人里への道、太陽が燦々と輝き遠くに見える山の向こうには見事な積乱雲が浮かんでいる。額から顔へ、それから首へ汗が滝の様に流れていく。今日も暑い日が始まった。
森を抜けた先には日を遮る木も何もなく直に太陽が降り注ぎ暑いったらありゃしない。団扇を無心で扇ぎ暑さに辟易しながら歩みを進めている一方で隣の奴は暑さが応えていないのかあまり汗を掻かず平然とした顔でいやがる。暑くないのかこいつはと思っていると視線に気づいたのか前を向いていた目が此方を向く。その目はどうしたかと言っていた。
「いや特にないのだが、この暑さの中で平気な顔をしているのが気になってな。白狼天狗ってのは暑さに強いのか?」
「白狼天狗の中にも差はありますが基本的に身体が丈夫ですからある程度の暑さ寒さには強いですね。流石に今日程の暑さは程度の域を出ているので暑いですが」
懐から取り出した小さく折り畳まれた藍色の手拭いで頬や額に付いた汗を拭いながらそう答える相手にそうなのかと返し前を向く。遠くに田んぼが見え、更に先には人里が小さく見える。田んぼの周りは近くの川から引いてきたおかげで水が行き渡り涼しい。家の周りにも川から水を引いてくるべきかと考えたが態々水を引いてくるのも億劫だ。
田んぼ道を抜ければ目の前には開かれた門、人里への入り口である。そのまま入ろうとするが横に控えていた男が立ち塞がり歩みを止められる。男が後ろに居る爺さんに声を掛ければ爺さんは通しても大丈夫だと一言言い近づいてくる、男はそれに従い爺さんと変わる様に後ろに下がる。
「爺さん久しいな」
「あぁ久しぶりじゃのう。五、六週間振りと言ったところかえ?酒を山程買い込んでたのを覚えとる」
「最後に来たのは確かそんぐらいだったか」
山程って……食料はないのに台所に空の酒瓶が多かったり酒蔵だけ備蓄が十分にあったり家中にお酒の臭いが染み着いていたのはそういう事だったんですか、と後ろから呟きが聞こえた気がするが、気の所為だ。何も聞こえんなぁ。
「んあ?なんだ今日は連れがいんのかい?お前さんが誰かと一緒なんて珍しい。良く寺子屋の先生と白髪の嬢ちゃんくらいしか見た事ねえからよぉ」
「そういや確かに彼奴等くらいか。良く考えりゃ知り合いっつう知り合いが少ないなぁ俺。別段どうでもいいから気にもしなかった」
「それでその娘っ子はこれか?」
にたぁっとした笑みを浮かべ小指を立てて見せてくる爺さん。おう爺さんお前相当歳取ってる癖にそんな話まだすんのか。恐れ多い天狗様に馬鹿な事を言うなって、天狗装束じゃあないから分からんか。
「べ、別にそんな関係じゃないですからっ」
「そうかぁ?そんな反応されちゃ信じられんなぁ。こんな別嬪さんなかなかいない、お前さん逃げられんなよぉ?」
「おう爺さん馬鹿な事言うんじゃねぇ。こいつも言っている通りそんな関係じゃあねぇからな?唯の知り合いってだけだ」
「別嬪って……はっ!だからそんな関係じゃないですから!」
おうそうかいそうかいと適当に言いながら元居た場所に戻っていく爺さん、あいつ絶対信じてねぇ。こいつもこいつだなんて反応の仕方してやがる。顔赤くしていきり立ちゃあ図星だと思われるに決まっているだろうに。人里に来るだけでここまで疲れるとはな、心身共に。
顔赤くしてんじゃあねぇさっさと行くぞと声を掛ければ別に赤くなんて…と弱々しく返事をしながら自分の頬をぺたぺたと触り確認し始める居候。置いて行こう、後から着いてくるだろ。
「おう兄ちゃん久しぶりじゃねぇか。なんだぁ?あれだけ買い込んだのにもう全部飲んじまったのかい?」
「おう久しいな。まだ二月も経っていない、あれ程の量をこの短期間で飲み乾せる訳がないだろうが。俺は他の連中と違って酒に強い訳じゃない」
「そうなのかい?てっきり妖怪ってのはどいつもこいつも酒に強いと思ってたけど」
「お前ら人間より酒に強いのは確かだ。だが妖怪の誰も彼もが酒に強いってのは見当違いだぜ。強い奴もいるが弱い奴もいる。現に俺は強くない」
一番最初に寄ったのは何時もの酒屋。兄ちゃんとの久しぶりの会話に出てきたのは酒の事、酒屋なんだ当たり前だ。酒に強いかという事だが十人十色という言葉は何も人間だけじゃなく妖怪にも適応される。言うならば十妖十色だろうか。
「なんで食料を買いに来たのに最初に入る店が酒屋なんですか?」
ようやく着いたかと後ろを向けばじとっとした目で見られ思わず目を逸らしてしまった。いやな、何時もの様に人里を進んでいたら何時もと同じ様に買い物に来るこの店に無意識の内に来ちまったんだ。習慣は恐ろしいな、俺は悪くない。先の話の続きだが、酒に強くないとは言ってはいるが酒が嫌いという訳じゃないし全く飲まないという訳でもない。それどころか自分で自分の事を良く飲む方だと思ってすらいる。
「お酒に強くないという癖にお酒を飲むなんて可笑しいですよね?これからは控えるべきじゃないですか?その分のお金で別の物を買った方が身体に良いですよ」
「酒に強くはないと言ってはいるが酒が嫌いだとは言っていない。逆に酒は好きだ、毎日の様に飲んでいるぞ。身体に影響が出る程飲む訳じゃあないから別に良いだろう」
「毎日って鬼みたいな事言わないでください。ほらさっさと買い物に行きますよ」
じとっとした目は最終的に睨みに変わっていき大人しく言う事を聞き渋々店を出る事に。戸を閉める時店番の兄ちゃんが良い嫁だ等と茶化してきやがったので文句の一つでも言おうと思ったのだが後ろからの視線もあり睨む程度にしてやった。見張りの爺さん同様にやりとした笑みを浮かべられた。
「ほら、子供みたいな事をしていないで早く買い物を済ませましょう」
「分かった分かった。お前の言いたい事は良く分かった。だから服を引っ張るんじゃない、伸びるし恥ずかしい」
袖を引かれて進む姿が面白いのか人間たちの視線が幾つも此方を向く、引かれる方はその視線に気づいたというのに引いている張本人は気付く事もなく進んで行く。ええい止めろ。
「ちょっと待て。真っ直ぐ進んでいるが店が何処にあるか分かっているのか?」
なんとか袖を離してもらい隣に並び進んでいたが何の迷いもなく進む事を疑問に思い問う。
「店の場所ですか?何度か人里には来ていますから大抵の店が何処にあるのかは分かっています。それに私の目でもう場所は確認しているので大丈夫です」
「前にも言っていたがお前の能力は目に関係しているのか?自分の能力について何度か口走っているがそう簡単に喋っても良いのか?」
「別に大丈夫ですよ。貴方が私をどうこうするとは思えませんしどうこうさせる気もないですから。能力が知られて対策を練られたとしても剣と弾幕があります」
まだ二日目だが俺の事を信頼しているという事でいいのだろうか。それにしても「どうこうさせる気もない」か。随分舐められたものだ。確かにその通りで言い返す事もできない。自分で弱いだ何だ言ってはいるが下に見られればむっとするのだ、素直に受け入れられる訳がないだろう。
「別に貴方を馬鹿にしている訳じゃないですからね?」
「それくらい分かっている」
「先の続きですが。貴方に匿ってもらい一日、能力などの情報を共有しても大丈夫だと判断したのです」
流石にそこまでしなくても良いと思うのだが。匿う代わりに家事をやってもらっているし。
「そうですか?貴方がそう言うのなら。何かあった時の為に事前にお互いの実力や能力について知っていた方が何かと良いと思ったのですが」
確かに互いに何も知らなければ連携なんてできる訳がない、俺も何度か経験した。流石に誰とも知れない奴に教えようとも思わないのは仕方のない事だから気にしていなかった。俺も自分から教えようともしなかったしなぁ。
「そういうものなのか。まぁ今は買い物に来たんだ家に帰ってからでもいいだろ」
「分かりました」
「お前は一度安全だと思った相手に何でも譲渡し過ぎだ。これから先、生きていく間に何があるか分からないから気を付けろよ。後もう一つ、天狗としての仕事ができなくなるこの一ヵ月は長い休みだと思って気を休めろ」
一ヵ月は長いんだ、毎日気を張っているのも馬鹿らしいだろ。さっさと買い物済ますぞ、飯も食うんだろ?
「……ありがとうございます」
「ん?何か言ったか?」
「い、いえなんでもありません」
格好付けた訳じゃないが臭い台詞に少し恥ずかしくなくなってきた。急ぎ足で先に進み先を促した所で後ろから何か言われた気がしたのだが、気の所為だったか。
~人里の人たち~
見張りの男:見張りの一人、主人公たちが来た時間に見張りの当番だった。
見張りの老人:青年の頃から仕事の傍ら見張りをしていた男。主人公と顔馴染。
酒屋の男:酒屋の長男、妹が一人いる。今は父親が里の会合に参加しているので一人で店番をしていた。
前書きにも書いたけど最近MMDに嵌った、未だポーズ中心でモーションはあまり活用していないのですが楽しい。好きなモデルは古道具屋の店主と名無しの本読み妖怪です。
文字数は3447文字。文字数が少ない良い訳ですが。
1、二週間筆が進まなかった。
2、MMDに嵌った。
3、リアルでの忙しさ。
これによって文章がガバガバで文字数が少ないです。これからは文章少な目で感覚短くやっていこうかなぁと最近思っています。でも結局感覚は広がったままで文字数少なめになりそう。
2015年8月15日。追記。タイトル手直し。六話→五話
2015年10月25日。追記。文章を更新し3455文字に。