【異世界編】其の一
狩った獲物を肩に担ぎ何時と同様に人里で換金し酒を買い込み家へ戻ろうとした帰り道、台車を引いている男が前からやってきた。数少ない友人の一人であむた。
「おう、こんな所まで台車なんか持ってきてどうした」
話を聞けば外から流れてくる物を拾いに行くと言う。彼処は危険なのではと言えば何時も行っているが危険な事は全く起こらないと言われたので面白そうだと一旦荷物を置きに家へ帰り護身用の小太刀と模擬刀や風呂敷等を手にし後を追った。境界が不安定になり異界へ飛ばされたり地獄へ迷い込む恐れがあると言われるが此奴が何度も行っているのに無事だという事で大した事は起きんだろうと高を括った結果、俺だけが空中に現れ広がった歪みに巻き込まれた。俺だけでは無く其の場に転がっている諸々も纏めてだが。
此方に駆け寄り手を伸ばし助けようとしてくる友に危険だから近付くなすぐに戻ると拒んだ所で視界が暗転した。気が付けば倒れており起き上がり辺りを確認すれば見知らぬ土地に拾っていた道具と転がっていた物と共に辿り着いていた。次元の隙間で無限の時を過ごしたり深淵を覗く探求者を底から覗いている奴等の仲間入りなどにならなくて良かったと思う反面此れからどうしていくかと不安になる。
一先ず足元に転がる物を掻き集め使えそうな物を風呂敷に包み使い道が思いつかない物や壊れている物を林の中に纏めて捨てて荷物を背負い森を進む。彷徨い歩き数日経った頃小さな村へ辿り着き助けを求めた。村の人間には遠くからやって来た旅人だと話をし少しの間だけでもと部屋を借り数日だけだが此処で生活を送った。世話になるのもいけないと仕事を紹介してもらい金を稼ぎ部屋を貸してくれた人間に半分を渡す。そんな日々を数日過ごし村を出た。此の世界に骨を埋めるのは色々と試してからだ、あの世界には俺の帰るべき家がある。其処には滅多に手に入らない酒が数本あるのだ、其れを飲むまでは死んでも死にきれん。だが世界を渡る術など持たない俺には此の世界の者たちに頼るしかなく、そんな力を持っていそうなモノがいないかと聞きまわった結果城下街を目指す事にした。
此の世界にはたった一柱だけ神が居る。唯一神教という事ではなく神と呼ばれる存在が一柱しか存在しないからなのだろう。他にも強い者たちは居るには居るが其の神が生み出した故に神を崇め讃える一人なのだとか。其の神が此の世界を創り生物を生み出し世界を統治しているという。
神と呼ばれるモノなら世界を渡る術位持っている筈、確証はないが頼れる存在が其奴しか居ない今賭けるしかない。
「城下街ぃ?城下街なら此の道をずーっと進めば着くで。だけんども必ず通らなきゃならない森にはアレが出るから気を付けろよ」
「出る?何が?」
「オメェさん随分田舎から来たんだなぁ、危険だからって此の辺りの村や街だけじゃなくてもっと広く伝わってる筈だべさ」
訛りの入った喋り方をする農家の爺さんに道を聞けば教えてくれたのだが他にも何かあると言われ思わず問い掛けると最近現れるという化け物について話をしてくれた。
「出るんだよ、デッカい猪の化物が。名前は確か【シィーノマス】だったか」
柔な攻撃や武器は通用しない柔軟で鋼の様な身体。
獰猛な性格で動くもの全てに攻撃を仕掛ける。
巨体に見合わぬ俊敏さ故に逃走の術が無い者は見つかったが最期。
そう説明され笑いながら見つかったら諦めろと言われたが笑えない。だが大事な情報が聞けたのは確か、知らなければ警戒していない隙を突かれ殺されていたかもしれんのだからな。おっさんに情報料として金貨数枚を押し付け歩みを進める。
道を進みゴブリンとかいう小鬼に似た緑色の小さいおっさんを蹴散らして食料を頂き、野宿をして一晩過ごしとうとう城下街の手前にある森に着いた。
森を抜けるまでどれ程歩くのか距離を聞くのを忘れていたのが惜しい。分かっていればどの位のペースで進めば効率良く抜けれるか分かったというのに。
森の中は静かだった、時折小動物の鳴き声らしきものが聞こえるが其れでも静かだ。静か過ぎた。例の猪の所為なのだろうと当たりを付けて森に足を踏み入れた。
『プギャァァァァァ!!』
「ギャァァァァァァ!?」
「助けるべきか……」
森に入りどの位経ったのか、一刻は過ぎたのではという頃だった筈だ。左手の方から何かが近付いているのを察知して隠れた数秒後、隠れている大岩の真横を何かが叫び声を上げながら走り去った。
追うモノと追われるモノ。追う方は茶に灰が混ざった毛並の巨大な猪で、追われる方は人型のナニカ。良く見えなかったが声からして女だろうとは想像が付くが上品の欠片も無い野太い叫びを上げるものだ。猪を引きつけている間に出来るだけ距離を稼ぐべきかと思ったが一度見つけたものを捨て置くのもあれだなと追いかける。
後ろ姿を視界に捉え気付かれても面倒なので付かず離れずな距離を保つ。巨大猪の身体から溢れる力はなかなかのものだ、其処其処の年月を生きていると分かるが勝てない程じゃない。何とか隙を付ければ良いのだが。追いかけながらどうしようかと考えていると前の方で動きがあった。
「ウォォォォォォ!死んでたまるかァ!」
活力に満ちた叫びを上げると同時に身体から力が溢れ脚に文字が浮かび上がるのが見えた瞬間、跳んだ。猪と同等の速さで走っていた事からある程度の身体能力があるのではと思っていたが木々を跳び越える程とは。強化でもしたのだろうが。其の侭宙を飛んだ後木の枝に掴まる。
一方猪の方は動きを捉える事が出来なかったのか急停止しキョロキョロと辺りを見渡している。逃げる術があるのなら態々助けようとしなくとも良かったなと無駄足を踏んだ事にため息が出るので全力で走り猪に近付く。物音に気付き振り向いた猪の額に勢いに任せ全身全霊の蹴りを放つ。
攻撃した理由は幾つか有る。後で俺に襲い掛かってくるかもしれないから、倒す事で俺は良い奴だと思わせ恩を売る、此の世界の妖怪がどれ程の力を持つのかを知る、ただの八つ当たり。そんな思いを込めた俺の渾身の一撃が猪の鼻先を掠め其の無防備な額に炸裂する。
ドグォンッ!
鈍い音が静かな森に響き渡る。其れと同時に足先から鋭い痛みが生まれ脚全体に鈍く広がっていく。
『ピギャァァ!ブビィ……』
蹴られた衝撃で宙を舞い仰向けに倒れ地面をのたうち回った後動かなくなる猪。痛む脚を庇いながらも近付き足元の木の枝で突いてみるが反応は無い。十数秒間待ってはみたが動く様子は無く仕留めたのだと確認できた。
後ろからの奇襲。一撃で仕留められなければ今頃壮絶な鬼ごっこが始まっていたのだろう。倒せて良かった。
「あのぉ…倒しましたか?」
猪に向けていた顔を上げれば追いかけられていた女が不安そうな顔で立っていた。拙かったかと問えばいえいえ!と否定された。此れで『私の仲間をよくもォ!』などと言われ追いかけられた日には此れからは誰にも手を貸さないと意思を固めていただろう。
「先ずは聞きたい事があるから降りてきてもらえないか?」
「……変な事、しません?」
………………此奴は一体何を言っているのか、一瞬頭が理解せず止まってしまった。
「親切にしてやったというのに不審者扱いとは世も末だな。じゃあな」
「い、いえ!そういう事じゃ!ちょっ、待ってください!止まってくださいって!」
此の礼儀知らずなお嬢さんに別れを告げて去ろうとすれば後ろから訂正をする声が掛かる。だがそんな事は知らんと歩みを止めない。いきなり現れて助けられたとはいえ其の相手が赤の他人なら警戒するのは当たり前の事である。誰だってそう警戒する、俺だって警戒するだろう。
そんな訳で、俺の服の袖を掴み泣き出しそうな声で謝り出した辺りで止まってやると泣き出してしまい非常に居心地が悪い。取り敢えず頭を撫でて泣き止んでくれるように頼む。其れから少しして猪の元に戻る事にした。猪をどうするかを同時者同士で話し合うのは必然。其れに、あれ程の大きさの肉を其の儘にしておくのは勿体無い。俺が倒したのだから全て有効に使わせてもらっても構わんだろうか。
「其れじゃあお嬢さん。お互いがお互いを知らないのもあれだから、自己紹介をしようじゃあないか」
「は、はぁ…?」
此方の言葉が通じないのかと思ったがいきなりの事で思わず惚けてしまったそうだ。お互いに名乗り合う事で俺の事を知ってもらい向こうの事も知れた。知らないという関係から顔見知りへと段階を上げる事に成功。
話を聞き分かったのだが、どうも此のお嬢さん此の世界の神に仕える使用人の一人であるそうな。神の世話をしながらも城付近の異常事態に警戒し調査に来たと言う。話が本当なら元の世界への帰還に一気に近付けると心の中では浮かれていたが肝心な事に気付く。
「(警戒されてちゃ近付くにも近づけない)」
目的の近くにいる奴に接触しようとしても警戒されていては会おうとしないのは当たり前の判断だ。仕える主人に危害を加えるかどうかまだ分からないのだから。人畜無害どころか信用に値する奴だと思わせなければならないが、さてどうすれば良いか。
「お嬢さん、此の大きな猪だが貰っても良いかな?」
「あ、はい。大丈夫です。私が此処に居たのはシィーノマスの調査が目的であって肉や骨が目的ではないですから。貴方のおかげで民が怯える事なく生活を送れますありがとうございます」
神へ近付く為にどうすれば良いのか良い案が浮かばなかったが顔と名を覚えてもらっただけでも良いだろう。何時か役に立つだろう。此処は下手に恩を売ろうとせずに。
「其れじゃあ俺は先を行く、何時かまた何処かで」
「本当にありがとうございました!失礼します」
街に戻ると走りだし此方に振り返り手を振る少女に転ぶぞと声を掛けながら手を振り返す。見えなくなった頃に少女の後を追う様に歩みを進める。元来た道を戻り森を進むより一直線に街の方へ進む後ろを付いて行ったほうが早いだろうという判断だ。
あの嬢ちゃん、其処其処速い。天狗と比べるまでもないが俺より速いだろう。猪程度なら上手く撒く事も出来た筈だ。無駄に労力を割いたが結果的に良い方向に向かっているのだ、良いだろう。初めはどうなる事やらと思ったが運が味方をしている今の内に出来る事をやっていこう。
其れより今は此の猪をどうするかを考えなくては。時間が経てば血やら死臭やらの匂いに釣られて獣がやってくるだろう、もしかしたら知能の低い妖怪までやってくるかもしれん。
「解体するにも先ずは川を見つけなくてはな、あの嬢ちゃんに聞いておけばよかったか」
行き当たりばったりでは良い事はない。先を読み行動しなくては。
男妖直進中…
猪を引き摺りながら只管まっすぐに進む傍ら川か湖が無いかと辺りを探る。狼やら野犬やらが襲ってこないかと警戒していたが襲われるどころか近付く気配すら感じなかった。
ザーザーと水が流れる音が微かに聞こえ其の音の発生源に近づけば遂に川に辿り着いた。飲めるかどうか分からず一口飲み込んでみるがただの水だ。安全か如何か分からないが仕方ない。渇いた喉を潤し水筒に水を足し満たす。さて、此れから忙しくなる。猪の解体を早く済ませれば晩飯の準備を早く出来るし、猪が消えた事で戻ってくる獣に襲われ折角手に入れた肉を横取りされずに済む。
猪の解体にはダニや汚れを落とす為に熱湯を掛けるのだが餞別にと貰った料理の為の道具ではどれ程の時間が掛かる事やら。
「面倒臭い、先に皮を剥ぐか」
汚れやら虫やらが付くのは嫌だと上に着ている物を全て脱ぎ、鞄の中からナイフを取り出し皮を剥いでいく。慣れているとはいえ此のデカさだ、皮を剥ぐだけで時間が掛かる。
剝いだ皮と肉を流れの緩やかな浅瀬に放り込み皮には流れない様に岩を乗せる。次に首を切り落とし腹に鉈を差し込み縦に切り開く。猪の開きから覗く赤黒い内臓を引き摺り出し川に捨てる。溢れる血を洗い流しながら邪魔な骨を折らずに抜いていく。骨は何かに使えるかもしれんしな。血抜きも済ませ皮を荒らい汚れを落とすが此れだけでは全てを取り除けない、後で熱湯を掛けなくては。
肉と皮を木の枝に吊るし骨は立て掛け乾かす。血で汚れた身体を水で洗いタオルで水滴を拭き取り服を着る。今日は此処で野宿だなと見上げた空に星空が広がっていた。
「飯にするか」
荷物は減らすに限るし食える時に飯は食っておくべきだ、此処で食えるだけ食う事にした。道具を拾っていた際に手に入れていた鉄製の鍋で猪鍋を作るかと水を汲み火を付け石と木材で作った台に乗せる。其の内に肉と野草を一口大に切り沸騰した鍋に入れていく。ぐつぐつと煮え滾る水面に浮かび上がる灰汁を取り除き時間を置けば出来上がった。皿に装い熱いうちに掻き込む。
「熱っ、熱い」
だが此れが良い。出来立ての熱い飯を食う。夜空を見上げながら火に当たり一人飯を食うのもこんな状況でなければ良かったのだが。街に向かう間大した物が手に入らずにいたから一層美味く感じてしまう。
「だがじろじろと見られながら飯を食う趣味は無い」
先程から視線と気配を感じていたが無視をしていた。だが此のままにしておくのも駄目だろうなと思いそう声を掛けてみたところ後ろからガサガサと物音と聞き取れなかったが小さな話し声が聞こえた。バレたと驚き音を立ててしまったのだろう。今まで正確な場所が分からなかったが此れで漸く分かった。
「姿を見せるか立ち去るかしてほしいのだがな。妙な真似はしないでくれよ」
「わ、分かった直ぐに出る馬鹿な真似もしない。だからその殺気を収めてくれ此方には子供がいるのだ」
すると女の声が聞こえ伝えてくるが覗き見してきた奴の言う事など信じられる訳がない。だが出てくると言ったのだから収めてやるか。
「隠れて見ていたのは申し訳ない」
木の陰から最初に出てきたのは鎧を身を包んだ女であった。金の髪は焚き火によって照らされ輝き美しく整った顔をしている。そして其の後ろから汚れているが身形の良い子供が二人出てくる。此方も金の髪をした可愛らしい子供だ。
三人、数では此方が不利だが二人は子供。いや、大した力を感じない事と見た目で判断してはいけないと幻想郷で学んで来ただろうに。少し前に悪名名だたる妖怪に其の幼い見た目に油断して何の躊躇も無く接触した事があった。其れ以降も相手の素性を探る事も無く接し続け其の所為で揉め事に巻き込まれたではないか。
油断禁物、警戒必需、絶対生還。あまり戦う事前提には考えたくはないのだが何があるか分からないから仕方ない。
「で、何の用だ。もしや飯の匂いに釣られたなどという巫山戯た事ではないんだろう?」
「…………」
あの嬢ちゃんが情報を持って帰った事で今度は猪を倒した俺の事でも探りに来たのかもしれんな。物取りの線もあるがら気配の消し方が拙い子供を連れてくるだろうか、しかも二人も。そう見せかけるだけという線も有るには有るが態々其の様な七面倒な事をするだろうか。最初から気付かれない様にした方が簡単だ。
「どうした、なぜなにも言わん」
「……………………くれ」
「んあ?聞こえん」
「…………………をくれ」
「だから聞こえんと」
もっとしっかりと喋ってくれ。聞きながらも他に何者も居ないかと辺りを窺う。
「分けてくれ」
「……何だって?」
「だから……分けてくれ」
「何を?」
「飯だ…」
「…………」
…………………………はい?
「だ、だから。飯を少しだけでも良い、分けてくれ!頼む!!」
冗談で言ったのだがまさか本当に食料を分けて貰う為に来たのだとは思わなんだ。流石に少しだけというのもあれなので此の後無茶苦茶食いたいだけ食わせた。
しかし、此方が真剣に向き合っていたというのに此の三人は飯の事で来たと言ってきて正直面食らった。持ち物は大事な物以外置いて逃げるか、折角の肉を取られるかと戦おうとまで考えていたのに此奴等は。飯?飯だと?覚悟の為の労力を返してほしいものだ。
「其処のところどう思う?」
「へ!?」
目の前で鍋をガツガツと頬張るガキンチョに問い掛けるが分からないようだ。もう片方にも問い掛けるが此方も答えず。おまけとしてガキの様にがっつく事はないが其処其処の速さで飯を食う女に問い掛ける。
「あの、いきなり問われても何が何やら…」
此の世界の住人は察しが悪いのだろうか。いや向こうの世界の考えを読んでくる知り合いたちが異常なのか。何でもないと全て食べられてしまう前に皿に大盛りに装い味わいながらも一人の時より早く胃に詰め込んでいく。
「其れで、お前たちは何故こんな森の中に居たんだ?此の森の中にはお前達が食べている鍋の中に入っていた猪が住んでいたんだ、其の所為で此処には近付かない様に勧告が出されている筈なのに何故森の中に居た?」
森の中に住んでいるのなら話は別だがなと付け足し大きめに切られた猪肉を頬張る。手の内の皿に向けていた視線をチラリと上げた先には言い出し難いのか苦い顔をした女とそんな女を不安そうに見上げるガキ共。森の中に住んでいる訳じゃなさそうな反応だ、何かの罪を犯して逃げてきたのか。
「まぁ言いたくなきゃ言わんでもいいがな」
空いた皿にもう一杯装い胃へと流し込む。
「言いたくなけりゃ話さなくても良いと俺は思う、黙っていた事で俺に不利益が生じなければだがな。まぁ、なんだ。さっさと食え。食わんのなら全部俺が食い尽くすぞ」
「あっちょっと」
女の器を引っ手繰り溢れる程に装い差し出す。溢れた汁が俺の手に掛かるが気にしない。食える時に食って蓄えておく、其れが生きる為の術の一つだ。
「ほらよ」
「あ、はい。あの、ありがとうございます」
「気にすんな、食え食え。お前ら二人もだ。食える時に食わなきゃもしもの時に動けないからな」
「ありがとう」
「お兄さん」
感謝される事などあまり無く、何だか擽ったい。俺には合わんのだろうな善行など。
静かな時間が過ぎていく。聞こえるのは食器同士の軽い音と鍋を食す音、パチパチと炎が弾ける音だけだ。
四人食事中…
残れば明日の朝にでも食べるかと多めに作った鍋はすっからかんになった。ガキも女も良く食った、俺には敵わないがな。
「ふぅ、食った食った。ごっそさん」
「ご馳走様でした」
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様でしたっと」
飯も食い終わり話すなら此処で話すだろうという時になったが、嫌な予感がする。今まで面倒事に巻き込まれる事数知れず。身に危険が迫ると嫌な予感がする様になる程に巻き込まれた俺の直感が告げている、此奴は面倒事の匂いがすると。いきなり現れ理由も言わない時点で誰もが怪しむだろう状況に加えて直感が危険だと鐘を鳴らしている。
「あの、私たちが此の森にいた理由だが……」
「ちょい待ち。其の情報を知る事で俺の身に危険が及ぶ事はあるか?」
「……………………多分」
聞かない事で対処出来ない事があるからと不利益が云々だから先に教えろと言ったが逆に聞く事でも危険が迫るのではと問えば其の通りになった。
「ですが、どちらが良いかと聞かれれば聞かずにいる方が良いと思います。何も知らなければ見つかっても私たちの素性を知らずに手を貸しただけと見逃されるかもしれない」
「いや待て其れ以上言うな。其れ以上聞くのは拙い」
見つかるとは?見逃されるとは?何が起こるか分からない。故に安心を得たいと、話しを聞きそうになるがぐっと我慢する。此処で聞いてしまば厄介事に巻き込まれる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………あぁもう分かった!分かったからそんな顔をするんじゃあない!」
聞かないと断った所から悲しそうな顔をし俯かれ胸が痛むが其れに耐え様としたが折れた。此方の良心を利用しようとするとは何て奴だ。鬼!悪魔!花妖怪!
「聞いてくれるのですか!」
「あんな顔しといて良く言うぜ。さっさと話せ出来るだけ短く且つ分かりやすく。早めに聞いときゃ其の分対処が出来る」
だから善行は俺には合わんのだ。世の為人の為妖の為にと手を伸ばせば仇で返される。
「其処のガキ共には聞かせても大丈夫な話なのか?」
「この子らも当事者だ。」
雰囲気から其処其処重大な話をしようとしているのは分かるがガキに聴かせられる内容なのか。其れに此奴等が関係する事だと言うが。まぁ話してくれるだろう。
「先ずは私たちが何者なのかを話します。私たちは此の大陸の者ではありません、隣の大陸から来た者です。私は国に仕える騎士派に属する騎士の一人です」
そういえば怪しまれるのもどうかと思い此の世界の事について聞かなかったのだが文献でも良いから知っておくべきだったか。話から察するに神が統治しているがあまり世界に干渉せず自由にさせており住人たちは独自の国独自の文化を形成し中には対立し戦争も起こるそうな。
神が統治しているという話だったが此れは統治しているという事になるのだろうか。
「国を治める王には娘が三人いた。一人を残し二人は他国へと送られる事になった、理由は他国との繋がりを持とうという考えだ。十日前の事だ、王国に仕える騎士たちの中から選ばれた三十人が御二人を他国へ辿り着くまでの護衛となった」
其の一人に選ばれたのが此奴。騎士の中でも其処其処の地位にいた事で選ばれた。だが国に仕えれば安定した生活は送れるが命を賭けて戦わなくてはならなくなるのは考えものだな。
「嵐に巻き込まれ、盗賊に襲われ、仲間を失いながらも進み続け遂に辿り着きました。ですが待っていたのは絶望だけでした」
長い道程を越え辿り着いた国で待っていたのは歓迎ではなく投降勧告だった。兵士や騎士たちが周りを囲み武器を向け武器を捨てて投降せよと叫けぶ。いきなりの事で混乱の渦中に放り込まれたが疲弊しており何か出来る訳もなく大人しく投降する他に手がなかった。
「同盟を結ぶという話は嘘だったのです。其れからです、我が国と其の国との戦争が起こったのは。戦争を有利に進める為に王族を人質に取るという話をされましたが王は躊躇なく戦いを進めたそうです。娘二人と騎士より国を取ったのです」
大を救う為に小を切り捨てる。王として正しい判断だ。そう話を続ける女の顔は悲しみ歪んでいたが話を止めさせる気はないので無言を貫く。捕虜を生かしていく意味が無いと分かった者たちは処刑を決行した。一人また一人と殺されていく其の時になり国から助けが来た。処刑が行われた城下町の広場は潜んでいた仲間により忽ち戦場と化した。其の隙を突き二人を連れて逃げてきた。
「森の中を只管歩き続けた。空腹を満たす為に獣を狩り水辺を探し回った。追手から逃げ先に回り国に帰還するのを阻止しようとする者たちの目を掻い潜る生活を送っていたある日の夜、私たちは森の奥深くにある洞窟で一夜を明かす事にした」
疲れからか食事を摂った後直ぐに眠りについた三人が目を覚ました時には此の大陸にいたと言う。何時の間にか眠りにつく前とは違う場所にいる事に困惑しながらも一日歩き回り旅の商人などから情報を得て別の大陸にいる事を知った三人は近くの街である神の居る城下街へとやってきた。寝床にしようとした洞窟内の壁には解読不能の象形文字が描かれていたがと言うが恐らく其の所為だろうな。
「此の森に居た理由は街へ向かう為です。猪の化物が出るとは聞いていましたが通らなければならないので仕方なく」
此処で問題が発生した。森の中に食料となる動物が居らず空腹を満たす事が出来ない。そんな時、食物の匂いに気付きやってきた。
「何ていうか、大変だったんだなぁお前らは」
立ち上がりガキ共に近付こうとすると腰の剣に手を伸ばし道を塞ぐ女。妙な真似はしないと言えば渋々といった感じで横にどく。ガキ共の前にしゃがみ込み頭を撫でてやる。
「お前ら良ぉく頑張ったなぁ、そんな小さいのによぉ〜。疲れてくたくたになってもどろに塗れても前に進んだんだよな?偉いぞお前ら」
こんな話を聞かせられちゃ俺でも可哀想だと胸が痛くなる。
「「うっ……うぅぁ……」」
「我慢なんかしなくて良い、泣きたいのなら好きに泣けば良い」
「「うっうぁぁ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」」
今まで我慢してきたのは分かっていた。胸の奥に閉じ込めていた感情が溢れ出し泣き出す二人を抱き締める。もう大丈夫だと、安心させるように、優しく抱きしめる。こんなガキがよぉ他人の欲の為に辛い思いをしなきゃいけないとは人間とは大変なものだ。
男妖宥め中…
「ありがとうございます」
「気にすんな。乗り掛かった船だ」
あの少しの間だが泣いた二人は泣き疲れたのか俺の腕の中で眠ってしまった。元の世界から共にやってきた道具の中の一つである布団を引き二人を寝かせバスタオルを掛けてやった。また火の元に戻り伸びをする俺の横で座る女が語り掛ける。
「御二人は私の前ではあの様に心の内を見せてはくれなかった。王族としての誇りがあったからなのか泣き言一つ言わずに進んできました。私にはどうすらば良いのか分からなかった、どの様な言葉を掛ければ良いのか分からなかった」
「…………お前が居たから」
「え?」
「お前が居たから彼奴等は今もこうして生きている。支える事が出来なかったとか役に立てなかったとか思ってんなら其れは間違いだ。お前のおかげで嵐を乗り越え盗賊を退治し脱出し生き延びてきたんだろう?あぁ……なんだ、その。上手くは言えないがお前は自分の事を責め過ぎだ、ちゃんとお前は心の支えになってんだよ」
此方を見上げる女の頭を撫でてやる。多少乱暴だが俺にこんな事を言わせたんだこれ位大目に見ろ。
「ほら寝ろ。見張りは俺がやっとくから」
「わ、私も」
「疲れてんだろ?寝てやがれ」
「しかし……」
「命令だ。恩を返したきゃ言う事に従え」
まだ何か言おうとするが口を一文字にし腕を組み仁王立ちしてこでも動かんと姿で見せると無駄だと分かったのかガキ共の近くで横になり、付けていたマントを身体に掛け眠りについた。
「さて……」
さて此れからどうしようか。此の三人と一緒に行動を共にしようとしても街に着けばお終いだ。此奴等が此れから如何するのか聞くのを忘れたが大方国へ帰るのだろう。だが俺には俺の目的がある、元の世界に帰還するという目的が。其の為ならば多少の無茶をするのも辞さない気でいる。まぁ先ずは此の三人と共に街に辿り着かなくてはな。
「此の世界の事を何も知らないのも如何にかしなければ、いや此奴等に聞けば良いか。飯の恩という事で基礎的な事ぐらいは聞き出せる筈だ。あ、そうだ」
向こうの話を聞くのに集中し過ぎて俺の方から話すのを忘れていた。良く身元不明の男の話に話そうと思ったな、親切にされたから安心したか?何時か騙されて酷い目にあうぞ、忠告でもしておこう。
さぁ今晩は何時もとは違い襲われたら直ぐに逃げる事が出来ない。騎士女にも戦ってもらわなきゃならんが起こすのも忍びない。野犬くらいなら俺一人で対処しなくちゃなぁ。
「面倒だ、やはり俺には善行は似合わん。だがこういうのも時には悪くないか」
木の枝を焚べる、夜はまだ始まったばかりだ。
男妖見張り中…
「昨日は食料を分けてくれるだけではなく見張りまでしてもらった。何から何まで済まなかった」
「気にすんなって。あれだ、何時か飯でも奢ってくれよ」
「あぁ、必ず」
朝飯を食いながら昨日聞いてばかりで俺の事を話していない事を伝えると驚かれた、確かに其の通りだと。お前たちも気付いていなかったのか。てっきり聞く頃合いを逃し其の儘寝てしまったのだと思ったのだが、其れ程迄に余裕が無かったのだろう。
「話すべき事なのだがな、俺もすっかり忘れていてな。此れから話そうと思うが良いか?」
「此方は良いが」
「はい」
「大丈夫」
さて、どう話したものか。此の世界に来た所から話そうかと思っていたが流石にそう簡単に信じてもらえるだろうか。此の世界にどの様な力が存在するのかすら分からない俺には判断できん。便利な技術、世界を渡れる程のものがあれば信じてもらえるだろうが無ければ頭の可笑しい奴だと思われる。
「今から話す事は本当の事だ、信じられる内容じゃないかもしれんが信じてほしい」
「貴方は私たちの事を信じてくれた。だから私は信じます」
「私もです」
「私も」
良い奴だなお前等。だが信頼し過ぎると騙されるから気を付けるんだぞ。
「こんな前置きをしていたが何か厄介事を抱えているという訳じゃない。何処の国に属してはいないし、此の森に住んでいるのでもない。俺は此の世界の住人ではなく他の世界から来たのだ」
歪みに巻き込まれ此の世界に来た事、神に頼もうと此の森を通ろうとした事、猪の化物を狩り森の中で一晩過ごそうとした事全てを話した。突拍子のない話だ、だが此奴等は驚きながらも真剣に聞いてくれた。
「貴方も大変な目に遭っているのですね」
「お前たち程じゃない。此れから俺も街に向かい其処で元の世界に帰るまで過ごすつもりだ。お前たちは此れからどうするんだ?」
「大陸間の移動手段は複数あります。船や飛空艇等の乗り物を使うか長距離移動を可能とした魔法です。前者は向かう予定のある船があれば金を払えばなんとかなりますが時間が掛かりますね。後者は直ぐに移動出来ますが此の大陸の事はあまり知らないので何処に行けば良いか分かりません。大陸一の大きさである街に行けば情報くらいはある筈」
船は分かるが飛空挺とはな。外の世界、元の世界の結界の外の世界でもあるらしいが此の世界も外の世界相応の技術が進歩しているのだろうか。巨大化していた猪や自らに宿る力を使用している所を見たが其方の技術による物かもしれん。
「其れじゃあ一時的とはいえ街に留まる事になるのか?お互い目的を果たす為には時間が掛かるかもしれん」
「そうなるな。目的地は一緒、同じ街で生活を送るのだ仲良くやっていこう」
「分かった。此れで俺の話は終わりだが俺は此の世界の事を知らない。どの様な技術が有るのか等聞きたい事は山ほどある、頼めるか?」
「知っている事だけだが。恩がある、できるだけ答えよう」
運命の女神が俺に味方をしている、そう思ってしまう程に運が良い。辿り着いて直ぐに村を見つける事が出来た、思わぬ収穫があった、此の世界の情報を得る事も出来る。異世界に送られるという不運に見舞われたが其れからの俺は運が良い。此の侭続けば良いが。
「飯も食ったし荷物を纏めたら街に向かおうと思う、一緒に行くか?」
「お願いします」
食器を洗い布に包み鞄にしまい布団等が積んである背負子に括り付ける。
「あの、いいですか?」
「どうした?」
顔を紅潮させ何かを伝えようとするが言い出せずにいる騎士女。どうした、便所か。
「あの、ですね。少々時間が欲しいのだが」
「別に此処を発つのは何時でも構わんが」
「水浴びをしてきても良いか?」
水浴び?そういえば俺は昨日猪を解体した後に浴びたがお前たちはしていなかったな。逃げる毎日を送っていては長い間其の儘だろう。入ってこい。
「其れでだが。申し訳ないが見張りを頼みたい」
「おう別に良いぞ」
其の程度なら任せろ、だがそんな事を頼むだけで何故言い淀むのか。もしや覗かれるかもしれないと思っていたのか?安心しろそんな馬鹿な事はしない。
「安心しろ俺は見張りに専念する」
「も、申し訳ない……」
謝り過ぎだ、もっと頼れ。準備を済ませ、ガキ共の楽しそうに遊んでいる声に毒気を抜かれそうになるが見張りをしておくと言っいたのだしっかりしなくては。一度自分に喝を入れ一際大きい木の上に陣取り辺りを見渡し気配を探る。猪がいなくなった事で本来此処にいたのであろう生き物たちの鳴き声が聞こえる。あの嬢ちゃんはちゃんと元の居場所に戻れたのだろうか、神の使用人なら其れ相応の力がある筈、其れに加えてそう簡単に手を出せない地位の者だ大丈夫だろう。今は自分たちの事を考えなくては、獣やら盗賊やら物騒な事この上ない連中を相手にするかもしれんのだ。俺一人なら兎も角ガキ二人が厄介だ。
「まぁ何とかなるか」
どうなるかは分からないのだ、如何にかなるさ。考え事をしていないで見張りだ。
12700文字。そこそこ筆が走ってくれたから嬉しい…嬉しくない?
東方でやる必要ないんじゃないという意見があると思うけど、(そんな事知ら)ないです。
ほんへ更新はまだ先になるゾ。一段落付いただけでまだ忙しくなるからねしょうがねぇなぁ…