薄い。
私の存在が、薄い。
今にも消えていってしまいそう。
空気に溶けていってしまいそうな感覚。
痛みは消えそうで。
最近、痛みが消えるのが速い気がする。
鞄に手が伸びる。
少し。
少しだけ。
少しならーーー
「ーーーんーー寄さんー酒寄さん」
「はいっ」
ガタッと立ち上がる。
「ここを解いてください。…大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。そこはーーー」
スラスラと口から言葉が紡がれる。
そこに私の思考は存在しない。
「はい、正解です」
「ありがとうございます」
私は椅子に座った。
……うん、まだ大丈夫。
私はまだ、ここにいる。
◇ ◇ ◇ ◇
足が痛い。
喉が少し、焼けるような痛みを発する。
視界も少しぼやけて曖昧だ。
若干ふらつきながら、家への帰路を辿る。
そのとき。
「わぁ…!みて、流れ星!」
誰かがそう言った気がした。
上を見上げると、そこには虹色に光る星があった。
「流れ、星……お願い事……」
何か言おうとして、詰まる。
あれ、なにか願うようなことあったっけ……
最終的にないと結論づけて、私はまたふらふらと帰路に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
家の前まで来て、私は困惑していた。
ぼんやりとする視界に、明らかにおかしい物が立っている。
電柱。光ってる。それも七色。
こんなゲーミング電柱見たことない。
半ば放心状態で見ていると、何か現れたのがわかった。
取手だ。
扉みたいになっている。
それを掴んで、小さな扉を開いてみる。
そこには。
「………んぅ…?」
赤ちゃんがいた。
「………なんで…?」
普通に困惑した。
訳わかんない。
なんでこんなところに赤ちゃん?
というか電柱昨日までこんなんじゃなかったよね。
もしかしてさっきの七色流星関係ある?
ぐるぐると頭が回る。
すると。
「……んへっ」
赤ちゃんが笑った。
少し、体の中で何かが騒ぐ。
無意識に、手が伸びる。
脇を抱えるように、抱き上げる。
胸元まで持っていって。
「………暖かい…」
心に温度が落とされた、みたいな感覚。
まるで私の心臓が、息をしたがっているような。
「…ふふっ、えへへ……君、暖かいねぇ……」
気づいたらボロボロ泣いていた。
私はその子を胸に抱えて、ずっと泣いていた。
そこからの記憶はあんまりない。
気づけば、私は自分の家でその子を抱えて寝ていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「んぅ……ん……」
お腹のところで何かがモゾモゾ動いてる。
「んぁ…って、うん?」
下を見ると、そこには赤ん坊の姿が。
……
………
…………
「…可愛い」
ぎゅうと抱きしめる。
昨日と同じ。
暖かくて、心を癒すような。
頭を撫でてあげる。
ふわふわして気持ち良い。
………ん?
「あれ、髪生えてる……昨日生えてたっけ……」
心なしか、少し大きい気がするような……
まぁ、いっか。
私はその子を抱えて外に出た。
近くのスーパーである程度必要なものを揃える。
おむつ、哺乳瓶に粉ミルク、その他いろいろ。
出費は少し嵩張ったけれど、この子のためならなんと言うこともない。
そのまま私はすぐに家に帰った。
その後はネットで調べながらお世話の方法を学んだ。
たまに大泣きしちゃって、隣の人に壁を叩かれたけど、気にはならなかった。
だって、こんなに可愛いんだから。
優しく抱きしめると、温度が私を癒してくれる。
「……ふへへ」
笑みが溢れる。
うん、私今、人生で一番幸せかも。
気づけばまた、赤ちゃんを抱えたまま寝てしまった。