ロックス達の前には巨人の子供ではあるが、通常サイズではない巨人がいた。
「…誰だお前ら?」
幼い少年だが、その身長は既に三メートル近い。
額には小さな一対の角に特徴的な赤黒い瞳をした異様な威圧感がある子供。
エルバフ王子――ロキ。
まだ幼いにも関わらず、その目には“王”の色が宿っていた。
ロックスは目を細める。
「良し!質問するがハイ"と2回答えろクソガキ!俺はそれしか求めねぇ!1つ目!ここはエルバフか?2つ目!ハラルド!!いるよな!?」
ロキは睨み返しながらも答えた。
「…ここはエルバフだけど親父はいねぇぞ!えんせい?中だ。初めて見た、お前達チビ人間か?本当に動いてる」
ガンズイが鼻で笑う。
「ガキが随分偉そうだなァ」
だがロックスは笑った。
「ヴォハハハ!親父ときたか!?ハラルドのガキって事か!いつの間に妻なんか娶ってたんだあいつ!」
ロックスはロキの前へ歩み寄る。
その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……
空気が沈んだ。
ロックスが発する覇王色に幼いロキの膝がわずかに沈む。
だが――倒れない。
シキの口元が歪む。
「おぉ?」
白ひげも驚いていた。
(こんなガキがロックスの覇気に耐えただと……?)
ロックスは笑みを深くする。
「いい根性だ。遠征つっても連絡ぐらいはできんだろ?おい、ガキ。あいつはいつ戻る?」
「知らねェ」
ロックスは静かに首を鳴らした。
「なら――呼び戻すしかねェな。いいか?俺の言う通りにしろ?今から家に戻って親父と連絡を取ってもらえるよう話せ」
「はァ!?なんで俺が人間族の言うことを聞かなきゃならねぇんだ!!弱そうなくせに俺に命令するな!」
その言葉に、周囲の空気が変わる。
ステューシーが眉をひそめた。
「まさか…」
ロックスの剣に覇気が集まり始める。
狙いは――ロキ。
「聞きたくねぇか。ならしょうがねぇな。ハラルドもガキ一人半殺しにすりゃ、飛んで帰って来るだろ」
「おいロックス…さすがにガキ相手にやり過ぎじゃねェか?」
「黙ってろニューゲート」
高まり続ける覇気にロキが歯を食いしばる。
だが次の瞬間。
――ドンッ。
ロックスの剣を、一本の剣が止めていた。
ロックスの右腕のシロウだった。
「……やめてください」
黒い髪が揺れる。
ロックスの覇気を真正面から受けながら、一歩も引いていない。
覇気を纏った鍔迫り合う刀同士が黒い火花のように散る。
ロックスの目が細くなる。
「…シロウ。テメェ、俺の邪魔をする気か?」
シロウは静かにロキを見た。彼に怯えは見えるものの、それでも逃げずに立ち向かおうとしている。
シロウはロックスを見据えたまま言う。
「…この子に傷を付けても、エルバフには入れない。足止めを食うだけです」
「あぁ?」
「ですが、別の方法なら、“彼の方から”来る」
ロックスがニヤリと笑う。
「なんだ?言ってみろ」
シロウはロキの前に立ったまま告げた。
「王子を攫う」
その場の全員が笑みを変えたが白ひげだけが眉をひそめる。
「おいおい……」
シロウは話を続ける。
「傷を付ければ憎悪しか残らない。だが生かしたままであれば、彼は必ず自分で動く。それにハラルドが動いているとはいえ、エルバフはまだまだ閉鎖国家の部類に入ります。力で攻めれば優秀な戦士達である巨人族が敵になる」
ロックスは腹を抱えて笑った。
「ヴォハハハ!なるほどなァ!! 確かに無駄に被害を出す必要はねェ。あいつに喧嘩売りに来たわけじゃねぇからな。そっちの方がやりやすいか」
ロキはシロウを睨む。
「……お前もクズだな」
シロウは無表情のまま答えた。
「そうかもですね」
「まぁ…それはそれとしてだ」
その瞬間。
ズン――ッ!!
冥界全体が揺れるほどの巨大な覇気。
ロックスとシロウ。二人の覇気がぶつかった瞬間、冥界の空気が軋んだ。
黒い雷が根の大地を走り、周囲の巨木が悲鳴のような音を立てる。
ロキはその光景に息を呑んだ。
(……なんだ、こいつら)
ただ強いだけじゃない。
存在そのものが災害だった。
白ひげは腕を組みながら笑う。
「グラララ……若ェのに大した胆力だぜ、シロウ」
シキは口角を吊り上げた。
「ロックスに真正面から意見する奴はアイツだけだからなぁ」
だが当の本人であるロックスは笑みを消していた。
「…シロウ」
ドス黒い覇気が溢れる。
「テメェ、最近俺に意見することが増えたな」
「必要だからです」
「必要?」
ロックスは鼻で笑った。
「俺に必要なのは力だ。利用価値のある駒か、死体だけだ」
ロキの目が鋭くなる。
“駒”。
その言葉に反応したシロウは静かに返す。
「ならなおさらです、この子はただの巨人じゃない」
ロックスは無言で続きを促すように目で促すがシロウはロキを見た。
「…君、名前は?」
「ロキ」
「そうか」
シロウは少しだけ笑った。
「ロキ。君の目はいい目をしてる」
ロキは目を見開き眉をひそめる。
「お前…本当にそんなこと思ってんのか?変な奴だな」
その言葉に、ロックス海賊団の数人が笑った。
「ガキにも変な奴だって見抜かれてんぞシロウ」
「うるさいですよガンズイ」
ステューシーは妖艶に笑う。
「ふふ…変わり者なのよ、この子」
「揶揄わないでください」
そして幼いロキは――初めて、自分を庇った男…シロウの背中を見つめていた。ロキはその場から動けなかった。
落下した時にできた額の傷から流れる血が頬を伝い、地面へ落ちる。
だが幼い王子の頭の中にあったのは、痛みではない。
――目の前の人間のシロウの事だった。
「…いい目をしてる、か」
ロキは小さく呟く。
エルバフでは、誰もそんなことを言わなかった。
実の母からは捨てられ、バケモノのように扱われ愛情を知らない。
ロキの呪いと言われて周囲からは疎まれてきた。
だがシロウは違った。
強さでも血筋でも見た目でもない。
“目”を見た。自分自身を見てくれた。
ロキはそれが妙に頭から離れなかった。
「ロックスの攻撃を止めた…俺のために?」
あり得ないことだった。
見ただけでもわかるあの怪物を前に、一歩も退かなかった。
しかも真正面から。
ロキは拳を握る。
(あいつも怪物だ)
だが、ロックスとは違う。
ロックスは暴力そのものだった。
近くにいるだけで、
世界が壊れるような感覚。
だがシロウは違う。
冷たいわけでもく静かだった。
むしろ、あの場で唯一“優しい人”だった。
「…変な奴」
ロキは不機嫌そうに吐き捨てる。
だが胸の奥は妙に熱かった。
その時、背後の森から巨人族の戦士達が現れた。
「ロキ様!!」
「ご無事ですか!?」
「そのもの達は!?」
ロキは振り返らない。
「うるさい」
「ですが…!!」
「帰る」
短く言い放ち、ロキは歩き出した。だが途中で足を止める。
「親父に…」
「親父に連絡してくれ。遠征中だけど帰ってきて欲しいって。親父宛に客が来てるって」
「しかし、この者たちは侵入s「うるさい!言うとおりにしろ!」は、はいぃぃぃ!!」
背後の巨人が冥界から地上へ伝えに行ったが、目の前まで来たシロウが話しかけてきた。
「…ありがとうロキ。あなたのおかげでここに来た目的を果たせそうです。」
「勘違いするな」
「?」
「お前の為じゃねぇ…さっきの攻撃から庇ってくれたから。貸しは作りたく無い。言っとくけど避けられたんだからな!?調子に乗るなよ!?」
すると、きょとんとした顔のシロウが笑い出した。
「あははは!そうですか。そうですね。これでチャラとしましょう。状況についてロックス達に話してきます。貴方はまずはその傷を手当てしましょう。ステューシーから治療を受けて下さい。」
そう言ってシロウはロックスの元へ歩き出した。
「…シロウ」
ふと、その名を口にした瞬間、ロキは自分でも妙な感覚になった。
敵、侵入者、本来なら侵入者として相手しなきゃいけない。
なのに――
「…次は」
暗かったロキの目に、光が宿る。
「もっと話してみてェな」
幼い王子はまだ知らない。
この出会いが、未来のエルバフを大きく変えることを。
そして――
“ロキという怪物”の人生に、シロウという存在が深く刻まれることを。