普段なら喧嘩と銃声が絶えない島が、その日は異様な緊張に包まれていた。
「船だ!船が見えたぞ!!」
見張り番の船員が叫ぶ。
「西から海賊船接近!」
港にいた海賊たちが一斉に武器を取る。
黒い海賊旗が風になびく、髭のついた髑髏のマーク。
その船首に立つ男を見た瞬間、島中がざわついた。
「…ロジャー海賊団だ!!」
「ゴール・D・ロジャーだぞ!」
ロックス海賊団の幹部たちも港へ姿を現す。
ロックスは腕を組み待ち構える。
「向こうから来るとはいい度胸じゃねぇか…何しに来やがった?」
白ひげは薙刀を肩に担ぐ。
「久しぶりだな…ロジャー」
シキは刀へ手を添えた。
「白ひげテメェは手を出すな!俺の獲物だぞ?ここで決着つけるか?」
張り詰める空気、一触即発。
やがて港へ船が着き、先頭で降り立ったロジャーが大きく手を振った。
「よう、ロックス!久しぶりだな!」
ロックスは笑みを浮かべたまま返す。
「俺はテメェの友達なんかじゃねぇぞ?何しに来やがった?戦争なら歓迎してやるぞ?」
ロジャーは肩をすくめた。
「今日は違う、喧嘩しに来たんじゃねぇ」
シキが鼻で笑う。
「ハッ信用できるか」
その時、酒場の扉が開いた。
「店の前で騒がないで?いつも言ってるでしょ?」
静かな声は店主のシャッキーだった。店内から顔を出し、呆れたようにため息をつく。
「うちの店を壊したら、お酒は出さないわよ?」
その一言で、ロックスは眉を上げた。
「……」
ロジャーも苦笑する。
「はは…それは困るな」
ロックスは幹部たちを見回した。
「聞いたかお前ら!!今日は店の前で暴れる奴は俺がぶん殴る」
白ひげが薙刀を下ろす。
「酒が飲めなくなるのは困る」
シキも舌打ちしながら刀を納めた。
「今日は休戦ってことか」
「勘違いするな?」
ロックスはロジャーを睨む。
「島の中だけだ。島の外に一歩でも出たら容赦はしねぇぞ?」
ロジャーも頷く。
「十分だ。俺たちも飲みに来ただけだからな」
島中の海賊たちは耳を疑った。絶対碌なことにならないと。
ロックス海賊団とロジャー海賊団が、同じ酒場へ入るなど誰も想像していなかった。
酒場店内。
ロックス海賊団は左側。
ロジャー海賊団は右側。
互いに睨み合いながら酒を飲む。
少しでもきっかけがあれば乱闘になりそうな空気だった。
「はい、お酒」
シャッキーが淡々とグラスを置いていく。
誰も彼女には逆らわない。
カウンターにいるシロウだけはいつも通り紅茶を受け取っていた。
ロジャーはその様子を見て笑う。
「相変わらず酒じゃないのか?」
「ええ」
シロウは穏やかに頷く。
「今日は茶葉の香りがとても良いですね。また新しいのを仕入れましたね。美味しいです」
「気に入ってくれて何より」
シャッキーは微笑む。
そのやり取りを見て、ロジャーは少し感心したように笑った。
「お前だけはやっぱ他のやつとは空気が違うな」
「そうでしょうか?いつも通りですよ」
「普通、この店じゃそんな落ち着いてられねぇ」
その時だった。
シャッキーが、何気ない様子でロジャーの近くへ歩いていく。
グラスを置きながら、小さな声で尋ねた。
「…ねぇレイさんは?」
ロジャーは一瞬だけ目を丸くした。
そして、にやりと笑う。
「何だ、最初に聞くのがそれか?」
「答えて」
「いやぁ来いってつったんだがよぉ!!体調が悪いとか言いやがって船で寝てるよ」
シャッキーは「そう」とだけ答え、表情を変えずに次の客の元へ向かう。
だが、そのほんのわずかな心配したような横顔を、シロウだけは静かに見ていた。
(本当に、一途な方ですね)
彼は紅茶を一口飲み、何も口にはしなかった。
夜も更け、店内には酒瓶が増え、笑い声も大きくなっていた。
だが、その笑い声の裏には緊張がある。
ロックス海賊団とロジャー海賊団。
普段なら顔を合わせた瞬間に戦いが始まる両者が、同じ空間で酒を飲んでいるのだ。
「おい、ロジャー」
ロックスがジョッキを片手に笑う。
「酒なんざ飲んでねぇで、一発やるか?」
ロジャーも負けじと笑い返す。
「だから今日はやらねぇって言ってるだろ?シャッキーに店を出禁にされたくねぇ!」
「ヴォハハハ!お前がそんなこと気にするとはな!」
「美味い酒を飲める場所は大事だからな。むざむざ捨てたかねぇ」
そのやり取りに、店内の海賊たちは苦笑した。
その頃、ロジャー海賊団の一角では、スコッパー・ギャバンがシロウの前へ腰掛けた。
「隣、いいか?」
「もちろんです。どこに座るか自由ですよ」
シロウは紅茶のカップを置く。
「酒じゃないのか?」
「私は酔うより、考える方が好きなので」
ギャバンは豪快に笑った。
「変わってるな。悪名高い凶悪なロックスの船にいるとは思えねぇ」
「よく言われます」
穏やかな返事に、ギャバンは思わず吹き出した。
その様子を見ていたロジャーが声を掛ける。
「シロウ」
「はい?何でしょう?」
「お前、本当にロックスの仲間なのか?他のやつらと違いすぎて場違いに見える」
店内が静まり返る。
ロックス海賊団の幹部たちも耳を傾ける。
シロウは少しだけ考え、答えた。
「私はロックスの思想すべてに賛同しているわけではありませんよ?」
シキが眉をひそめる。
「おいおい」
しかしシロウは続けた。
「ですが、私はこの船でしか見られない景色があります。この時代を知り、人々を知り、世界を知る。そのために私はここにいます」
ロジャーは頷いた。
「なるほどな。なんかお前らしい答えだな」
二人の間には敵意はなく、あるのは互いへの興味だけだった。
その時、カランと店の扉が開いた。
全員の視線が入口へ向く。
「…!」
シャッキーの手が止まる。
そこに立っていたのは、長身の剣士。
金髪を後ろへ流し、腰には剣を提げている。
「悪い遅くなった」
静かな声が店内に響く。
ロジャーは笑った。
「お、来たか。体調不良じゃなかったのか?」
「…ああ完治したよ」
男は短く答える。
シャッキーの表情が、わずかに柔らかくなる。
「いらっしゃい。レイさん」
その一言だけだったが、その声音は誰に向けるものとも違っていた。
レイリーはカウンターへ歩き、自然に腰を下ろす。
「いつものを」
「ええ」
シャッキーは迷いなく酒を注ぐ中、シロウは紅茶を飲みながら静かに二人を見つめていた。
(自然ですね。)
飾ることもなく、無理に言葉を重ねることもない。ただ同じ空間にいるだけで落ち着いている。
それが二人の関係を物語っていた。
シロウは小さく微笑む。
「良いご縁ですね」
その言葉にレイリーはシロウを一瞥した。
「…そうかもしれないな」
短い返事。
しかし、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
店内ではロックスとロジャーがまた言い争いを始め、白ひげとギャバンも酒を酌み交わしている。
敵同士でありながら、一夜だけの奇妙な停戦。
その中心には、誰にも分け隔てなく酒を出すシャッキーと、彼女が唯一特別な眼差しを向けるレイリーの姿があった。
そしてシロウは、その光景を静かに見守りながら、湯気の立つ紅茶をゆっくりと口に運んだ。
ロックスの死についてですが、どちらかお選びください。それによって書き方を変えようと思います。
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助ける
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助けない