「こうしてお姫様は月へと帰っていきましたとさ、おしまい」
障害物の乏しい草原を進んでいく一行。今日も今日とて話をしながらなのだが既に一つ昔話を話し終えてしまったのだが街は一向に辿り着く様子は無い、道程は険しい。
「お姫様は月に戻されてしまったのよね?其れからどうなったの?閉じ込められて逃げられない様にされてしまったの?」
「姫?別に無自由な生活を送る事にはならないんじゃないか?元は月の住人なのだから」
昨日同様歩みを進めている途中で疲れたという二人を抱き抱えた俺は此れまた同じ様に昔話をしてやっていた。だが今回は俺の昔話ではない、御伽噺だ。俺の世界では慣れ親しまれた話だが此の世界では誰も知らない話という事で興味津々な様子で話しを聞いていた。だが難しい言葉や表現があると首を傾げていたので途中でガキ共の反応を見ながら解説を加えていく。姫が元の居場所へと戻っていき話が終わっても疑問があると言われ其れに応えていく。
「其れからお姫様はどうなったの?」
「姫は月に戻ってしまったからな其れから先どうなったのかは本人たちしか分からない」
しかし此奴等は良く話を聞く。此処まで長々と話されれば其処等のガキは飽きたと立ち去っていくというのに。
「小父さまは月にお行きになられたのでしょう?お姫様とは出会わなかったのですか?」
「答えは否だ。そも戦いに行ったのだぞ?戦さ場で非戦闘員と出会える訳がない。出会ったとしても悠長に話をする間など皆無だ、敵対関係だ」
「もしお姫様が捕まってたら救ってあげれば良かったのに。王子様みたいに」
王子様?此の俺が?俺が舞台に上がる際には卑しい貧民役が似合っている此の俺がか?そもそも捕まっているかも分からぬ敵対している女を連れ出す訳がないだろう。連れ出しても得どころか損しか生まない姫は要らんな。
そんな俺の内心を知る事も無く話に花を咲かせる二人。
「物語の様に危険が迫った時、カッコいい王子様に救っていただきたいわ」
「私も。其の儘連れ去られ二人でひっそりと幸せに過ごしたいわ」
丸いお目目を光らせてキャーキャーと黄色い声を上げる二人。俺の近くで喚くな落とすぞ。此の世界の女とは此の様なものなのだろうかと後ろを振り向けば。
「わ、私も昔はそんな幻想を夢想していました」
「……」
「なんですか其の目は!私だって子供の時がありましたよ!私の事を子供扱いしていたのにこういった時だけ歳相応の対応になるんですか!」
女三人寄れば姦しい、とは良く考えた物だ。三者三様の騒ぎ様に辟易としながら歩みを進める。地平線の真上に小さく見える影、此処からでも見えるのださぞ大きな街なのだろう。仕事を見つけて住める場所を借りなければ。
「運命の赤い糸で繋がれた王子様はわたしが危険になれば来てくださるのでしょうか……」
「子供は二人、いや三人欲しいの。立派じゃなくてこじんまりとした小さなお家で大変だけど幸せに暮らしてい……」
「ふーん良いですよ、どうせ私は脳味噌まで筋肉な女ですよ。ですが此れでも女なのですから……」
其れにしても煩い。自分の世界に入ると三人は勝手にさせておくかと思ったが聞き捨てならん事を聞いてしまい阻止されてしまった。、
「でも小父様が王子様でも良いなぁ助けてくれたし……」
そんなことを呟いたガキ一号によって他二人まで。
「小父様が?小父様はお腹が空いていたのを助けてくれた、聞いた事のないお話をしてくれた。助けてくれるだけじゃなくて楽しませてくれた小父様は王子様にも成れるの?なら小父様が良い!」
「王子様とは掛け離れていますが親しみ易い庶民染みた王子もありですね」
お前たちは一体何を言っているのか。王子など自分のしたい事も出来ぬ国を支える為の傀儡ではないか。まぁ中には自由に生きている者も居るだろう、然し其の殆どがしたくも無い政略結婚をやらされ成りたくも無い役職に就かされやられたくも無い暗殺を受けているのだぞ。
「小父様は私の王子様になってくれる?」
「わ、私も!」
「駄目だ」
「「えぇ〜!?」」
誰がそんな面倒臭い事を率先してやるものか。俺の生き方というのはな、静かでのんびりとした誰にも危害を加えられない平々凡々としたものでなくてはならないのだ。
「姫直々の御指名感謝の至りでありますが、私には身分不相応故辞退させて頂きたい。私よりも相応き者が居る事でしょう、其の者をお勧め致します」
「むー城の執事みたいな事言う……」
俺には使用人でさえ相応しくないという暗喩なのだが、上手く伝わってはいない様だ。いや何方か分からんな。
「王子様には成れないが、お前たちが危険な目に逢えば助けてやる」
「本当!?」
「あぁ、まぁ離れた場所に居ると直ぐには駆け付けられないがな」
また姦しくなった三人から意識を外し周りに向ける。何処から見られているのか分からない今警戒はしておくに限る。
右良し、左良し、後ろ良し、前良し、序でに上良し……ん?
「なぁおい……おい、おいこら」
「全く……え、あっはい何ですか!敵襲ですか!?」
「煩い。いや気になった事があってな、あれなのだが」
何度目かの声掛けによって此方を見やり臨戦態勢に成る女騎士は俺が指差した方向、空に顔を向ける。
「如何しましたか、特に変わった……ん?」
「あの鳥なのだが」
「大きく、なっていますね」
俺たちの上を旋回していた鳥なのだが何時の間にか大きさが一回り大きくなっていた。俺の気の所為だろうかと聞いてみたが間違ってはいなかった。再度見上げれば一回り、いや二回り程巨大化している。
猪と同じ類の存在なのだろうと察した、そして何の対策も取る事なく近付かせてしまっていると頭に浮かんだ。
「逃げますか?迎え撃ちますか?其れとも」
「其れとも?」
「いや、無いです」
「ないのかよ。選択は一つ、逃げる」
「「戦わないの?」」
逃げると言うと頷きが一つ、困惑が二つ返ってきた。やる気満々で杖を手に持っているがあれがどの程度の速さで飛びどの程度の固いのか知っているのか?
「知らないわ」
「知らない」
「下手に手を出して向こうの方が上手でしたじゃ戦う意味が無い。良く分からないモノが相手の時は警戒しながら逃げるのが一番生還率が高い。証拠は俺だ」
生還率というか怪我をしないかの確率なのだが逃げた方が明らかに怪我を負わない。負う事には負うのだが、擦り傷切り傷仲間の数しか被害を受けないのだ逃げるに限る。
「近付いてくれば魔法を張って目眩しにしてほしいのだが出来るか?」
「「魔力はあるので大丈夫です!」」
「貴方のおかげで消費していた魔力は戻っています。街に着くまでには保たせます」
「俺も使える術は使っていく。二人は抱えた侭走る故に攻撃は出来ん、攻撃は頼むぞ!」
足元を気にしながらの逃走、取りに気が裂けない今頼りに成るのは三人のみ。俺が足に成るのだから二人には其の分頑張ってもらわなければ。
走り出した俺たちの速さは其れ程速くはなく巨大な鳥は付かず離れずの距離を置いている、俺たちを狙っていると容易に分かる。だが直ぐには襲ってくる事はなく旋回を続けるのみであったので想像以上に街に近づく事が出来た。
狭まる距離、其の全貌を表す街。だがそう簡単に上手くいく事はなく。
『ピヤァァァァ!!』
「エリーフ!」
「アウークァ!」
草原に鳴き声が響き渡ったと同時に火と水の魔法が俺の頭の上で生み出され天へと放たれた。頭上で何かが破裂する様な音を立て影が俺たちを覆い鳥かと思ったが襲われる事は無かった。如何なったのか気になり見上げれば煙、いや蒸気が空を覆い隠していた。
「火と水で水蒸気を生み出したのか?」
「そうよ!此れがなかなか使い勝手が良くて……」
「べらべらと喋っていると舌を噛む、噛んだか?」
「……大丈夫」
「…………」
痛そうだ。
『ピギャァァ』
蒸気の壁の向こうで声が聞こえる、かなり近い距離に居る様だが攻めてくる様子は無い。蒸気が邪魔をして此方を視界に捉えられず躊躇っているのか、分からないが今の内に距離を稼ぐ。
だが蒸気にも限界がある。風が吹けば飛ばされ空気に溶けていく、其れだけでは無く広がる蒸気の傘から出れば天に晒されてしまう。其の場で止まる事の出来ない故に見つかるのは必然。
『ピギャァァ!!』
「気付かれましたね」
「そりゃそうだろう、傘から出れば雨に打たれる」
「エリーフ!」
「アウークァ!」
再度放たれた魔法、また同じ様に蒸気が空を覆うが今度も上手くいくことは無く。
『ッ!!』
蒸気の壁を通り抜け飛び出してくる鳥。其の姿は鷲、巨大な鷲であった。
姿を現した鷲に驚き一瞬の隙が出来てしまう二人、此の隙を逃す程鷲は優しくない様で視界に入った獲物に狙いを定め其の爪を向ける。
「エリーフ・ドローウズ!」
獲物を空へと連れ出そうとしていた其の巨大な鉤爪は俺たちを捉える事は無かった。飛んできた炎の刃を食らい弾き飛ばされた。
真横を掠めていった巨大な爪に冷汗が流れた、後ろを付いて来る女騎士が居なければ捕まっていただろう。助かった。
「助かった」
「いえ、お二人の事を任せているのです此の位は」
地面を転がる鷲に背を向け街へと向かう。あれを受けても此方へ向ける目からは食らってやるという意思を感じ取れたのだ直ぐに起き上がりやってくる。
『ピギャ!ピギャァァ!!』
「やはりか」
「魔力の消費を抑えていたとはいえ未だ襲う気でいるとは、恐ろしいものだ」
「エリーフ!」
「アウークァ!」
考えていた事が早々に実現してしまった。直ぐに立ち上がった鷲は空へと飛び上がり再度俺たちを狙い急降下を始めた。其れを見て両腕の二人が魔法を放つが今度は目眩しの為ではなく攻撃の為の物であるらしく真っ直ぐに鷲を狙う。
だが其れを馬鹿正直に受ける鷲ではない。減速する事なく器用に羽を動かし飛んで来る魔法を避け向かってくる。
「エリーフ!エリーフ!エリーフ!エリーフ!エリーフ!」
「エリーフ!」
「アウークァ!」
一撃に魔力を乗せるのを止め質より量に切り替えたのか火の玉を連続して撃ち出す女騎士、其れに続いて魔法を放ち蒸気を生み出す二人。視界が奪われ炎が飛んで来る、此れには鷲も驚いたのか襲ってくる事はなかった。気配も遠ざかり頭上を飛んでいる様子。
「お前らそんなに撃ち込んでいるが街まで持つか?」
「私は半分を切った所です」
「わ、私たちも」
「……大丈夫です」
三人が三人共顔に疲労が浮かんでいる、ガキ二人に至っては濃い。さて如何するか。
「追い込まれているか、仕方無い俺が打って出る」
「何をする気ですか?」
走る足を止め二人を下す。突然の行動に戸惑う三人に構っている暇は無く荷物から残っている猪肉を取り出し肩に担ぎ走り出す。
「俺が惹き付ける!其処で待っていろ!!」
「いきなり何を!?」
何か言っているが反応している暇は無い、蒸気の傘から出て来た肉を持つ俺を見逃す訳も無く鷲は俺の方にやってくる。肉を担ぐ俺、宛ら鴨が葱を背負ってやってきたのだ逃してなるものかと真っ直ぐに降りてくる。
着実に縮まる距離、迫る凶手。俺を捉えようと爪の広げた其の瞬間担ぐ肉を鷲に向かって投げる。片足で肉を掴み反対の爪で捕まえようとするが肉に気を取られた一瞬の内に剣を抜き放つ。事前に溜まっていた剣に宿る妖力と自身の妖力を合わせ生み出された紫の刃は切り落とさんと迫る鉤爪に向かう。
『ピギャ!?』
「なッんが!?」
刃は鉤爪を切り裂くだけに留まらず其の儘の勢いで鷲の腹を斬り裂いた。女騎士が放った炎の刃が斬り裂き燃やした其の傷に正確に捉えた斬撃は皮や肉だけではなく内臓をも両断した。此れで終わりだと思ったがそうは問屋が卸さない。
俺に向かってきていたのだ、此処で倒す事が出来ても止まる訳ではない。其の儘其の巨体に押し潰されてしまった。
男妖救出され中…
女騎士によって鷲の地肉と内臓に塗れた俺は助けられたのだが、街から異変に気付いてやってきた衛兵に落ち着いた所で話さないかと言われ断るに断れず詰所で話をさせられる事に。
「(簡潔に聞くぞ、お前らの事を聞かれたら如何答えれば良い?)」
周りを屈強な男たちに囲まれるという窮屈でむさ苦しい状態は精神に非常に堪える。其の中で清涼剤と化している三人の内の一人である女騎士に話し掛ける。
「(争い事の種を長い間置いておきたいとは思わないでしょう。素性は隠した方が良いかと)」
「(俺はお前らの事を旅の途中で出会ったと言うからな。嘘は付いていない)」
「(此方は此方で適当に話をしておきます)」
女騎士は別の国の者で其の国に住む子供の護衛、ガキ二人は貴族の子供で遊びに来たという設定でいくという。嘘は付いていないから大丈夫だろう。もし何かあれば逃げれば良い。ガキ二人に口裏を合わせる様に伝えている女騎士の姿を視界の隅に置いておき真正面を向く。走っている間に其処其処の距離を進んでいた様で後少しで目的の街に着く。城壁によって街の内部は分からないが天へと伸びる城だけが其の姿を見せている。
「こそこそと何を話していた」
「此れから如何なるのか不安だっただけだ」
「良からぬ事を考えているのなら止めておけよ、死体処理が面倒だからな」
此れだ、むさ苦しい空間に居るのが嫌な理由は他にもある。俺の真横で殺気を飛ばしてくる此奴だ。男たちより頭一つ程小さい癖に実力は頭三つか四つ高い、かなり強いだろうと分かってしまう雰囲気を持っている。其れに加えて威圧的な物言いで気が滅入る。声からしてまだ若いだろうという事しか分からんのだが若い内から此れ程とはな、女騎士と良い勝負をしそうである。
「おい、私の話を聞いているのか?」
「はいはい聞いてる聞いてる」
「貴様、私を嘗めているだろう……其の首此の場で跳ねてしまっても良いのだぞ?」
憂鬱な気分を隠す事なく話してしまった、其れが癇に障ったのだろう怒りに殺気を滲ませて腰の剣に手を掛ける全身鎧野郎に溜息が出る。数多の争い事に巻き込まれてきた俺には其の程度響かんわ。
「………………」
「………………チッ、張り合いの無い奴だ」
此処で張り合ってお前らが来た国に入る事が出来なくなると拙いのでな。其れに面倒だ。
「其処の三人は兎も角お前は違うな?」
「……何がだ」
「あの三人は同じ場所から来たのだろうとは雰囲気から分かる。だがお前はあの三人とは別だと感じられる」
「其れが如何したんだ」
「そう感じただけだ。お前たちには後で話を聞かせてもらう、精々手間取らせる様な真似をするなよ?」
見下されている、胸倉を掴みにいかなかった俺を誰か褒めてはくれないだろうか。
「まぁ其の前に其の血を如何にかしなければな、話にならん」
そうなのだ、俺は鷲の血に塗れた儘で非常に血生臭い。近くに来るのは女騎士と此奴だけ、此奴は近付くな。
「シャワーくらいな浴びさせてやる血を流せ、服も用意させるなら其れを着ろ」
「あ、あぁ」
「なんだ?」
「やけに親切だなと思ってな」
見下していたと思えば親切になる、此奴は何を考えている?
「なんだ?情を掛けてやっているのだ受け取らないとでも?」
「滅相も御座いませんよ騎士様」
「実家の執事の様な事を言うな」
所作の一つ一つに礼儀というか品があったが此奴も女騎士と同じ様な者か、上から接してくるのもそう育てられた結果なのかもしれんが知らん、理由が如何あれ俺を苛立たせたのには変わりないのだから。
気の強い奴は総じて厄介事を運んでくる、何か嫌な予感もするし此奴とは此れっ切りで終わらせたい。
「女子供は先に行かせろ、此奴は私が連れて行く」
「ハッ!分かりました」
「其れでは後程」
「あぁ、お前等変な事されたら叫べよ。俺は駆け付けられるか分からんが此奴は来るだろう」
「え〜小父様は来てくれないの?」
争い事は苦手だ。魔法も良く分からない今動きたくはない。
街の外と中を行き来を可能とする両扉の前までやってきた俺たち。其れにしても街を覆う城壁のあまりの大きさに思わず唖然としてしまう、両扉の門も城壁には劣るものの大きさは俺の五倍はあるだろう。
「ほらさっさと来い」
「分かった分かった」
重厚な門が開かれ其の先へ進んでいく。門を過ぎれば街が広がっていると思ったがそういう訳ではなくてだだっ広い空間があり其の先に更に壁が建っているのが見える。此処まで厳重だと逃げ出すのも大変そうだ。
「そういえば」
「ん?なんだ」
「あのデカい鳥の事なんだが」
「怪鳥イルーグか」
「イルーグだかルイーグだか知らんが俺が仕留めたのだ俺が好きにしても良いんだよな」
此処に来るまで此奴と他の兵士が鳥の事を話していたのを聞いてしまい俺の知らない所で何かしようとしているのかと気になってしまった。
「イグールが討たれた事を報告せねばならないから私たちが貰おうと思っていたが、あんな化物の死体を欲しいとは正気か?」
「不味くなければ食える物は貰う」
「そうか。だが証拠として見せなければならないからな、用が済んでからで良いか?」
一時的に渡す代わりに何か要求したいが下手な事をしても困る。此処は何もしないでおこうか。
「あぁ其れで良い」
さっさと此の血生臭さを如何にかしなければな、すれ違う兵士たちが此方に向けると恐ろしい物でも見た様な顔をして面白いが変な噂が流れても困る。其れに……。
「……、……………。………」
「………!…………………」
「…………………、………」
「…………。…………………?」
周りの視線が痛い。こんな姿だ仕方無いとはいえ仕方無いが此方の事を考えて欲しいものだ。
何時になれば着くのかとせっつくと兜の奥の瞳が鋭くなるが其れは効かん。
「そう急かすなもう直ぐで着く」
街の外へ向かう人間の視線に晒されながらも着いたのは内側の城壁の入り口にある建物。建物について聞けば旧兵舎だと言う。新たな兵舎を作ったのだが其処まで兵が集まらず此方の古い方は使われていないのだとか。
「此処でなら其の姿で入っても問題は無い」
「構造を知らないからな、道案内を頼めるか」
「ふん、仕方の無い奴だ。私自ら教えてやる感謝しろ」
へいへいと返し後ろに付いて行く。掃除はしているのか劣化はあるが埃や汚れは無くまだ使えそうだと思ったがところどころガタが来ているのだとか。
前を歩く騎士の後ろ姿を見る、其の歩みには全くと言って良い程に隙が無く進みながらも此方に意識を向け警戒を怠る様子は無い。
「なんだ、じろじろと騎士がそんなに珍しいか」
「あぁそうだな。俺が居た所には騎士なんて居なかったからな」
「田舎者か」
嘘は付いていない。
「だがお前と共に居た女は騎士だったぞ」
「彼奴等とは草原の向こうの森の中で会ってな、此処に来る迄の間共に行動をしているだけだ」
「そうか、あの三人とは別の場所から来たと?」
「そうだ、あの三人が何処から来たのかは知らん」
別の大陸から来たとは聞いたが正確な位置は知らん。
「お前は何処から来た」
「森の中、としか言えんな。森の中にある小さな集落の生まれ故に森の外の世界の事を知らんのだ」
「では何故外に出て来た?」
「外の世界の物やらに興味があったからだ」
元の世界の外の世界の物に興味があった結果此の世界にいる。
「そんな事で此処までやってきたと?そもそも何処から来たのだ、名前を知らなくとも方角やどの程度の距離なのかは分かるだろう」
「少しの道具と食料を持ってやってきたのだがな、化物に襲われたりしたからなそんな事を気にしていられるなかった」
道具と食料の話も襲われた話も本当の事だ。気にしてなかったしな。
「気にしない?故郷に帰らなくとも良いと?」
「俺の親は既に亡くなっている、結婚もしていないしな。独り身故の蛮行だ」
そろそろ襤褸を出してしまいそうだ。集中しなくては。
「イルーグの事だがな、どうやって倒した?」
「あの三人と協力して何とか。魔法を使える者たちで良かった。俺は出来ないからな」
「使えないと?」
「言い方を間違えた、俺は苦手だからな戦力に成らんのだ。魔法は便利だが其の便利さに頼り過ぎない様にという両親の教育の所為だ」
「…………そうか」
危なかった。使えるという前提で話してしまいどの程度の力量なのか知る為に使ってみろと言われても使えない、つまり嘘を付いていたと怪しまれてしまう。逆に使えないと答えれば魔法が当たり前なのに可笑しいと思われる。選択を失敗したが上手く補助出来たと我ながら思う。
「だが遠目の魔法で見ていたが最後の一撃はお前が行っていた様に映ったのだがな?あのイグールを切り裂く威力は並のものではないのだが」
「女の騎士が先に攻撃を行っていた事で付いた傷の上から攻撃したからな、斬り裂く事が出来たのだ」
「属性は?」
やはり来たか属性、どんな属性があるのかは知らないが見た事もないと女騎士に言われているのだどれにも当て嵌まらない可能性がある。如何する?
「属性は見ていたのだから分かるだろう?まさか騎士様とあろう者が見切れないとでも?」
「私を愚弄するか?其の首此処で落としても良いのだぞ?」
「別に侮辱はしていない。まさか此の大きな街の者でも分からないのだと思ってな。其処まで練度は高くないのだと分かった」
「やはり私を愚弄しているだろう!お前の属性など分かっておるわ」
「其れでは答えてみてくれ」
「口を聞いてもらえているだけ有難いと思え!」
はぐらかされたか、だが結果は非常に良い。此の儘別の話に変えていければ。
「其れで風呂場はまだか?」
「もう直ぐだ、此処だ」
廊下を進み突き当たりの大きな扉を潜る騎士に続いて入る幾つもの棚が存在する広間があり奥にあるのがシャワーと呼ばれる物か。
「田舎者、使い方を教えてやる付いて来い。さっさと終わらせろよ」
「へいへい」
使い方を教えられた、此れはありがたい。此奴は言動が上からだが親切な奴だ。上手く誘導出来れば使えるな。
そんな事よりも今は風呂だ、脱衣所に戻った俺は服を脱ぎ近くの棚に置いてある籠に入れていく。
「お、おい!いきなり脱ぎ出すな!」
「んあ?さっさとしろと言われたから脱ぎ出しているのだが何が悪いのだ? 」
「いや、私がいるのに脱ぎ出すなと言いたいのだ!」
「何故?別に見られて困る事はないのだが。見てもお前に不都合があると?」
「私は女だ!」
兜を脱ぎ去る騎士。一つに纏められた艶のある黒髪、高い鼻、丸い目、ふっくらとしたくちびる、美しく整った顔立ち。高い声は変声期前だからなのだろうと思っていたが、如何やらそういう訳ではないらしく女だったからな様だ。女騎士という前例が居たのだから可能性は十分にあっただろうに何故疑う事なく男だと断定してしまったのか。此奴の口調や態度が悪かったのだ。
「……すまんな、勘違いをしていた」
「貴様ぁ……!殺す!」
「女の子がそういう事を言ってはいけません!だから剣を抜こうとするな!」
「女扱いをするな!」
「何方にすれば良いのだ!」
剣に手を掛け抜く一歩手前にまでなってしまったので此処等で素直に言う事を聞こうと思う。向こうが勘違いさせる様な事をしているのがいけないのだ。
「わたしは外で待つ、妙な真似をせずとっとと出て来い」
「服は?」
「持ってくる間は中に居ろ!」
バタンと勢い良く扉を閉めズカズカと足音を立てながら離れていく女騎士、女騎士だと女騎士と被ってしまうか。黒い鎧を着ているのだ黒騎士で良いか。黒騎士が離れたのを確認しさっさとシャワーへと向かう。蛇口を捻れば簡単に水が出る、其れに加えてお湯迄出るとは使い勝手の良い事だ。我が家にも欲しいのだが俺にも作れるのだろうか。
服を脱ぎ籠に入れいざシャワーへ。備え付けの清涼剤のシャンプーとボディーソープを使う様に言われたが此れもなかなかに良い、石鹸など目では無い使い心地。いかんいかん、早く済ませなくては。急いで体を洗いタオルで水気を拭き取り腰蓑の様に巻き付けて待機する。
「ま、前を隠せ!」
「隠しているだろう」
「そうじゃない、まぁいい。さっさと着替えろ」
投げてよこされた服を黒騎士が外に出てから着ていくが着方が分からず一、二分着るのに時間を食ってしまった。血に塗れた服は如何するか。服に思い入れがある訳でも無し、ならば捨ててしまっても良いか。
何とか着替え終わり声を掛け又しても付いて来いと言われ兵舎から出される。其の儘歩き続け着いた先は真新しい建物、此れが先程言っていた新しい兵舎なのだろう。中には兵士たちが居り擦れ違う度に黒騎士に向かい敬礼を行っていき騎士は其れに軽く返すだけのみ、黒騎士は兵士たちよりも上なのだろう。通路を進み辿り着いた部屋に入る様に促され其れに従い中に入る。
部屋の中には机と椅子が四つ、良く分からない道具が置いてあるだけの簡素な部屋であった。此処で話しをしていくという事か、先程根掘り葉掘り聞かれがまだ聞き足りないのだろうか。
「情報を纏めよう。
お前は離れた集落から来た、場所は外の事が全く入ってこない森の中。
場所は分からず正確な距離、方角すら分からない。
外の世界が気になり此処へやってきた。
あの三人とは草原の向こうの森で出会い共に来た。
途中で怪鳥に襲われ此れを撃破。
此れに異存はないか?」
「無い。だが聞きたい事がある」
深く聞かれれば襤褸を出してしまうかもしれん、上手く話を逸らさねば。
「何故こうまでしつこく聞いてくるのだ?人の出入りは其処其処あったが毎回こう聞いているのか?」
何故俺の、いや俺たちの時だけこうも聞いてくるのだ。
「教えるとでも?」
其の位教えてくれても良いだろうに、何か話せない理由でもあるのか。気になった事を何も考えずに聞いてしまったが此処で終わってしまう、其れだけは避けねば。
「まぁ田舎者なのだから知らなくとも仕方無いか、良いだろう教えてやろう」
「ありがたいありがたい」
「別の大陸で戦争が起こった。其れが切っ掛けかは分からんが此処の大陸でも争いが起きている。今は国と国との戦争にまでは発展していないが何れそうなるのも時間の問題だろう」
其れに加えて巨大生物や化物が現れ人間を襲っているという。各地で一斉に現れた其の生物の対応に追われ争い所の騒ぎでは無くなり鎮静化したかに思われたが。
「騒がれていた怪物騒ぎも時が経つてば皆が慣れ又しても各地で争いが起こり始めた。危険な思想を持つ者たちの存在も報告されているからな、同盟国の間だけ行き来を可能にするカードを発行していて其れを持つ者以外は危険か如何かを調べているのだ」
俺もあの三人も此の大陸に来たばかり故に其の話は知らなかった。いや、其のカードとやらを提示する様に要求される前に連れて行かれたのだが。
「其れで、俺たちは如何なるのだ?」
「お前たちが無害だと証明出来れば話は早いのだがな、身分を証明する物を持っていないのだから慎重になるのは仕方の無い事だろう?」
「同盟国以外からやって来る奴は毎回こんな事をしなくてはならんのか、七面倒な事此の上無いな」
簡素な部屋に光を入れる格子窓から空を見上げ様とするが其の光景の殆どが壁で隠れ見えない、ほんの少し壁の上から覗く空は蒼然としており雲が風に流されていく。
「お前たちが如何なるのかという質問だったが、此の街にどれ程の期間滞在するのかを教えてもらおうか」
「何故?」
「色々あるのだ此方にも。何が楽しくて毎回毎回来るか如何かも分からぬ敵対勢力の為か如何か調べ監視しなければ成らないのか」
「愚痴か?愚痴なら他の奴等に言え、沢山居ただろう」
「立場上痴態を晒してしまうのは避けたいのだ」
何故俺には愚痴を零すのか、其の痴態とやらを言い触らすかもしれんのに。何処から来たのかも分からん奴の言う事を聞くとは思わないから平気だと判断したのか?
「其れで何時まで居るのだ?」
「招かれざる客という事か?」
「毎回相手させられる私たちの気持ちにもなれ」
「馬鹿な真似はしないと言うのに疑われる俺の身にもなれ」
無駄に続く会話、情報を探らないのなら早々に開放してほしいのだがな。先に尋問を受けている三人が待っているかもしれんだろう。
「他の三人は今は如何している」
「此処に来るまでの付き合いなのだろう?」
「そうだが此処まで来たのだ其れ位の情は湧く。其れで如何しているのだ?」
聞けば既に尋問は終わり別の部屋に居るとか、既に開放された身だが俺の事を待っているそうな。何故待つ?別の場所で落ち合えば変に疑われる事は無いだろうに。
「荷物は一通り調べさせてもらった。魔法書の類や過剰な武器は存在せず、あったのは調理器具に片刄の剣と良く分からない物。使い道の分からない物があったが此れは何だ?」
「申し訳ないがな、俺も良くは分からんのだ。外の世界の物に興味があり不可思議な物を拾いながらやって来たのだが其れが拾った物だ」
嘘は付いていない、筈。此処に来る道中拾ったのは確か、良く分からないのも確か。
「……そうか、まぁ大した物では無いと報告があるから捨て置こう。其れで、何時まで居るのだ?」
「又しても其れか。俺は此処で金を稼ぎ装備を整え帰路の為の術が見つかり帰る事が出来る様に成れば其れで出て行こう。あの三人は知らん」
「分かった。さっさと見つけて私たちの負担を早く減らす様にしろ」
此れで尋問は終わりだと部屋から出され三人と合流すると兵舎から追い出される様に外に出された。
二度と来るかと土を蹴り飛ばし鬱憤を抑え街へと向かう。
「如何でしたか?」
「知らぬ存ぜぬで通そうとしていたのだが案外質問される事は無かった。だが其れが逆に怪しい、危険だと警戒するのならもっと強気で尋問を行えば良いだろうに」
泳がせる気か?いや此の後も監視する等と言っていた。警戒が緩いだけなのか其れとも。いやそうする必要が分からん、やって来る者たちに毎回尋問を行い毎回監視していては負担は計り知れん。幾ら数を揃え様と辛いものは辛い、緩いだけか。
「此れから如何する気だ?」
「金銭を稼ぎ住居を確保する、此れが第一目標ですかね。尋問が終わった今話し合い本当は此処で別れる筈が共に生活をする事になったという設定で」
此処までだと言った手前早くに共に居るのは問題だろう、が今そういう事になったのだと言えば良い。苦し過ぎる言い訳だが大丈夫だろうか。
「其れでは行きましょうか」
「ちょいと待ってくれ」
共に生活を送るのなら金をお前に渡しておきたいのだが。懐から銭の詰まった袋を差し出すと目を点にする女騎士。
「私が、ですか?」
「俺は面倒事が如何にも苦手でな金の管理などしたくないのだ。そも此の国の金の単位も良く分かっておらず、何がどの程度の値段なら安いのか高いのかといった事も分からん。共に生活をしていくのならお前が財布の紐を握れ。其れは全部やる」
帰る手段が直ぐに手に入れば不要な物になる、逆に残っても面倒事は避けれるという戦法だ。此の隙の無い作戦は我ながら天晴れなものだ。
「貴方の物なのでしょう?勝手に使うのは」
「俺の生活がより良くなる様にすれば良い」
無駄遣いは出来んからな早い内に住居を見つけなくては。街の中に進んでいけば後ろから慌てて付いてくる気配がするが知った事か、もう其の話は止めだ止め。
「私たちの為にすみません」
「別にお前たちの為だけでは無い、変えるまで俺が怠慢な生活を送る為の事だ。勝手に勘違いをするな」
「……分かりましたよ、ありがとうございます」
「さっさと家が部屋を見つけてこい、俺は此の世界に疎いのだからな」
飯を食わせて満足な睡眠も摂らせてやったのだ俺の為に働くのだ。
「其れより、あの巨大な鷲は良いのですか?」
「あ、何時返されるのか何処で受け渡されるのかを聴いてもいない……」
「……」
「……」
「……」
「……」
戻るか。
12686文字、普通だな。
Eoh面白いっすね〜、四部もアニメ化するし。PVで絵柄が違うとか声優変わったん?とかコメがあったが悪いかどうか見極めるのは一旦アニメを見てからだってそれ一番言われてるから。あーだこーだ言っても結局見ちゃうんだよなぁ。
・戦闘とか展開とかガバガバ過ぎん?
(文才なんて)ないです。
・疑う割にあっさり入れるな。
人の出入りが多いからね、一々事情聴取するだけでも大変。でも貴族の子供が従者を一人しか連れていないのと途中で合流したとかいう身元不明人物にはちょっぴり長く尋問しているゾ。
・もっとスマートに戦えば血塗れにならんかったんじゃ?
スマートに戦うキャラじゃないぞ。行動も考えもガバってるのがすき。