有象無象妖怪譚   作:命楼

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二日ぶりの投稿です。異世界編は二週間ぶりの投稿です。一通り書いて見直そうとして途中で面倒になったので投稿です。


【異世界編】其の六

「起きたか」

「おはようございます」

 

 日が昇り朝日が窓から入ってくる。其の光をもろに受け眩しさに起き上がる。寝呆ける頭の侭ぼんやりとしていると、視界の端に誰かが起きるのが映る。起きてきたのは女騎士であった、俺が起きる気配を感じ取ったのだろうか。挨拶を交わし今日は如何するかと話し合う。

 今日は先ず服を買おうと話していると扉を叩く音が。近づいてくる気配を感じ取っていた女騎士が手にしていた剣を構える。だが扉の向こうから聞こえてきたのは初老の店員の声であった。昨日選択を頼んでいた服を渡しに来たと言う。

 

「んん……」

「眠い……」

 

 そうこうしていると目を覚ますガキ二人。眠たげな二人であったが、女に連れられてシャワーを浴びに行ってからは何時もの様に笑顔を向けてきた。

 

「おはよう」

「「おはようございます」」

 

 三人が部屋を出ている間に、昨日与えられた服を脱ぎ綺麗になった甚平に袖を通す。血塗れと成り生臭くなっていたが、其れが嘘の様に消え去り新品同様になって帰ってきた時は感動したものだ。

 三人は街に来る迄に着ていた服を身に纏っていたが、酷使し過ぎた結果其処彼処に修復を加えた跡が見て取れる。毎日同じ服なのは嫌だろう、服屋が何時開くのか知らんが早いとこ買ってやりたい。

 

「其れじゃあ飯を食いに行くぞ」

 

 朝起きたら先ず行うのは周囲の警戒、そして朝飯を食う事だ。腹が減っては戦は出来ぬ、何をするにしても飯は食っておくに越した事はない。

 日が昇り、其れ程時間が経っていないおかげで食堂酒場は全くと言って良い程に客が居なかった。極僅かにテーブルに着く其の殆どは、飲んでいて其の儘寝落ちしてしまったのか眠っている始末。起きている者など片手の数程しか居ない。

 

「いやぁ又会いましたね」

「……そうだな」

「おやおや、何だか対応が冷たいですね。自分は何かしてしまいましたかな?」

 

 昨日、当たり障りの無い事を二、三言交わしたあの男も数少ない起きている客の一人である。酒に酔っている様子はない、俺たちよりも先に此処に来たのだろうか。

 他のゴロツキとは違い大人しい、何処にでも居そうな好青年といった風貌と雰囲気を男は纏っている。其処等の道の端くれで出会ったのなら、俺はまんまと釣られていただろう。だが其の雰囲気に丸め込まれる事はない。何故?簡単な事だ。此の店は物騒な連中しか居ない、真面な奴は俺たち位しか居ないだろう。だが真面そうに見える此奴が、こんな所に居るのが堪らなく怪しい。

 

「警戒させない様にしていたのですが、まさか裏目に出ていようとは」

「……」

「別に何かしようとしている訳ではないですよ。

 ────だから其の腰に差している物騒な物から手を離してくれよ」

 

 一瞬の内に変わる男の空気、一歩後ろへ飛び油断はしないと男から目を離さない。俺の様子にやれやれと肩を竦めた男は、そんな俺を放っておき話し始める。

 男曰く、自分はしがない物流業者だという。真っ当な仕事をしていた筈が、誤って物騒な物を運んでしまい気付けば裏の世界に沈み込みこんな所に居るという。抜け出す事も出来ずに日々死なない様に生きている、嘗められるのは癪だが相手に警戒されない為に人畜無害を演じていたと言う。だがそういった生業の者が危険が無いと示してきても近付く訳がないだろう。相手を見極める事が出来る程の手練れには無駄に勘繰られるだけだと言っておく。危険な化け物が『其方に危害を加えない』と言ってきても近付けるか?

 

「くはは、いやぁ考えが甘かったかぁ」

「怪しまれても厄介事に変わるだけだ」

「そうか」

 

 さぁてこうなった訳だが、如何出る?俺としては何の蟠りもなく、安全に安静で安穏に安心出来る様に持っていきたいのだが。

 

「昨日の連中の仲間だとでも考えているか?少なからずそう思っているだろう。だが私は、いや俺は彼奴等とは関係ない」

「其れがお前の素か」

 

 優しげな雰囲気から一変、微笑みは鳴りを潜め其の下に隠れていた冷たい顔が現れた。口調も変わり感情の突起の無い言葉に思わず感嘆の声が漏れる。

 嘘を言っている様には聞こえない。だが、其れを簡単に信じられるかと訊かれれば答えは否だ。俺は相手の心が読める訳ではないのだから。

 怪しまれて警戒されて、如何やって信じさせるつもりだ?一度失った信頼は容易には戻らないのはそういった仕事に就いているお前が分かっているだろう?

 

「そうだな、なら誓おうじゃないか」

「何にだ?神にでも誓うか?」

「神、神か……其れは良い案だ、俺はお前等に危害を与えないと創造神様に誓おう」

 

 神に誓うか、契約魔法やら呪術を使えればより安全になるのだろう。だが悲しい事に俺にはそういったものは使えないのだ。軽くなら出来るぞ?だが力を持つ連中には効かない、其の程度だろう。

 此の世界で俺の世界の術を使えば『異端者だ!』等と追われてしまうかもしれんしな。

 

「おいおいおい、神様に誓ったんだぜ?信じてくれよ」

「そうだな、唯の口約束は信用ならんが信じてやろう」

「俺を軽く見過ぎだぜぇ?俺は此れでも信行深い」

 

 簡単に素性を話すだろうか、嘘を付いている可能性は?いや其れを考えるのは止めよう、疲れるだけだ。

 

「んん?俺の話を聞いてるかい?」

「あぁ悪いな、ちょいとお前の事を考えてたんだ」

「そりゃ面倒な事をさせちまってすまんな。其れでなんだがなぁ、あれは良いのかい?」

 

 俺の後ろを指差す男に釣られて背後を振り向く。

 

「おいおいおい……」

「ふっくくく、兄ちゃん置いてかれてるぜ?」

「……其れじゃあな」

「おう。此れから先、又会える気がするからなぁ、そん時は宜しく」

 

 男から離れる。俺が言いたい事は伝わっているのだろうか。いや今は向こうの事だ。三人の元へと向かう。

 ずんずんと足音を立たせながらテーブルへと近付いていく。其の音に気付いたのは女騎士、だが此方に視線を向けるだけで動かす手を休める事はなかった。

 

「遅いではないか」

「だからと言って先に食べ始めるか?」

「昨日言っていたではないか『遅れるから先に食べていてくれ』と」

「昨日は忘れ物を取りに行く為だ。先程は近くに居ただろう」

 

 そうなのだ、男との話の途中背後を見た俺の視界に映ったのは、テーブルに乗った料理を食べ始めている三人だった。此方が重大な話をしている間に既に食べていたのだ、俺の事を置いていくか?お前は俺と共に対応している所だろう。

 俺が一口には大き過ぎる肉を四苦八苦しながらも咀嚼している女騎士。其れに向かい文句を言っていると擁護する言葉が掛かる。

 

「話が長かった」

「私たちが居ても役には立たなかったと思う」

 

 俺ではなく女騎士を擁護する言葉だった。確かに周りから入り難い空気だっただろう、だが待っていてくれても良いではないか。

 俺の気持ちを知ってか知らずか分からぬが、もう話す事は無いと大量の飯に意識を向けた三人に、我慢ならんと怒りを抱きながら席に着く。

 

「あ、其れは私が取っておいた鶏肉」

「知らんな。薄情者共の飯の事など知らぬなぁ」

「其れは私のケーキ」

「しょっぱい物はと甘い物、世界を渡ろうと此れは合わんな」

 

 好きなだけ食べただろう?此れからは俺の番だ。食いたい物は先に取っておけよ?俺が食べてしまうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人食事中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手当たり次第にテーブルの上の物を皿の上に乗せて食べる、皿が空けば再度皿に装い食べる。先に食べられた分を取り戻さんと食べて飲んでを繰り返す。急いで食べれば如何なるかと考える事なく、料理を胃の中へと流し込んだ結果。

 

「うぅ……んっく、うぐぁごっほごほぁ、噎せる!」

「煩い」

 

 盛大に噎せるに決まっている。咳き込む前に口の中の物を無理に飲み込んだおかげで、テーブルの上へぶち撒ける事には成らずに済んだが此れは辛い。

 

「料理は逃げないだろう、そう急ぐな」

「料理には限りが有るだろう、お前たちの所為で俺の取り分が減る」

 

 テーブルの上を彩っていた料理は半分程に量を減らし、料理の跡を残す皿が積まれているのだぞ?残りの半分を貰いたい所を我慢している俺に対して何か無いのか。

 

「追加注文すれば良いではないか」

「…………金が掛かるだろう?」

「宿のオーナーは幾ら食べてもお代は要らぬと言っていたが」

「…………俺にも其れを伝えてほしかった」

「会話の間に入るのは憚ったのだろう」

「…………ぐえっぷ」

「お二人の前で其の様に下品な事はするな」

 

 げっぷが出てしまった。そういう事は早く言ってほしかった。飯に舌鼓を打つ事もせず唯腹に納めていく事しか出来なかったではないか、まるで阿呆だ。

 虚しくなり肉叉を持つ手が止まる。呆然とする俺に視線を向けてくる三人だが、直ぐに目の前の飯に意識を向けてしまう。何だか胃に違和感が、胸が苦しくなった気がする。吐き気もしてきた。

 

「うげぇ……体調が優れぬ」

「今日はお二人の洋服を買いに行く、しっかりしてくれよ」

「悪いが三人で、分かった分かったそう睨むな」

 

 俺に恩義を感じてはいるがガキ二人の方が優先度が高い女騎士。二人の為なら何の其の。二人も二人で『小父様が居ないと不安……』といった目を向けてきている。雇われの身だ、好き勝手言ってられない。だが其れ相応の対価はきちんと用意するのだぞ?対価は当然金銀財宝だ。王族がどれ程の財を持っているかは分からんが、国を統べる者ならかなりの財を持っているだろう。

 ん?今更だが嫌な考えが浮かぶ。俺が元の居場所に戻れる様になったとしても、三人が国に帰れなければ報酬を得られないのでは?

 

「計ったなごほっごほっ」

「何を言ってるか分からん。如何した、項垂れて」

「自分の浅慮、考えの至らなさに嘆いている所だ」

 

 何故気付かなかったのか、少し考えれば思い付く事だろうに。此処に来てからあぁしておけば良かった、こうしておけば良かったと思う事が多い気がする。

 

「小父様大丈夫ですか?」

「国に帰れればお前らを救った対価を寄越せよ?」

 

 心配してくれるガキ。今の内に二人と口約束でもしておこう。契約を有耶無耶にされるかもしれん、なら此奴等を此方側に取り込んでしまえば此奴等良い。此奴等は俺に恩が有る、故に報酬をきちんと渡してくれる筈だ。其れどころか足りないと言えば幾らでも上乗せしてくれるかもしれん。純粋無垢なのがいけないのだよ。

 

「後で宿の裏に在る広場に行こうではないか?其の性根を叩き直してやろう」

「お前は黙っていろ、今は此奴等と交渉をしているのだ。おいお前等、俺の言う事は絶対に忘れるなよ?そして従え、良いな?」

「ん?分かりました」

「分かった」

「おい何を言わせているお前は!」

「お前も聞いていただろう、此の二人は俺の言う事は何でも聞くと」

 

 又しても女騎士と言い合いになった、やれ何方と心得るだとかやれ心配するなと。

 

「口約束など無効だ」

 

 と言い張る女騎士。

 

「俺が雇われた件についても無効にしても?」

 

 と言ってやると苦い顔をしていた。

 まぁきちんと払ってくれさえすれば他には何も要らん。いや、こんな奴等でも王の娘だ。金銀財宝どころか名声や地位を手に入れて……元の世界に戻るのに土地やら権利等は意味を成さない。形で残り持って帰っても役割を持てる物、やはり金や宝石か。便利な魔法の道具も在れば貰おうか。

 

「何を考えていたのだろうな俺は、色々と抜けていたと言わざるを得ない。然し乍ら、帰る迄の時間が幾ら伸びようと金銀財宝は俺の物だ」

「戦争が始まっている、国財は減る。如何いう意味かは分かるな?」

「……」

 

 国が持つ財産が減る、つまり俺に回せる金が減る。侭ならないものだ。

 

「流石に国の恩人に対して対価を支払わない訳にもいかん、報酬に不服があれば私も上へと掛け合おう」

 

 そうしてくれると有り難い。それにしても、国がどの程度のデカさなのかは分からないが戦争が起こっている場所に行かなくてはならんのか。巻き込まれてしまうかもしれん、三人を国へと送り報酬を受け取ったら早々に立ち去ろう。此方から其の大陸へと飛んだとして、向こうから此方へと戻る術は?戦時中なのだ、俺一人に構っている暇はないと後回しにされる恐れが有る。

 契約を無視して元の世界に戻る事はしたくない、何か手を見つけなくては。

 

「上手い具合に事が運べないだろうか」

「何に対してなのかは分からないが、無理だろうな」

「何を持って無理だというのか、其処の所を問い質したい所。だが体調の優れぬ今は置いておこう」

「食べないのか?」

「後で食う」

 

 椅子の背靠れに背中を押し付け天井を見上げる。店の中を照らす豪奢な照明が淡い光を放っている。食器がカチャカチャと鳴る音を聴きながらぼんやりと眺めどれ程経ったか、満足したのか三人が食事を終わらせた様で声を掛けてきた。

 

「店が開くにはまだ早いそうです」

「そうか」

「私たちは部屋に戻ろうとと思うが」

「俺か?俺は此処でのんびりとしている。時間になったら降りてきてくれ」

「分かった、其れでは行きましょう」

「其れでは小父様失礼します」

「又後で」

 

 ひらひらと手を振り見送ってやる。店員がやってきて空いた皿を持っていく、テーブルの上に残ったグラスに残った水を飲み干し席を立つ。

 

「お客様、屋台も店も開いていませんよ?」

「いやな、気分が優れないからちょいと外の空気を吸ってくる」

「そうですか。お客様、昨日の連中は此の街の何処にでも居ます。お気を付けくだされ」

「あぁ」

 

 受付に居た初老の男に注意されたがまぁ大丈夫だろう、ちょいと其処等を回ってくるだけなのだから。

 店を出た俺を迎えたのは太陽の光であった。燦々と輝く太陽の光に思わず目を瞑る、掌を傘にして防ぎ慣れてきた頃に漸く瞼を開く。異国の景色に物珍しさを感じて見入った。昨日は光で満ち溢れた煌びやかな光景が広がっていた。だが今は如何だ、出歩く者が疎らな広い道は昨日の喧騒が嘘の様だ。出店が片付けられ広い道が更に広くなり夜とは違う光景を見る事が出来る。

 昼と夜、時間によって変わる街並み。もし追われた際に何処に向かえば逃げられるか、隠れられるばしょはないか、街の作りを見ておく為にぐるりと回っていこうかと考えていたのだがな。

 

「観光しながらでも良いか」

 

 街の中ではそう簡単に襲ってこないだろう、何も問題は無い。彼奴等がどれ程出来るかは分かっているのだ、因縁を付けられても逃げれば良い。

 何時店が開くのか聞いていないからな、其れ程時間は掛けられん。さっさと見ていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男妖観光中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日は出店の珍しい物や建物の明かりに目を奪われていたが、こうしてゆっくりと見ていくと気付かなかったものが見えてくる。

 例えばあの街灯だ。等間隔で並んでいるおり、夜には光を灯し街を照らしている。朝になったからなのか光は消えて丸い白色の玉が其処には在った。あれが光を放っていたのか、どんな構造をしているのか気になる。

 光源の玉から視線を下げれば柱が映る。真っ直ぐと伸びる柱がだが、蔦が絡まっている。近付き触ってみれば蔦の形に作られている街灯の一部なのだと分かる。本物に見える装飾に思わず感嘆の息が溢れる。此れ程に精巧な物が幾つも在るのだ、腕の良い職人が居るのだろう。

 建物は俺が居た場所の物とは違う異国の建物。此の街の建物全てが本でしか目にした事のない建物なのだ、恥ずかし気もなくじろじろと見てしまい建物から出て来た者に、胡乱気な目を向けられてしまい逃げる様に去っていった。

 街の全貌は分からぬが、宿屋の近くは粗方見てきた。後で買い物に行く際にでも店を見ていこう。

 

「うん?」

 

 歩みを進めていると何か、違和感を感じた、気がする。何だ?今確かに何か感じたのだが。だが其れが良く分からない。言葉に出来ない程に小さな事なのだが、ほんの少しの事なのだが確かに可笑しな感じがした。

 其の違和感の正体に気付く事が出来ない侭に歩みを進める。誰かに見られたとか攻撃を受けたとかそういった事ではないのだが、前に何処かで感じた事のある様な。

 

「もしや俺と同じ様に世界を渡ってきたモノが居るのでは?だが相手の事が全く分からん………………ん?此処は?」

 

 先程の違和感は何だったのだろうかと考えていると、見た事の無い場所に居た。

 

「此処は何処だ?」

 

 見知らぬ土地で考え事をしながら進むものでは無いと学ぶ事が出来た。いやいや流石に拙い早く帰らなくてはあの三人に何と言われるか分かったものではない。

 うろうろと歩いてみたが何処も彼処も知らない場所。帰れそうにない。

 

「うーん此処迄来たのは良いが場所が分からん」

 

 小高い丘を見つけ、其処からなら見えるかもしれないと坂を登っていく。丘の上、辿り着いたのは広場であった。朝早くから子供たちが遊んでいるのを見るに公園なのだろう。

 高い位置からなら見つけられると街を見渡してみるが、お目当の建物である宿は下から見た程度だ。無数の建物から探し出す事は叶わなかった。

 

「如何しましたか?」

「ん?」

 

 横長の椅子に座り如何するかと悩んでいると声を掛けられた。そして自分に影が掛かっている事に気付く。

 

「あぁ其のだな…」

「ん?」

 

 顔を上げれば目の前には女性が立っていた。可愛らしく小首を傾げる其の女性、俺の記憶が正しければ此の公園には居なかった筈だ。何時の間に公園にやってきたのだろうか。気を張っていなかったとはいえ動く者たちの気配は把握していた。なのに一人増えていた事に気付かなかった。其れだけではない、何時の間にか目の前に立っていた。其の影が俺に掛かっている事に気取られる事なく。

 

「ッ!?」

「如何しましたか?」

 

 距離が近い、ちょいと手を伸ばせば簡単に届く距離。何時の間にやら目の前に居た存在。だというのに俺は何をしている?何を考えていた?此れ程迄に近付かれているというのに、向こうから攻撃されれば避ける事は叶わぬだろう距離に居るのに。策を練て離れようとか、攻撃しようだとか、そういった考えに至らなかった。

 

 否、至れなかった。

 

「顔が青くなっていますが、身体でも悪いのですか?」

 

 其れもそうだが相手の姿に気付く事が出来なかった。今気付けたからこそ認識出来る其の容姿。

 銀の髪は絹の様に柔らかそうであり、透き通る様な美しさは見た事がない。玉の様にくすみの無い綺麗な肌も、宝石を嵌め込んだ様な瞳も全てが美しい。次に目に付いたのは女性の背中だ。其の背からは羽根が生えていた。見た事の無い羽根。鳥や天使の様な羽根では無い、悪魔の奇妙な形の羽根でも無い。形容し難い羽根が其処には在った。

 

「あ、いえ」

「ならば私が直してあげましょう」

 

 聖女や聖人と呼ばれる者の様に真っ直ぐな瞳、何も知らぬ純真無垢な幼子の様な笑顔。其れに毒気を抜かれそうになるが其の下に潜む力に引き戻される。

 

 神力。圧倒的な神の力が其処には在った。膨大で強大で絶大な其れに抑えら付けられているかの様に動けない。

 何故気付けなかった。こんな存在が居るというのなら街に入る前に気付ける。なのに何故。

 女性が、神が懐に手を入れる。何かを出そうとしている。何だ、何を出そうとしている。何をしようとしている。動けと思っても動かぬ身体、如何しようも無いというのか。

 

「はい」

「え、あ、はい」

 

 女性が手に掴んだ其れを渡してくる。見てみると緑の液体の入った細長い瓶であった。

 

「私が作った回復薬ですよ。此れを飲めばどれ程大きな傷だろうと、どれ程重い病気だろうと忽ち治ります」

「あぁ、どうも」

 

 微笑みを浮かべる女性。飲んでくれと雰囲気から伝わってくる。普段の俺なら見知らぬ存在に渡された物を馬鹿正直に飲まん。だが相手は恐らく神、ここで無下にしてしまえば如何なるか分かったものではない。

 

「頂こう」

 

 腹を括るしかない。蓋を開け中身を飲む。苦い、堪らなく苦い。ドロリとした液体が喉を通り腹へと落ちていく。粘液がこびり付いているのか、喉に違和感がある。瓶に蓋をし返す。

 

「あ、有難う」

「苦かった様ですね。苦い薬程良く効くと言いますし」

 

 良薬は口に苦し。確かに其の通りであった。先程迄腹の中に残っていた違和感や吐き気が忽ち消え去った。此れ程の薬を作る事の出来る存在、薬に残っていた神力の残光。状況の整理が付かんが心の整理は出来てきた。一度大きく深呼吸を行い、目の前の神に訊いてみる。

 

「付かぬ事を伺いたいのだが」

「何を訊きたいのでしょう」

 

 とは言ったものの如何問えば良いか。下手な事を言えば殺されてしまうかもしれん。

 

「あの、だな。貴方は、神か?」

「……良く分かりましたね」

「ッ!やはりそうでしたか」

「此方からも質問です。如何やって気付いたのでしょうか?」

 

 神からの質問、俺は躊躇う事なく気付いた経緯を話していた。拒絶する事を許さぬ力の前には嘘も躊躇いも出来ない。

 

「初めは気付きませんでした。貴方に声を掛けられてから違和感を感じ、其れから気付いたのです」

 

 近付かれる迄存在を認識出来なかった事、近くに居るのに警戒するという考えに至れなかった事、姿に意識を向けられなかった事、其の身に宿す力に遂に気付いた事。順を追いながら話していく。長話になってしまったが、神は微笑みを浮かべた侭に話に耳を傾けていた。

 

「認識を阻害する結界を張っていたのですが、逆に仇になってしまった様ですね」

「結界?」

「はい、私は一応神ですからそう簡単に城の外へとやって来る事は出来ません。城を抜け出しても神だと直ぐに気付かれてしまうので結界を」

 

 話す迄は存在に気付かず、存在を認識出来ても何者なのかに気付けない。先程感じた違和感は此の結界の所為だろう、感じた事が有ると思ったのは結界だからだ。そんな事を平然とやってみせる目の前の女性。だが神がこんな所に何故居るのだろうか。神は城から滅多に出て来ないと聞くが。

 

「其れで、貴方は朝から如何して此処へ?」

「気分転換に外を見て回っていたら迷ってしまいまして、泊まっている宿は何処かと探していたのです」

「そうなのですか?ならば其の宿屋迄案内して差し上げましょう」

「いえ、神に対して其の様な事を……」

 

 神に道案内をさせるなど不届きな事をさせるのは。

 

「私は暇潰しに街までやってきたのです。私の暇潰しに付き合ってください」

「……分かりました」

 

 泊まっている宿屋について伝えれば場所を知っていると向かう事に。

 神と共に道を進んでいく、道行く者たちがちらりと此方に時折目を向けてくるが神に気付く事なく通り過ぎていく。

 

「今は見る事は出来ますが神だとは気付かない様にしています」

 

 随分便利な結界だ。其れがあれば生活が楽になるだろう。宿へと向かいながら話しをする。此の世界を創り出した神とはいえ、全知全能では無いらしい。まぁ全知全能な存在など在りはしないのだろう。

 だが然し、全知全能には及ばなくとも其れ相応の知識は有しており此の街の何処にどんな店が在るのか知っているという。

 

「彼処のお店は綺麗な宝石を売っているんですよ。此方のお店の料理は凄く美味しくてですね、偶に食べに来ます。あぁ向こうの通りの店の事を忘れていました。一つ向こうの通りには服屋さんが建っているんですけどね、私の服も作っていただいてるんです。使用人の正装も此処で発注しています」

「そ、そうですか」

 

 其れにしてもだ。此の神様、良く喋る。評判の良い店から知る人ぞ知る隠れた名店等、色々と教えてくれるのは嬉しいのだが十を超える店の事を覚える事は出来んのだがな。

 だが楽しそうに話す神を止める気にはならなかった。仕事が大変だとか同種族他種族関係なく争っているだとか零している、新郎の絶えない日々を送っているとは容易に分かった。なら好きな様に話していただこう、俺は其れに耳を傾け相槌を打てば良い。

 

「ん?如何しましたか?」

「……正直に言いますと神様と呼ばれている位なのだから恐ろしい方なのだとばかりに思っていまして。ですが自分の為に時間を割いて頂き、そうではないのだと知れました」

「フッフッフッ、他の世界の神は如何か知りませんが私は威厳が有れば良いという訳ではないと考えています。親しみ易いのならば相談をしてくれる、優しければ頼ってくれる。そう考えているのです」

 

 確かにそうかもしれん。信仰とは神や仏を崇め敬い、自己を委ねる事である。畏れる存在に対して全てを委ねる事が出来るだろうか?ならば接しやすいという事は有効的ではなかろうか。

 

「友好的が有効的なんです、友好だけに」

「そう……」

「今のはなかなか良かったでしょう!」

 

 厳かな神には駄洒落の才は無いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人移動中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神がお喋りなのは分かったが、流石に話し過ぎではないだろうか。街の事や争いの事なら兎も角、此の世界の仕組み、如何して創り出したのか、始まりの生物と呼ばれる者たちの記録、伝説の英雄の詳細等々上げ出したら止まらない重要な情報の数々。城に居るという使用人の個人情報を暴露し始めた所で止めたが、もっと早くに止めておけばと後悔している。

 漸く周りの店が開店し始めたというのに此の疲れ様、如何してくれるのか。此方の心情をそう簡単に察してくれる事はなく、軽快な足取りで進んでいく神。やれやれ、如何して俺が関わっていく女ったのはこう自由奔放というか唯我独尊というか。

 

「歩調が遅くなっていますが、疲れましたか?」

「まぁそんな所か。此処数日歩きっぱなしだったからな、疲れが取れていない様だ」

「先程の薬は怪我や病気に対して効果覿面ですが、疲れを無くし体力を戻す事はしませんからね。スタミナ薬要ります?」

 

 無償で貰うのは悪いからな、遠慮しておこう。店が次々に開き始め少しずつだが通りを歩く人間が増えてきた。此の儘いくと昨日と同じ様な人混みが出来てしまう。朝から此れ程に人が増えるとは思わなんだ。

 

「神様なら此の人混みを如何にか出来ないのでしょうか?」

「流石に自分たちの私利私欲の為に使うのは……」

 

 だろうな、神様の権限とやらを使えば二人だけで大名行列が出来るだろう。目立つのは明らかだ、其れに買い物を行おうとしている者たちに迷惑が掛かってしまう。

 

「ですが転移なら可能ですけどね」

「……今何と?」

「え?転移なら可能ですが」

「…………………………」

 

 そういう事は先に言ってほしかった。態々長い距離を歩く必要など無かっただろう。俺が見て回っていたと言ったからか?案内をすると言われた際に早く帰りたいと言わなかったからか?

 身体から力が抜けて舗装された小綺麗な道へと崩れ掛ける。神との接触の心労が祟った様だ。そんな俺を支えているのは神、オロオロとしている所が可愛い。

 

「だ、大丈夫ですか!?病院に行きますか!?いや城へ転移します!?」

「耳元で騒がないでください」

 

 声が頭に響き更に疲れる。其の後何とか落ち着かせる事が出来たが、騒いだ為に周りの視線を集めてしまった。

 早速転移で移動するかと相成ったが、住人の目の前で使うのは駄目だと言われ、路地裏へと向かう。

 

「其れでは送りたいと思います。共に来ているという方々の元迄お送りしたあのですが、連絡が入ってきまして戻ってこいと」

「あぁ、何から何迄世話になった。有難う」

「いえいえ、民を見守り時に手を差し伸べ導くのが私の役割ですから」

「其れでは」

「さようなら」

 

 足元に浮かび上がる陣、光が身体を包み込み何も見えなくなる。光が収まると其処は何処かの路地裏であった。何処だ此処はと辺りを見渡すが見えるのは左右の壁、後ろも壁。袋小路に立っていたのか。

 進む事の出来る前方へ進んでいく。暗い路地裏から出た事で光が眩しい。

 

「此処は」

 

 見た事のある建物、宿屋の近くか。店は既に空いているだろう。早く宿に戻らなくては。人を避けて進み遂に戻ってきた宿屋、中に入れば先ほど使っていたテーブルに着いている三人。

 近付けば此方に気付き視線を向けてくる。

 

「遅かったな」

「あぁすまん」

「全く。外に出たと聞き如何したのかと心配していたのだぞ?お二人は心配要らないと言っていたが」

「本当にすまん。何か起こった際の為に地形を見ておこうと思ってな」

「そう言うのなら不問にしてやろう」

 

 心配を掛けてしまったか、悪い事をした。

 其れでは行こうかと立ち上がる三人。女騎士は鎧をきっちりと着込み腰に剣を携えている。

 

「買い物に行くのに其れか?」

「何が有るか分からないからな、武器は持っていく」

 

 剣の事ではなく鎧の事なのだが。貴族の護衛や街を守護する兵士も鎧を着ているのだから大丈夫なのだという。金を持っていると暗に告げている様なものではないか、変な奴等に絡まれたり盗まれない様に気を付けろよ。

 

「其の様な輩が居れば、其の腐った性根ごと叩き潰してやろう」

 

 拳を握り気合を入れているが、目立つ事は避けてほしいのだがな。

 

「お客様、何度も申し訳ございませんがお気を付けください。昨日の者たちの他にもああいった組織は複数存在しています。どれ程の腕を持っていようと数の前には無意味です」

「そうだろうな、灰色の戦鬼でもない限りな」

「お兄さん、戦鬼って何?」

 

 其方の世界の者なのかと期待に満ちた顔を向けてくるが、残念ながら違う。此方の世界の英雄らしいが知らんのか?

 

「知りません」

「知らない」

「私もだ」

 

 戦鬼について話していたのは此の大陸で活躍したという男の話だった。他の大陸から来た者は知らなくても当たり前か。

 

「ッ!何処で其の話を?」

「ん?先程出会った奴に聞いたのだ」

 

 考え込み始めた初老の男。其の様子に嫌な考えが浮かぶ。戦鬼という存在は鎧を身に付け人前では決して素顔を見せなかったという、戦地へと赴く際は鎧を変えて戦っていた為に表では名前が出る事は滅多にない。裏の世界では名前が出るそうだがわ戦争が起きなくなり下火になってきたという。

 子供連れの裏の住人でなさそうな男が名前を出す、其れに反応するのは裏の奴等だ。其の中で其の名に強く反応するのは戦鬼に関わりの有る者か本人である。

 

「其の話をしてきた者はどの様な方だったのか、宜しければ教えてもらっても?」

「あぁ、女だったな。銀の髪の。其れ以外は良く分からん」

「有り難うございます。其れでは良い一日を」

 

 微笑みを浮かべ去っていく男。裏の世界、物騒な名前だ。

 

「一体全体何が起こっているのか、さっぱり分からないのだが。今の会話について聞きたいのだが」

「此れから買い物に出掛けるのだ、其の後でも良いか?」

「其れは後回しにしても問題無いものなのか?」

「如何とも言えん。だが昨夜の男たちは話に関わっていない。大した事でもないから大丈夫だろう」

 

 其れに、歩きながら話していて会話の内容を知られてしまう危険が有る。帰ってくれば聞きたいだけ話をしてやる。

 

「分かった。其れでは買い物に行きましょう」

「「はい!」」

「財布を盗られるなよ」

「分かっている。しっかりとしまっている」

 

 宿屋を出て先導する為に前に出る女騎士、俺は其の後ろに着く。ガキ二人は俺の横にやってきて手を握ってくる。すまんが両手が塞がってしまうのは嫌なのだ。しかも目の前に広がる人間の多さ、広がって歩くのは難しいだろう。

 

「肩車」

「肩車?お前を乗せろと?」

「お願いしまう」

 

 邪魔になるのなら上に乗れば良い、そう語るガキ一号。三人横に並ぶよりも良いかもしれん。

 分かったと其の場にしゃがむ、掌を差し出せば其の上に足を乗せ首に跨るガキ。其の儘立ち上がれば肩車の完成だ。

 

「高くて良く見えます」

「おう、そうかい」

「………………」

「如何した?」

 

 此れで大丈夫だと隣のガキ二号に手を伸ばすが、むっとした顔をしている。何だ、お前も肩車してほしかったのか?すまんが俺の肩は然程広くない。両肩に一人ずつ乗せるのは無理なのだ。

 

「抱き上げてほしい」

「其れで良いのか?」

 

 こくりと頷くガキ二号を抱き上げると笑顔になった。此れで満足するのか。

 こうなってしまうと片腕しか空いていない状態になる。有事の際は肩車をしている方を落とさない為に、空いている方の手を使わなくてはならん。

 

「今戦えるのはお前しかいない、頼んだぞ」

「任された」

 

 此方を向く顔には、自信に満ち溢れた笑顔が浮かんでいた。




12805文字、普通だな。
ほんへ書いて、おまけ書いて、異世界編書いて、短編書いて。うわぁこれは色々と書き過ぎてグダグダになってエタりますね間違いない。
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