バカと天才とカスとゴミは紙一重   作:ダンジョンのコア(醤油味)

1 / 1
人は追いつめられると発狂するらしい

“人は追いつめられると案外冷静になる。”

 

そんなわけない、と四ノ沢巧は思った。何処の歴史上の人物の逸話なのか、はたまたSNSで流行った言葉なのか、こんな言葉を作った人は一度地獄で猛省してほしい。

 

この言葉を直すとしたらこうだ。

 

 

“人は追いつめられると発狂するらしい。”

 

 

地底深くのダンジョンで悪魔の残骸を前にする四ノ沢はそう云った。

 

1

 

ダンジョン。それは地球に唐突に生えた古代(?)遺跡。世界各国に出現し、人々に祝福と絶望を与えた異常施設。地下深くまで続くものもあれば天空に存在するものもある。どれもこれも当時の人類の科学力では何も判明することはなかった。そうして20年。現代では少しずつ判明することもなく未知のままだ。

 

 

そんなことはどうでもいい。今考えるのは目の前の残骸だ。

 

「なんだこれ?」

 

知らん。

 

「悪魔ってあの悪魔だよね?なんでこいつ自己紹介なんてしたの?」

 

知るかボケ。

 

「てかこいつボロボロすぎてなんも剝ぎ取れないぞ」

 

「そんなことより酒飲もうぜ、酒」

 

黙れやボケ!!

 

「なあ!?俺は今必死にこの状況を飲み込もうとしてんだよ!少しくらい黙れや」

「おいおいおいおい。四ノ沢さんよ。おまえの足りない頭で考えてもなんも出て来やしないぜ。それより生き残ったことを喜ぼうぜ」

「そうだよリーダー。三輪の言う通り、僕たちが賢者様のように頭がいいわけじゃないんだから」

「五体満足なんだ。今夜は酒盛りか!?」

「静かにアル中二戸。私は今、勝利の一服の最中なんだ」

「聖職者のくせしてよく言うぜ、一ツ橋」

 

俺を除いて上から三輪、五十嵐、二戸、一ツ橋。俺の気も知らないカスどもが喋ってる。なめんな、これでも大学出てんだよ。地方の私立だけどな。

 

「なぁ、俺の心労考えろよ。変な魔物にあったのはまだいい。生かして捕らえるとか俺らには不可能だからそれもまだいい。だがな!!なんで気づいたらこんなぼろ雑巾になってんだ!?俺らがなにしたんだよ!!!!」

「説明しよう」

「黙れ一ツ橋」

「その答えは簡単。この私が満身創痍のこのパーティーにキョウカを施したからさ」

 

キョウカ。強化。狂化。

 

「みなまで言うな。このままだったら絶滅エンドだったからな。困ったときはお互い様さ」

「ちゃんと聞くんだが、キョウカってあれだよな。強化するとかのほうの。強いに化けるって書くやつだよな」

「バーサークのほうだが?」

「知ってたよ畜生」

 

四ノ沢は天を仰ぐ。地下深くなので空なんてないし、ここから仰ぐのは地上だろう。だが比喩にそんなに文句を言うのは無粋だ。最近の子は比喩も知らないのかもしれない。

四ノ沢以外のパーティー面子は悪魔だったものを囲んでマイムマイムを踊ってる。殴りたい。

二戸はどこからともなく酒瓶を取り出し飲んでいる。あれアルコール度数98%とかじゃなかったか?

一ツ橋はたばこの吸い殻を悪魔だったものでもみ消している。なにしてんの?

五十嵐は踊ってる。一番マシ。

三輪は俺の肩を組んでパーティーの中に連れて行こうとしている。近づくな、帰れ。

 

あるいは一ツ橋と五十嵐は悪魔だったものの前にしゃがみこみ、手を合わせている。

 

「天に増します我が主よ?なんだっけ、えーっとこのぼろ雑巾の魂も天に連れていってくれませんか?」

「悪魔が天に行けるわけないじゃん。ニコチンで脳みそ腐った?」

「黙りなさい、五十嵐。私が主に見放されるわけないじゃないですか。こんなにも嫌煙な神父なんですよ」

「敬虔ね。漢字も読めないこんなやつをなんで見放さないんだろうね」

「それは私が主に愛されているから!!」

 

これは本当に嫌なことだが事実だった。この世界は地球っぽい何かという前提のもとイエスキリストとは全く異なる神が存在する。これはキリスト教を敵に回したくないから。

そんな宗教ではダンジョンが現れてから神秘を扱う信徒が増えていた。所謂聖職者、ヒーラー、バッファー。今やパーティーに必要不可欠なヒーラーの中でも一ツ橋は天才だ。天災かもしれない。

 

この世界では基本的に5人1パーティーが普通だ。ここから1人2人減ったり増えたりするが其れは其れとしてパーティー単位が基本だ。その中で剣士、魔術師、タンク、ヒーラーという風に役職もほとんどこんな感じ。

 

さぁ、このパーティーはどうかというと

四ノ沢、リーダー兼剣士。

一ツ橋、バッファー兼ヒーラー。

二戸、剣士兼壁。

三輪、剣士。

五十嵐、バッファー。

 

脳筋だ。このパーティーの基本理念は「殴れば勝てる。殴っても死ななかったら死ぬまで殴ろう。近接戦で殴り続けてこっちは回復し続ければ最強じゃね?」。

 

リーダーである四ノ沢は自分がまともだと思っているが十分頭がおかしい。そうでなければこんな面子のリーダーが務まるわけないだろう。

 

2

 

さて、いろいろ現実逃避をしていたが漸く目の前の惨状をどうにかしないといけない時間になり始めた。

 

「埋めるか?」

「しってるか?ダンジョンって10㎝くらいしか掘れないんだよ」

「燃やすか?」

「あっ、ちょうど種火もありますしそうしましょう!!」

「まてまてまてまて、こいつが新種だったらどうするんだよ。探索者規定違反だぞ」

「リーダーしってる?ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ」

「まぁ、そうなんだが」

「おっ揺れたな。じゃあ早速このスピリタスをぶっかける!!」

「すかさず私のマッチをこうっ!!」

 

燃えた。

 

「「「「マイムマイムマイムマイム」」」」

 

4人が手をつないでその周りを踊っている。悪魔の残骸からはスピリタスの気化した匂いと焦げ付いた匂いがする。

 

頭が痛い。なんでこんなやつらのリーダーをしているのか。戻ったら絶対にパーティー解散してやる。

 

3

 

地上。

麻布ダンジョン入り口。

 

現在、麻布ダンジョンは規制処理を食らっていた。ダンジョン内に異常実体が出現したからである。

 

「だー!!あの馬鹿どもさっさと戻ってきやがれぇぇぇ!!!ぶっ殺してやらぁ!!!」

 

麻布ダンジョンの管理者である富永栄人はつい5時間前に出発した問題パーティーの帰りを待っていた。高そうなスーツは今にも筋肉の奔流ではちきれそうに、髪の毛のない額にはいくつも血管が浮き出ている。せっかく前線を退きダンジョン管理者として悠々自適に新人を教育できると思っていた矢先にこれだ。

 

件の異常実体は自身を悪魔だと名乗っていた。しかも、麻布ダンジョン入り口に配信画面を出現させてダンジョン内部からそんな事を喋ってきた。別にそこまではいい。

その程度だったらさっさとダンジョンを規制してぶっ殺せばすべてがきれいに終わる。

 

だが今回は、あのカスどもが出しゃばった。仕方がないこととはいえ、偶然ばったりと配信中の悪魔と出会ってしまった。そうして、これだ。

 

戦闘開始すぐに聖職者は全員に【狂化】を振りまくし、ぶっ殺したと思えば燃やすし。

この一部始終が全て配信に載ってしまった。ま、まあ、麻布ダンジョン入り口にしか出なかったし。許してやろう。一発ぶん殴るが。

 

 

 

「戻ったーーー!!!」

「疲れたー」

「酒盛りじゃ!」

「飯食いに行こうぜ」

「口寂しいですね」

 

「おい馬鹿ども!!!一発殴らせろ」

 

富永が件の彼奴らの迫りよる。四ノ沢が一歩下がる。それを遮るように他4人が四ノ沢を押し出す。

は?は?は?なんで押すん?

四ノ沢は押されるとは微塵も思わなかったのか少し押されただけで正面に倒れこむ。正面、そう富永だ。富永の豊満な胸筋にぶつかる。ふわっ、ぽよんっ、ではなくドガッと壁にでもぶつかったような音がする。

恐る恐る上を見やると満面の笑みの富永が立っている。

 

「な、なんなんですか!?俺たちまだ何もしてないですよ!!!!」

「まだってことはこれからする予定があるのか?」

「いやそんな。へへへ」

 

首根っこがむぎゅりとつかまれる。2.5m超えの富永によって180㎝はある四ノ沢は猫のように持ち上げられた。

 

「貴様らは自称悪魔と戦闘したよな?」

「ひてまへんよ!!!」

「そーだそーだ!!何を根拠に」

「黙れ!!全部映ってたんだよ!!貴様らが悪魔を殺し、燃やしたところまで全部な!!」

 

なっ!?四ノ沢は非常に焦った。死後まで隠し通すはずのヤクネタがもうすでに握られていた。くそっ、自称悪魔ごときが配信すんなよ。

ま、まて。俺は今捕まっていてあいつらはフリーだ。最悪だ。

 

「「「「……」」」」

 

4人が円陣を組んで話し合っている。

1分後、ニッコニコの笑顔で整列した。

 

「全部このリーダーが悪いので」

「裁くならリーダーを」

「俺たちはリーダーにやれって言われたんで」

「それでは」

 

くそっ、逃げやがった。バッファー2人の俊敏バフを受けた4人は颯爽と施設から脱出した。残ったのは戦利品の入った麻袋とリーダーたる俺。

四ノ沢は未だに首根っこをつかんでいる富永を見る。

 

「へへへ、帰っていいっすか?」

「ダメに決まってるだろ」

 

四ノ沢は管理者室へと連行された。

 

 

 

 

「で、申し開きは?」

 

四ノ沢は現在ソファーの前で正座をしている。足の下に鉄板や十露盤板(江戸時代の拷問、石抱のときに敷く三角形の奴)が置かれていないだけマシだろう。ふっかふかなカーペットが足に優しいぜ。

そして富永はソファーに深く座りワインを飲んでいる。なにも事情を知らない人が見れば借金取りのマフィアと債務者の構図にしか見えない。

 

「申し開きもなにも、自称悪魔の魔物を殺すのは探索者からしたら当然では?」

「まだそんな口が開けるのか。…確かにそれは問題ない。問題なのはそのあとだ」

 

そのあと……?

 

「ダンジョン内で禁止されてる酒、タバコ。貴重なサンプルを燃やす。あろうことかそれらの隠蔽……で、申し開きは?」

 

……ふぅ。確かにあのカスどもがしたのは愚かな行いだ。てか、まともに読めてなかったけどそんな禁止事項あるのか。知らなかった。

 

「俺は関係ないじゃないですか!!」

「いやお前リーダーだろ」

「ぐぅ」

 

ぐぅの音も出ない。

だがたとえリーダーでもあいつらの手綱を握れるわけがない。握れる奴がいたら代わってほしい。

 

「ただまぁ、自認悪魔を討伐してくれたからなぁ。恩赦を与えてやってもいい」

「まじっすか!?」

 

四ノ沢は顔を上げる。ぱぁっと表情が明るくなる。自分が当事者ではないがここまで詰められた後に許されると嬉しくなるのは自然の摂理。

 

「説教はこのくらいにして報酬の話だ」

 

富永はワインを瓶ごと飲み干すとガタンとテーブルに置く。

 

「あの悪魔の自己紹介を参考にすればA級以上は難い。まぁ言語を喋る魔物なんざ総じてS級でいいと思うんだが。……ま、それは置いといてA級パーティーたる貴様らにはそれ相応の金をやる。いつもと変わらんだろ」

「それだけ?傷害保険とかないんすか!?」

「ケガしてねぇだろ。てか、探索者は保険適応外だわ」

「チッ」

「あー、あとな。おまえらはこの戦果でS級上がれるっぽいぞ」

「え」

 

S級探索者。世界においても優秀とされるパーティーがなることができるランク。目の前のおっさんも数年前まではS級だった。S級は総じて頭がおかしいというのがこの世界の基本知識でもある。

S級に上がれるということは「お前ら、頭おかしいよ」と言われることと大差ない栄誉あることだ。

 

「なんでぇ?嫌なんですけど!!」

「栄誉ある事じゃないか。ガハハハ」

「あんなの頭おかしいって言われるだけじゃないか。馬鹿にしてんの!?」

「は?お前ら頭おかしいだろ、よくパーティーメンバー見てみろ」

 

パーティーメンバー?

 

一ツ橋はヤニカスかつ人に許可なく【狂化】かけるが、回復の腕は天才だ。

二戸はアル中だが肉壁としてはぴか一。

三輪はカスだが腕っぷしは強い。

五十嵐は五十嵐だ。

 

なんなんこいつら。

 

「S級上がっても給金変わんないって聞くんだけど」

「そりゃあS級の依頼が少ないんだから仕方ないだろ」

「じゃあ上がる意味なくね」

「なっとけ。なればここの見聞と評価が上がる」

「さらに嫌だわ」

 

アホくさ。帰っていいかな。

四ノ沢は立ち上がり報酬の袋を手に取る。中には多くの金が入っているのかズッシリ重い。

 

「じゃ、帰るんで」

「S級昇格考えとけよ」

 

四ノ沢はその言葉に耳を傾けることなく扉に手をかける。「あ、そうだ」とぽつりとつぶやく。

 

 

 

 

「今時キャッシュレスなんだから現金手渡しすんな、ボケが!!!!てかこれ全部小銭じゃねぇか!!!ぶっ殺すぞ!!!」

 

バタンと扉が壊れる勢いで閉じられた。




四ノ沢巧:剣士
このパーティーのリーダー。自称まとも枠。パーティーメンバーに振り回されていると自称している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。