聖夜と呼ばれる日、親睦を深める為に食事会を開くからお前にも来てほしいという誘いを受け『金が其方持ちなら良い』とやってきてしまったのが拙かった。まさか夜が明ける迄只管に飲まされ続けるとは思わなかった。聖人様を祝う筈の夜にあれ程の苦しい思いをしなければならないのか。こんな事を体験すれば聖人聖誕祭が嫌いになるのは必然、そもそも何処の誰かも知らぬ輩を祝う意味が俺には無い。
其の日は其れだけではなく、白髭の老人が空を駆け此の一年善行を積んだ子供に玩具を配り悪行を行った子供には石炭を送る日でもあるそうな。聖人の生まれた日を祝うのか子供が玩具を貰う日なのか何方かに絞ってほしい。子供たちに贈り物をする際には人間たちが寝静まった真夜中の内に住居に侵入し物を置いていくそうだ、夜に出入りするのは一晩で数え切れぬ程の家を巡るから一々住人に構っている暇などないのだろう。何故贈り物をするのかは知らん。
其の男に便乗して悪事を働こうとした仙人、いや邪仙が居たらしく博麗の巫女やら他の仙人が人里を彷徨いていたのを覚えている。此処最近人里に宗教家が増え過ぎではないだろうか、何時か要らぬ争いが起こる気がしてならん。
そんな忙しい一夜から幾日か経った今日、炬燵に潜り蝸牛の様に静かで動かぬ日々を送っていたのだが来客が来た。未だ日も昇っていない深夜にである。億劫だと感じながらも此処ではずけずけと無遠慮に家に上がり込む輩が居り終いには扉を破壊して迄侵入してくるモノまで居る。仕方ないかと暖かい炬燵から這い出て玄関へと向かう。
「団体様とは一体全体何の用だ?」
肌に突き刺さる空気と足底に伝わる床の冷たさを感じ溜息が溢れる。のそのそと廊下を進み玄関に着いてみれば硝子戸の向こうに見える無数の影。偶にやって来る奴等は居るが一度に此れ程の人数が来る事は今迄に一度しかない。其の時とは違い何かある訳でもない、知り合い総出で来たのかと思ったが顔見知りなのだろうかと疑問も出る。まぁ誰が来たのか確認しない事には始まらないと戸を開ければ頭に浮かべていた顔触れが其処にはあった。
「いやぁ近く迄寄ったもので、寒いので入れてもらっても良いですか?」
「又ですか貴方は……」
「うむ、久し振りだ」
「久しぶりね」
「数日振り、といった所か」
「クリスマス以来かしらね」
「はえ〜此処が貴方の家なんですね」
「いやな、此れには理由があってな」
一、二、三……八。揃いも揃って如何したというのか。其れよりも寒い、入れるのは癪だが仕方ない。さっさと上がれと茶の間へと戻る。自室の炬燵の火を消して茶の間の暖炉に火を付ける。
やってきた来客八名様へ茶を沸かし淹れてやる。お盆に九つ湯呑みを乗せて茶の間に向かえば七人はちゃぶだいの周りに座っているのに一人だけ着いて間も無い暖炉の前を陣取っている。
「さて、今日はどんな用で来た?お前等が一緒に来る等何かあるとしか思えん。というかお前等に面識があるのが驚きなのだが」
面識があるという事を知っている連中ならいざ知らず、妖怪の山の奴と竹林の奴に面識があるのかと疑問が出てくる。天狗の姉ちゃんの所為か。
「今日はあれですからね。神社に行ったり人里に行ったりとしていたら何時の間にか此処に来る事に」
「私は同行させられただけなのですが、其れなら貴方の所にも挨拶をと思いまして」
今日?今日は何の日だ?
「私たちも挨拶回りで来た」
「まぁそんな感じよ」
「僕も人里へ顔を見せに行ったからついでにとね」
挨拶回り?今日は何か特別な事があるのか。
「私は何時も通り薬を売りに人里に来ていたのですが成り行きで此処に」
「儂は暇を持て余していてな。退屈しないかとな」
「同じく」
連れて来られた兎に対して此奴等はしょうもない理由で来たという。婆さんの方は寺にでも帰って尼に説法でも受けておけば良いものを。もう片方は、勝手にしてろ。
「なんじゃなんじゃ〜?童子は童子らしくお年玉でも強請れば良いだろうに、可愛くないのう」
「あ?誰がガキだって?俺がガキならお前は婆さんだ。婆さんは婆さんらしく大人しく家で寝ていろ」
「小童が粋がってからに」
「お二人、今日が何の日かお忘れでなにいだろうな」
冗談だ冗談、ただ戯れていただけだと言えば物騒な雰囲気を出すなと言われてしまう。こういう会話を見たことの無いモノが見れば仲が悪く思ってしまうのだろう。いや白髪とはこういった会話をしているのを見ている筈だが。
さてお年玉、先程言われた事だ。此れでもう分かってしまった。
「今日は元旦であったか」
「あれ?本当に忘れていましたか?」
「綺麗さっぱり頭から抜け落ちていた」
「全く、貴方は相変わらず不規則な生活を送っているのですか?折角一月掛けて治そうとしたのに」
何十年続けてきた事をそう簡単に解決出来れば彼奴等の殺し合いは今も続いていない。
「ん?面白そうな話だな。聞かせてもらおうか」
「こういう話に食いつく辺りがあんたっぽいよね」
「不衛生やら不健康やらを見逃さないのは相変わらずみたいだね」
俺の話は良い、お前達の事だ。何故此の人数で来たのだ。お前達に接点などあったのか?
「人里を出入りしているモノ、人里に住むモノ。何度も出会えば顔見知りにもなるとは思いませんか?」
「見た事の無いモノが居れば気になるのは当たり前、どんなモノなのか知りたくなるのもそう。話くらいはするじゃろうて」
「私にはあまり分かりませんね」
「お?新しい情報なら是非私に!」
そういえば草の根何たらという妖怪の連絡網だかがあったな。
然し此れ程の人数が部屋に収まるのかと気になっていたが其処まで気にする事ではなかったな。
「元旦だと知らずにぬくぬくと暖まっているとは。もしや貴方は冬眠をする妖怪、なのでしょうか?」
「メモ帳片手に記者魂を見せてくれるのは良いのだが前にも言った通り何の妖怪なのか俺自身分からないのだ」
「自分の事を知らないとは色々な事に無頓着過ぎますよ、怠け者の妖怪じゃないんですかね」
「お前のそういう辛辣な所が変わっていなくて安心した。明けましてだな今年もよろしく」
「此方こそ。明けましておめでとうございます今年も宜しくお願いします」
あの一月から半年、変わりなく過ごしている様で安心した。
「お前は仕事の途中なのだろう?仕事は大丈夫なのか?」
「殆ど売り終わったので暇なんですよ。あ、何時ものです」
「おうありがたい。少し前に飲みすぎたのだが、其の時に使い切っていたので助かる」
此れであと一ヶ月は保つなと思っていれば元居候が薬を使っているのかと問い詰めて来て、其れにもう一人の生真面目女も乗ってくる。其れを面白がって煽る三人とメモに今起こっている事を書き込んでいるのだろう記者と我関せずな二人。
「俺の事はもう良い!挨拶をしたのなら他の所に行かなくとも良いのか?」
「此処が最後ですよー」
「同じく」
「私たちもだ」
「そういう事」
「僕もさ」
「私も」
「儂も万事オッケーじゃよ」
「私も薬を売るのと一緒にお得意様の所には」
全員が全員終わらせているとは。此奴等が何か企んでいると疑ってしまいそうになる程に出来ている。此れが偶然なのか。
九人会話中…
二人に詰め寄られ上手い事誤魔化すのも難しいかと正直に答えてしまった事で説教が始まった。二人からくどくどと説教を受けるとは新年早々ついていない。面白がって煽る二人は後で仕置きをしてやろう、俺を怒らせた事を後悔させてやる。
天狗の姉ちゃんは物凄い速さでペンを走らせているがもしや記事にしようとしているのではないだろうな?俺の事を記事にするなと何度言えば分かるのか。名前を隠そうと目に線を入れようと俺の事には変わらない、記事にするな。そして残った三人は自分は関係ないという態度で話をしている、此奴等……。
「……初詣くらいは行っておくか」
「僕もあの子が如何しているのかもう一度見てきてくれと言われているから共に行こう」
「あ、私も後輩ちゃんがどの位成長したのか見たいから一緒に行く」
「儂も暇じゃからのう初詣に行こうか」
「私も初詣に行きたいです」
「面白そうですねー私たちも行きますよ!」
「私も行くんですか……」
皆の話を聞いたところ初詣に行っていないのは俺以外に二人、其れに更に四人人を加えた七人で博麗神社へと向かう事に。他の二人は別の所へと寄るそうな。
まだ時間はある、そう急ぐ事ないとのんびり話をし互いの情報を交換するなどしていった。そうこうしていく内に時間は過ぎていき出る事に。
「いやぁ寒い、着込んできて正解だった」
「しっかり戸締りしてきましたか?」
「火も消してあるのだろうな?」
「大丈夫だ。三度どころか四度も確認した。其の後止めに家中を回ったのだ抜かりは無い」
お前等は俺の母親かと言いたい。だがしっかりと戸締りをしてきていた俺には効かんな。後ろから確かめ過ぎだろうという声が聞こえるが気にしない。
「じゃあな、道が暗いから足元には気を付けろよ」
「飛べるのだから心配は要らんよ。だが忠告は素直に受け取っておこう」
「それじゃあね」
人里へと向かっていく二人を見送り残ったモノたちに忘れ物は無いかを聞き玄関に鍵を掛けもしもの為に結界を貼る。
「あれ?其のお札ってまだ使ってたの?」
「此れか?まだ力が残っているからな偶にこうして使っているのだ。未使用の物も含めても数百枚ある、後数十年は保つだろう」
「そういえば君はかなりの札を買い込んでいたが全部に力を込めてもらったのかい?」
「そうだが?札の値もそうだったが力を注いでもらうだけでかなりの金を消費してしまった。人里の質屋にどれ程売り払ったか分からない」
「私は何百枚も札があるとは聞いていないのだけれど」
「何代も前からやってもらってるからだ」
「私たちには話が分からないのですが……面白そうなので詳しく話を」
眉をハの字にし状況が理解出来ないという顔をしながら話を聞き出そうとする姉ちゃん。記事になりそうだから聞きたいのだろう?誰が話すか、おい話そうとするな馬鹿。
「仲が良いんですね、知り合いは少ないし其処まで仲の良いモノは居ないだとか言われていたのですけど」
「彼は何だかんだ言って色々な所に顔が知れているらしいですよ」
詰め寄ってくる馬烏を押しやり前に出る。後ろに付いてくる姉ちゃん、其の後に続く六人。
見れば其の七人全員が全員洒落た服を着ておりなかなかに様になっている。そんな奴等と歩くのだ下手な格好は出来ぬと七人の内のただ一人男である店主に服を選ばせた。どれを着れば様になり、似合うかと試行錯誤する事数分着替え終わったのだが似合っているのだろうか。出発する前に他の連中から似合っているだとか言われたが本当だろうか、嘘や世辞は要らんぞ?そして当たり前の様に写真を撮った記者から写真を取り上げ破り捨てる。
「いきなり取り上げた挙句にビリビリにするとかあり得ないですよー。ねぇ貴方もそう思うでしょう?」
「え、私ですか?わ、私は何というか。勝手に撮るのは良くないかと……」
「カァー!何ですか其れ?『わ、私は良くないと思いますぅ……』だぁ?良い子ちゃん振りやがってぇ!男の前でそういうアピールする奴は内心腹黒なんですよ!」
「えぇっ!?何で私怒られてるんですか!?」
「『私分かんな〜い』とかもウザいだけなのよー!!」
「ギャァァァ!耳を、耳を引っ張らないでぇ!!」
薬売りの少女に飛び掛かり其の耳を鷲掴みにして引っ張る天狗の姉ちゃん。其の姿はまるでタチの悪い酔っ払いの様だ。可哀想だと助けようと思ったが、そうすると此方も痛い目に遭うかもしれないと無視を決める事に。『助けてくださぁい』と情け無い声を上げる少女を助けようとするモノは一人も居らず逆にもっとやれと煽っているモノが二人居る始末だ。
お前等の事は知らんと歩みを進める傍観組に置いていかれたくないと抵抗しながらも付いてくる薬売り、其れを弄る姉ちゃん。更に其の後ろに付く二人。
「お前の上司なのだから如何にかしてやれ」
「下っ端天狗が烏天狗様に口答えするなど恐れ多い」
「お前も変わったな、生真面目だったころのお前は頭が堅かったが弄りがいのある真面目な奴だったのに今じゃ空気を読んで自分の保身に走る様になってしまった」
「真っ直ぐなだけでは先に進めないと教えてくれた人の台詞ではないですね.。というか其の言い方は誤解を生みますから訂正してください」
半年近く前の事などとうに忘れたわ、自分の責任を他人に押し付けるとは天魔に報告させてもらうからな。
「如何やってコンタクトを、あぁあれがありましたか。ですがあれを使うのは面倒ではないですか?」
「まぁ逃げ道の一つなのだから面倒なのは構わない。其れで彼奴等を止めるのか?止めないのか?」
「昔の私を見ている様で何とも言えない気持ちになりますからね、そろそろ助けたいと思っていますが手伝ってください」
「仕方ない、か。お前も手伝え」
「僕もかい?力仕事は好まないのだが」
「新聞の購読を止める、とでも脅せば良い。俺も一緒に行ってやる」
「あぁ分かったよ」
此の後無茶苦茶説教をした。何が楽しくて寒い中長ったらしく話をせねばならんのか。此奴等は周りの目を気にしないで良くも騒げるものだ。
今日は元旦、博麗神社や妖怪の山の神社に向かっているのだろう人間たちを良く見かける。其の全員が全員此方に奇異の視線を向けてくるのだ、此れがなかなか恥ずかしい。とうの本人たちは馬鹿な事をしていて気付いていないのか、其れとも気付いていながら続けているのか。妖怪としての誇りは無いのだろう、そう思ってしまう。
「此れでも私にもプライドのプの字位はありますよ」
プー太郎のプではないのか。そういえばお前もプー太郎だったな店主よ。そう問い掛ければむっとした後にやれやれと肩を竦められた、解せぬ。
「全く、君の目は節穴かい?僕は僕の信念と考えを持って店を開いているのだよ。例えば店の内装や道具の配置だが──」
「──すまん、長い話は遠慮しておこう。其れにもう着くぞ。話に夢中で階段に躓いて落ちてもらっては此方が恥ずかしくなって悶え転げてしまう」
「君は本当に酷い奴だよ」
「お前が其れを言うか」
人間だけでなく妖怪やら妖精迄神社へと向かっていく。階段は長く下からは境内の様子は見えないが喧騒が此処迄聞こえてくるのだ、かなり混んでいるのだろう。人混みというのは嫌なものだ、長時間待たなければ成らず、混んでいてぶつかる、話し声がうるさい。帰りたくなってきたが此処迄来て帰るとは言い出し辛い。さっさと終わらせるかと階段を登っていく。
「もう済ませている僕たちは用があるからね、此処でお別れだ」
「おうそうか。それじゃあな」
「そんじゃね〜」
辿り着き鳥居を抜けた所で巫女たちに用がある二人が離れ、取材だと天狗の姉ちゃんと付き添いの元居候も人混みへと消えていった。
残ったのは三人、俺に薬売りに婆さんだ。
「だから婆さんは止めんか小童が、お姉さんと呼ばんか」
「お姉さんは天狗の姉ちゃんと被るから無しだ」
「意味が全く違うじゃろうに」
細かい事は気にすんな。二人と話をしながら自分たちの順番になる迄待ち続ける。
「お前等は何を願うんだ?」
「願いですか?特に無いですが、強いて言うなら一年平和に過ごしたい位しか」
「お主欲が無いの〜、一年の初めなのじゃから大きな事を願っておくべきじゃて」
「そういうお前は?」
「儂か?儂は……………………特に無いのう」
「ないのかよ」
「いきなり言われてものう。無病息災でも願っておくか、いや大金を手に入れるというのもありかのう」
「其れで、貴方は?」
『そうじゃうそうじゃお前はなんじゃ』と便乗してくる奴に苛ついたので教えてやらないでおこうかと無視するが煩いので答えてやろう。
「俺か、お前と同じで金だ」
「つまらんのう」
「悪かったなつまらなくて」
そんな下らない事を話している内に自分たちの番がやってきた。例に則り賽銭箱に銭を投げ入れ鈴を鳴らし柏手を打ち目を閉じる。
神様仏様お稲荷様、今年一年大金が入ってくる様にしてください。あ、其れから異変やらに巻き込まれない様にしてくださいお願いします。
「物凄い剣幕で掌を合わせていたが、其処まで金が欲しいのか?」
「いや他にもあったなと思い付いて其れを真剣に願ったんだ」
「どんな事を願ったのか教えて欲しいのう」
「こういうは教えるものじゃないんじゃなかったか?」
「しょうがないのう、天狗に情報を流しておくか」
「おいやめろ」
面倒事は嫌だと伝えたのだから起こさない様に、巻き込まれない様にしてくれ神よ。そういえば此の神社に祀られている神は確か────。
6690文字、普通だな!
お正月特別企画ヴォイスドラマキカクを久しぶりに見たけどKNN姉貴本当にカッチャマ…ですね。