有象無象妖怪譚   作:命楼

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二ヶ月振りの投稿です。
忙しスギィ!


第二十九話【鍛錬、鍛錬、食事】

「此処で休んでいても良いのか?」

「ん?まぁ良いんじゃないですかね」

 

 食い倒れた門番を抱えやってきたのは先程背を預け休んでいた木であった。門から離れた其の場所で休んでも良いのかと問えば、随分な返事が返ってくる。其れで門番が務まるのか。

 

「侵入させぬようにする、確かに其れも仕事です。でもあの障壁が張られているおかげで侵入など出来ない、そんな輩を排除するのが私の仕事なんですよ」

 

 まぁそんな機会自体が少ないんですけどね、空を見上げながらあっけらかんと答える門番。

 其の殆どの時間を来るかも分からぬモノの為に立ち続ける、周りは霧が立ち込めて景観も在ったものではない。何もせずというのも苦痛でしかない。

 

「退屈な仕事も考えものだな」

「慣れれば案外いけますよ。暇ならば鍛錬を行えますから」

「脳味噌まで筋肉で作られているのか」

「むぅ、庭仕事もしてますよ」

 

 退屈で面倒な仕事だな。

 

「此れがなかなか楽しいんですよ。変わらない景色の中に新たな発見をする事がありますし、庭の手入れって奥が深いんですよ」

 

 聞いていない事を良くもまぁ自慢気に話せる。自らの仕事を誇りに思うのは良いがな。

 門番が動ける様になる迄灰色の空を見上げながら会話を続いた、動ける様になる迄はそう時間は掛からなかったのだが。

 

「其れでは!午前の続きをやりましょう!」

「元気だな」

「お腹一杯!元気いっぱい!」

「……」

 

 満面の笑顏を浮かべる姿はまさに童子。少し苛立つ、が其れを噯気にも出さずに構える。隙だらけの様でいて其の実此方の隙を窺っているのだから。

 

 此方が警戒をし解かないだろうという事が分かったのか、あっけらかんとした装いを脱ぎ去り、其の下でひっそりと忍んでいた獣が姿を現した。先程の友好的な笑みは鳴りを潜め、好戦的な笑みが浮かぶ。

 

「先程の続きではなかったか?」

「過負荷によって身体は鍛えられる……」

「……」

 

 満月どころか星すら浮かばぬ昼の内から昂ぶっている。下手をすれば大怪我は免れぬと瞬時に理解した。

 

 逃走は不可。ならば闘争以外に道は無し。

 

「じゃじゃ馬かと思っていれば猛獣の其れであったか。いやはや、全力で戦うのは避けたいのだがな──」

 

 ──ッ。

 

「いきなりか!」

 

 半身になる、襲い来る拳に逆らぬ様に身体を腕に沿わせ回転する。勢いの儘に蹴りを放つ──。

 

「──やはりか!」

 

 普通ならば、拳を放った体勢から避ける事は不可避。だが此奴は普通ではない。横っ腹へと放たれた蹴りを、先程迄伸び切っていた腕が防いでいる。高い身体能力と反射神経によって生み出される高速の反応。腕一本でやってのけるのだから此方は堪ったものではない。

 地面を滑り離れていく門番から放たれる弾幕を隙間を縫う様にして距離を取る。

 

「ッ!」

「うぉっ!?」

 

 一瞬の内に距離を詰め容赦なく放たれる攻撃を時には避け時には受け流し続ける。一瞬でも隙を見せれば危険、故に限界を超える動きで避けなくてはならん。

 此方からも拳を放ってみるが容易に防がれ投げ飛ばされる。地に手を着き再度宙へと飛べば一瞬前に居た場所へと弾幕が突き刺さる。

 

「覇ァ!!」

「ぬ、ぉ!?」

 

 悪寒を感じ屈む、頭上を何かが畝りを上げて通り過ぎる。冷たい汗が背中を流れていくのを感じながらも、先の攻撃について思考を巡らし昔何処かで聞いた話を思い出した。

 

「離れた距離から拳を当てる技が有ると聞いた事がある。習得は至難の技ともな」

 

 当たっているかと問う。だが返ってきたのは言葉ではなく見えぬ拳であった。横に跳んで避ける。

 

『高速で突き出される拳によって空気を打ち出すもの也』

 

 そう教えられた。特別な力を使わずに技術のみによって生み出される攻撃、其れが拳圧。空気を撃ち出すという特性故に視覚と聴覚でもって察知するしかないという。身体能力が秀でているとは言い難い俺では拳が突き出される向きを見て避けるしかない。

 

「フッ!」

「ぬォッ!?連打は卑怯だろうグヘァ!」

 

 一撃だけでも神経を擦り減らし何とか避けていたというのに。

 

 吹き飛び、転がり、仰向けに倒れる。身体中に痛みが走る、此の侭転がっていれば……。

 

「おいおいおいおい、殺す気か」

 

 天へと向けた視界の先、霧の空に浮かぶ無数の光。今か今かと此方を狙う光の群れの中で飛ぶ門番。

 立ち上がり背負っていた鞘から小太刀を抜き、両手で鍔を確と握る。

 

「決死の覚悟で挑めという事か?死なぬ程度に足掻いてやるから、其れで勘弁してくれよ!!」

 

 地が砕ける程の力で地を蹴り空を往く。殺到する弾幕、其れを空を蹴り縦横無尽に避け続け拳を構え待ち受ける門番へと向かう。

 

「オルァッ!!」

「ッ!!」

 

 振り下ろされる拳、振り上げられる剣。互いの獲物が交差する──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空へと飛び立ち決着が着いたのは一刻程経ってからであった。結果から言えば、細々とした傷が複数、其れから一太刀浴びせる事が出来たのみ。だが弾幕と格闘の合わせ技には敵わず敢え無く堕とされた。襤褸雑巾の様になり倒れる俺の元へ汗を拭いながら満足気に笑う門番がやってきた。

 

「いや〜良い汗掻きましたね〜!」

「ハァハァ……お前、良くもまぁ、真面に動けるな……」

「体を動かすのには慣れてますから疲れには強いですよ!」

「いや其方ではなくてな」

 

 門番の顔へと向けていた視線を下へと動かす。

 

「其の傷で動いている事に驚いているのだがな」

 

 酷い有様である。左肩から右脇へと斜めに斬り裂かれた事で、血が溢れ出て服を赤く染め上げている。真剣を用い、殺す気で斬り裂いた。

 決死の覚悟で挑み一太刀のみ、たった一太刀だけ届いた。一撃だけど侮るなかれ、其の一撃が此れ程迄の傷となるのだ。

 

「戦っている間は気になりませんでしたが、終わってみるとかなり痛いですね」

 

 素人目に見ても立っているのが可笑しい怪我だというのに何でもない様にされては此方の立つ瀬が無くなってしまう。

 

「冷静に感想を述べている暇が有るのなら傷を如何にかしろ」

「今、気を練って塞ぎました」

 

 傷を塞いだからといって今の今迄流れ出た血は戻らんだろうに。もしや気で血を作り出したと?其れならば俺も気を身に付ける他無い。

 其方こそ大丈夫なのか、そう視線を向けてくる門番に平気だと告げる。

 

「嘘ですね」

「……」

 

 だがあっさりと見抜かれた。体内を巡る気と妖気が如何たら、あれ程の攻撃を受けたら如何たら、懇切丁寧に伝えてくる。襤褸にされた俺の心迄も襤褸へと変えようとするなと額を指で弾けば可愛らしさの無い呻き声を上げて倒れた。

 額を押さえ恨めしそうに此方を睨む門番を無視し、手元に無造作に置いていた刀を手に取り立ち上がる。

 

「あまり動かない方が」

「此の程度、鬼に殴り飛ばされるよりも軽い」

「強がらなくとも」

「煩い」

 

 やられてばかりでは示しが付かぬ。まだ動けるぞと強がらせてもらおうか。

 

「素振りでもするのですか?」

「闘影をやろうとな」

「トウエイ?」

 

 何も知らぬモノには分からんだろう。驚く顔が見たいものだ。

 目を閉じ、心を落ち着かせる。意識を集中させ、像を思い浮かべる。虚なる像を生み出すのみ。

 

「其れでは見せよう、闘影を!」

「……?…………え、えぇ!?」

 

 目の前に現れるは我が強敵である蟷螂。其の巨軀に見合った全てを刈り取る死神の鎌が、並々ならぬ威圧感を醸し出す。無意識的に強きモノを生み出す迄に至った為に、油断していると大怪我は必須。故に油断無く、慢心せず、戦うのみ。

 

『ッ!』

「うぉッ!?」

 

 やるか、そう思い至った時には振り下ろされていた鎌を斬られる寸前で避ける。襤褸と化した衣服が更に襤褸と成る。修繕を行うのなら雑巾にでもして新たな服を買った方が良いだろう、其れ程迄に酷い有様である。

 

「いやいやいや、何が起こっているんですか。いきなり現れたのですが」

「仮想の敵を想像する影との闘い、其れが闘影だ。ぬぉッ!」

 

 立ち上がりから臨戦態勢となった門番に手短に教えてやる。だが蟷螂は其の隙を見逃す訳もなく、鎌を振るい命を刈り取ろうとする。

 

「貴方が仮想した敵ならば私には見えないのでは?」

「知らぬ、何故か、周りにも、見えてしまう、のだから、なッ!」

 

 鎌を蹴り飛ばし後方へと大きく跳ぶ。何故周りにも見えてしまうのか?其れを知りたいのは俺の方だ。能力も妖力も使わぬ筈の想像の敵が、質量を持ち周りにも見えるようになる。

 誠に奇怪、何も分からぬ。故に深く考える必要はない。唯迫る敵を切り捨てるのみ。

 

『キシャアッ!』

「やはり駄目か!」

 

 懐へと潜ろうと駆け出す、だが向こうも同じ様に地を駆け迫る。互いが互いに近付く事で、攻撃が振るわれる前に敵が目の前にやってくる。

 

「重い!」

 

 振り下ろされる大釜を受け流す小太刀から伝わる凄まじさに全身が軋む。地へと減り込む鎌を無視しもう片方の鎌を見れば天へと伸ばされ振り下ろされる寸前。其れすら無視し懐へと踏み込み斬り付ける。

 

『ギャシャァァァアアァアアァァ!!』

「貰ったァ!!」

 

 腸を撒き散らし踏鞴を踏む蟷螂の頭を切り落とせば空気に溶ける様に消え失せていった。今迄の疲れが押し寄せ思わず倒れ伏す。荒い息を吐きながら視線を向ければ呆然と此方を眺める門番。

 

「此れが闘影だ」

「はぁ……凄いものを見させてもらいました」

「動けぬ、少しの間眠らせてもらう」

「傷の手当は要りますか?」

「要らぬ」

 

 其れでは此れで、そう言い門番は館の中へと戻っていった。

 大の字になり、空を見上げてみるが相も変わらず雲が天を覆い隠すのみ。目を瞑り意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男妖昼寝中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お早う御座いま〜す」

「ぬぅ……」

「お早う御座いま〜す!」

「ぐぅ……」

「お早う御座いま〜す!!」

「むぅ……」

「お早う御座い──」

「──煩い!」

「ぐびゃ!?」

 

 響く声が聞こえる方へと拳を放てば甲を伝わる感触と間の抜けた声が聞こえる。上体を起こしてみれば顔を押さえ蹲る門番が。べたつく汗を流そうと歩き出せば背後から声を掛けられる。

 

「起こしに来たのに此れはあんまりです」

「起こし方を考えろ」

「御尤も。其れで何方へ?汗を流しますか?」

「そうだ。用が有るのだろう?」

「そうです!夕食の時間ですよ」

 

 お腹が空いて倒れそうです!そう大声で言う門番無視し風呂場へと向かう。

 伽藍堂と化した水音のみが反響する風呂場にて汗と汚れを流していく。湯船に浸かりぼんやりと天井を眺めながら本来の仕事について考える。

 

「……………………何も思い付かぬ」

 

 疲労と空腹により考えは纏まる事はなく、飯はまだかと鳴く腹の虫に引かれ湯船を出る。

 

「待たせたか」

「いえ、其れでは行きましょうか」

 

 新たな服に袖を通し風呂場を出れば壁に寄り掛かる門番が。待たせてしまった様である。今日の料理はどんな物が出るかと予想を始める門番の言葉に耳を傾けながら先を行く。

 

「分かっていたが今日も今日とで此の有様か」

「直ぐに慣れますよ。其れでは!」

「置いていくな」

 

 妖精の群れの中へと向かう門番の後に続いて踏み入れる。熱気と共にぶつかってくる無数の妖精に遮られ、飯を確保する頃には疲れ果てた。一方門番は満面の笑みを浮かべテーブルへと着いている、眩暈を覚えながらも空いた椅子へと腰掛け飯を食らう。

 

「頂きます」

「頂きます!」

 

 汚くはないが上品さの欠片も無い食事風景に食欲が失せてくる。パンを千切り一口食べる。柔らかな食感と甘さが口に広がっていく。

 

「ゆっくり食べていると次のグループが来ますよ」

「これ以上喧しくされては真面に飯を食えなくなるな」

 

 周りの騒がしさと目の前の女食べっぷりに辟易としながらも食べ始める。

 其れにしても此処は落ち着かん。飯は静かに食いたいものなのだが。

 

「そういえば昼間のあれは本当に何なんですか?トウエイと呼んでいたあれです」

「仮想の敵を生み出すというものだ。空想故に強さを調整する事が可能、怪我もせず、だったのだがな……」

「何故か周りにも見えるし触れる事が出来ると。何も感じ取れない所を見るに質量を持った幻影と言った所でしょうか」

「そうだな……食うのが早いな」

 

 此方が持ってきた量の二回り程盛ったあの山を何時の間に食べ尽くしたのか。

 

「まぁ私達自体が幻想ですならね〜。幻想が形を成す此の地故に生まれたのかもしれません」

「そういうものか」

「貴方の能力、という訳ではないのですよね?そういえば貴方の能力を知りませんでしたね〜」

「……」

「えぇ〜共に汗を流した仲なんですから教えて下さいよ〜」

「時が来れば教えてやる」

 

 お盆を手に持ち台所へと向かう。後ろから声を掛けられるが無視を決め込み片付けに行く。




5008文字、普通だな。
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