濁った心にヒーローを   作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!

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ごめんね 予約投稿忘れてた


初期デクってやってること可笑しいよね…腕を犠牲に?

『本日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!!』

 

巨大な会場へ響き渡るその声に私は思わず肩を震わせる、いや正確には震わせそうになったと言うべきだろうか、何故ならその瞬間には既に隣から腕を掴まれていたのであり、人間社会で九年を過ごした私ですら思わず反応しそうになったのだから、ライブやイベントへ通い慣れている人間なら尚更だった。

 

「っ……っ……!」

 

「やめとこうね? フリじゃないからね? コーレスしたいの分かるけどやめようね??」

 

友人は必死だった。

 

私は必死だった友人を見ていた。

 

そして少しだけ感心する、人間というものは時として敵と戦うよりも自分自身と戦う方が大変らしい。

 

本日は国立雄英高等学校ヒーロー科入試当日である、定員四十名に対して毎年数百倍近い倍率を誇る日本最高峰の舞台、その説明会が行われている最中なのだけれど、よりにもよって担当教員がプレゼント・マイクなのだから仕方ない事でもある、あの人は説明会ですらライブ会場へ変えてしまうのだ。

 

「……ふぅ、耐えた」

 

「無事で何より」

 

友人は大きく息を吐いていた。

 

私はそんな様子を見て少しだけ笑う。

 

緊張している受験生は多いけれど、この人の場合は別方向へ大変そうだった。

 

『コイツはシヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?』

 

「っ……!」

 

「二度目……だと……!?」

 

私は思わず呟く。

 

友人は再び震えていた。

 

波状攻撃というやつだった。

 

ヒーロー教育の最前線とは思えない光景だけれど、雄英高校という場所は割と昔からこんな感じである。

 

説明が始まる。

 

実技試験は模擬市街地演習。

 

AからGまでの会場へ分散し、配置された仮想ヴィランロボットを各自の個性で無力化し、その成果をポイントとして換算する形式らしかった。

 

私はプリントへ目を落とす。

 

他人への妨害は禁止されているらしい、つまり受験生同士で足を引っ張り合ったり邪魔をしたりする行為は認められないという事であり、ヒーローを育てる学校としては極めて真っ当な規則だったし、少なくとも建前としては誰もが公平な条件で競い合うべきだという思想が見えていた。

 

装備品の持ち込みは自由だった、その一文を見た瞬間に会場のあちこちで僅かな空気の変化が生まれていたし、実際に大型のサポートアイテムを抱えている受験生も見掛けるのだから、雄英という学校は個性だけではなくそれをどう活用するかまで含めて評価するつもりなのだろう、もっとも自由という言葉ほど運営側が後から色々仕込める便利な単語も無いので油断は出来ないのだけれどね。

 

内容だけ聞けば極めて合理的だった、試験としても分かりやすいし採点基準も明確であり、受験生達が実力を発揮する場としては申し分ないように見えたし、普通の学校ならここで説明は終わるのだろう、しかし残念ながらここは雄英高校である。

 

雄英という学校は合理性の裏側へ平然と爆弾を隠してくる場所だった、当然である、日本最高峰のヒーロー育成機関がただの点取りゲームを用意する訳がないし、過去の試験内容を見ても受験生の想定を裏切る事に関しては妙な信頼感すら存在していた、だから私はプリントを見ながら少しだけ眉を寄せる、どうせ何かあるのだろうなと考えていたし、実際その予感は外れなかったのである。

 

「質問よろしいでしょうか!」

 

会場から手が上がる。

 

私は少しだけ首を傾げる、実のところ質問者が手を挙げるより前から同じ違和感を覚えていたのであり、プリントへ記載されている内容と説明の内容が微妙に噛み合っていない事くらいは流石に気付く、もっとも雄英という学校はこういう引っ掛けを平然と仕込んでくる場所なので油断は出来ないのだけれどね。

 

記載されているロボットは四種類だった、しかしプレゼント・マイクの説明では三種類しか存在しないように聞こえていて、その食い違いは単純な言い間違いというには不自然だったし、受験生達の間にも同じ疑問が広がっていたらしい、当然である、試験内容に関わる部分なのだから気になるに決まっている。

 

しかし説明では三種類だった。

 

答えは簡単だった。

 

四種類目はポイント対象外だった。

 

各会場に一体のみ配置される巨大ロボットであり、倒しても得点は発生せず受験生達の前へ立ちはだかるだけの存在らしいのだけれど、雄英高校という場所を知っている者ならばその説明だけで嫌な予感を覚えるだろうし、実際私も少しだけ眉を寄せていた、人間というものは経験から学ぶ生き物であり、雄英がわざわざ用意する「ただの障害物」が本当にただの障害物だった試しなど恐らく存在しないのである。

 

言うなれば障害物でありステージギミックなのだと説明されていた。

 

しかしその説明は妙に引っ掛かったし、そもそも日本最高峰のヒーロー育成機関が受験生数千人を相手にして「邪魔なだけの置物」を準備するとは考え難く、当然そこには何らかの意図がある筈だった、もっともその意図が受験生に優しいものである保証は何処にも無いのだけれど、雄英という学校は昔からそういう場所だったし、仕方ない事でもある。

 

『最後にリスナーへ我が校校訓をプレゼントしよう!』

 

『真の英雄とは人生の不幸を乗り越える者!』

 

『Plus ultra! 更に向こうへ!!』

 

会場が震える。

 

受験生達が息を飲む。

 

私は静かにその光景を眺めていた。

 

そして最後に告げられた言葉を少しだけ反芻する。

 

「それでは皆良い受難を!」

 

良い受難。

 

何とも雄英らしい。

 

普通なら幸運を祈ると言う場面なのだろうけれど、この学校は試練の先へ価値を見出しているのだろう。

 

だからこそ日本最高峰なのかもしれなかった。

 

会場へ転送された私は思わず足を止める。

 

目の前には巨大な市街地が広がっていた。

 

建物。

 

道路。

 

交差点。

 

信号機。

 

遠目に見れば本物の街と大差ない。

 

「いや広いわね……」

 

私は呟く。

 

本当に広かった。

 

人類という生き物は時折正気を疑う規模の建築物を平然と用意する。

 

海底にも巨大生物は居る。

 

しかしそれとこれとは話が別だった。

 

開始前の緊張が漂う。

 

周囲の受験生達も息を潜めている。

 

誰もがスタートの合図を待っていた。

 

そして。

 

『ハイ、スタートー』

 

静寂。

 

数秒の沈黙。

 

誰も動かなかった。

 

当然である。

 

カウントダウンがあると思う。

 

普通はそう思う。

 

『どうしたどうしたァ!? 実戦にゃカウントダウンなんざねェんだよ!』

 

その瞬間だった。

 

受験生達が一斉に走り出す、先程まで張り詰めていた空気が嘘のように弾け飛び、誰も彼もが己の個性と脚力を頼りに模擬市街地へ雪崩れ込んでいくその光景は、さながら獲物を見付けた捕食者の群れのようでもあり、あるいは夢へ向かって飛び出す若者達の姿そのものでもあった。

 

私も地面を蹴った、当然出遅れる訳にはいかないし、実戦に開始のカウントダウンなど存在しないというプレゼント・マイクの言葉もまた正論だったのである、理不尽だとは思うけれど理不尽だからこそ現実なのだろうし、ヒーローという仕事はそういうものなのだろうね。

 

街を駆ける。

 

ロボットを見付ける。

 

破壊する。

 

次を探す。

 

また破壊する。

 

文字にしてしまえば実に単純だった、しかし実戦というものは単純だからこそ差が出るのであり、迷う者は足を止め、焦る者は判断を誤り、慎重な者は機会を逃し、勢いだけで突っ込む者は痛い目を見る、人間の性格というものは驚くほど戦闘へ反映されるらしく、その辺りは海の生き物も陸の生き物も大差ないのかもしれなかった。

 

私は順調にポイントを積み重ねていく、ロボット達は少なくとも今のところ脅威とは呼べない程度の性能しか持っておらず、遭遇さえ出来れば処理そのものは難しくなかったのだけれど、しかし問題は別の所にあった。

 

数が少ないのである。

 

遭遇出来る時と出来ない時の差が大きかった、運良く複数体を見付けられる瞬間もあれば数分間何も見付からない時間もあり、効率という観点から見ればかなり不安定だったし、試験というものは往々にして実力だけではなく巡り合わせにも左右されるので厄介だった。

 

私は周囲を見回した。

 

効率が悪い。

 

そう判断した。

 

そしてその時だった。

 

地面が震える。

 

建物が揺れていた。

 

空気そのものが軋むような重低音が響いていた。

 

私は視線を向ける。

 

そして少しだけ沈黙した。

 

巨大だった。

 

巨大過ぎた。

 

ビルと同じか、それ以上かもしれない。

 

説明会で語られていた第四種、ゼロポイントロボットと呼ばれる存在がそこに居たのだけれど、正直な話をすると説明を聞いて想像していたサイズの数倍は大きかったし、雄英高校という組織は時々規模感覚がおかしい、いや時々ではないかもしれないけれど。

 

「あら」

 

私は思わず声を漏らす。

 

「あれ…障害物?随分大きいのね」

 

受験生達は逃げていた。

 

当然である。

 

ポイントは入らない。

 

危険だけがある。

 

挑む理由が存在しない。

 

それが合理的判断だったし、試験という状況を考えればむしろ正しい選択だった、誰だって限られた時間の中で得点を稼ぎたいのであって、わざわざ巨大な鉄の塊へ喧嘩を売りたい訳ではないのである。

 

私もそう思った。

 

しかし。

 

「痛ったぁ……」

 

声が聞こえた。

 

私は反射的に視線を向ける。

 

倒れている女子生徒が居た。

 

巨大ロボットの進路上だった。

 

私は立ち止まる。

 

考えるまでもなかった。

 

合理性だとか損得だとか試験だとか、そういうものは確かに大切なのだけれど、目の前で誰かが潰されそうになっている状況で優先順位の一番上へ来るものではないし、少なくとも私はそこまで人間社会へ馴染み損ねてはいなかった。

 

私は走る。

 

人の流れへ逆らう。

 

巨大ロボットへ向かって。

 

その行動が正しいのかどうかは分からない、しかし誰かを助けたいと思った時に身体が先に動くというのは案外悪い事ではないらしく、おじいさんも昔そんな事を言っていた気がする。

 

そしてその瞬間だった。

 

轟音が響く。

 

衝撃が走った。

 

大地が砕けていた。

 

私のすぐ隣へ巨大なクレーターが生まれる。

 

「……え?」

 

思わず足が止まった。

 

人影が落ちてきた。

 

いや違う。

 

飛んできたのだ。

 

尋常ではない跳躍だった。

 

尋常ではない加速だった。

 

そして弓のように引き絞られた拳が振り抜かれる。

 

轟音。

 

衝撃波。

 

巨大ロボットの身体が吹き飛んでいた。

 

私は目を見開く。

 

その場にはあまりにも似つかわしくない光景だった。

 

まるで。

 

本当に。

 

「へぇ」

 

私は思わず呟く。

 

英雄譚の一場面だった。

 

テレビ越しに見た誰かを思わせるような、誰かを守る為に飛び込み、迷わず拳を振るう姿だったし、理屈より先に身体が動くというのはこういう事なのだろうかと少しだけ考えてしまう、もっとも考察している余裕など本来無かったのだけれど。

 

しかし感心している場合ではなかった。

 

何故なら。

 

「落ちているじゃない」

 

私は空を見上げる。

 

巨大ロボットを破壊した張本人が今度は重力に従って落下してきていた。

 

どうやら雄英の受験というものは最後まで落ち着いて感動させてくれないらしく、英雄的な登場をした人物が数秒後には墜落事故を起こしかねない辺り、やはりこの学校は少しおかしいのかもしれなかった。

 




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