24時間戦えますか   作:I'mあいむ

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別れと少女

 

淡い光を放つポータルを通り、体がぐちゃぐちゃに歪むような感覚の先には我が社のロビーが待っている。

 

「よっ、と」

 

来る度に改装された馴染みの無い景色が広がっているのだが、今回は同じ景色を拝めたらしい。基本的に俺が本社に帰るスパンは数年から数十年ほど。緊急事態なら百年単位で帰られない時もあるだろうが、まあそれは例外中の例外。だから同じ景色のロビーを見られるのなんて珍しいことではある。

 

「うわっ」

 

「うわとはなんだうわとは」

 

見知った顔が露骨に嫌な声を出した。彼女はロビーの職員であるムアだ。イカみたいなタコみたいな自在に動く太い髪、褪せた夕映えのような色をした瞳に褐色の肌。これでも我が社では人間に近い見た目と言える。

 

「いやそら言うでしょーよ。久し振りに顔出したと思ったらなんですかそのカッコ。汚いったらありゃしない。ソレさっさと落としてきてください」

 

相変わらず小言が多い。こっちは今帰ってきたばっかだぞ?労いの一つぐらい無いのかよ。

 

「ったく、それよりこっちが先だ」

 

「はい?それよりも先のことなんて」

 

「田中、見せてやれ」

 

「了解ッス」

 

そこら辺でふらふらしている田中を呼び寄せる。用があるのは田中に持ってこさせた件の少女。未だどうなるか分からぬ不安の種である。

 

「それは……ハァ~、面倒ごとですか?」

 

「さあな、お手上げとしか」

 

「本当ですか?」

 

「全く分からん」

 

結局何も解明出来ていない。何の変哲もない人間の女。特別でも何でもない、俺にはそう見える。それとも知覚できない何かが働いている可能性も否定できない。

 

「んー、そうですか。それは……どうしようもないですね。管轄はどうしますか?」

 

「そのくらい上にやらせとけば良いだろ」

 

「いやいや、一応言ってください。ちょっとどうなるか分からないですし」

 

「……情報部だろうな。他に回したら馬鹿がやらかす」

 

こんなこと言わなくても良いだろうに。見た目の癖にバカ真面目だな。それとも親バカか?少しはあいつらにやらせりゃいいんだ。

 

「分かりました。上にあげておきます」

 

「言わなくても上手くやるだろーよ。心配性もよくない」

 

「これも仕事なので」

 

「はあ…少しは全体のことも考えてやれ。未来を担うのはあいつらだ」

 

「あなたが言います?」

 

この組織は今が世代交代の時期だ。もう、全部任せてやらなきゃいけない。いつまでも古株がでしゃばってるようじゃ未来は無い。

 

「あれは俺の仕事だ。最初から誰も出来なかった」

 

「…相変わらず微妙な立ち位置なんですね」

 

「つまんねえ話はナシだ。さっさとこの汚れを落としたい」

 

結構気持ち悪いんだよなあ、この体液。ねちゃねちゃとしてるし血みたいにこびりついてもらっても困る。

 

「…そうですね。手続きとその子の身柄はこちらで預かります。先輩もあなたもさっさと行ってください」

 

「はいはい。いつもお疲れさん。田中もお礼言っとけー」

 

「アザッス!」

 

「そこはありがとうございますだ!ったく、お前よりよっぽど上なんだ。これからも世話になるんだからちゃんとしとけ」

 

「ありがとうございまッス!」

 

「はい、これからよろしくお願いしますね」

 

「ウッス!」

 

「だからやめろや!」

 

そういうことも叩き込んどくべきだったか…。しかし社内政治なんて俺もこいつも柄じゃねえしな。

 

「はあ…じゃ、そういうことで」

 

「お疲れ様ッス!」

 

「お疲れ様でーす」

 

どうすっかなあ。いやそこまでしっかりしなくても別に…まあ、機会があれば他の奴が教えるだろう。そうだな。そこまで問題にもならねーな。

 

 

「ふーん。あの子、見込みあるんだあ…」

 

◇◆◇

 

 

 

「…うぅ」

 

頭がグラグラする。気分の悪い感覚しか認識できない。何が──

 

「ここは」

 

白色の天井。見たこともない景色だ。

 

「どこ?病院…?」

 

「それは違うッス」

 

「へ?」

 

「起きたっスか?」

 

人?嘘、今の聞かれてた?恥ずかしい…!

 

「体は大丈夫っスか?」

 

「えっと、はい、ダイジョブです」

 

見たことない景色の中に居たのは知らない男性。黒髪と特徴的なアロハシャツ。服も相まってチャラチャラした印象を受ける人だった。

 

「なら良かったっス」

 

「お、起きたみたいだね」

 

こ、今度は誰?

 

「ちょおっと見せてね~。うん、問題無さそうね」

 

「そ、そうですか……」

 

何なになに!?仮面に眼鏡つけた人が入ってきたんだけど!?どういうこと?!服の下でなんかグニュグニュ動いてるし、本当に人間???

 

「あなたは見たところd7の人間みたいだし、体の状態も良かったけど、十日ぐらい目を覚まさなかったの」

 

「そう、なんですか。あ、じゃあ私助けて貰えたんですか?」

 

?…d7?聞き間違い?

 

「そうなるね。ま、助けたのは私じゃなくてこの子なんだけど」

 

「ドヤッ」

 

「それは自分で言うもんじゃないよ」

 

「…」

 

なんか、不思議な人達だけど助けて貰ったんだ…。

 

「後で説明するけど、あなた変なトコで倒れてたらしいね。覚えてる?」

 

「倒れてたんですか?」

 

「そうっスよ。先輩と仕事してるところで倒れてたんス」

 

「えっと…」

 

「…駄目そうね。じゃあ最後の記憶は?」

 

「それは…」

 

最後の記憶…最後の記憶?

 

「あ」

 

「どうしたんスか?」

 

「ごめんなさい!私行かないと!」

 

思い出した!急いで行かないと!グースカ寝てる場合じゃないよ!!

 

「ちょおっと待った。何処へ行く気?」

 

「会社に受かったんです!」

 

「「あ」」

 

「今更だけど行かないと!今ならまだ─」

 

折角受かったのにこれじゃあ

 

「なんだ、うちの会社の人だったのね」

 

「へ?」

 

「今言うのもなんだけどね、あれだよ」

 

「ようこそ、タルコスへ」

 

「歓迎するっス!」

 

「ええ??」

 

私の入社は、余りにも変な人達の歓迎で始まった。

 

◇◇◇

 

「そう、あの求人のチラシでね」

 

「はい」

 

そうだ。あの変な求人。書いてあることが色々おかしかったけど、私にはあれしか…

 

「ほへー」

 

「それで採用担当に会ったと」

 

「そうです」

 

そういえば、あの人もちょっと変な人だったな。笑い方とか…もしかして、そんな人ばっかり?いやあんな求人出すんだしそれが当たり前なのかも?

 

「全く雑な対応を…良かったねあの人に拾われて」

 

「??」

 

「何となく察してると思うけど、ここは君達人間の安全を保証できる場所じゃない。一応聞いたでしょ?」

 

「えっと…?」

 

え、そんな危険な場所なの?

 

「そこからか」

 

「仕方ないっス。僕も何も知らなかったっスよ」

 

「君は事情が違うでしょ。それで、ええと…キャッチコピーぐらいは聞いた?」

 

「あ、えっと、24時間どうたらって…」

 

「まあ、それが分かってるだけマシだね」

 

マシ……??流石に嫌な予感がビンビンなんだけど…

 

「タルコスはね、たぶんあなたが知ってるような場所じゃない」

 

「あ、はい」

 

「はいって…まあそうだね。あんまり分からないかもしれないけど、このままだとあなたは死ぬ」

 

「え」

 

死ぬ?今死ぬって言った?…いや、冗談でもそんなことあんまり…

 

「冗談って顔してるところ悪いけど、今の内に知っておかないと手遅れになるから。しっかり聞いて」

 

「はい?」

 

「ここはね、人以外も居るの。人間よりもよっぽど強い存在がひしめき合ってる。でも死ぬの。君が知ってるどんな兵器も効かないような奴らも居るの。でも死んじゃうの。それだけ危険なの」

 

「えっと…」

 

何言ってるんだろう…。やっぱり変な人なのかな…

 

「んー」

 

「あ、君も地球出身だっけ?」

 

「地球??…確かそうッスね」

 

「え?」

 

「「?」」

 

出身?出身って何?出身てのはあれだよ。日本とか外国とかアメリカとか、そういうあれ。つまり何処から来たかってこと。私の常識ならそうだよね。うんでもやっぱり分からないから…

 

「出身ってなんですか?ていうかここ、何処なんですか?」

 

「何処なんだろうね?」

 

「分かんねッス」

 

「少なくとも地球じゃないかな」

 

「…………ホントに?」

 

「「うん」」

 

もしかして終わった??

 

「そんなことで驚いてる暇ないよ?ここには人間以外も居るし、人間の方が少ないし。というか私も人間じゃないし」

 

「ヒエッ」

 

なんかグニュグニュが激しくなったあ!!ちょくちょく服の間から緑色が見えるしなんなのこれえ!

 

「私が知ってる限り混じり気のない人間って三体ぐらいしか知らないかな」

 

「いや…いや…」

 

嘘よ…嘘だと言って…

 

「ここの仕事は危険だし、何が起こるかは誰にも分からないから。人間が生きていくには厳しいけど、もう契約は結んじゃっただろうし…」

 

「あ…え…あえあ」

 

ドッキリだよきっと…そうに決まってるよ…

 

「まあ、頑張って!」

 

「Noooooォオオオ!!」

 

 

◇◆◇

 

「おー、こんなところにいたのか」

 

「あ、先輩」

 

休憩フロアの一つ。ソファとデスクと休憩用とは思えない固さのチェアが置かれている場所に田中は居た。

 

「自分の部屋には戻らないのか?」

 

「んー、何処だったか忘れちゃったッス」

 

「…それもそうか。まあムア…あのロビーの奴に聞けば分かるだろうよ」

 

「了解ッス」

 

ズゴゴゴッ、と田中がストローから緑色の液体を吸い上げている。そこらの自販機から買ってきたのだろう。死ぬほど氷が多いのはぼったくりか何かか?

 

「うまいか?」

 

「バリうめえッス!」

 

「フッ、何か奢ってやるよ。何が良い?」

 

「マジスか!?アザッス!」

 

ズラッと並ぶ自動販売機達。明らかに人体が受け付けなさそうなものから健康に全てを割り振ってそうな一見食べ物じゃ無さそうなものまで。飲み物以外にも多くの品が並んでいる。この心臓に似た石とか何処の種族が食べるんだ?

 

「じゃあ、あの黄色いやつで!」

 

「黄色…これか?」

 

「いやもう少し右の…それッス!」

 

「うえっ、お前これかよ」

 

これ人間がギリギリ食べられる程度の成分で構成されたやつだろ?馬鹿共が面白がって作ってたあの……こいつなら大丈夫か。

 

「ま、お前が言ったんだしな…ほいっ」

 

「あざーっす!あとこれとこれとこれも欲しいッス!」

 

「イカれてんのかてめえ!こういうの普通一つだろうが!」

 

しかも全部高けえし!なんだこれ!?他のより十倍はするぞ!?こんなのいつの間に出来たんだよ…!

 

「クッソ…これだけだからな!」

 

「マジッスか!?言ってみるもんッスね!」

 

「っざけんなてめえ!」

 

「嘘ッス!嘘ッスよ!ありがたくもらいます!」

 

調子乗りやがって……ま、金は余ってるからな。一回ぐらいは良いだろう。

 

「…ここの生活はどうだ?」

 

はいほーっす!えしがうばいっす!(サイコーッス!飯がウマイっす!)

 

「そうか」

 

本社に帰ってきてから数日。溜めていた手続きを終わらせてこいつの様子を見にきた。何やら自室に戻っていないらしいが、なら今までどう過ごしてたんだ?相変わらず意味不明な生存力だ。

 

「田中」

 

「ほひ?」

 

「お前ここに残れ」

 

「ほうはいっす!…んぐ、へんぱいはどうするんスか?」

 

「俺はもうそろそろ次に行く」

 

正直、あの少女の件はタイミングが良かった。これからも俺に着いてくるのか、本社で同僚共とやっていくのか、こいつにとってどちらが良いのかは俺には分からん。しかしだ、こいつの反応を見るに後者の方が良いだろう。全てを伝えきれたわけじゃねえし、今置いていくのも最適ではない。だがこのまま行けば別れ時を見失う。だから今、あの少女に関わりたくない俺からしても良い時期だろう。

 

「あの少女のことはお前に任せた」

 

「ウッス!任されたッス!不肖田中、全力でやりとげてみせます!」

 

「……そうか」

 

こいつならもう大丈夫だろう。この一年で根本的なモノは全て叩き込んだ。あとは他の奴らに任せれば生き残れはする。

 

「…」バリバリムシャバリ

 

「…おいバカ」

 

「あい」

 

「お前、バカのままでいろよ」

 

「いきなりなんふか?」

 

「いいから聞いとけ。これで最後だ」

 

多くのことを教えてきた。たった一年、全てを見せるには短い期間だったが、少しは学んだだろう。そして俺も、少しはこいつのことが分かった。

 

「死ぬほどバカで居ろ。お前なら、生きていける」

 

「???」

 

こいつバカなんだ。ホント、正真正銘のバカ。馬鹿だから、こいつには多くの攻撃が効かない。多くの害をはね除ける。そして、この言葉も伝わらないだろう。俺はこいつの、そんなところを信じてる。

 

「せっかくだ、やるよ」

 

「なんスかこれ?」

 

「餞別。ま、上手く使え」

 

そこら辺から出したブローチを投げ渡す。あれ一つ持ってりゃ大体何とかなるだろ。あんなの俺は使わねーんだし。

 

「どうすれば使えるんすか?」

 

「んー……願え。後はお前次第」

 

「分かったッス!」

 

ここで即答するあたり流石だな。度を越えたバカだ。不安しか感じられないが、こいつは気にしなくとも大丈夫だろ。

 

「もう行くんスか?」

 

「ああ、長居してもな」

 

「お疲れ様ッス!」

 

「おう、お疲れー」

 

このバカも見納めとは…長い一年だったな。本当に。

 

「田中ぁ」

 

「なんスか?」

 

「死ぬなよお前」

 

「勿論ッス!任せといてください!」

 

「任せといてじゃねーよ、少しは注意しろ」

 

良い返事だ。なんて馬鹿正直な、良い返事なんだ。

 

「じゃあな」

 

「ありがとうございましたっ!」

 

◇◆◇

 

「──!」

 

「──」

 

「─ら、現実逃避しても何もならないんだから。今の内に聞いた方がいいだろうに…」

 

「いやああ!嘘うそうそ!怪しいからってこんなことあり得ないよー!」

 

どうして…どうしてこんなことに…?

 

「ヴヴヴゥゥ…」

 

「はぁ…田中くん」

 

「はい」

 

「君はあの人から頼まれたんだろ?」

 

二人がなんか話してる…今度はなんなの…

 

「そうッス。先輩から任されました!」

 

「なら君の仕事でもある。ほら、彼女を何とか、ね?」

 

「うーん…」

 

何だかあんまり理解出来ないけど、このチャラそうな男の人は私のことを誰かに頼まれたらしい。でもそんなこと言われたって知らないよおー!だったら本人が来てよーっ!!

 

「自分はよく分からないっスけど」

 

「うん?」

 

「きっと何とかなるッス」

 

「何でですか…?」

 

「うーん……先輩がアンタを拾ったからッス」

 

「何それ…先輩って誰…?」

 

ほんと…意味分からない…。さっきから先輩先輩って、誰なのそれ。なんかこの人馬鹿っぽいし、むしろもっと不安になるよお。

 

「先輩は先輩ッス。自分は先輩に任されたからここに居るッス。だからきっと大丈夫なんスよ」

 

「……そうかもしれないな」

 

「え…」

 

「あの人のことだし、何かあるかもしれない。あなたも、大丈夫だと思った方が気が楽だよ」

 

「そんな…」

 

何の理由にもなってないよ…

 

「そんな心配なくても、先輩方が何とかしてくれるッス!」

 

「不安だ…」

 

「まあ、何事も結果論だ。蓋を開けるまで分からないよ」

 

「もっと不安…」

 

これからどうなるんだろう…ホントに死なないよね…?

 

「まあこんなこと言ってられるのも」

「邪魔しまーす」

「あ、来ちゃったね」

 

ガラッ、と扉が開いた音がして、また誰かが入ってくる。居たのはまるで人間とは思えない青色の──ア○ター?」

「違うッス」

 

「…?まあいいや。それで、目が覚めたみたいですね」

 

ウッ、何あれ…目が身体中に付いてる。

 

「どうです?彼女の状態」

 

「…もう連れてけるよ。身体状況は何ともない。メンタルの方は少し心配だけど」

 

「流石です。じゃあ行きましょうか」

 

「え?え?」

 

私?これ私のこと言ってる?なら行くって…

 

「私に出来るのはここまでね。頑張ってね、人間の少女よ」

 

「自分は着いてくッス!だから泥船に乗った気持ちで良いッスよ!」

「そこは大船だね」

 

待って待って…!まだ何かあるの……!?

 

「大変なのはこれからだから、折れないようにね」

 

「まあ、何とかなるッスよ」

 

「………」

 

無理無理ムリムリムリムリ!こんな目ん玉ギョロギョロ男の居るところは無理だってぇ!

 

「時間もないのでさっさと行きましょうか」

 

「了解ッス!」

 

嘘だ…うそ…

 

「いやだああああぁぁ!!!」

 

私もうお家帰るー!!

 

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