「私の能力についてあれだけ話をしているのに貴方自身の能力について知らないのはフェアじゃないですよね?」
飯食って寝て起きて、日記書いて昼食食ってまた寝ようとしたところで唐突にそう切り出された訳だが。其方が勝手に暴露した結果能力について知り得てしまったのだ、望んでなどいなかった此方が話す道理は無い。
ふぇあとは何か知らないが公平とか平等だとかそういった言葉なのだろう。だがしかし世界は平等ではない、誰かが得をする反面何処かの誰かが損をする様に出来ているのである。嗚呼、世は無情也。
「教えてくれますよね?」
「分かった、分かったから離せ掌が潰れる」
「……全く、私は真剣に話をしているのというのに貴方ときたら」
真剣に取り繕わなかった此方にも非が有るのだろう。しかし俺の掌を掴み潰れるのではないかと思う程に強く握るのはやり過ぎていると思うのだ、万力で固定され潰されるのは此の様な感覚なのだろうと其の場には似つかわしくない事を考えてしまった。
剝れる居候を見て流石に不真面目過ぎたなと一つ咳をし居住まいを正し真剣さを心掛け向き直れば、其れに反応する様に相手もムッとした顔から一転真剣な表情になる。
「自らの能力を明かすという行為は自らの手の内を広めるという行為と同義である。そんな事をしてしまえば能力と能力を使った戦い方を研究され対策を練られてしまう。故にそう易々と教えられるものじゃないという事を分かってそう言っているのだろうな?」
「はい、それは重々承知しています。しかし知っているからこそ有事の際に連携が取り易くなるのです。先祖に誓い他言はしません」
「……まぁなんだかんだと言うもののお前さんに俺の能力について教えるのは吝かではないのだがな。いや教えても良いとすら思っている」
「それなら今のやり取り無駄ですよね?絶対無駄ですよね?」
改めて考えてみると人里の妖怪図鑑に載っているのだから別に教えても問題など無いと言うか、広まるのは仕方の無い状態なのだという考えに至った。
「貴方と生活を共にしていて分かったのですが、何か口走る度にそれについてどうでもいいと思ったり考え直したりする事が多いですよね」
俺がか?そう言われると確かに其の様な気がする。一度言った事を直ぐに訂正する、癖の様なものになっている。
「まぁ本に載っているとはいえ俺の情報が其処まで広まっている訳じゃないだろう。人里まで行きあの家に入り本を読ませてもらうなど面倒なこと此の上ない。知られていない侭の方が機転を効かせやすくなる。だから他の奴等には無闇矢鱈に広めないでくれよ」
「分かりました」
それじゃあと一口茶を含み喉を潤し話し始める。
「俺の能力は───」
「へぇ、そんな能力を持っていたんですか。しかし使い方によっては化けますよそれ。あの賢者殿の能力も防ぐどころか打ち破れるやもしれませんね」
「どの様な使い方を考えているのかは知らんが流石に其れは無理だ。あくまでお前が想像した通りに能力が使えればの話なのだからな。俺自身が弱いのか、元から出来ないのかは分からんがあの妖怪の賢者を倒す程に強くも無い。汎用性は其処其処に有るが」
大妖怪を倒せる程の力があれば今頃俺は……今頃何をしているだろうか。馬鹿な事をして地底に追いやられているかもしれんし危険だと封印されるか消されているかもしれんな。強大な能力を持つモノは少ないと言われる割には身近に存在するのだから今の様な生活を送っているやもしれん。
「能力というのは持ち手の状態によって強くもなるし弱くもなるというし、今はまだ真価を発揮できていないだけかもしれんな。だが過ぎた力は身を滅ぼすとも言う。其処までの力は要らん」
「貴方以外がその台詞を言えば良かったのでしょうが貴方が言うと面倒ごとに巻き込まれたくないからそう言ってるとしか思えないです」
「お前は本当に酷い奴だな、偶に良いことを言えばそう言い返してくる。確かに其の通りだが」
真面目になると心配するか馬鹿にしてくるかこ二択だ。普段の行いの所為だとは分かっている、然し分かっているから受け入れられる程俺は出来ちゃいない。
其れにしても、俺の性格は此の様なものだっただろうか。二、三日前までは此の様に弄られる側ではなかったというのに。
「話したのだから此れでお終いだな。それじゃあ昼寝に入らせてもらうお休み」
「食べたばかりなのに寝ていると牛になりますよ」
「そんな迷信など成る訳が……此れ以上言うのは拙い」
「迷信如何たら言う癖にフラグには慎重になるのは如何なのですかね」
煩い。しかし、する事が無いとひま過ぎる。久し振りに身体でも動かしてみるか。
「少し家を開ける、夕方には帰る」
「分かりました。何をしに何処に行くのですか?」
「森に鍛錬にな」
「模擬刀を持って来たのは良いが、何をしようか」
此の模擬刀、実は百年近く働いてくれている由緒は正しいかは知らんが其処此処使える刀だ。もうそろそろ付喪神に成っても良い頃だと言われた事があるが、俺の妖力がべっとりと着き染み込んでいるのだから流石に神性を持つ神にはならないだろう。いや付喪神には関係ないのだろうか、分からん。
最初は素振り。握りに注意し、緩くだかしっかりと力を込める。振り上げた状態で身体中の力を抜き間を空ける。
「──ッ!」
力を込め一気に振り下ろす。刀が風を切る音が辺りに響く。
再度振り上げ、間を空け、振り下ろす。
「──ッ!──ッ!──ッ!──ッ!──ッ!」
何度も振り上げ、何度も振り下ろす。間を空け更に振り上げ振り下ろす。唯真っ直ぐに、唯只管に。
上衣を脱ぎ捨て汗を拭き取りまた振り続ける。
「久し振りだ。こうまで剣を振るうのは」
倒れる大木に腰掛け乱れる息を整える。運動というものをするのは本当に久しぶりだ。命辛々逃げるのは其れ相応の運動になるのだが、事鍛錬に限れば何年、いや十数年振りの事である。硬い掌に豆が出来瞬時に破れ、皮が千切れて血が滲む。其の傷に塩を塗り込み更に振るう事数刻。一旦休み更に振るう事数刻。素振りから別の鍛錬に切り替え更に数刻。掌と足腰が震え出す頃には日が落ち始め此れでお終いかと思い立ったのが一刻前。最後にと青々と茂る木を居合にて両断したのがほんの数分前。一太刀の元に斬り裂き腰掛けに利用した。
「久しぶりで身体が鈍っているのは分かっていたが割と動けるじゃあないか」
まぁ此の程度我が家の居候は簡単にやってのけるのだろうが。才能有るモノが鍛錬を重ねてしまっては弱者は如何する事も出来ない。こうなれば一点特化するしかなくなってしまうのだが今の今まで才有る者たちを見てきたからか追い越すどころか足元にも届かないと分かってしまいやる気が出て来ない。
昔古道具屋で見た本に『天才とは99%の努力と1%の才能』などと載っていたが、その1%があまりにも遠く届かなければ努力しても天才には成れないと思うのだがどうだろうか。天才から見た1%と凡人から見た1%が何も同等だとは限らない。天才が大した才は要らないと言うその才が凡人からすればどれ程の壁になるのか。才有るものはそういうところを考えてほしいものである。
息も整ってきた。そろそろ帰るかと脱ぎ捨てていた上衣を羽織り、刀を手にし木から降りる。周りを確認し誰も居ないか見回し家に向かって歩き出す。
「今日は軽く飲んでから寝ようと思う。流石に疲れた」
「どれ程疲れてもお酒は止めないのですね」
そう簡単に止める事が出来ていれば今頃小金持ちになり其の金で好き勝手やっている。
「薬は服用しないのですから本当に軽く飲むだけにしてくださいよ?」
「あぁ分かっている」
酒を飲んでさっさと寝たいと本当に考えている、其処まで念入りに言われなくとも大丈夫である。
「本当の様ですね。しかし良く其れ程迄にボロボロになってきましたね。貴方が帰ってきた事は匂いで分かりましたが濃い血の匂いも漂っておりどうしたのかと警戒していたところに全身血塗れの姿を見た時は心底驚きましたよ。心臓に悪い、寿命が五十年程縮みました」
「其れは、何というか。本当に申し訳ない、心配をさせてしまってすまない」
家に帰ってきていきなりお話をされ肉体的だけではなく精神的にも疲れた。まぁ鍛錬に行くと言い出て行った奴がこんな姿で帰って来たらそうもなるか、しかも今の状態ではより一層。先にこうなる事が分かっていれば伝えているのだろうがまさか此の様な事になるとは。
「そうしてください。其の話は置いておいて、あれ程までになるなどただ鍛錬を行っていてなるものでしょうか?一体どんな鍛錬をしていたのですか?」
「今日は良く質問してくるな。まぁなんだ、身体に掛かる負担を上げて鍛錬を行っていた結果だ」
「どれ程の負担を掛ければ血塗れになるのか、どんな鍛錬をしてきたのか細かく教えて欲しいですね」
結構聞いてくる。まるであの天狗の姉ちゃんの様である、がそんな事を口走れば途端に不機嫌になるのだろうな。
「まず此の札を身体に貼る」
袋の中から札を数枚取り出し見せる。博麗の巫女が使っている札であり魔を封じる効果がある。札を貼る事で妖力が封じられ身体が動かし辛くなる。
「それは博麗の巫女が使用している札ですか?何故貴方がその様な物を?」
「古道具屋の話はお前にしただろう、顔馴染だという事も。色々と買わせて貰っているのだ」
「またその店の事ですか。その店主さんは色々と変わっているのですね。無縁塚まで流れ着いた物を拾いに行ったり、博麗の巫女とも繋がっていたり」
出不精、仕事をしながら本を読む、客を無下に扱う。変人というよりは客商売を舐めているとしか思えない所業の数々を起こしていながら店を大きくするという矛盾。然し其れに気付かない奴ではない。彼奴の中では法則に則り計算しているのだろう。いや本当に気づいていないのか、気付いていながら好きな様にしているのだろうか。
「変な奴といえば変な奴だがあんな奴でも良い所はある」
「フォローするのならもう少しましな事を言ってあげてください」
彼奴の話は良いのだ。今は俺の話だ。
「札を貼る事で自らの妖力と身体能力を封じる。此の状態で妖力を全開にし只管刀を振り続ける」
「身体に負担を掛けるという事は分かりました。ですがそれだけで全身真っ赤に染まるとは思えないのですが」
確かにそうだろうさ。だから話は最後まで聞けと。
「それだけじゃあ此れ程までには成る訳がない、本題はもっと先だ。素振りを只管にし続ける」
刀を替えて振り続ける。一段落付けまた竹刀を手に持ち今度は仕合だ。だが鍛錬をすると決めて直ぐに来たのだから相手がいる筈もない。相手を探しても用事があれば出来ず、いきなり襲い掛かるなど阿呆のする事。
「仕合う相手が居ない。ならば仮想の敵を想定しやるしかない」
何者も存在しない場所に何者かが居ると想像する。西洋ではシャドーボクシングなどと言うらしい。あいてがどの様に動きどの様に攻撃しどの様に防ぐかを想定し戦う。
「初めの頃は仮想が甘く考えながらの戦いはぎこちないものであった」
そも想像する相手と何度も戦い相手と関わりを持つなどしなければ想像なぞ出来る訳がない。
仮想敵にしたいから戦おう、関わりを持とう。そんな事を言いながら近付くモノに警戒するのは当たり前。なら如何するか。
「身近な存在を仮想敵にすれば良い」
そう思い立つのは良いのだが何にすれば良いのか分からない。縁側でうんともすんとも答えが出てこない頭を捻っていた俺は庭を闊歩する蟷螂を仮想敵にした。
「蟷螂ですか?」
「蟷螂だ」
「本当にあの蟷螂ですか?」
「蟷螂だ」
蟷螂は小さい。其れでは敵にする意味が無い。だから俺は蟷螂を大きく想定した。
俺の頭一つ分高い身体。硬い装甲が覆う。両手を広げてやっと届くかといった大きな釜。敵には丁度良い
「そう思っていた時期が俺には有った」
蟷螂との戦いは最初の頃は大した事はなかった。俺の想定の甘さが有った事で勝てていたが、あの俊敏さと攻撃性が無いという事でより想像に力を入れた。其の結果俺の頭の中で化物が産まれた。
「あれ程までに強くなるとは思わなんだ。一瞬でも気を抜けば身体を両断され、気を張っていたとしても攻撃に出る事も出来ない。避け続け逸らし続け隙を作り一撃を与えるが其れでも倒れずまた猛攻が始まる。只管それを続けていた」
だがどれ程仮想敵を高めようともあくまで其れは仮想の敵である。幾ら攻撃を受けようと怪我を負う事は無い。吹き飛ばされた時などには負う事は有るが。
だが今日は違ったのだ。いや普段通りに蟷螂と戦っていた。そして攻撃を何度も受けながらも勝利した。其処で蟷螂は消える筈だというのに消えずに倒れた侭其処に居た。そして気付いた。
「今の今まで戦っていた蟷螂は想像ではなく本物であったのだ」
何故本物の蟷螂と戦っていたのか分からない。そして本物だと認識した瞬間に身体中に痛みが走った。攻撃してきた相手が本物なら受けていた攻撃も全て本物である。今まで何故痛みを感じなかったのか、多分想像だと心の底で思っていたからだろう。
「まぁ其れで鍛錬を辞める訳が無く其の後は色々とやってから戻って来て今に至る」
話し終え相手を見れば眉間を抑えている。何故だ。
「嘘をついている様には見えないので本当の事なのでしょう。何というか、突拍子も無い事をしますね。想像で敵を作り出す事や怪我を負っても止めないところが」
「敵を想定したりするのは当たり前では無いのか?」
「其れは有りますけどあくまで侵入者とかそういった事でです。唯戦う為に想像はしません。たまにしますがたまにです」
何時から空想の蟷螂と本物の蟷螂が入れ替わっていたのかはさっぱり分からんが、大した怪我も無く帰って来れたのだから良いのだ。
「大した怪我も無く?かなりの傷に見えるのですが」
「強がってみたが、流石に此れは受け過ぎた。今日は肉が食べたい」
「ほら、晩御飯を作るんですから着替えて来てください」
怪我人を労る事を、いや自業自得と言われるのが目に見える。さっさと着替えてこよう。
今日は昨日と同じ様に飯を作り食べ、風呂に入り軽く酒を飲み其の侭眠りについた。
5702文字、普通だな!(いつもの)
模擬刀:主人公が昔買った刀。模擬刀についてはググって、どうぞ。主人公の汗と涙と血と妖力が染み込んだそこそこ頑丈な刀。
小太刀:人里に行く時持っていた物。最近買ったからただの刀。ほんへに出てないけど此処で紹介。
仮想敵:シャドーボクシングもどき。主人公は【影闘】 と呼ぶッッッッ!!他にも色々想像で生み出すが修行にしか使わない。