり面白そうじゃないんで記事にはしないので安心してください」
「逆に嫌になる言い方をするなぁおい」
「それじゃあ今度ネタがない時は記事にしてあげますよ」
にははと悪戯好きな餓鬼の様に笑い掛けてくる、はぁ頭が痛い。
今日の新聞を渡すと何時もと同じ方向に飛んでいくのを見送り部屋に戻る。頭が痛い、酒は飲みたいから飲むのであって誰かに飲まされるものじゃないんだよ。それに加えて身体に不調が出る程飲むのは間違ってる。それを止めさせる事ができないのが悔しいが天地がひっくり返っても勝てる気がしない力の差が俺の前に立ちはだかっちゃあどうしようもない。俺は嵐が去るまで成すがままにされるだけ。まぁ久しぶりに誰かと飲めたのは良かったなと思う。
自室に戻り棚の上にある木箱を開け中にしまってある小さな薬の瓶を手に取り数粒出して飲み込む。此れは人里にたまに来る薬売りの兎から買った二日酔い用の薬だ、此れで和らぐだろう。彼処の薬は良く効く事で有名だ。薬が効くまで布団の上に横になり新聞を開いて記事を読む。
今日の記事は一昨日の紅魔館への襲撃犯の仲間が敵討ちに行きまた吊るされた事から始まり、粛清された大天狗の空いた席を狙う天狗たちが牽制し合っている事。妖怪の賢者とその式神が幻想郷中を“忠告”しながら回っている事が載っていた。
昨日湖に行っていたら涼めるどころじゃなかったなこれは、巻き沿いを食らっていたかもしれん。命知らずと言うか馬鹿と言うか、平和に慣れ過ぎたというか大妖怪の恐ろしさを知らないというか。
「最近の妖怪たちは自分の力に自惚れている、其の所為で大妖怪に勝てると思い込んでいる。相手の力量も測れてない時点で勝てる訳ないだろうが。大妖怪っていうのは格が違うんだよ格が」
店主は次元が違うとか言っていたな、次元ってのがよく分からんが多分格的なものなのだろう。
天狗たちの内政事情漏れてるけど此れは良いのか?良いから新聞に出来ているのだろうがな。後釜を同じ様に狙うモノ同士で揉めに揉めてるのは組織的に拙いんじゃあないのだろうか。天狗の頭である天魔が決めれば解決するのだろうがそう簡単に決められる事ではないのだろう。他の天狗が理不尽に巻き込まれない事を祈っておこう。
最後は最近の幻想郷での決まりを守らないモノたちに事についてだ。不可侵の領域である人里を襲うモノが増えた事を重く考えた妖怪の賢者とその式神が色々な場所に行き“忠告”をしながら回っているらしい。
「満月に近いのもあるが最近は特に多いな、まぁ賢者が回ってるから心配ないか」
調子に乗ってる奴らを大人しくさせるには力を見せつけるのが一番だ、それでも襲ってくれば痛い目に合ってもらうだけ。と昨日飲んでる時に頼んでもいないのに長ったらしく教えられた。俺に言われても弱いから見せつける事もできないってのに。賢者とその式神も同じ様にしているのだろうか。
【幻想郷縁起】に載っていた事だが、妖怪の賢者はスキマ妖怪と呼ばれる妖怪である。能力は【境界を操る程度の能力】ありとあらゆる物や概念に存在する境界を操る事が可能で、対策も防御法も一切存在しない神に匹敵する能力らしい。俺が見た限りでは戦争で攻め入る場所までの長距離を一瞬で縮める移動手段を作りだしたりしていた。
其の式である妖怪、正確に云えば妖獣の女は九尾の狐だ。傾国の美女、白面金毛九尾、玉藻前、等と呼ばれ妖怪の中でも上位に位置する鬼、その中でも最強と云われる鬼酒呑童子や崇徳とともに日本三大悪妖怪ともされている。崇徳は人間たちにそう祭り上げられただけだそうだがな。こっちも途轍もない妖力を持っていた、千年を生きるモノは伊達じゃあないか。
幻想郷縁起というのは、幻想郷の記録資料の事だ。少し前酒を買い込みに人里に行き歩いていると声を掛けられた、振り返れば少女が立っており俺について訊きたい事があると言ってきた。いきなりの申し出に驚きながらも少女の周りを囲む何人もの人間に警戒しながら少女に着いていった。ここでは妖怪は人間を襲う事ができない、その反対も然り。なら大丈夫だろうという考えでだ。
門を潜り広い庭を横切り建物の中へ、それから廊下を進み掛け軸や花瓶が飾られた客間に通された。硝子戸から広い庭が見える。門を潜る前から分かってはいたが広い、目の前の少女が良いとこの娘なのは一目瞭然だ。机を挟み座った少女は一口茶を飲むと自らの事を語り始めた。
此の娘は千年以上前から此処に住む一族の子供であり今代の当主だと名乗った、一族は幻想郷中のありとあらゆる事柄の資料を造り貯蔵しているそうだ。外の世界の資料もあるそうで古道具屋も偶に来るそうな。詳しく訊くと百年から百数十年単位で当主の魂が転生を続ける存在であり此奴で九代目だと言う。初代から幻想郷縁起と呼ばれる書物を受け継ぎ一生を懸け書き綴っていくらしい。
何百年と生きてきたがこの時まで幻想郷縁起などという存在を知らなかった。そんなものがあったとは。
『幻想郷縁起は元々、妖怪に対抗する手段に乏しい人間が妖怪の弱点や対策法などの知識を広めるために編纂を始めた書物』
遭遇言われ一瞬動きが止まってしまった。
『その中に貴方の事を加えたい、だから貴方の事を教えてほしい』
と言われ唖然としてしまった。妖怪に対抗するための方法を書き込むから自らの弱点を言えと言っているのだ。何故自分が不利になるような愚行を犯さなければならないのか。
歴代の博麗の巫女によって妖怪と人間の関係は少しずつ変わっていった。博麗の巫女が今代に移り変わり一気に幻想郷は変わった。今までの妖怪との争いを弾幕による決闘方式に変えたことで今までの争いと打って変わり死ぬ事もなくなった。其れに加えて賢者の助力もあり人間と妖怪との溝は浅くなってきている。真面な妖怪なら人里で人間を襲わず人間も妖怪を退治しない様になった。だが平和になったからといって自らの弱点を教えなくてもいい筈だ、平和になったからこそする必要がない。俺は弱い、自分の情報を載せられて退治されては堪ったものじゃない。
『対策として、というのが元々の編纂趣旨でしたが時代が進むと共に幻想郷が外界と隔離され安定したり、各代の博麗の巫女が妖怪との関係の改善に励んだおかげで幻想郷は格段に平和になりました。結果、妖怪の弱点や対策法、まとめという昔からある項目はそのまま維持しつつも妖怪の私生活を綴ったり妖怪の自己紹介や書いてほしい事を重点的に載せるなどいたって平和な妖怪紹介本となっています。なので貴方の心配は無用です』
此方の考えを察したのかそう言ってくる少女。それなら大丈夫なのだろうか、幻想郷を取り仕切る賢者が定めた事を破ろうなどと思う程人間は愚かじゃない、信じるべきか。幻想郷縁起を見せてもらったが大妖怪と呼ばれるモノたちやあの妖怪の賢者とその式の情報も載っていた。自分から積極的に来たそうな。やはり俺も載せてもらうべきか。
妖怪の危険性だけではなく人間への友好度なども書かれている。ここで友好的だと書いてもらえば良いかもしれないな。
『貴方は昔から人里に良く訪れているので認知度があり意味はあまりないですよ。警戒心はなくなりはしなくとも限りなく低く書くつもりです。現に人間から見た貴方の危険性はもう低くなっています』
酒や肉や野菜、雑貨を売っている人間達とは何代も前から顔見知りだが其れだけで警戒しなくなるものだとは思えんのだが。昔から人里に来ているが人間と妖怪の溝は昔の方があったし買いに来るだけだったと記憶している。
『先代の時の記憶は鮮明ではないのですが貴方の話は少しばかりだけですが覚えています。人里に稀に訪れる珍しい妖怪の一体。人に危害を加えないどころか友好的で、人里を妖怪が襲った時偶然通り掛かった貴方が人間を救い妖怪を追い払った。人間に味方する妖怪と記憶しています』
会った事はないが話には聞いていた様だ。人里に来ていた事も友好的な事もあっているが追い払った事と人間に味方をするのは少し違う。追い払ったの何も俺だけではない、人間たちと人里の守護者と竹林の案内人もいた。俺がしたのは逃げ遅れた人間を逃がす時間を稼いで共闘しただけ、俺が追い払ったわけじゃない。味方したのも単にこれ以上溝が広がれば妖怪が此処に入れなくなり酒と食料の補充が出来なくなるのを防ぐ為だ。
『貴方がどう思っていても周りの反応はそうなっているんですよ、人間寄りの妖怪だと。妖怪の項目に入れるのは確定していますが一部には貴方を支持する人間がいますので英雄の項目に入れる事も視野に入れています』
意味が分からない、何故そうなる。其れなら一緒に戦った他の奴らにするべきだ。自らの為に戦ったモノが英雄呼ばわりされるのは可笑しい。妖怪の項目だけ入れてくれ。
『そんなに嫌ですか?英雄?』
別に嫌という訳ではない。ただ私利私欲の為にやった奴を英雄という括りに入れるべきではない、そう思っただけだ。其れに英雄などに入れられると面倒事に巻き込まれる、そんな予感がする。
『貴方がそう願うならそうしましょう、無理強いはできませんからね。それでは質問を幾つかするので正確に答えてください、何かありましたら言ってください加えますので』
そんな訳で俺も幻想郷の歴史に載る事になったのである。あれから数刻も質問攻めに遭い疲れた。天狗の姉ちゃんにこの事を愚痴れば何故自分の時はちゃんと応えないのに人間には素直に応えるのかと長々と問われてしまった。
記事を読み終え起き上がる、薬が効き頭の痛みと怠さが収まっている。竹林の医者製の薬は良く効くと言うが本当だ、今まで何度も世話になっている。
家に帰る時夜雀に作ってもらった雑炊を小鍋に移し温めまた器に戻し食べる。今日はどう過ごそうか。薬のおかげで二日酔いが収まってはいるが体が怠いのは怠い。今日も何時もと同じように横になって過ごすか。
食器を洗い濡れた手を服で拭い二度寝に入ろうと布団に向かう、が。
ドンドン。
戸を叩く音が聞こえ足を止める。新聞はもう飯を食う前に来ているから彼奴じゃない筈。ここに来る奴など片手の数もいない、いったい誰が来たんだ。
ドンドン。
「あぁはいはい、今出る」
また戸を叩かれ足早に玄関に向かう。寝たいけど出ないといけねぇよなぁ。玄関に向かえば戸の向こうに二つ影が見える。二人組となると人里の守護者と竹林の案内人か、其れとも他の奴らか。
戸を少しずらし其処から覗き見声を掛ける。
「誰だ──」
「──あ、やっぱりまだいましたか。いやぁいてくれて良かったです、それじゃ失礼」
「な、おい勝手に」
開いた戸に手を掛けられ強引に開かれそうになり、思わず戸に力を掛けて止める。ギチギチと軋み壊れると察し手を離す。
無遠慮に戸を開けた相手は強引に家の中に入ってくる。
「何がしたいんだ文屋の姉ちゃん」
「いやぁ実はお願いしたい事がありまして。あ、入って入って」
「勝手に家に上がんな、入れようとすんな」
相手の正体は天狗の姉ちゃんであった。俺を押しのけずけずけと侵入を果たした姉ちゃん、願いって何だおい。天狗の姉ちゃんはもう一人も入ってくるように促すが其奴は玄関の前から動かずにいる。こっちは礼儀がなっている様だ。
口振りから天狗の姉ちゃんの知り合いで間違いない、誰だ。姉ちゃんとは知り合いだが交友関係を知る程親しくはないから分からん。
「お前…」
「昨日ぶりです」
止める事はできないと諦め姉ちゃんをそのままにし外を見れば昨日川で涼しむのを止めて下級妖怪たちが蹴散らされてる所に行く事を勧めてきたあの白狼天狗が立っていた。背にはかなりの大きさの荷物を背負っており見るからに重そうだ。哨戒の見回り天狗が何故此の様な場所に来てんだ?烏天狗の姉ちゃんと知り合いだったのか。
「ほら入りなさいよ貴方も」
「いや、流石に家主の断りもなく勝手に入るのはどうかと……」
「いいのよそんな事。なにぃ~?私の言う事に背くの~?」
入れと言う方と拒否する方、後者の方が正しいのだがそれを何処吹く風な様子で切り捨てる前者。俺が入れと言うなら兎も角お前さんが入れって言うのは可笑しいだろう。
「いえそういう訳じゃ……」
「命令よ、入りなさい。大丈夫だってこの人何処にも属してないし温厚だから変な事しないって。もし何かあっても護ってあげるから」
「そういう事を気にしてはいないのですが」
俺はそんな馬鹿な事はしない、その気はないがそんな事したら俺は間違いなく此の二人にやられる。此処から逃げられたとしても他の天狗たちに追われる日々が始まってしまう。そして悲しいかな白狼天狗は烏天狗の命令に背く事はできないのである。
聴いた話じゃ逆らえない事をいい事に面倒事を押し付けられたり嫌な事をされたりと不憫な位置にいるそうだ。
だが其れと此れとは関係ない。俺の意思を無視して話を進めないでくれ頼むから。
「其れで何をしに来た、いきなり家に入ろうとするとは」
「ん?あぁそうでしたね実は……長くなるので中で話しませんか?立ち話もあれですし」
此の上なく面倒臭いが此処で帰せば後で何をされるか分かったものじゃない。入れるしかないか。
「分かった、奥で話そう。お前も入っていいぞ」
「お邪魔しま~す!!」
「……お邪魔します」
もう上がっているだろうお前は。しかし煩い、まだ頭が痛いから静かにしてくれ。客間に案内しながら溜め息が出そうになるが抑える。溜め息ばかり吐いていると運が逃げていきますよ?とおちょくられるのが目に見えている。昨日の今日で面倒事に巻き込まれるとは、運がない。
二人を客間に案内し楽にしていろと声を掛け台所に向かう。沸かしたまま置いていた湯をもう一度沸かし直し茶を三つ入れ持っていく。久しぶりに誰かに茶を入れた、誰かが家に来るなど随分と久しぶりの事だ。
部屋に戻れば一人は綺麗に正座したままでもう一人は足を崩し置きっぱなしにしていた本を読んでいる。どちらがどちらかは明らかだろう。
随分と楽な格好をしてるじゃないかと問えば楽にしてて良いと言ったではないかと返されるので二度目も喉元まで出掛けた言葉を飲み込み茶を机の上に置き座布団に座る。
「すみません、勝手に押し掛けてしまい」
「別に大丈夫だ気にするな」
「ほらこう言ってるんだから気にしなくていいのよ」
まるで自分の家だと言わんばかりの物言いに怒りを通り越して呆れがやってくる。自分の家じゃあないのだから少しくらい自重したらどうだ。
「其れで、いったい何の用だ。押しかけてくるくらいなんだから其れ相応の事なのだろう。願いがどうたら言っていたし」
「はい、実はお願いがあって態々ここまできた訳ですよ」
「この娘を匿ってほしいのですよ」
「は?なんて?」
「この娘を匿ってほしいのですよ」
二度も言わなくても聞こえている。匿うというのはあの匿うで良いのだろうか。
「【匿う】追われている人などを、人目につかないようにこっそり隠しておく事」
「大丈夫だ其れぐらい知っている。匿うだと?此奴は何かしたのか?」
目を向ければ俯く姿が映る、髪に隠れた耳も垂れ下がっている。追われているというのは誰にだ。どこぞの妖怪なら妖怪の山に居れば良い。理性のある奴ならまず近づかないしそうでなくともその程度のモノなら対処できる。態々此処に来たって事は妖怪の山関連だと考えるのが妥当。面倒事は本当に御免だってのに。
「別にこの娘が何かしたって訳じゃないんですけどね。ほら昨日の記事覚えてますか?」
「昨日の記事?」
昨日の記事は確か吸血鬼の館と人里で馬鹿共が暴れたのと……。
「大天狗が白狼天狗に手を出した、事か?」
「そう、それです。事件が起こったのは一週間前くらいなんですけどね」
天狗は縦社会。一番下に白狼天狗が位置しその上に烏天狗、更にその上に大天狗がおり一番上に天狗たちの長である天魔がいる。掟に厳しく上下関係は絶対的なものとし日々規則正しく生活を送っている。
上にいるモノに逆らう事は出来ない。ある大天狗がそれを利用し白狼天狗たちに手を出していた。一週間前、ある白狼天狗が狙われた。其れが此奴だったらしい。嫌がった此奴に大天狗はこう言ったそうだ。
『白狼天狗如きが大天狗である我に逆らうか』
規則に忠実な此奴が逆らえる訳がなく無理矢理に押し倒された。だが流石にやり過ぎた。見て見ぬ振りをしていた他の天狗たちは被害者たちが多い事と増え続けている事に此れは拙いと天魔に直接直談判していたのだ。押し倒されたところで天魔直属の部下たちに大天狗が取り押さえられ大事には至る事はなかった。
其れから嫌がらせを受けていた数人が呼び出され事情を聴きだされたが自分より上にいる大天狗からの報復を恐れ誰も話し出せずにいた、此奴以外は。
「この娘は良くも悪くも正義感が強くて正直で忠実ですから。私たち天狗を御治めになる天魔様に問われ何も隠す事もなく全てを話したんです」
其れが皮切りに他の天狗たちが話し出し全ての不祥事が明らかになった。上に立つモノが私利私欲の為に下のモノを傷付けたとし天魔はその大天狗に罰を与える事にした。
大天狗をボロ雑巾の様になるまで叩きのめし数週間牢に閉じ込める事に。其れだけに留まらず今の役職を解雇しまた一からやり直すという罰を与えた。これが新聞に載っていた粛清だと言う。
だが其れで事件は終わる事はなく。
「あの大天狗、自業自得の癖に手を出した娘たちが悪いと叫んでるんですよ。逆怨みも甚だしい」
怒っていますという風にムッとした顔をし腰に手を当てる姉ちゃん。それは分かった。話を続けてくれ。
其の本人は牢の中、何も出来ないだろうと皆が皆多寡を括っていた。其の所為で新たな事件が起きた。大天狗程になると専属の部下が何人も付くものだそうでその大天狗にもいたそうだ、素性の悪い天狗たちが。捕まっている其奴の命に従い部下たちは手を出した天狗たちに嫌がらせを始めたのだ。
正義感の強い此奴は仕事のない時を使い他の天狗たちを護っていた。其の所為で其奴等の攻撃の的になってしまった。
「ですが私は天魔様に全てを伝えた事も他の天狗たちを庇ったのも後悔をしてはいない。他のモノが傷付かないのなら別に構わないと思っています」
「そんな事言うけど貴方昨日大変な目に遭ったじゃない。自分の事を大事にしなさいよね。溜め込んでちゃ何時か潰れちゃうわよ」
なんだ。何かあったのか。
「実は昨日の深夜なんですけど、この娘襲われたんです」
「ちょっと何で言っちゃうんですか!」
何時も通り哨戒の仕事をし終え次の番の哨戒と交代し家に向かったがその帰り道で天狗たちに襲われた。
「交代した白狼天狗が忘れ物を届けに来たおかげで助かったみたいですけど。誰もいなかったら何をされたことやら」
「べ、別に私一人でも大丈夫でしたよ」
どの程度強いのかは知らないが同族を複数相手するのは難しいだろう。
此の事も天魔に報告しその襲ってきた天狗たちも牢に入れられたがまだ他にも仲間がいるかもしれないと考えた天魔が信頼できる部下に命じて仲間を探させているところらしい。
「安全になるまで大天狗に手を出された娘たちは全員自宅待機になったんですけどこの娘は真面目ですからもう哨戒の仕事に戻ろうとするんです。哨戒の仕事は新しく編成され直されたので仕事はなくなっているのに。
自宅待機させてもこの娘は一番危ないだろうって事で天魔様直々に何処か安全な所に連れて行って隠れていてほしいって命が下りたんです」
其れで俺の所に来たと。何故俺の所なんだ。河童の所や同盟を結ぶ奴らの所に行けば良いだろうに。此処は他の天狗は誰も知らないだろうし此処等辺に近づく物好きもそういない、隠れるには打ってつけの場所だろう。だが此の家には結界が貼られてる訳でも堅牢な造りになっている訳でもない普通の家だ、地下はあるが。護りも何もあったものじゃない。
「河童の所も考えたのですが如何せん私たちが管理する土地の中、何処から情報が漏れるか分からない。疑う事はあまりしたくはないのですが可能性がある以上避けたいのです。結果的に妖怪の山近くは除外されます。残る所は縄張りの外の知り合いの所か人里です。人里で揉めるのも幻想郷での規則に引っ掛かるかもしれない。それにこちらの内部事情に人間たちを巻き込むのは悪いのでここになりました」
消去法で俺の所に来た訳か。他の所に迷惑になりたくないという気持ちは分かる、だが何故此処に来たんだ。俺に迷惑を掛けても良いと判断したのか理解できできん。俺以外に知り合いはいないのか。
「いる事にはいるのですが親しくないと言いますか、親しいモノもいるのですがそこまで迷惑を掛けたくないと言いますか」
「俺には迷惑掛けるのにか?」
「貴方には迷惑掛けれるんですよ、私人を見る目はあるんですから」と言う姉ちゃん。全く意味が分からない。人を見る目が迷惑を掛けていい理由に繋がらないのだが。
満面の笑みを浮かべる姉ちゃんから視線を外しまたもう片方を見る。
「迷惑、ですよね?」
「いやそんな事はないぞ」
不安気な目を向けられ反射的にそう答えてしまった。こういう視線を向けるのは卑怯だろう、断り辛くなるだろうが。仕方ない、少しの間だけだ。
「其れでどれくらいの間預かればいいんだ」
「受けてくれますか!いや~ありがとうございます、ほら貴女も」
「は、はい。ありがとうございます!お世話になります!」
面倒臭いが話を聴いた手前断れない。あの時戸を開けて対応した時点で積んでいた。
「それで期間ですが二週間から一カ月程ですね。はっきりした期間が決まっていないんです」
最低で二週間、最高で一カ月。まぁ其れくらいなら匿うくらい平気だろう。食料の問題があるがそれは後で何とかしよう。
「あい分かった、その依頼請け負う。さっさと膿を取り除けよ」
「分かってますよ。女の子を襲う様な連中を放っておくのは一女の子として嫌ですから。それじゃあこの娘の事を頼みます、あまり迷惑掛けないのよ?」
「子供じゃないんですからその心配は不要ですよ」
「私から見れば子供よ」
其れから少し話をした後残った茶を飲み干し立ち上り玄関に向かっていく姉ちゃんに続いて立ち上がり玄関まで見送りに行く。
「もし何かあったら来るので。それじゃあ失礼しますね」
「あぁそれじゃあな」
「はいさようなら」
飛んでいくのを見送り戸を閉める。あぁ此れからどうするか。
「こ、これからよろしくお願いします!」
物凄い勢いで頭を下げられびくっとしてしまった。そう言われても対応に困ってしまう。
「そう畏まらなくてもいいぞ、急な事で驚いてはいるが一カ月程度なら泊めるのも別に構わない。まぁ其の代わりに家事とかを手伝ってもらうが構わないか?」
「はい!料理でも掃除でも風呂洗いでも、なんでもします!」
なんでも、ね。なんでもっていう程する事がないのだが此処には。
受けたのは別に良いのだがしかし匿うねぇ、何をすれば良いのだろうか。なるべく外に出さないって事しか思いつかない。一カ月だらっとしてれば見つかる事もないだろうしのんびりしていこう。
「其れじゃあ空いてる部屋に案内するから荷物を持ってこい」
「分かりました」
とてとてと荷物を取りに客間に戻っていくのを見送り思う、堅苦しそうな馬鹿真面目な奴かと思ったが案外話せるじゃねぇか。心配してたけど大丈夫そうだ。
「持ってきました」
「其れじゃあこっちだ」
先に進み部屋に向かう。昨日全ての部屋を掃除していて良かった、掃除してなけりゃ埃塗れで使うどころじゃなかった。今まで生きてきて悪い事が多かったと考えていたが逆に考えてみれば運が良かったのかもしれない。湖に向かっていたら馬鹿共の巻き添えになっていたかもしれないし人里に行っても入れず無駄になっていたかもしれない。今まで大事に何度も巻き込まれてきたがなんだかんだ言って死ななかった。俺はある意味運が良いのかもしれんな。
「飯はもう食ったのか?」
「昼はもう食べてきました」
飯と言えばうちには蓄えがない、あるのは酒だけだ。流石に酒だけ飲ませて腹を満たさせるのは駄目だろうな。人里も襲撃数日後じゃ行き難い。少し空けてから行きたい。
「あっ……彼奴との約束もあるじゃねぇか。うわぁ……」
「どうしました?」
「いや何でもない。此処が空いている部屋だ、押入れの中に布団とかあるから勝手に使ってくれていいぞ」
「分かりました」
部屋の中に荷物を置き部屋の中や押入れの中を色々と見ている後ろ姿を見ながら考える。食事も大切だが一番気にしなきゃいけないのは彼奴の事だ。あの闇妖怪に今日も夜雀の所に来る様に言われている。こっちの事もあるのに他の事も気にしなきゃいけないのか。
置いていくのは不安だ、だが外に連れ出すのは駄目だろう見つかるかもしれないし。でも一人夜の間家に置いておくのも気が引ける。流石にあいつの命令を無視して家に閉じこもったら次遭った時殺される。
「あの、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ大丈夫だ」
部屋の確認は既に終わっていたのか、考えに夢中で気付かなかった。
「どうしたんですか?体調でも悪いですか?」
「体調は大丈夫だ」
一人で考えてても仕方ない。此処は正直に話すべきなんだろう。
「実は今夜行かなきゃいけない所があるんだが」
夜雀の所に行かなければいけない事、今家には食料がない事を話す。
「そうなんですか、外にあまり出てはいけないのは確かですが食料の備蓄がない以上何処かで調達しなくてはいけないですね。それじゃあ私もそこに着いて行きます、そこで夕食を摂り明日人里に食料を買いに行きましょう」
「やはりそうするべきだよなぁ。腹括って行くしかないか」
もし変な奴に絡まれたら彼奴に始末を頼もう。でも下僕の言う事を聞いてくれるかなぁ、替えが効くって言ってたし無理そうだなぁ。二人で頑張ろう。
「其れじゃあそうするか。夜まで時間は結構あるからこの家の何処に何があるか教えておこう」
「お願いします」
まずは風呂場が何処か教えよう。
「二日酔い」
他の妖怪に比べてそこまで強くない。一度目で既に出来上がる手前。
襲われた時は酔っているなりに頑張っていた。
「薬売りの兎」
兎耳の少女が態々人里まで薬を売りに来る。効果は保障付き。
「妖怪の自惚れ」
鬼が何処かに去って行ったり人間に畏れられる妖怪の大半が何処かに行ってしまい弱い妖怪たちが殆どになった結果。
四、五百年生きていても大妖怪の実力を知らないモノが大半。
「天狗」
白狼天狗、烏天狗、大天狗、天魔。他にも鼻の長い天狗やらが存在する。
大天狗と天魔は種族ではなく役職で強さと知性を持つモノが就く。
「幻想郷縁起」
幻想郷を記録する資料。色々載ってる。妖怪と英雄の欄があるが英雄は人間が人間に近いモノが書かれる欄なので全員が全員英雄な訳ではない。
頑張って書いてやっと一万と千超え。小説家って大変だってはっきりわかんだね。
評価感想待ってる。
2015年10月25日。追記。文章を更新し11873文字に。
2015年11月4日、、追記。あとがき手直し。