二十五話、難産です。どんどん更新期間が空いてきて草、これからどんどん忙しくなるしこれもうわかんねぇな。
襲撃を受け半日、空高くへと太陽は昇り燦々と燃えている。だが山が陽除けと成り涼しい洞穴の中は涼しく、床の凹凸と硬さが無ければ快適と呼べよう。
目を覚まし上体を起こした所で声を掛けられる。
「起きているのなら今後について話しましょう」
「話ねぇ……」
目覚めた奴に向けての第一声が其れとはな。少しずつだが動き出す頭の中で、話という単語が反響する。
話、話、話……。何を話せば良いのか、何を話し合うのか。此れから如何するか?
「そうです、此れから如何するかです。私の意見としては一刻も早く此処から離れる事を推奨します」
「……其の心は?」
「鼻の利くモノが敵に居るのです、ならば此処も直ぐに勘付かれる恐れが有ります」
「だから早く離れようと?」
「はい」
此の蒸し暑い中を進もうという訳だな?俺としては夜に動きたいが……そうも言っていられないか。
後二杯程しか残っていない酒瓶とグラス、タオルを風呂敷で包み其の結び目の下に鞘に納まる刀を滑らせる。肩に刀を担げば背中で吊られた風呂敷が揺れ瓶とグラスがカチンと当たる。
「準備は?」
目の高さ迄上げた掌の開閉を繰り返す。腕を上下左右に何度か振るう。
「大丈夫だ」
「其れを着ていくのですか?」
「……やはり暑いだろうか。何か有った際にと思ったのだがな」
再度纏った訳だが、脱ぐか。いや脱げば嵩張ってしまう。
「警戒するに越した事はないですから其の侭の方が良いかと」
悩んだ末に鎧はその侭となった。洞窟の中から外を伺う居候の背を眺め、如何するかと考える。
実力行使を仕掛けてくる複数の敵が居る。知り合いに頼るのは避ける。依頼主の元に向かおうにも辿り着けるか。
「敵影無し、行きましょう……うん?大丈夫ですか?」
「あぁ済まん、何処に向かおうかと考えていた」
家から離れる様に森の中を進む其の道すがら居候に問う、此れから何処へと向かうか。
「一刻も早く上へとお伝えせねばなりません。ですが敵も此方の行動を推測し仲間の元へ行かせぬと待ち受けているかと」
容易く罠に嵌り接近している事に気付かせる連中だ、とはいえ烏合の衆という程に間抜けではないだろう。
「俺の棲家が燃やされた、此れに気付き行動を起こしていれば良いのだが」
「やはり此処は無理をしてでも妖怪の山へと向かうべきでは?」
何時やってくるとも分からぬ協力者を待ち続け、見えぬ敵から隠れ怯える。其れは嫌だと言う居候の目には覚悟の色が見て取れる。
「其処迄気張る必要は無いだろう。正確な数は分からぬが十や其処等だ」
妖怪の山の周囲全てに監視を置ける程は居ないと見た。そろりそろりと隠れながら登れば見つかるまい。
「もし敵が其れ以上居れば?」
「……そもそもだ昨日の連中には気になる所が有った」
「え?」
烏天狗は白狼天狗を下に見ていると聞く。ならば自らは危険を犯さぬと巣に篭り狼連中を送ってくる筈だ、鼻も利く。
「だが、連中の殆どは烏であった。つまり白狼天狗の数は少ないのだろう」
「……其れが妖怪の山に向かっても平気な理由になると?」
「そう急かすな」
白狼天狗の頭数が少ないのなら見張りは必然的に烏天狗が多くなるだろう?
「匂いによって見つかる可能性が減るから安心だと?」
「まだ理由は有る。哨戒を主に行う天狗は何だ言ってみろ」
「其れは私達白狼天狗です」
哨戒を行うのは白狼天狗だ、烏天狗が表に出てくるのは稀だ。
ならば其の烏天狗達が目を皿にして見張りをしていれば如何思う?
「何故哨戒にと怪しむ……」
「分かったか」
誰の目にも可笑しく映るだろう。天狗の姉ちゃん達の耳にも其れが届き動けば出会えるやもしれぬ。
「誰が敵が味方か分からぬ今頼れるのは姉ちゃんだけだが、其れ位向こうも分かっているだろう。お前の遠見の力で全ての天狗を避け天狗の姉ちゃんに出会う」
「猫の首に鈴を付ける、ですね」
「窮鼠猫を噛むという諺も在る、ならばやってみようではないか」
敵か分からぬ故に怪しいと思う天狗を避け一人を探し出す、難しいだろう。だが可能性は少なからず有る。さっさと見つけて落ち着ける所で休みたい。
先に行っておくが、手は出すなよ?面倒事は避けるに限るのだからな。
二人移動中…
森を進み林を進み、妖怪の山へと向かう。其の道の途中で烏天狗が何度か通るのを見つけ、気付かれぬ様にと木々の影へと隠れる幾度か。肝を冷やす場面が有ったが其れでも見つかる事は避け、妖怪の山の近く迄やってきた。
「一旦休憩にしよう、疲れた」
「まだ動き始めて半日も経っていませんよ」
「精神的に疲れたのだ」
昼頃に起きた俺を待っていたのは蒸し暑い中を歩き続けるという地獄であった。鍛錬を重ねていなければ道半ばにして折れていただろう。だが昨日の今日、精神的な疲れは積もるばかり。良くぞ此処迄やってきたものだと自分を褒めたい。
「最後に飲んでおくか」
「酔って上手く立ち回れませんでした、では済みませんよ?」
「緊張して動けませんでした、でも駄目だろう?」
「ああ言えばこう言う、そもそも緊張などしていないでしょう」
「おいおいおい、こんな俺でも緊張する事は有る」
排他的な妖怪の山へと侵入するのだ緊張しない訳がない。許可無く入るおかげで昨夜の連中だけではなく他の天狗も避けなくてはならない。
「だからこそ落ち着かなくてはならない。お前も飲むか?」
グラスへと注いだ酒を一息で飲み干す。空になったグラスへ残った酒を全て注ぎ居候へと渡す。
「……頂きます」
ごくりごくり、まるで俺の真似をする様に一息で飲んでしまった。今迄ちびりちびりと飲んでいた筈だが。
「貴方が一気に飲んだのに私だけちびちび飲むのは変でしょう」
「何が変なのだ」
「気にしないで下さい」
奴の中では俺に分からぬ考えが在るのだろうか。
酒を飲み干した、やり残した事は無い。瓶とグラスを包み込み座り込む岩の元へと置く。
「邪魔になる物は置いておく。全てが終わった後にでも取りにくれば問題は無い」
「離れた位置に天狗を発見、哨戒が近付いてくる前に移動しましょう」
「分かった」
伸びをしながら妖怪の山へ目を向ける。
【妖怪の山】
幻想郷に存在する山々の中で一回り、いや其の何倍もの高さを誇る富士の山よりも大きな山。其の正体は木花之佐久夜毘売、木花咲耶姫によって崩されてしまった八ヶ岳である。
其の昔、鬼を始めとした数々の名だたる妖怪達が住む此の国屈指の妖怪の居城であった。だが鬼達は地上から去り、今は天狗達が統治を行っている。鬼達が居なくなって以降規律を重んじる排他的な山へと姿を変え、幻想郷の一角を担っている。
「山の頂へと神が神社を置いた事で更に外へと警戒を強めている、なのに其の渦中へと向かおうとしているのだから笑えるな」
一歩間違えば死ぬのだから笑えない、だが笑わなくてはやっていられないのだ。そんな俺の心情を察しているのか分からぬが何も返そうとせず、淡々と辺りを探る居候。悲しいかな。
「哨戒天狗は鼻が利くが、大丈夫なのか?」
「一定の間隔を空けて回っていますからね、私達が通り過ぎた場所にやってくれば気付かれるでしょう」
「気付かれる前に見つけだすと?」
「ええ」
今更なのだが、もう少し安全な柵はなかったのだろうか。もう少し考えていれば見つかったかもしれんな。
考えれば考える程に此の作戦の穴が見えてくる気がする。
「此の案は失敗なのかもしれんな」
「もう踏み込んでしまったので後戻りは出来ませんからね」
見つけてやるぞと意気込みやって来た訳だが……何とか成るのか?
たった一杯で酔える訳もなく、沸々と湧いてくる不安を抱きながら慎重に進んでいく。
「天狗の姉ちゃんを見つけるとは言ったものの、如何やって見つけるのだ?」
「あの方の家へ向かおうかと。仕事場を兼ねている住まいにならば居る可能性は高いでしょう」
居ない場合、若しくは向かう事の出来ぬ場合には天馬様へと会いに行く。そう言われある考えが浮かぶ。
急いてはいたが、こういったやり取りを先にしておくべきであった。
滅多に空く事のない穴が空いてしまった為に決行した。こういった話は自然に済ませ、始まってしまった後に行うのは間違っている。
「嘆いている暇は無いですよ、せめて周りを警戒してください」
「……何故こんなに粗が在る、いや粗しかない計画を決行したのだ?」
「怯えて隠れ、見つかる迄息を忍ばせる。何故私達が其の様な事をしなければ……」
見つかるまいと小声で話してはいるが其の言葉の節々から怒りが滲んでいる。頭を軽く叩き顔を此方へと向ける。
「憤慨する気持ちも分かるが抑えろ、気付かれたいか?」
「……済みません」
漏れる殺気に苦言を呈し深呼吸を行わせる。幾分か冷静さを取り戻したが眉間に寄った皺は全て無くなる事はなかった。
二人登山中…
あれからかなりの時が経った、蒼き天へと昇り熱線を無駄に振り撒いたあの忌々しき太陽も今では地平線の向こうへと消え掛けている。
「見張りは何をしていた!」
「哨戒の隙を突いたのだろうな」
「警戒を強化しろ!何処に居るか分からぬぞ!」
居候の先導により白狼天狗達が住む中層を何とか抜ける事に成功、いよいよ烏天狗達が住むとされる上層迄やってきた。
やってきたのは良いのだが……。
「まさか我等の領地へと侵入するモノが居るとは」
「此処迄来ているのか?」
「お前達!話してないでさっさと動け!」
「気付かれましたね」
「後少しなのだがな」
少し前から空気が重くなり騒ついていた。気付かれたと焦ったものの向こうは向こうで焦ったのか鳥と狼で揉めていたとか。故に白狼天狗が居る中層烏天狗が居る上層、連携が取れず其の間だけは警備が緩くなり目的の場所へやってくる事が出来た。
「……疲れた」
草叢の中での休憩、地面へと座り込めば疲れが一気に噴き出し身体に重く伸し掛かる。戦場を駆けずり回っていた時とは違った緊張が長時間続き精神は擦り切れる寸前、汗は滝の如く流れ落ち身体中がべたつく。其れでも投げ出す事なく登る事が出来た事に自分の事ながら驚いている。
「人間は自らの力によって肉体に負担が掛かり怪我を負ってしまう、其の為に脳が制限を掛け力を抑えているという」
「自分も此の局面によって抑えられた力に目覚めた、と?」
人間と同じ様な構造なのだから、そう成っていても可笑しくはないだろう。若しや大妖怪と呼ばれるモノ共は自らの力を解き放った存在なのかもしれん。
「そうなると貴方は其の仲間入りをしている事になるのですが」
「其処迄自分の力を過信してはいない。飽く迄そうかもしれぬと云う自論だ」
そう簡単に抑えられた力を解き放つ事が出来る訳ではないだろう。其れだけで大妖怪と肩を並べる事など出来ぬだろう。
「そも抑えられている力が在るかも分からぬのだからな」
「自分で在るかもと言っておきながら最終的に無いかもしれないと?」
「無いとは断言してはいないだろう、在るかも分からぬがな」
彼方此方で声を荒げ駆け回り、遂には翼を広げ空へと駆けていく天狗達。未だ此の場に残るモノも居るが白狼天狗が居ない今が動く時。
「では行こうか」
「先導は私ですがね」
重い身体に喝を入れ腰を上げる。中腰になり草叢を進み、木々の影を縫っていく。見えてきたのは高い塀であった。山をぐるりと囲んだ其の向こうからは複数の動く気配と声が聴こえてくる。
「中はどの様になっているんだ?」
「規則正しく長屋が並んでいますよ。風紀を乱さぬ様にと全ての家が同じ造りに成っているので外から見ると見分けが付きません」
「知らぬかもしれんと思っていたが知っていたか」
「報告書の提出等でやって来ますからね」
此の塀を越えた先に天狗の姉ちゃんが居る、だが他の天狗達も居るだろう。見つからずに見つける事は出来るのか。
「無理ですね」
「無理とは?」
「言葉通りです。恐らく見回りだ何だと其処等中に居るでしょう」
「ならば天魔の所へ向かうのか?頭を護れと天狗達が集まっているだろう」
天魔とやらの実力が分からぬが頭領を護らぬという訳にはいかんだろう。護を固めて待ち構えているのでは。
「天魔様の住居は烏天狗の住居の奥、山を登った先に在るとされています」
「其の為には塀を上り天狗達を越えなくてはならぬ、ならば近い天狗の姉ちゃんの家へ向かえば良いではないか」
危険を冒して天魔の元へ向かうよりも一天狗である姉ちゃんの元へ向かう方が安全なのでは?
「其れは天魔様が本来の住居に居ればの話です」
「本来の住居?」
思わせ振りな言葉を口にし塀へと向けていた目を此方へと向けてくる居候。そして後ろを向き歩き出した。其の後に続き付いていくが、目的地だと言われていた場所から離れていく事を疑問に思い声を掛ける。
「何処へ向かうのだ」
「天魔様の元へ」
「先程の本来の住居という言葉から察するに、別に住む場所が在るのだな」
「ええ」
天魔は静寂を好むらしく、仕事が終われば別宅で休むのだと云う。
普段は仕事が終わらなくては帰らないが、居候の問題が起きている間は患部を含めた他の天狗達には内緒で別宅で待機しているのだとか。
「静寂を好む、如何やら気が合いそうだ」
「期待はしない方が良いですよ」
「性格が悪いと?」
「そういう訳ではないのですが、独特な雰囲気の方だとか……」
一般天狗達の前に姿を見せる事の無い存在。噂程度にしか其の存在を知る事の出来ぬ。だが知り合いが天魔と良く合う事で色々と知ってしまったという。
「想像と違ったと?」
「気高き崇高な方だとばかり……」
肩を落としそう語る姿を見ればかなりの衝撃であったと容易に分かる。
「彼処が天魔様の別宅です」
「ほう、随分とこじんまりとした家だな」
「……粗相を働かないで下さいよ」
「分かっている」
豪奢な屋敷でも在るのかと思ったが人里にも在るありふれた一軒家がぽつんと建っていた。
「依頼を頼んだ側とは云え馬鹿な真似はしないで下さいよ?」
「何度も言わなくても分かる」
「本当に気をつけて下さいよ?」
「其処迄信用が無いか……」
周りに気を配りながら慎重に進んでいく。さてさて、如何なる事やら。
5618文字、普通だな!
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A.
Q.
A.
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A.
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