有象無象妖怪譚   作:命楼

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一週間ぶりの投稿です。
最近珈琲に嵌ってるゾ、でも砂糖ミルクをドバーッと入れるぞ(子供舌)


第二十六話【此れにて終演で御座います】

 夕暮れ時、辺りを照らしていた太陽が沈み始め涼しくなってきた頃。額から流れる汗を拭き取り一つ深く息を吐き出す。疲れた、だが漸く此処迄来たのだ。

 

「匿う側のモノが依頼してきたモノに匿ってもらう事になるとは」

 

 長かった。家を離れ、追っ手に怯え隠れ、妖怪の山を登り、天狗の長の家迄出向く。

 

 長かった、実に長かった。

 

 

「ズケズケとよく入る事が出来ますね」

「此処迄来て其れを言うのか」

 

 門を前にして如何するかと戸惑っている居候を無視し、敷地の中へと足を踏み入れてしまっている、今更である。

 だがそうなるのも無理からぬ事だろう、鬼と肩を並べると言われる天狗の長に会おうというのだから緊張するというもの。視線を前に戻し上を見上げる、目に飛び込んで来るのは高い壁。

 吸血鬼の屋敷程大きくはないが、我が家とは比べるのも烏滸がましい程には大きい。一介の妖怪がそう簡単に入るべき場所ではない。

 

「……不安になってきた」

「此方が依頼した側、貴方はどっしりと構えていれば良いのです。でも不用意な行動や発言には気を付けて下さい」

「菓子折りの一つでも持ってくるのだったな」

 

 軽口を叩きながらも真っ直ぐな石畳を進み、整えられた庭を横目で眺め建物の出入り口へと向かう。

 

「……居るな、其れも複数」

「此処を問題を解決する迄の作戦本部なるものにしているとか」

「作戦本部?」

 

 山に登り始めてから初めて聞く事の多い事多い事。事前に知っておくべき事を後から聞くのは……まぁ今は良い、漸く此処迄来たのだ逃走劇も此れにて終演。

 

 

 トントン、戸を叩く音が響く。少しの間を空け此方へ向かってくる気配を感じた。

 

「誰方かな?」

「……俺は此奴を匿えと天狗達に依頼されたモノだ、天狗の長に会いたいのだが」

「ちょっと、いきなり何を言い出すんですか。もっと手順を踏んで、いや如何して来たのかを言わなくては」

 

 早くに終わらせたいと少し焦り過ぎたか。俺を押し退け居候が後を引き継ぎ話をする。

 

「実は私がお世話になっていた此の方の家が襲撃を受けたのです。其れを知らせる為にと天魔様の元へとやってきました」

 

 居候に背後へ追いやられ、分かり易く手短かな話を聞きながらも出て来た天狗に目を向ける。

 

 何を食えばこうなるのだ、其れしか頭に浮かばん。其れ程迄の巨体であった。

 

 唯背が高いのではない、服の上からでも分かる程に筋骨隆々としている。服を押し上げ威圧感を醸し出す迄に発達した筋肉。其の堂に入った立ち姿も相まってなかなかに様になっている。此れ程に鍛え上げられた肉体を持った存在は記憶の中には両手の指の数も居ないだろう。

 

 まさか此の様な女性が居るとは。

 

「ほうほう、数で劣る中を良くぞ切り抜けた。そろそろやって来る頃だと思い飯や風呂の支度をしておる。先に汗を流すと良い」

「あ、はい分かりました。…………?」

 

 此方を気遣ってくれるとは有難い、妖怪とはいえ肉体的にもかなりの疲労が溜まっている。御言葉に甘え早速風呂に入ろうか。

 

 …………………………………………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人入浴中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 順番に風呂へと入り身を清め、新たに用意された浴衣に袖を通し大広間へと通された。

 

「落ち着かんな」

「ぬ?其れは済まんな」

「だから、無遠慮過ぎますって」

 

 ぐるりと部屋を見渡す。金箔が惜しげもなく使われた襖が左右を塞ぐ大広間、右には居候が座り二畳先に綺麗に正座する大女。落ち着かんな。

 

「落ち着かんな」

「だから貴方は……」

「広過ぎたか?客を迎え入れる部屋は全てこの広さだ、目を瞑ってくれ。飯が冷えてしまう、食べてくれ」

 

 二人の目の前に置かれる豪華な料理、仕方ないかと箸を手に取りいざ食べ──。

 

「──落ち着かんな」

「だから貴方は──」

「──ほう、気付いていたか」

「言っていただろう、落ち着かんと」

 

 箸を持つ手を止めて左右に視線をやり、最後に天井へと視線を向ける。右も左も襖のみ、上を向こうと高い天井しか見えん。

 

「だがこう露骨に視線を向けられては馬鹿でも気付くというもの、お前だって気付いていただろう?」

「……ですがそう簡単に邪魔だとは言いません」

「肝が据わっておるのだな?」

「此奴には言ったがな、食事は静かに食いたいのだ。だが静かな場所とはいえ大勢に見つめられながらなど嫌であろう?」

 

 肩を竦めそう言えばカッカッカッと笑い辺りに声を掛ける女天狗。瞬きを終えた時には周囲には多数の天狗が控えていた。

 片膝を付き不動の天狗達、其れに離れていろと声を掛ければ足音を立てる事なく去っていく。あっと言う間の出来事に呆然としてしまったが此れで食事が出来る、箸を再度動かし料理を食べていく。

 

「控えていたモノに気付き、周りを囲もうと全くと言って良い程に動揺せず。鬼と戦い生き残ったと話していたそうだが、其れは真なのかもしれんな?」

「……天狗の姉ちゃんから話を聞き出したのか?広めるなと言っておいたのだがな」

「何者なのか知ろうとするのは仕方のない事だろう。だが彼奴は約束だと話そうとしなかった。其れを無理矢理聞き出したのだ、彼奴を許してやってくれ」

「……分かった」

 

 驚かぬ訳がないだろう、其処に居るのだと知っていたからこそ顔に出せずに済んだが、いきなり現れられては驚く。

 話が一旦止まり、其の間に飯を食う。行儀良く食べろと隣から言われるが知らん。其れから幾つか質問をされ其れに返した。

 少しして飯を食い終わった。まだ食い足りぬと腹が欲するが何が起こるか分からぬからと言い聞かせる。

 

「其れでは本格的に話を始めようか、聞きたい事は有るかのう?」

「先程『そろそろ来る頃だと思っていた』と言ったな?山への侵入者が俺達だと知っていたのか?」

 

 其れならばもっと楽に此処へやってくる事が出来たのでは、そう思わずにはいられん。

 

「誤解をしているようだ」

「誤解?」

「左様、大方『家が襲撃を受けた事を後から知りやって来ると予想を立て待っていた』とでも思っているのだろう?其れは誤りだ」

 

 何をしようとしたのかを話された、簡単に纏めると。

 

 一、襲撃を受けるという事は事前に知っていた。

 二、今動き隠れられては困る。故に泳がせた。

 三、襲撃が起きた後に潜ませていた部隊を投入。

 四、愚か者を捕まえる。

 五、後は二人を保護するのみ。

 

 という事になる。

 

「だが予想外の出来事が起きた」

「予想外の事?」

「嗚呼。先ず一つ、火を放った事だ」

 

 まさかいきなり火を放つとは、俺も思わなかった。急いで制圧し消火作業を行ったが、俺達二人を見つける事は叶わなかったという。

 其れはそうだ、其の時には既に逃げているのだから。

 

「唯一無事であった蔵の中にも居らず。其処から見つけた地下へと続く穴を通り地下へと向かったが、結界が張られる部屋が在るだけ。呼び掛けても応答が無かったからな、無理矢理こじ開けさせてもらった」

「だが其処には居なかったと」

 

 保護する事が出来なかった事が第二の予想外。地下倉庫を抜け地上へと出たのではと考え辺りを捜索するが、発見出来ず煙の臭いで追跡も出来ず。

 

「此処で一つ案が浮かんだ、待てば良いと」

「……」

「そう睨むな、内部の統制を取る為にも必要だったのだ。其の間に尋問を行い膿を出し切れた。一石二鳥、いや三、四鳥だな」

 

 一部のモノ以外には解決したと伝えず普段通りに警戒をさせる。哨戒に名乗り出た烏天狗や可笑しな動きを見せるモノを捕らえ、尋問し更に仲間を見つける。俺達が来るギリギリに終わったと言うがもし早くに来ていれば、危なかったかもしれんな。

 

「如何にも気に食わぬ事、知りたい事が有るが……まぁ良い。きっちりと金を払ってくれればな」

「だからもっと下手に出てくださいって!」

「カッカッカッ!物怖じせぬ其の姿勢気に入ったぞ。其れに深くは踏み込もうとしない所もな。そうだ、腕の良い職人に家を建てさせよう。其れだけではない、家具やら何やら燃えてしまった分も支払おう。勿論依頼報酬も忘れてはいないぞ?」

 

 ならば良い、きっちりきっかりと払って貰えるのなら構わん。囮擬を演じる事になった事も家が燃えた事も、汗水垂らして山登りを決行した事も忘れよう。

 

「割と気にしてますよね?」

「……そういえば、もう解決したと言わんばかりの物言いだが。未だに隠れているという事はないのか?」

 

 二度有る事は三度有る。又しても此奴が襲われる、何て事にはならんのだろうな?

 

「全員捕まえたさ。情報を引き出す為に専門家を態々呼び出したのだ、確実だ」

「専門家?」

「あまり外のモノを、然も地底のモノに協力を仰ぎ迎え入れるのはと反対されたが……お前さんに預けている時点で何を言っていると一蹴してやったわ」

「……」

「山の中へと招いたのは旧地獄を纏める悟り妖怪の小娘だ。心の内を覗かれるのは色々と拙いが背に腹は代えられぬ。膿は出し切らなくてはならない」

「悟り妖怪ですか。噂にしか聞いた事がないですが、思考を読まれるのは怖いですね」

「地底のモノだが、そう争いを起こそうとする様な性格はしていなかったな。大人しい奴で助かった。其れでは報酬の話に入ろうか、お前は下がっても良いぞ?」

「あ、はい。分かりました。あの、長い間お世話に貴方のおかげで安全に過ごす事が出来ました。有難う御座いました。再度お伺いします、其れでは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人談話中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山だけではなく、外のモノを巻き込んだ事件は地底の妖怪の力を借りる事で全てが解決した。だが払った犠牲は大きい、我が居城は燃え尽き城跡には一部を残し残骸が残るだけとなっていた。

 腕の良い職人に家を頼んだから楽しみにしていろと言われたが、珍妙な物を建てられては困ると其の職人と会う事にした。したは良いのだがそこはかとなくではあるが、嫌な予感がし断念した。

 

「何が有ったか知らないが。お兄さん、随分とお疲れな様子。如何だい、ウチで疲れを癒して行かない?」

「すまんな、今は──」

「──あぁ!お兄さんやないの!又来てくれたんか!?」

「いや、偶々通り掛かっただけで──」

「──そんなツレない事言わんでも〜お兄さんに媚び売っとけって店長が煩くて煩くて。私を助けると思ってお願い〜?」

「……安くなるのか?」

「足りなかったらツケでもええよ〜」

「……はぁ。仕方ない行ってやる」

「ほんまに!いっぱい飲んでいってな〜。お兄さんには助けられた恩も有るからいっぱいサービスしてあげる〜」

 

 報酬金やらを受け取った後、酒や何やらを振る舞うと言われたが丁重に断り家へと帰った。燃え尽きた残骸を踏み越え蔵に入り、地下へ向かった。結界が壊され剥き出しとなった地下倉庫内に鎮座する金庫の中へと少しだけ手元に残し、其の殆どを放り込んだ。

 

「ぬ、引っ付くな動き難い」

「胸を当ててるんよ?もっと驚いたりして反応してくれても〜」

「阿呆」

 

 少しの金を持ち人里へとやって来たのだが、客引きに声を掛けられ遊女に捕まった。久し振りにと顔馴染みの居酒屋を巡り廓の前を通り掛かったのが運の尽き、安くなりツケも利くと言われては行かない訳にも行かぬ。

「むふふ〜」

「……はぁ」

「ん?お兄さん如何したん?」

「此処に来る前に一仕事終えたのだが、其の疲れがな」

「其れじゃあゆっくり飲んで疲れを癒して行ってな〜」

 

 仕事だから、とは思えない程の笑顔。純粋な好意を向けられては断る訳にもいかぬだろう。

 

「あ、お兄さんや〜」

「来てるなら私を指名してくれても」

「今度はウチを呼んで〜」

「お前達は他の客の為に待機しとけ言うたろ」

「「「は〜い」」」

 

 香水やら酒やらの甘ったるい匂いが充満する店の中、あっちこっちで客を待つ遊女達に声を掛けられる。先に店の中へと入って行った客引きの男が散れと言うとそそくさと去っていく。

 店の中を進み、階段を上がり、広い部屋へと通された。びっぷるうむと言われる特別な客の為の部屋だと教えられたが、他の客の声が届かず静かに飲めるのは有難い。

 

「……邪魔なのだが」

「え〜ツレない事言わんでもええやん。お兄さんが偶にしか来ないから寂しかったんわ毎日来てもええんよ?ウチは大歓迎や」

「毎日来たら有り金全て消し飛ぶぞ」

 

 座るや否や俺へしな垂れ掛かる遊女に邪魔だと告げるが話を逸らされてしまう。無理矢理引き剝がし酒を準備させる。初めの頃は他の遊女の様に酌をして話を聞いてきたのだが、時が経つに連れ距離が近くなり何時しか密着する程になっていた。少しずつ近付いていた故に気付く事が出来なかった。今ではべったりと身体をくっ付けて来て正直言って、暑苦しい。

 

「其れじゃあお兄さん、かんぱ〜い!」

「おう乾杯」

 

 注がれた二つのグラス、一つを手に取り一息で飲み干す。流れ落ちる酒が喉を焼き心地良い。此れで五軒、いや六軒目になるか。

 硝子張りの天井の向こうから淡い光を放つ月を見上げる。新たに注がれた酒に口を付ける。

 

「如何しましたん?」

「お前が言った通りに、ゆっくりと飲もうと思ってな」

 

 今度は一度に飲み切る事はせず、少しばかり飲んだ程度でグラスを下げる。

 ちらりと、頭に疑問符を浮かべた後明るい笑顔を浮かべ同じ様に酒を飲む遊女を横目で眺め再度視線を上げる。

 

 やっと終わったのだ。




5238文字、普通だな。
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