有象無象妖怪譚   作:命楼

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一週間ぶりの投稿です。一週間間隔で投稿するのは楽で良いっすね^〜。


【異世界編】其の三

「見当違いな事をしてしまっても他国から来た旅人だとでも名乗れば良いか。いや何処の国か聞かれたら拙いか」

「国には属さず森の中でひっそりと暮らしていたと言っても何故態々出てきたのかと聞かれる事は間違いない。其れから如何対応していくか、其れがポイント」

 

 此の世界について色々と聞いてみたが大した違いは存在しなかった。妖怪ではなく魔獣やら魔物と呼ばれる存在が居るという事、法や一般的な常識等違いは有るが其の程度だ。向かっている街や其の周辺で使われる文字位は読み書きできる様にならないといけないのが億劫だが仕方ない。

 

「儘ならないものだな」

「右も左も分からない異世界での生活は大変でしょうが頑張ってください」

「頑張るしかないのだがな」

 

 日が頂点に登った頃腹が減ったとガキが言い出したので昼飯の時間にした。旅立つ前に買っておいたパンに薄く切り焼いた肉と野菜を乗せ最後にタレを掛け軽く焦げ目が付くまで焼き一人ずつ渡していく。其れだけでは足りないかとぶつ切りにしたタレに漬けておいた肉に小麦粉を塗し油で揚げ唐揚げを作る。

 

「肉の臭みが無くなっておりタレが染みていて美味い。此れは何という料理なのだ」

「唐揚げだ。魚や肉に小麦粉を塗し油で揚げただけの簡単な料理だ」

「小麦粉を其の様に使うとは。極東の大陸には其の様な物があると聞くが」

 

 国や土地によって習慣は異なるだろう。食べ物も例外ではない。其れが異世界なら此の世界でしか食べる事の出来ない物がある筈だ、帰る前に是非食してみたい。

 

「今日は日が落ちるまで歩き続ける、今の内に休んでおけ。出発する時になれば戻ってくる」

 

 先に食べ終わったので見張りに入る。近くに気配は感じないが遠見の魔法が有ると聞いている、見張る範囲を広げなくてはならない。離れた場所まで歩いて行き此の辺りで最も高い大木に辿り着く。四肢を最大限に利用しよじ登っていく様は宛ら猿の様だとまるで重さなど無いかの様に登っていると言われた事があるが嬉しい様な悲しい様な。

 大木の頂上に到達した俺は枝の上に腰を下ろし辺りを見渡す。真っ直ぐ進む其の先には草原が広がり遠くには目的地であろう街が小さくだが確かに見える。日が落ちる前には森を抜ける事が出来そうだが草原を渡り切るのは一日掛けても無理そうだ。

 

「昨日よりも獣たちが増えてきている。肉食獣も少なからず其の中に居る。女は兎も角ガキ二人が難点だ、魔法が当たり前にあるのだから使える事を願おう。王家を名乗るのだ魔法関連の教育も当然受けている筈」

 

 そうだと信じたい、後で聞こう何ができるのかを。何も出来ないと言われたら如何するか、背負うか?笑えない。

 空を見上げれば雲一つない青空が広がり其の中を鳥の群れが飛んでいる。遠くに見える山の方の空には船らしき物が浮いているのが見える、あれが話に聞いた空飛ぶ船だろう。

 

「浮遊船だったか飛行船だったか。あれも魔法技術で浮いているのだろうか。あれに乗れば街にも直ぐに着けるだろう」

 

 唯で乗れるとは思わんがな。金も大して持たない俺には縁の無い事だ。其れに良く分からない技術が使われた物に乗って空を飛ぶのは信用ならん。もしもの事が起こり飛ばなくてはならなくなった時荷物を背負い飛べるのであろうか。

 最悪荷物を手放す事も視野に入れなければならないのなら俺は陸路を自らの足で進んでいく。

 

「然し、良い天気だ。空腹を満たした後は眠くなる。此の儘眠りについてしまいそうだ」

 

 此の儘では本当に眠ってしまうと立ち上がり背伸びをし見張りに力を入れる。

 油断は人の為成らん。俺の所為であの三人に危険が迫ってしまうのは御免被る。無駄な事を考えていないで真面目に集中しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男妖見張り中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼠一匹通さないと目を皿にして見張る様は哨戒を主な仕事にしている白狼天狗にも引けを取らないものだろう。天狗に言えば鼻で笑われるか同列に語るなと言われそうだ。

 

「天狗とは確か上下の社会に厳しい妖怪でしたね」

「あぁ。天狗の長である天魔を頂点とした集団。高い身体能力と妖術を使う強固な仲間意識を持つ奴等だ」

「もし其の様な国と戦争になれば我が国が勝てるかどうか。最悪最終兵器の使用も検討しなければ」

 

 まぁ彼奴等は国では無いのだがちょっと待て、今何か聞き覚えの無い不吉な単語が聞こえたが俺には関係の無い事だ。無視。

 

「食ってから時間を置いたし荷物を纏め終えた。其れじゃあ出発するがやり残した事は無いな?」

 

 三人に声を掛け荷物を背負う。食糧が減った事で荷物が軽くなり激しい運動を行ったとしても大した負担には成らないだろう。

 こくりと頷く三人に行くかと再度声を掛け歩き出す。ガキ二人が俺の両隣に陣取り後ろに女騎士が付く此の陣にも慣れつつある。

 

 あぁそうだ。聞くと考えていたにも関わらず聞く事をすっかり忘れていた。

 

「お前等は魔法が使えるのか?」

「魔法?」

「あぁ、魔法だ魔法。子供は十になると得意不得意な魔法を調べ上げられるのだろう?なら其の後に魔法について教えられている筈だ、魔法を使わなければ調べる必要など無いのだから」

 

 魔法を使わないのに態々魔法に関する勉強するなら他の所に力を入れる筈。将来使う事の無い無駄なものになってしまっては地味が無い。

 

「王族というのだから特殊な力とか複数の属性を使いこなすとかあるだろ?お前は剣の腕だけではなく魔法を組み合わせた戦闘を行えるとか」

 

 御伽噺には良くある設定だ。特別な力位はあるだろう。

 

「えぇ、私たちは魔法が使えます。ですが教えるのに条件があります」

「王族の者だと知られると拙いのだろう?大丈夫だ黙っている」

「其れもそうなのですが、一つお願いかあるのです」

 

 何だ?金銭か?俺は大した金は持っていないぞ。此れからは街について仕事を見つける所から始めようと思っていたのだからな。

 

「依頼をしたいのです」

「依頼?」

「はい、報酬は何時になるかは分かりませんが必ず支払うと約束します」

 

 内容によっては拒否しても良いのだろうか。そうすると魔法について聞けなくなるか。先ずは内容を聞かない事には始まらない。

 

「貴方が元の世界に帰るか私たちが国に帰る目処が立つまでで良いのです。護衛を頼みたいのです」

「お前等のか?」

「はい。私だけではお二人をお護り出来るか分かりませんが貴方が居れば!」

 

 俺の事を上げてくれるのは嬉しい、信頼してくれているのだという事も分かる。だが着いて直ぐに帰る術が見つかってしまうかもしれないのだぞ。

 

「そうなれば仕方ない、何とかする」

「何とかなるのか?」

「出来る出来ないの話では無いのです。やらなくてはならない」

 

 決意を新たにしている所悪いが、其れは計画性の欠片も無いではないか。心配で帰るにも帰る事が出来ない。

 

「分かった。護衛でも用心棒でもやってやる」

「本当か!有難い!」

「「一緒に暮らせるの?」」

「暮らすとは違うだろう。まだそうなるかも分からないのだからさっさと街に着くぞ」

 

 条件を飲むのだから話せ。お前等の力を。

 

「私からだな。私は王族に仕える騎士の家系の生まれで訓練を受け剣の腕なら十本の指に入ると言われている。得意な魔法の属性は火、不得意な属性は草。魔法の腕は其処其処だ」

 

 並々ならぬ雰囲気を纏っていると思っていたがやはり其れ程の力を持っていたか。俺より強いのではないだろうか。

 

「今度は」

「私たち!」

 

 合わせなくとも良い。

 

「私は火と光が得意で水が苦手」

「私は水と光が得意で火が苦手」

 

 ガキ一号が火、ガキ二号が水。共に光。王族だから二つも属性を持っているのか?

 

「突出した属性が二つというのは珍しい事ですがお二人は違います」

「何でだ?」

「光という属性は王家の血を引く者しか持つ事の出来ない選ばれし者の属性なのです」

 

 何かしらあるとは思っていたがやはりそうであった。

 

「特別なものだという事は分かった。其れで力量の方は?」

「先生に教えてもらってたから少しだけ」

「其の少しがどれ程なのかわからないのだが」

 

 そう聞いても返事は返ってくる事はなく、代わりに来たのは考え込んでいるであろう唸り声だけだった。女騎士に顔を向けるが肩を竦めて其処までは知らないと言外に言われてしまった以上二人から聞き出さなければ分からない。

 

「どの位か言葉に出来ないのなら実演してくれても良いのだがな」

「「それだ!!」」

 

 だからデカい声を出すなと言っているだろう。

 

「だが森の中で魔法なんて使うんじゃないぞ。火が木々に燃え移って山火事になってしまったら笑い話にもならない」

 

 火を消せる水の魔法を使えるのが二号しか居ない故にもしもの時には二号を頼るしかない。俺?俺は妖術の類は使えるが水を生み出す術は身につけていない。そんな妖術があれば井戸から水を汲む手間が省けてどれ程楽になる事やら。

 

「何処でするの?」

「森を抜ければ草原に出る。其処なら燃えても大して燃え移る事はないだろうからな」

「私も魔法使ってもいいの?」

「力量を知っておく為に魔法を使ってもらうのだお前もやるんだ。其れからお前もだ」

「私もか?」

「知っておく事が大事なのだろう?だったらお前もだ。俺も出来るものは見せてやるから良いだろう?」

 

 日が落ちてしまう前に森を出なくてはな。そう考えると自然と歩みにも力が入ってくる。ガキ二人も同じらしく先程よりも其の歩みに力が篭っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一行移動中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽が綺麗」

「森の中では見れるものも見れないからな。他の事で手一杯だったからなこうやって見るのも久し振りな気がする」

「気にしている暇が無かったのは私たちもです」

 

 昼過ぎに歩き出し森を抜けた頃には日が落ち始めていた。辺りを橙に染め上げる赤い太陽が眩しい。

 

「これじゃあ街に着くのは明日?其れとも明後日?」

「明後日だろうな。ほらさっさとお前等の力を見せてみろ、飯の支度があるんだぞ」

「それじゃあ私から」

 

 先ず前に出てきたのはガキ一号。懐から取り出したのは一本の杖。そういえば魔法を発動する為には媒体が必要などと言っていたな。此方の世界の魔法使いや魔女は杖を使うモノ使わないモノと両方いたな。此の世界は杖を使わないと魔法を発動出来ないと言われているが本当にそうなのだろうか。

 杖を構え真剣な面持ちで息を大きく吸った後ぶつぶつと何事かを口遊んだ後大きな声で最後の一文を唱えた。

 

「エリーフ!」

 

 杖の先からガキ一号の頭程の大きさの火の玉が出現し真っ直ぐに飛んでいった。地面に着いた瞬間に爆発し炎を撒き散らし地面を抉っていった。

 

「初級魔法であれ程とは」

「初級魔法?」

「魔法には系統があるとは前に言いましたが同じ属性の魔法にも強弱があります。魔法の威力や使い易さによってランク付けがされており今の魔法フィーレは火属性魔法の初級のものなのです」

 

 初級魔法中級上級超級等と分けられていると。格が上がる毎に威力も範囲も上昇していくが逆に詠唱が長くなると。魔力を余分に込めた初級魔法を連発すれば上級魔法は要らなくなるのではないだろうか。そう簡単な話ではないのか。

 

「見ましたか!これが私の魔法力です!」

「そう自信満々な顔されても俺にはどれ程凄いのかが判断出来ない。で、どうなんだ」

「魔力量が高い事で威力は申し分無い。ですが技術不足によって無駄に魔力が使われています。十全に使う事が出来れば強力なものになるでしょう」

 

 そうしょんぼりとするな、伸び代があるだけまだマシだ。俺なぞ百年単位で時が経たねば強くなれんのだぞ。

 まるで細く短い蝋燭の様なと例えられるが其の短い間に輝く火花を散らすのが人間なのだとおれは思う。生きている間にどれ程の事を成し得るのかは分からない、だが短き生の中で予想もしない事を成し得るのが人間なのだ。

 

「そういう訳でお前は大丈夫だ。まだ生まれて間も無いのだからな」

「私は12歳です」

「十二?はっはっはっ小さい小さい。俺たち人成らざるモノたちからすれば産まれたての雛鳥よ。だが鷲や鷹どころか龍にも成れる可能性を秘めた雛鳥よ」

「……どういう事?」

「まだ分からんか。いずれ分かるさ、いずれな」

 

 お前に時間を割き過ぎたか。次はお前だガキ二号。

 

「はい!」

 

 二人目は二号。目を瞑り落ち着いた様子で詠唱を始めると杖の先に半透明の何かが現れ空中で形を変えながら大きくなっていく。

 

「アウークァ・ラエープス!」

 

 ぐねぐねと形を変えながらも球体を維持していた水の塊が最後の呪文を叫ぶと同時に槍となり高速で飛んでいき、吸い込まれる様に離れた場所にある大岩に突き刺さり消えていった。槍の三分の一程しか突き刺さらなかったと落胆しているが十分危険だ。俺には撃ってこないでほしい。

 

「今度は私か」

「えぇ〜まだ小父様に話を聞いてない〜」

「お前にも何か言わなければならないのか?正直特に言う事がないのだが。別に悪かった訳じゃないからな」

 

 高速で飛んでいき岩を貫く、なかなかなものだが対処は出来る。可と不可で相殺で無、故に何も無し。

 

「分かった分かった何か言ってやる。其れで、今のは?」

「水属性の中級魔法の一つです」

「速さは其処其処、威力も其処其処。詠唱の長さの基準が分からないが隙が出来る。良い所と悪い所があるが其処を如何にかすれば良いと俺は思う」

 

 今気付いたのだが何故お前ら二人は初級と中級の魔法を使ったのだ?どの程度か知りたいとは言ったが同じ様な魔法を使ってもらわなければ比較のしようがない。まぁ此の世界の魔法について知らない俺が判断も何も出来る訳がないのだが。

 次はお前だが、何級の魔法を使うのだ?

 

「私がどの魔法を使うのかを知りたいという顔だな。此処は私の全力を、と思ったが野党の類がやってくるかもしれんからあまり派手なものはしたくない。故に初級魔法だ」

 

 相手の力量を知りたくば初級魔法を見ろと言われているのは聞いた。先にも言ったが俺には区別が出来んから自分の物差しで測るしかない。まぁガキ共と比べてやる。

 二人の様に前に出て、二人の様に杖を構えるかと思えば手に取り構えたのは腰の両刃剣。

 

「此の剣は特殊な物で剣を製作中に杖を組み込んでいる。剣として用いながらも杖の役目も持つ。最近作られ始めたのだが使い勝手は良い。片手で剣を持ちもう片方の手で杖を持つのは無駄が多過ぎるからな」

 

 鼻高にそう説明されても便利なものだという事しか浮かばない。飯の支度をしたいから早く始めてくれ。

 

「行くぞ」

 

 両手で持った剣を振り上げ口を開き詠唱を唱え始めると刃に炎が纏わりつき。

 

「エリーフ・ドローウズ!」

 

 次の瞬間には振り下ろされた剣から炎の刃が飛んでいき先程の岩と大地を両断していた。岩の断面には残り火が燻り煙を上げている。

 

「ガキ一号よりも魔法を撃つのが早いな」

「詠唱中は術者が無防備となる時間。ランクが上がれば上がる程に詠唱時間は長くなり其れだけ危険が増える。なら其の時間を短くすれば良い。戦いに赴く前に呪文を唱えておくなどの案がありますが一番はやはり詠唱短縮。永遠と呪文を唱え魔法を使い続け磨き続けてきた事で私は魔法を瞬時に放つ事が出来る様になった」

 

 妖術を使う俺にも其れは分かる。長ったらしく呪文を唱え続けていたらやられちまう、ならば短くすれば良い。どれ程の鍛錬を積んできたかは知らないがガキ共二人の驚き様からして大したものなのだろう。

 

「私の実力は分かりましたか」

「大したものだという事は分かった。初級と呼ばれる癖に此の威力。詠唱の短さ。魔法を放つまでの集中力と張り詰めた緊張感。どれを取っても一級品」

 

 魔法の事は分からぬが、放たれる圧力からかなりの使い手である事は分かる。国で上位に入る騎士だと言っていたが名ばかりでは無く真に強い。

 

「な、なんだか照れ臭いですね。今まで褒められ称えられた事はありましたがこうして面と向かって本心から言われるのは久し振りです」

 

 柄にもなく戸惑ってしまう、そういう騎士に思わず可愛らしいと思ってしまうのは仕方の無い事だろう。凛とした雰囲気から一変して戸惑う様は別の面が顔を出してなかなかに良い。

 

「ぶー」

「むー」

「先程も言ったがお前たちは可能性を秘めている、手を付ける前の原石だ。努力すれば光り輝く宝石に成る」

 

 剥れていないでさっさと飯の支度をするぞ。

 

「貴方の番ですよ?」

「あぁ?あ、そうか」

「忘れていたのですか?」

 

 飯の事とお前らの事しか考えておらず自分の事が頭の中からすっかり抜け落ちていた。

 剥くれる二人の頭を撫でてやりながらさて何を見せるかと考える。火に水と来ているのだから違うものを出さなければつまらないだろう。つまらなくても良いのだが其れが俺の実力なのだと思われても癪だ。

 あぁあれで良いか、久し振り故に失敗し間抜けな所を見せない様に正確に行わなければ。

 

「それじゃあ見とけよ」

 

 三人から離れ腰に携えた刀に手を掛け割れた岩を向く。此れから行うのは俺が使える数少ない手札の一枚。昔知り合った妖術師を名乗る妖怪の女に教えてもらったものに手を加えたもので物やモノに力を付与するといった単純な術だ

 

 体の内に存在する妖力を刀の柄から流し込み刀に宿る妖力を起こす。此の刀、妖刀を模して作られたと言われており持ち主の妖力を吸い取る力がある。今まで溜まりに溜まり続け眠りについていた妖力を目覚めさせる。

 ぶつくさと口の中で二つ三つと呪文を紡ぎ妖術を思い描き明確なものとしていく。呪文など唱えなくても発動は出来る、だがしっかりとした像として発動する為には唱え明確化しなくてはならない。想いや想像によって幻想とは生み出されるのだから。

 

「妖術【飛翔斬撃】」

 

 鞘から刀を抜いた其の瞬間に頭の内に存在した想像は現実となり世界に生み出された。勢い良く引き抜かれた刀の刃には紫の光が纏わりつき全力で振るわれたと同時に放たれる。

 女騎士が真っ二つにした大岩を更に斜めに切り裂き地面を切り分け草原を進んでいき消えた。単純なもの故に特殊な効果や属性を持たない、だが其れ故に形に成り易く斬撃を飛ばすという一点にだけ力を注ぐ事が出来る。

 

「まぁこんな物だ。大した物では無いがすまんな。今度機会があれば他のを見せる」

「「凄ーい!カッコイイ!」」

「属性不明の斬撃、どの様なものかは分からないが私の斬撃よりも切れ味が良いく詠唱も短い。其れに加え放つ迄の刃物を思わせるプレッシャーと放つ瞬間の恐怖すら覚える重圧感。弱いと言っていたのは嘘の様ですね」

 

 無駄に長生きしてはいない。本当に弱いのだぞ、此れくらいしか取り柄が無いからな。

 キャーキャーと煩いガキ共と一人思考に没頭し掛けている女騎士に声を掛け飯の支度を始める為に森へ戻る。

 

「今日は何を作ろうか、作れるものも限られるし猪のカツレツにするか」

「カツレツって?」

「卵で小麦粉とパン粉を塗し揚げた料理だ。其の上にタレを掛ければ完成する簡単なものだ」

 

 其処其処大きな木の陰に荷物を降ろし草原から見えない様にする。身を隠す遮蔽物の存在しない草原で夜を明かすのは御免だ。

 背負っていた荷物を広げ道具を取り出し火を点ける為の準備を始める。

 

「枯れ枝を拾ってこいガキ共、ついでにお前も付いて行ってやれ。此処にある物で火を点けとくが足りないからな」

 

 役割を与えてやらなければ手持ち無沙汰にしているからな。こういった事をさせないとウロウロして邪魔だ。

 

「ブエックション!」

 

 くしゃみが、夕暮れとはいえ寒さは感じないのだがな。誰か俺の噂でもしているのだろうか。そんなしょうもない事を考えながらも手を動かし準備を始める。しかし此の世界にも元の世界に存在していて良かった、もし良く分からない物しかなければ使い道も味も分からない物を一つずつどの様な物なのかを確かめていく日々を送る事になる羽目になっていただろう。

 

「しかし彼奴等は何処まで探しに行ったのだろうか」

 

 小枝を集め火を点け其の上に油が入った小鍋を吊るし時間が経ったというのにまだ帰って来ない。もしや何かあったか?護衛を請け負ったのだから離れるべきではなかったのではないだろうか。不安になってきた、さっさと帰ってこい。

 一度広げた道具の中から使わない物だけしまい残りは其の儘にし、ぐるっと其の場で回り気配を探れば少し離れた場所に複数の気配を感じた。正確な数は分からず少ないという事しか分からない。

 特に可笑しな所は感じないという事で大丈夫かとカツレツの準備に取り掛かる。

 心配半分苛立ち半分で手際良く進めていきいざ揚げようかという時になり漸く三人が帰ってきた訳だが、其れはなんだ。

 

「此れか?兎だが」

「見れば分かる。仕留めてきたのか?」

「いやな、お二人と使えそうな枝を探していた所見つけたからな。此方ばかり世話になる訳にはいかないと一匹でも持って帰ろうとしていたらな、此れ程になってしまった」

 

 照れた様に頬を掻く手の反対の手には五、六匹の兎が握られていた。帰ってきたら一言言ってやろうと思っていたが今日は勘弁してやろう。俺は兎の肉が大好きなのだ。

 

「私たちも頑張ったのよ」

「頑張った」

 

 そう言う二人の手にも兎が。撫でてやろうほら、もっとか?もっと欲しいのか?愛い奴等だ。

 

「……お前もやってほしいのか?」

「別に」

「そうか」

「そうだ」

「……」

「……」

 

 じっと見られていては居心地が悪い、お前も撫でてやる。

 

「え、ちょっと」

「ほぅら撫でて欲しかったんだろう?よぉしよしよしよし」

「こ、子供扱いしないでください!私はもう18なんですよ!」

「幼い幼い、俺からすれば赤子も同然」

「貴方からすればそうでしょう、ですが子供じゃない!」

 

 此れ以上すると本当に怒りかねんな。其れじゃあさっさと作るぞ。

 最後にポンと軽く頭を叩きカツレツ作りに戻る。適当に其処にある食材と其の兎で何か作ってくれと言うとぶつくさと言いながらも取り掛かる女騎士。素直な奴は良い、胡散臭かったり面倒臭さかったり暑苦しいかったりする奴等は如何にも肌に合わん。

 

「お前等も手伝ってやれ」

「「はーい」」

 

 今日も野宿だが、食材やらをきちんと揃えておけばしっかりとした物を食べる事が出来る。彼処から旅立つ前に入念に準備をし買い込んでいて良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一行料理中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其れは?」

「パエージャです。玉ねぎやパプリカがありましたので作ってみました」

「香辛料の匂いがするが」

「はい、まさかサフランがあるとは」

「洎夫藍を使っているのか、確かに黄色いな。生薬としても使えるからな」

 

 ぱえーじゃとやらはなかなか美味かった。俺も負けてはいられんな。

 昨日程ではないがかなりの早さで飯を食らう様を見ていると王族なのかと分からなくなる。こうやって同じ釜の飯を食ったのだから何方かが元の居場所に戻る其の時までは付き合ってやらねばならんな。

 

「確か少し離れた所に川があったのだったな。皿を洗ってくる、お前たちは此処で待っていろ。何かあれば叫べ」

「距離があります、何かあれば直ぐに駆けつけます」

「お前は此奴等のお守りをしていろ。自分の事は自分で如何にかする心配するな」

 

 心配性なのだろうか。僅か一日で此処まで心を開いてくれるのは有難いが逃げ足だけは良いんでな。其れに怪しい気配も臭いもしないし俺の勘も何も知らせてはいない。

 片手に重ねた皿や料理道具、もう片方にタオルを二つ。落とさない様慎重に走り出す。カチャカチャと音を鳴らす食器群を器用に持ちながら叢を飛び越え木々を避けて行く。川に着けば直ぐに皿を洗い終え水気を拭き取り風呂敷で包み再度走り出す。

 

「早いですね」

「まぁな。あまり長い間離れているのは良くないと思ってな」

 

 洗ってきた食器類をかばんのなかに詰め何時でも持ち運べる状態にする。後は寝るだけだが寝なくとも街に着く迄起きていても平気だろう。

 さっさと寝ろよと声を掛けるとまたしても今日は見張り番をするという女騎士の思いを受け流しガキ共に顔を向ける。

 

「何だ其の顔は。またか?また話を聞かせろと?」

「「はい」」

 

 昼間話をしろと強請っていた時の様な顔でガキ共が見てきていた。話をするだけでも体力を使う、無駄に体力を使いたくはないのだが此の様子では此方の話を聞いてくれそうにない。

 

「姫様、彼は寝ずに私たちの為に働いているのです。其れに此れからお世話になるのですから無理を言ってはいけません」

「えー」

「えーも何もないです」

 

 不満ありありといった顔で渋る二人に優しい口調で説得しようとする女騎士。こう見ると年の離れた姉妹に見えてしまうから不思議である。ガキ二人はそんな女騎士の言葉に分かったと言い渋々といった感じに毛布に包まる。

 

「明日ならお話ししてくれる?」

「明日な」

「本当に?」

「本当だ」

「本当の本当に?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当に?」

「本当の本当の本当だ」

「本当の──」

「──さっさと寝ろガキンチョ」

「「キャッ」」

 

 苛立ちが募る。小さいのだから可愛いものだ、と思おうとするが駄目だ苛立つ。

 頭から毛布を被った二人をギリギリと歯軋りをしながら睨み付けてやっている俺。何が可笑しいのか小さく笑い出す女も睨んでやる。

 

「随分懐かれたものですね」

「懐かれるのは良いが苛立つ」

「まるで本当の親子の様でした」

「俺には子育てなど無理だという事が分かった」

「案外向いているかもしれませんよ。面倒見が良いではないですか」

 

 面倒見が良い?此の俺がか?ただの気まぐれだ。

 パチパチと炎が弾ける音と風に撫でられる木々の葉の音しかしなくなる。誰も話さなくなってから少し経って寝息が二つ聞こえてきた頃女騎士が口を開いた。

 

「何故」

「あん?」

「何故、依頼を受けたのですか?」

「何故か…………何故だろうな?」

「はい?」

 

 何故俺は依頼なんぞを受けてしまったのか。其れ以前に何故俺は此奴等に飯を食わせたのか。面倒事を避ける事を座右の銘程ではないが心得ていた俺が誰かの為に面倒事に首を突っ込む、そんな事は今までに幾度もあった。一体全体どうしてなのだろうか。

 

「面倒な事になるとは勘付いていた。だが此処で放置するのも拙いと予感もしていた」

「…………」

「だから手を差し伸べたんだろうな。今まであまり考えずに行動していたが良く考えてみればそういう事だったのだな」

 

 良く当たるという勘に動かされ、自分で勘に頼って助けたのだ。

 

「当たるかどうかも分からないものを信じた、という事ですか」

「当たるかどうか分からない。だが俺の勘は良く当たるのだぞ?良い意味でも悪い意味でもな」

 

 カッカッカッと笑えば隣に腰掛ける女も小さく笑う。

 

「そうですか」

「そうなんだ」

 

 あぁ酒が飲みたい。酒を買う金さえあれば迷わず買っていたのだがあまり使う訳にもいかん。渋々酒を見送ったのだがやはり無理をしてでも買っておくべきだった。

 

「お前は寝ないのか?」

「見張りをします」

「何度も言っているが寝ろ、もしもの際にはお前が要になるのだからな」

 

 戦い方を知っているとは前に言ったがあれはあくまで一対一、一対多での戦闘だけだ。此方が複数での戦いなど数えられる程度しか行っておらず内容もただ自分勝手に自分の事を優先にした戦い方をしていた。其れ以上に誰かを守りながら戦うなど指の数程しかない。故にお前という存在が重要なのだ。

 

「もうすぐで街に着く。街に行けば襲われる様な事はないだろう。明日の内に着かなければ其の時はお前が見張っても良い」

「着いてしまえば私の役目がない」

「街の中でも問題は起こるかもしれん。其の時はお前の手を必ず借りる」

「……本当ですか?」

「本当だ」

「本当の本当ですか?」

「また此のやり取りか?素直に頷いてくれると有り難いのだがな」

 

 此処で漸く寝ると言わせる事が出来た訳だが何度も似た様なやり取りを繰り返すのにはうんざりだ。其の後少し話をし横になった女騎士が眠りに就いたかを確認した事で最後の一人となり静寂が訪れた。

 パチパチと弾ける火をぼんやりと眺め時折三人が持ってきた枝を放り込み消えない様に勤め、再度炎を眺め続ける。獣すら眠りに就いている頃だ人間やら化物位しか寄ってこないだろうと思う。夜というのは本当に厄介だ、昼ならば兎も角眠っている者がいるのだ。気が抜けている程度ならまだ寝ている事に比べればまだマシだ、睡眠に着くという事は気配に気付いて起きない限り全て後手に回る事になるのだから。

 起きて頭を覚醒させて対処する。相手の力量が高ければ此の間に死んでいる。故に見張りがしっかりしなくてはいけない。いけないのだが。

 

「くぁ〜、眠い」

 

 腹一杯飯を食い暖かな場所でぼけっとしていれば誰だって眠気に誘われてしまうだろう。長い距離を移動したり走ったり気を張ったりとしていって寝ていないと来ればこうなるのは必然。

 

「心頭滅却すれば眠気は消える」

 

 だが世は斯くも無情なり、そう簡単に無念無想に至れれば此の世は仏で溢れかえっている。

 そんな茶番を一人繰り返し日が昇る其の時まで執念で起き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男妖見張り中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「おはようございます」」」

「おうさっさと行くぞ、一度戻ってくるが忘れ物は無しだ」

 

 頭が痛くなりぼうっとし始めた頃になると眠気が本気を出してきた。俺を夢の世界へ誘う為に強烈な眠気と痛みを叩き付けてくる。そんなにも夢の世界へ誘いたいか?其れはもう誘ってはいない蹴り落とそうとしている。

 馬鹿な事を考えながら徐に立ち上がり曲者が隠れていないか此処等一帯をぐるぐると虱潰しに回り無駄足を踏んだのだと苛立ちすら浮かんできた頃になり、遂に日が昇り出した。山の向こう側から顔を出した太陽が地平線まで其の光で照らし尽くす。

 其の眩しさに思わず目を細める。ぐぐっと身体を伸ばせばパキパキと軽快な音が身体中から聞こえた。日を浴びた事で頭の痛みと眠気が薄まった様な気がする、其れどころか元気になっている気すらしてくる。其れは言い過ぎた、辛い。

 

「顔洗ったり飲み水を補充したり自分の事は自分でするんだぞ」

「私の魔法で生み出すのは?」

「魔力を消費するのだろう?無駄に使うな。他で代用できるのならそれを使え、もしもの時に『魔法が使えません』じゃ話にならん」

 

 備えあれば憂い無し。日が落ちる前には街に着きたいのだ、ふかふかの布団でさっさと眠りたい。

 荷物を背負い昨日の川に辿り着く。寝惚けた頭を冷たい水で目覚めさせ飯の支度に掛かる。昨日は草原手前で飯にしたが此処で飯にすれば良かったかもしれん。いや獣や人間、化物が集まりやすいのだから駄目か。

 

「今日はどうする?」

「今日は?あぁ水浴びですか。そうですね、もし宜しければ頼みます」

 

 飯の支度をしながらも話をする。其の後俺も水浴びをしたいからな、飯を食ったらさっさと入ってくれ。

 

「それじゃあ」

「「「「いただきます」」」」

 

 今日の飯も美味そうだ。俺でも簡単に作れそうだからな、元の世界でも作ってみるか。




12293文字、普通だな。
ほんへ?知らない子ですね。
【魔法】
体の内と空気中にある二つの魔力を使う事で出来る。色々属性がある。火や水は一般的な属性で光は珍しい。
・エリーフ
火の初級魔法。炎の塊を飛ばす。
・アウークァ・ラエープス
水の中級魔法。水の槍を飛ばす。
・エリーフ・ドローウズ
火の中級魔法。火の刃を飛ばす。

【妖術】
呪術、幻術等が当てはまるもの、妖怪が使う術も該当。なんか妖術っぽくねぇよなぁ?という兄貴たちがいるだろうが、妖怪が使う技は全て妖術なんです〜(RTA走者並感)
・妖術『飛翔斬撃』
妖力で作った刃を飛ばす。
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