ONE PIECE 救済を求める神父   作:ヴァンプッシュ

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第一話 神を憎む聖人

 

世界政府加盟国

グランドライン前半。

 

その少年は生まれた時から異質だった。

 

黒の透き通った髪。穏やかな笑み。そして30代という年齢に似合わぬ達観した瞳。

 

名を――天草四郎。

 

しかしその魂は違う。

 

前世、日本でONE PIECEとFateを愛読していたしがない一般的な男だった。

 

彼はこの世界の真実を知っていた。

 

天竜人や各地の富裕層による奴隷制度。

 

世界各地での種族差別。

 

空白の100年の歴史への疑問。

 

世界政府による支配。

 

そして800年続く歪な世界を。

 

 

「……弱き人々にとっての救いがいる」

 

飢える子供。売られる人魚や魚人族。人攫いや略奪により燃やされる村や街。

 

貴族の遊びや天竜人の匙加減で死ぬ民衆。

 

どれも、この世界に突如転生した際に嫌と言うほど見てきた。

実際に体験した身からしてみると、前世で読んだ描写以上に醜悪な物だった。

 

人間は平等ではない。

 

生まれた瞬間から価値が決められる。

 

それがこの世界だった。

 

だからこそ。

 

私は決めた。

 

 

「誰かが救わぬなら、私が手を取り導く!」

 

 

それは元となった肉体の願いでもあるが、実際に見てきた私自身の願いでもあった。

 

だが、それは同時に世界にとって革命家よりも危険な思想だった。

 

 

まだ無名だった頃、彼は一人の男と出会う。

 

修行しながら各地を回る旅の中、立ち寄った新世界の港町の酒場。

 

全員が怯える男。

 

黒い長髪に所々に白い髪が生えていて獰猛な笑みを浮かべる

 

常識を嘲笑う覇気で後の世界最強の大犯罪者。

 

ロックス・D・ジーベック。

 

「お前、見ねぇ顔だが面白ぇ目をしてんな」

 

酒を煽りながらロックスが笑うと周囲の海賊は震えていたが、天草は自然な動作で平然と対面に座る。

 

「あなたも人のことは言えないと思いますよ?」

 

「……あ?」

 

「世界を壊したい…そんな目をしています。」

 

酒場が静まり返る。

 

全員が息を呑んだ。

 

しかし。

 

次の瞬間。

 

ロックスが笑った。

 

「ヴォハハハハハハハハハ!!」

 

椅子を蹴飛ばし、机を叩きながら豪快に笑う。

 

「初めてだ!!俺を初見で見てそこまで言い切った奴は!!気に入った。テメェ…名前は?」

 

「天草…天草四郎です。あなたは?」

 

「俺はロックス…ロックス・D・ジーベックだ」

 

二人は握手した。

 

それが。

 

後に世界を震撼させる怪物海賊団。

 

ロックス海賊団の始まりだった。

 

 

ある日世界政府ですら予期せぬ事件が起きた。

 

聖地マリージョア。天竜人が住まうレッドラインの頂上に位置する街。

 

その街にロックスが無断で侵入した日…その隣には当然、天草四郎もいた。

 

「ここが世界の頂点…天竜人の巣窟ですか」

 

赤い大地。

 

無駄に煌びやかで巨大な城。

 

天竜人たちによる奴隷売買

 

人を人とも思わない奴らによる悲劇を与えられ泣き叫ぶ人々。

 

天草は自然と拳を握る。

 

怒りで震えそうになる…しかし表情は変わらない。

 

「奴らは…生きている価値はありますか?」

 

ロックスが笑う。

 

「ヴォハハハ…知らねぇよ。だが気に食わねぇな…ゴミどもが喜んでんのはよ。行くぞシロウ…敵を見定めるぞ」

 

見つからないよう、マリージョア内を探索していた2人は偶然辿り着いた花が咲き誇る部屋にたどりついた。

 

その部屋の中心に一人の存在がいた。

 

イム…世界の王であり800年世界を支配する者。

 

 

ロックスがイムへ向け覇王色の覇気を放つ。

 

それにより空間が軋む。

 

天草は静かに前へ出た。

 

「初めまして」

 

沈黙。

 

世界で最も秘密にされる存在。

 

その正体を知る者はいない。

 

だが天草だけは前世の知識によって知っていた。

 

「あなたが…今ある世界の仕組みを作った全ての元凶ですね」

 

イムの瞳が細まる。

 

現在もロックスの覇気を受けているが、何事もないように無反応。

 

イムはロックスではなく、初めて見る目の前の存在に興味を示した。

 

「ヌシアは…何者だ?」

 

ロックスが笑う。

 

「俺の右腕で相棒だ」

 

天草は静かに答える。

 

「全人類の救済を願う者です」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

イムは理解した。より危険なのは凶悪な笑みを浮かべる男では無く、横にいる目の前の聖人だと。

 

 

聖地マリージョアの最奥にある花の間。

 

イムとの邂逅は、ほんの数分だった。

 

だが、その数分で世界の歴史は確実に動いた。

 

「全人類の救済を願う者です」

 

そう告げた天草四郎を、イムは静かに見つめていた。

 

まるで何百年も生きた者が、珍しい虫を観察しているような視線。

 

感情がない。怒りもない。殺意すらない。ただ人を人と見ない目で観察している。

 

「救済……か」

 

イムが初めて言葉を発した。

 

「人は救われることを望んではいない」

 

天草はその発言に首を横に振る。

 

「違います」

 

「人は救われたいのです。ただ、救われ方を知らないだけで」

 

沈黙したその瞬間。

 

ロックスが大笑いした。

 

「ヴォハハハハハ!お前ら話が回りくどいんだよ。答えは単純だろうがよ」

 

凄まじい覇気が広間を震わせる。勢いを増した覇気はイムの周囲の空気すら揺れる。

 

「気に入らない、認めないで十分なんだよ理由は。けど、そんなことより俺はな」

 

ロックスはイムを指差した。

 

「テメェが気に食わねぇ」

 

空白の間。

 

誰も座らないはずの世界の玉座。

 

そこに座る存在がいる。

 

「顔も知らない奴が…気に入らない奴が高台から見下ろして世界を支配してる?冗談じゃない」

 

ロックスは俯いていた顔を上げてイムへ指を突きつけ話す。

 

「支配するのは俺だ!お前じゃ無い。だから…力づくで奪う!」

 

その瞬間。

 

イムから放たれる覇気に天草の背筋を冷たいものが走った。

 

本能が警告している、今ここで戦えば死ぬ。

 

ロックスですら。

 

「ロックス」

 

天草が言う。

 

「今は退きましょう」

 

ロックスは不満そうに鼻を鳴らし舌打ちした。

 

「チッ」

 

だが、彼は天草の言葉だけは聞く。

 

ロックスは誰の命令も聞かない。

 

ただ一人、相棒と認めた天草四郎だけは特別だった。

 

「俺はまた戻って来るぜ、世界の王様」

 

イムに背を向け出口に向かい歩き出したロックスが笑う。

 

「次は盛大にぶっ壊してやるよ」




地道にやれればと思います
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