ONE PIECE 救済を求める神父   作:ヴァンプッシュ

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第十三話 現れた海のアイドル

 

数週間に及ぶ遠征を終えたロックス海賊団。

 

奪った財宝を山のように積み上げながら、一行は本拠地・ハチノスへ帰還した。

 

「帰ったぞォ!!」

 

白ひげの豪快な声が島中に響き、酒場からも港からも海賊たちが飛び出してくる。

 

「船長たちが帰ってきた!」

 

「今回はどれだけ暴れたんだ!」

 

シキは笑いながら酒樽を放り投げた。

 

「今日は飲むぞ!」

 

その時だった。

 

「…あれ何だ?」

 

王直が港の奥を見つめる。

 

「あんな建物、前からあったか?」

 

ロックスたちも視線を向ける。

 

そこには木造二階建ての建ったばかりと思われる真新しい建物。

 

大きな看板には─『シャッキー'SぼったくりBAR』

 

と書かれていた。

 

『『『何じゃコリャ!!!』』』

 

「バー?」

 

「荒れくれの海賊しかいないこんな島にか?」

 

ロックスが眉をひそめる。

 

「いったい誰の店だ?」

 

ギィ……

 

扉を開く。

 

店内は薄暗く、落ち着いた雰囲気に磨かれたカウンター、整然と並ぶ酒瓶。

 

そして──

 

「いらっしゃい」

 

カウンターの奥でグラスを磨く、一人の女性。

 

長い黒髪に蛇を思わせる妖艶な瞳。

その女性は美しく、それでいて気品を感じさせる立ち姿。

 

九蛇海賊団に所属していた“海のアイドル”とまで呼ばれる女海賊。

 

シャッキー。

 

まさかの人に店内が静まり返る。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

白ひげが固まった。

 

シキも固まった。

 

王直も口を開けたまま動かない。

 

ロックスですら目を丸くしている。

 

「…何でいるんだ?」

 

ロックス海賊団の男たちは陥落した。

 

「酒を一杯、いかが?」

 

シャッキーが微笑む。

 

その瞬間。

 

「飲む!!」

 

白ひげが即答。

 

「ちょっと!ニューゲート!!!私が誘っても飲まなかったじゃない!!」

 

「俺も!」

 

「俺にも!」

 

「最高級を頼む!」

 

普段は冷静な王直まで前のめりになり、シキは髪を整え始めた。

 

「おい白ひげ、押すな!」

 

「うるせぇ!お前は髪なんか整えてんじゃねぇ!気持ち悪りぃぞ!?」

 

ロックスは咳払いをする。

 

「……店主。俺にも一杯くれ」

 

「ふふっ、かしこまりました」

 

シャッキーが笑う。その笑顔だけで、店内の男たちの心は撃ち抜かれた。

 

 

その中で、一人だけ違う男がいた。

シロウだけは少し遅れて店へ入る。

 

「失礼します」

 

店内を見回し、シャッキーがいるカウンターへ向かう。

 

「紅茶はありますか?」

 

静寂。

 

「…………」

 

全員が振り返る。

 

シキが叫ぶ。

 

「馬鹿だろお前!?ここ酒場だぜ!?そこは酒だろ!!」

 

白ひげも頷く。

 

「こんな美人に酒を注いでもらえるんだぞ!」

 

シロウは首を傾げる。

 

「私はお酒をほとんど飲みませんし、紅茶も立派な嗜好品ですよ?」

 

シャッキーは少し目を丸くした後、くすりと笑った。

 

「変わった人ね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「褒めてないわよ」

 

「そうでしたか」

 

その天然な返答に、シャッキーは思わず吹き出してしまう。

 

 

 

以降、シロウに対する幹部たちの反応。

 

シキが小声で囁く。

 

「…おい」

 

「あ?なんだよ?」

 

「何であいつだけ普通なんだ?」

 

白ひげも腕を組む。

 

「分からねぇ…全然表情変わんないしな」

 

「素だぜありゃ」

 

王直は真面目な顔で分析する。

 

「恐らく女に興味がない…のか?」

 

「いや、それはねぇな」

 

ロックスが酒を飲みながら否定した。

 

「あいつは誰に対してもあんな態度だしな。相手が王族だろうが海兵だろうが基本変わらねぇ。だから女相手でも変わらねぇだけだ」

 

「「「なるほどぉ…」」」

 

 

 

 

シャッキーは紅茶を差し出す。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。」

 

シロウは丁寧に一礼し、一口飲み穏やかに微笑んだ。

 

「…とても美味しいです。」

 

「そう」

 

シャッキーは頬杖をつきながらシロウを見る。

 

(この人だけ、私を見ていない)

 

正確には見てはいる。しかし、他の男たちのような欲望や下心ではない。

 

一人の人間として接している…シャッキーにとってそれが妙に新鮮だった。

 

店を出た後、酒場を出るなりシキがシロウの肩を掴む。

 

「なぁシロウ!お前何であんなに普通なんだ!」

 

「普通?」

 

「シャッキーだぞ!?海のアイドルだぞ!」

 

力説するシキに白ひげも勢いよく頷く。

 

「普通男なら惚れるだろ!」

 

シロウは言われてから少し考え込み、静かに答えた。

 

「…確かに、とても魅力的な方だとは思います」

 

「だろ!ならy「ですが」…あ?」

 

シロウは穏やかに微笑む。

 

「私は人を外見だけで好きにはなれません…その人が何を考え、どう生きてきたかを知ってからでなければ、好意とは呼べないと思っています。所謂内面とかを見ないと分からないという事ですね」

 

その言葉に、一瞬だけ全員が黙る。

その中でロックスは豪快に笑い出した。

 

「ヴォハハハ!やっぱお前は変わってんな!そんな細けで事は普通考えねぇ」

 

その頃、バーの中では、グラスを磨きながらシャッキーが小さく笑っていた。

 

「ふふ…変な神父さん」

 

 

 

それから、ハチノスでは遠征から戻るたび、ロックス海賊団の幹部たちは足繁く通うようになっていた。

 

「シャッキーちゃん! 今日も綺麗だな!」

 

「一緒に飲まねぇか?」

 

「俺が奢るぞ!」

 

シキ、白ひげ、王直をはじめ、海賊たちは思い思いに声を掛ける。

 

しかし――

 

シャッキーは慣れた様子でグラスを磨きながら、さらりと受け流す。

 

「ありがとう。でも、お店の中では静かにしてちょうだい」

 

笑顔は向けるが、それ以上の隙は見せない。

 

一方、その光景を横目に見ながら、シロウはいつもの席で紅茶を飲んでいた。

 

「今日はダージリンよ」

 

「ありがとうございます」

 

「相変わらず貴方はお酒は飲まないのね。嫌いなの?」

 

「嗜む程度なら飲みますが、頭が鈍るのがどうも好きになれないのです」

 

「あなたらしいわ」

 

二人の会話はそれだけで恋愛を匂わせる言葉も、駆け引きもない

ただ、常連客と店主の穏やかなやり取りがあった。

 

その様子を見ていたシキは肘で白ひげを小突く。

 

「おい…あいつだけ妙に自然じゃねぇか?」

 

「…そうだな」

 

白ひげは腕を組む。

 

「俺たちはどうしても意識しちまう」

 

ロックスは酒をあおりながら笑った。

 

「シロウは最初から口説く気なんざねぇからな」

 

その日の閉店後。

 

店の外で、シキが思い切ってシャッキーに尋ねた。

 

「なあ、シャッキーよぉ…お前、誰か気になる男はいねぇのか?」

 

シャッキーは少しだけ目を細めた。

 

「いるわよ」

 

その一言で、シキの表情が明るくなる。

 

「おっ、本当か!」

 

白ひげも聞き耳を立てる。

 

ロックスも面白そうに笑う。

 

「誰だ?」

 

シャッキーは迷うことなく答えた。

 

「内緒よ。教えるわけないじゃない」

 

その場が静まり返る。

 

「…は?」

 

シキが間の抜けた声を漏らす。

シャッキーはどこか懐かしそうに微笑んだ。

 

「昔から、あの人しか見てないもの…他の人が何を言っても、その気持ちは変わらないわ」

 

「ヴォハハハ!!」

 

最初に笑い出したのはロックスだった。

 

「聞いたか、お前ら!見事に振られたな!いい女には秘密がつきもんさ!余計な詮索はすんなよお前ら!」

 

白ひげは頭をかきながら苦笑する。

 

「最初から勝ち目なんて無かったってことか…いやまだ行けるか?」

 

「あたしなら空いてるわよ!ニューゲート!!」

 

「お前には興味ねぇんだよ…ステューシー」

 

シキは肩を落とした。

 

「相手次第じゃ分が悪すぎるか?…こうなりゃ略奪するか?」

 

王直もため息をつく。

 

「なるほど…通りでなびかないわけだ」

 

 

 

 

その頃。

 

シロウは店の外で夜空を見上げていた時にシャッキーが店じまいを終え隣に立つ。

 

「みんな、落ち込んでるみたいね」

 

「そうですね。みんな貴女に惚の字でしたからね。皆さんからしたら強烈なカミングアウトでしたでしょう」

 

シロウは静かに微笑む。

 

「ですが、一途に誰かを想い続けることは、私はとても素敵なことだと思います」

 

シャッキーは少し驚いたようにシロウを見る。

 

「慰めるわけでも、口説くわけでもないのね」

 

「必要ありませんから」

 

「…どうして?」

 

「想いは本人の自由です」

 

シロウは穏やかな声で続けた。

 

「誰を好きになるかも、その気持ちを貫くことも、他人が口を挟むことではありません。ですから私は、シャッキーさんの想いを尊重しますし、応援しています」

 

シャッキーは小さく笑った。

 

「本当に変わった人」

 

「ここに来た時からよく言われます」

 

「ふふっ」

 

短い笑い声が夜風に溶ける。

 

シャッキーは改めて思う。

 

シロウは信頼できる友人でそれ以上でも、それ以下でもない。

そして彼女の心には、昔から変わらず一人の男の姿だけがあった。

 

シロウもまた、その想いを理解し、余計な感情を抱くことなく、一人の常連客としてバーへ通い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

ロックスの死についてですが、どちらかお選びください。それによって書き方を変えようと思います。

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