綺麗な花には毒が有る。
という言葉が在るが、幻想となったモノが集う此処ならば其れに留まる事はないのだろう。可愛らしい花は生きとし生きる者全てを殺し尽くし、美しき花は緑豊かな大地を荒野へ変える。出来の悪い俺の頭でも理解出来る。
「ぐはぁ……!」
強い衝撃を受け吹き飛びながらそんな事を考える。
何度目か分からぬが又しても地へと倒れる、此れには視線だけを向けてくる奴等も飽きてきた頃だろう。だから早く止めてくれ、死んでしまう。
何の力も纏わぬ攻撃とはいえ俺よりも強い存在が打ち出す打撃、良く立ち上がれるものだ。
「はぁ……はぁ……」
「ぐ、ごほっ!ぺっ」
此れ又何度目か知れぬが又しても立ち上がる。
呼吸が可笑しい。
しかいがおかしい。
カンカクがオカシイ。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
全身余す所なく出来上がった傷の数々。打撲、骨折、裂傷、出血、後は何だ……臓器の損傷か。確認するのが馬鹿らしい程の痛々しさだ。
「ッ!」
迫る拳、防ぐ。
「ッ!?ッ!」
迫る蹴り、防ぐ。
「ッ!?ッ!!」
迫る連打、防ぎ切る。隙を見つけ蹴りを放つ。
「がはぁ!」
蹌踉めく相手、拳を放つ。
「ぐっ!」
踏鞴を踏む相手、蹴りを放つ。
「なんの!」
防ぐ相手、投げる。
「なっ!?」
驚く相手、蹴りを放つ。
「ぐはぁ!此の……!」
迫る相手、攻撃を、防ぐ、放つ──。
男妖 …
「あ、起きましたか?」
女の顔、一面の赤、柔らかな感触、甘い匂い、掛物の感触、漂う妖力。
「帰らせてもらっても?」
「すいません、もう少しお待ちください。本当に申し訳ないです、はい……」
微睡みの中でも辿り着ける、此処は紅魔館の中だろう。まともに働き出した頭を動かし辺りを見渡す、高そうな家具が並ぶ見慣れる真っ赤な室内。
「吸血鬼とやらは妖怪からも血を吸うのか?」
「?あぁそういう事ですか。詳しくは知りませんが妖怪の血を飲むとは聞いてませんね」
今は何時だ?窓の無い部屋では外の様子も分からない。
「今は何時頃だ?」
「日が暮れ始めていますよ」
今帰れば晩飯には間に合うか、帰してもらえそうにないが。せめて日を跨いでも良い、生きて帰りたい。
「身体は痛みませんか?殆どの傷は治っていると伺っているのですが念の為にご確認ください」
そういえば痛みを感じない。身体中を触ってみるがあれ程在った傷が綺麗さっぱり無くなっている。
其の旨を伝えると安心した様に良かったと溢す少女に毒気を抜かれる。優しげな笑みを浮かべ此方を伺う赤毛の少女、服装からして先程のあの女なのだろう。
「嘘のようだな……」
「何がですか?」
「何でもない。其れで俺は如何なるのだ?」
今日中に帰る事が出来ぬのなら居候に帰れぬと伝えたいのだが、そう問うと自分には判断しかねると返ってくる。
「此れから、ですか。約束をしたので此の儘帰すのが筋でしょう、ですがお嬢様から帰すなと御命令が来ました……すみません」
戦いの際から、いや巻き込まれた後から感じ取っていた視線は此の屋敷の主人のものの様子。初めから目を付けられていたとは運が悪い。
「未だ理由を知らないものでして、少しの間ですがお待ちください」
そう言い此の部屋唯一の出入り口だと思われる扉へ向かう少女。そして扉の前に椅子を置き座る。
「監視か?」
「監視です」
扉に向かう様子を見て隙を見つけて逃げ出そうと計画を立てていたが、瞬く間に潰えてしまった。
さて如何しようか。
逃げ出そうにも出口を塞ぐ少女在り。
傷は塞がっているが、体力は無い。
壁を砕こうにも何かしらの術が掛かっている。
部屋を出ても構造が分からぬ。
「絶対絶命、詰みか」
「此方としては大人しくしていてほしいです。此の部屋から出ると命の保証は出来ませんし」
「従わぬモノは不要だと?」
「私たちは五体満足で置いておけと言われていますが……」
「其れに反するモノでも居るのか?」
「……すみません、お答え出来ません。ですが此の部屋から出なければ壊されませんので」
壊される、まるで人を物か何かの様に言う。だが其の顔に上段の類ではないと知れる。詳しく知りたいが、大人しくしておけば安全ならば何も知らなくとも良い。知ってしまいよからぬ事に巻き込まれる方が拙い、昔に似た様な経験をしている身としては考えてしまう。
「本当に生きて帰れるのか?」
「お嬢様の気分次第ですが、大丈夫だとは思います」
気分次第、嫌な言葉だ。命を握られているというのは非常に嫌である。何時死ぬか分からぬ不安やらが非常に不快だ。
今日は帰れそうにないか、そもそも帰れるのだろうか?一生奴隷として生きるなどご免だ。あの闇妖怪にどやされてしまうしな。
「お嬢様は寛大なお方です、直ぐに取って食べる様な事はしないでしょう」
「本当か?本当の本当にか?」
「……偶に無慈悲な事もしますが偶にです。稀にです」
其奴に付いているお前にはそう見えるだけではないのか?お前の中ではそうなっているだけで周りからは悪逆非道に見えている、などという事にはならんでほしいが。
嗚呼、嫌だ嫌だ。頭を振るい一度考えを改めてみる。頭の中では嫌な事ばかりがぽんぽんと増え続け、俺を不安にさせてくる。如何してこうなった、そう問い掛けても見張りは苦笑いを浮かべ誤魔化すばかり。そのお嬢様とやらが此奴の様に優しさの有る妖怪なら良いが。
「いやぁそれにしても……」
「ん?」
「久し振りに、楽しめました」
「……そうかい」
天井に顔を向けてにへらと笑う少女。俺は死に物狂いだったというのにな、だが。
「久し振りに闘った、感謝する」
「いえいえ!此方こそいきなり仕掛けてしまったのに闘って頂き、有難う御座いました」
久方振りの無謀な闘い。闘う意志を持ち自ら敵へとぶつかる。久しく感じる事の出来ていなかった闘争の空気、其れを感じる事が出来た。
まぁ其の反面あんな怪我を負う事になったのだがな。今もそうだが生きた心地がしなかった、死んでしまうかもとも刹那に考えた。考えている暇など無いというのに馬鹿な事を考えていた結果、無駄に殴り飛ばされてしまったのだが。
「何だかんだと考えてみたが、やはり囚われてしまったのは痛い。経験なんかよりも身の安全の方が勝る。そうは思わないか?」
「状況によりけりだと思いますよ?もし一生に一度の事なら危険を冒して体験しますね、私は」
「だが強者と闘うなど幾らでも出来る。其れに見合わぬ対価を支払うのは、な」
此処で幾ら言おうとも聞かぬ事は分かっている。だが此処は敢えて言う。
死人に口無し
ならば先に言いたい事を言ってから死んでやる。
其れからどれ程かは分からぬが見張りの少女と話をし続けた。少女は屋敷の主人に仕えるモノたちの一人、腕っ節を買われ門番をしているという。そう言えばあの本や天狗の新聞に載っていたのを思い出す。
能力と併用すれば肉弾戦ならば大妖怪と並ぶ程の格闘術の使い手。数千年という歴史の在る大陸の拳法だという触れ込みだった。紅魔に赤き門番在り、すっかり忘れていた。
「幾らでも闘う事が出来る、幻想郷でなら人ならざる強者たちと闘えますからね。然し私は門番、貴方が羨ましい」
人外の中で鍛錬を積むモノたちは少ない。其れは何故か、妖怪を例にする。
妖怪は人々の畏れから生まれ、糧にしている。畏れられれば畏れられるだけ強くなる、其れが妖怪だ。長い年月を掛けて変わっていく、人間に畏れられ続けるだけで強くなれる。故に鍛錬というものを積もうとしない。一部物好きが居る様だが。
「お前程の力が有れば話は別だが、俺は強くない。そう簡単には闘わん」
「地力に差が有ろうと其れを他の事でカバーしていたではないですか。思い掛けない攻撃、突拍子もない行動。正直ヒヤッとした事は幾度も有りましたよ」
「意表を突けても通用せねば意味が無いだろうに」
死に物狂いで駆けずり回り攻撃を仕掛け吹き飛ばされる。此の繰り返しだった記憶しか…………途中から記憶が無い。殴られ過ぎて記憶迄吹き飛ばされたか無いものは仕方ない、何時か戻るだろう。
さてさて向こうの事を教えられたのだ、次は俺の番となった。其処でふと考えが浮かぶ。
俺は何故門番と闘う事になったのか。
記憶が消し飛んでいる訳ではない。闘えば見逃す言うから闘ったは覚えている。だが其の後だ、見逃される訳でもなくかといって殺される訳でもなく此処に居る。闘う前にも可笑しな点が有る。周りに襲い掛かる弾幕、あれは正確に狙いを定め飛んできていた。近くに飛んでくる事は有ったが俺を狙い飛んでくる弾幕はなかった。
何か、分からないが何か有る。
「俺の事か?」
「ええ、貴方の事です」
「俺の事を知って如何なるというのか」
「えぇ〜、折角知り合ったんですから仲良くしましょうよ〜。私の事を教えたんですから貴方も教えてくださいよ〜」
「煩い近付くな手を握るな詰め寄るな」
鬱陶しい、俺は鬱陶しい奴が嫌いなんだ。手を振るい離そうとする、だが掌を握り潰さんばかりの力で握られ離れない。
「痛いのだが」
「嫌です」
「離すんだ」
「嫌です」
「いい加減にしろよ、ガキじゃあるまいし」
「嫌です」
「話そう」
「はい」
万力の様に動かず食い込んでいた指が、たった一言ですんなり剥がれた。
手を摩り痛ぇ痛ぇと呟きながら考える。此方の情報を得ようとしている?何の為に?分からぬ、さっぱり分からぬ。
「話した事は他の奴等に伝えるか?」
「此れはあくまで私個人の行動です、暇なのでお話でもと。まぁお嬢様たちが知りたいと仰るのなら答えますが」
「話すのか、まぁ良い。では……何を話せば良いのだ?」
何を話せば良いのか。
「どんな事でも良いですよ。年齢とか流派とか、趣味なんかでも」
「そんな事で良いのか?齢は覚えていないな、五百だったか六百だったか……。流派とは武術で良いのか?我流だ、まぁ色んな所から色々と拝借させてもらっているがね」
「突然構えが変わったり無理矢理な動きぎ多かった訳ですね。何度ペースを乱された事か」
相手の動きを乱す、其れも作戦の一つ。此方の動きを気取られ攻撃を貰う事を防ぎ、攻めに転じる。此れに加えて色々と手札を増やし機を窺い其れに賭ける。
博打の様な此の戦法、此れしか勝つ道が無い故に辿り着いた答え。
「だが通用しない事には意味が無い」
「しっかり効いてましたよ?」
「けろっとしながら言われてもな」
「元の回復力と能力の併用で治しましたからね」
有る胸を張りそう言う姿は何処か微笑ましい。
「他に知りたい事──ッ」
「如何やらお喋りは此処迄の様ですね」
目を逸らしていた訳ではない、瞬きしている其の一瞬の内の出来事。いきなりの事に腰掛けたベッドのから勢い良く立ち上がってしまった。
「頭が、うおっと」
眩暈がし視界が揺れる、姿勢を保てずに倒れる。だがそんな事を気にしている余裕が無かった。
監視の真横、何も存在しなかった空間。ほんの一瞬、瞼が視界を塞いでいた其の間に、其処には少女が佇んでいた。
西洋の服を身に纏う、銀の髪の少女。
「如何やって、此の部屋へ。気配を感じなかった、何かしらの力も感じなかった」
高速でやってきた?催眠術か?其れとも瞬間移動?いや、あれは確か……。
「お客様には特別にお教えしましょう、何をしたのか?其れは──」
「──時を止めた」
「……知っていましたか。もしかして、揶揄ったのですか?」
「あ、いや違う。忘れていたのだ、時を操る者が居ると」
人の身で在りながら吸血鬼に仕える者が居る。時を自在に操る紅魔の従者。完璧と呼ばれながら茶目っ気が有る、そう店主が話していた。悪戯されると愚痴良く零していたと漸く思い出せた。
「大丈夫ですか?」
「支えてくれたのか、感謝する」
状況の整理が終わりやっと自らに目を向ける事が出来た。倒れそうになった所を監視の少女が支えてくれた様で転ばずに済んだ。手の届く距離ではないのだが、如何やって倒れる前に来たのか。
門番は気を操り、従者は時を操る。強力な力を持った者たちが居るが、そんな連中を従える主人の能力が飛び抜けて凄かった。其の主人の能力は──。
「──聞いていますか?やはり揶揄っているのですか?」
「すまんな、少し考え事をしていた」
「……そうですか、其れでは行きましょう」
支えられながら立ち上がり部屋の外へと……何処に向かうのだ?
「如何しましたか?」
「如何もこうも、一体何処へ向かおうとしているのだ?」
空気に流されてしまったが何処へ連れて行かれるのか分からぬ侭に連れて行かれて堪るか。
「何処に向かうのかイタタタタタタ!引っ張るな」
「あ、済みません」
扉の縁を掴み動かぬと意思を提示したにも関わらず、無理に引っぺがそうとされ手を離してしまった。
此れは拙いと踏み止まろうとするが力量の差は如何する事も出来ない、腹に腕を回され容易に抱き抱えられてしまう。
「お嬢様からお話が有るそうです」
「分かった分かった、大人しく着いていくから離せ。下ろせ腕が食い込んで痛いから止めろ」
「本当に着いてきてくれますか?」
逃げられる訳がないだろうに。
「昔逃げようとした人間が居まして、妖精たちの玩具になってしまいましたよ」
下された俺は大人しく前後を挟まれる様にして、だだっ広い廊下を進んでいく。逃げようとしていたのだが其れ相応の仕打ちを受ける様子、此処は従うしかない。
此れから如何なるのか、無事に生きて帰る事が出来るのだろうか。そういえば居候の事を如何しようか、帰れぬと伝えたい。
血の様に紅い廊下を進む、流れてくる強大な妖力の元へと。
5391文字、普通だな。
見直し無しの投稿なのでガバってるかも、お兄さん許して!