「なぁ、比企ヶ谷」
誰かが俺の体をゆすっている。
小町かな?小町じゃないよ。小町だよ!
小町ならテンション上がって目を開けるところだが小町より少し声が低い。
「……比企ヶ谷?」
一体誰だ。俺の安らかな眠りを邪魔する奴は。
俺がドラゴンなら間違いなくブレスっている。
奉仕部の机は本当によく眠れる。順位は
クラスの机>奉仕部の机>家のベッド
おすすめの睡眠導入BGMは国語の授業!
「3度目は言わせるなよ」
殺気を感じたので目をこすり、死にかけのドラゴンみたいな顔を目指しながら目を開けた。
ドラゴン、かっこいいよね!修学旅行の中学生がドラゴンのキーホルダー買うのも仕方ない。いつのまにかお母さんに捨てられてるまでがセット。
そこには国語教師の平塚静が額に青筋を立てながらこちらを睨む姿があった。
おいなんでだよ俺何もやってねぇよ。
いやなにもやってないからですねそうですね。
でもまぁ暇すぎる奉仕部にも問題がある。
忙しければそれはそれで問題だしな。警察が暇な方が世界は平和だ。
奉仕部が暇な方がこの学校も平和で俺もハッピーだ。
「ひきガエル君はそのまま冬眠すればよかったのに」
聞き慣れた声が近くから聞こえた。
ページを捲る音が響いた方を見るとそこには本を読んでいるだけでも絵になる可憐な少女がいた。
……なんて、まるでラノベの主人公が初めてメインヒロインに会った時みたいな反応は置いておいて。
「中学のあだ名で呼ぶなよ。悲しくなる」
The嘲笑といった表情で呟く雪ノ下を睨みつけておく。
性格を鑑みれば可憐とは言い難い。残虐非道とかの方が合うまである。
「極めて下劣な視線を感じるわ……」
雪ノ下は乱れてもいない襟元を掻き分けるようにしてこちらを睨みつける。
誰もそんな慎ましやかな胸見てませんよ。……いやまじで。
まじで。
「そろそろ雪ノ下ではなく私を見てもらおうか」
平塚先生は俺の顎を掴んで俺の顔を無理やり自分に向けさせた。
か、かっこいい!惚れた!
照れて目が逸れちゃったゾ!
「いや先生は俺なんかじゃなくもっと年頃の男に見てもらった方が」
「困った。君の頭を位置が悪いせいで力を込めにくい」
急いで姿勢を正して逸らしていた目を平塚先生にもど……そうとしてまた逸らした。
あらかなり挙動不審。まぁ寝ている人に殺気ぶつけてくる人の方がかなり挙動不審だし俺が目を逸らすのもおかしな事じゃないな。うん。
「私はな、怒っているわけじゃないんだ。怒っているんだ」
急な小泉構文。気分はローダウン。
「せっかく私という依頼人がきたのになんて事だ。たった一人の男手が寝ている。あぁ困ったな」
「男手というのは男女差別では?男性よりも力が強い女性なんていくらでもいます。ここ奉仕部の部室の中で数えても俺の力なんて下から数えて1番目なわけで」
ノーモーションで腹に拳が突きつけられた。
もちろんグーである。
「次は顔だ」
「……」
今度こそ真面目に話を聞く姿勢を取る。
「君がこの奉仕部に入ってもうかなりだ。慣れてきているのはわかるしそれは私にとっても嬉しい事だ。でも!」
平塚先生は机をバンと両手で叩いた。
「私が来た時寝ているのはッ!違うだろッ!」
「やっはろー!」
雪ノ下が「うるさいです平塚先生」、と冷たく言い放つと同時にその能天気な挨拶は聞こえてきた。
というか平塚先生少年マンガの
「……やっはろー!」
「もう一回言っても誰もやっはろーを返してくれないぞ」
平塚先生がやっはろーと小さな声で言っていた事に関しては触れないでおく。
「由比ヶ浜さん、うるさいわ」
「来たばかりなのにゆきのん冷たくない?!」
ひどいよ〜と言いながら由比ヶ浜は雪ノ下に抱きついていく。
「暑苦しい……」
君ら本当に仲良いですねぇ……
平塚先生も百合空間を邪魔するのは気が引けるようで露骨に目を背けた。
そしてその目は再び俺をロックオン!
「君には!寝ていた分の罰としてこれから世間の高校生っぽい日常を過ごしてもらう!」
「ざっくりしすぎじゃないですか?!」
「そんな事比企ヶ谷君に出来るわけないわ」
「そんなのヒッキーじゃ無理だよ!」
俺の信用がなさすぎて泣けてきた。
それはそうと俺も世間の高校生の日常っぽい事なんて出来るわけないと思います。そもそも世間の高校生っぽい事ってなんだよ。というその世間の高校生の中には俺も入ってるんですけど。つまり平塚先生はありのままの君でいいよ的な事を言ったって事ですか?あ、違いますかそうですか。
どうやってはぐらかそうかしらと考えていると再び部室の扉が開いた。
「せんぱ〜いまずいです〜やばいです〜収支が何度計算しても合わなくて、ってあ」
あ、止まった。
まーた一色は仕事から逃げてここにきたのか……
少しずつ後ずさりして逃げようとしている。
まるで熊に会った時みたいな反応だ。
けれどもう奉仕部顧問のクマさんからは逃げられないZE!
「一色?君にはさっき新しい仕事を与えたばかりのはずだが……それはどうしたんだ?」
「はわわわわわ」
はわわわわ言い出した。仕方ない、ここは俺が人肌脱いで……
「テンパったふりをするな、比企ヶ谷も助けなくていいぞ」
「ぐっ!」
ま、まさか俺を騙していたのかいろはす?!
一色が魔性の後輩すぎてまじ辛い。辛すぎてなんなら尊いまである。
「ヒッキーやっぱいろはちゃんに甘くない?」
「比企ヶ谷君だから仕方ないわ」
「正直チョロすぎて助かってます⭐︎」
「俺のチョロさで今日も社会は回っている」
俺のおかげで社会は回っているんだからもっと社会は俺に優しくするべきだ。比企ヶ谷八幡専用車両を作るべきだ。
はぁ、とため息が聞こえた。ため息をすると婚期が遅れるというのは本当だったか。
「比企ヶ谷、君は街中で配られたアンケート用紙に職業という項目があれば何と書く?」
答えはもちろん
「そもそもアンケート用紙を渡されません」
「高校生、と書くだろう?」
俺の意見フル無視するのに文末に?マークはつけるんですね……
「君は高校生なんだから高校生らしい事をするべきだ。ドタバタラブコメをするべきだ。友人とサイゼでフォッカチャ片手に耐久するべきだ!」
「最後のはもうしてますよ。1人で」
「1人サイゼはハードル高くない?!」
分かってないな由比ヶ浜。1人でサイゼに行って孤高の狼を演じると気分がよくなるのだ。そんな時に限って同中に会うのは運命だから仕方ない。
命を運んでくると書いて運命とはよく言ったものだと俺の心の中の殺人鬼も言っている。
「もう一度言おう比企ヶ谷!君には寝ていた罰として世間の高校生っぽい日常を過ごす事を命じる!」
平塚先生を中心に風が巻き起こった、気がした。
おそらく平塚先生のパワー的な力がパワフルったのだ。
助けを求めようと周りを見渡すと……
我関せずとあった具合に読書を続けている雪ノ下。
その雪ノ下とブランケットをシェアして頬が緩んでいる由比ヶ浜。
いつのまにか消えていた一色。っておい逃げるな。
こ、こうなったら戸塚を一度だけ召喚出来る戸塚ボタンを使うしか?!
まぁそんなのあったら俺がもう使い切ってるんですけどね。
だが、俺にも意地がある。戸塚に誓ってもいい。俺には世間の高校生っぽい事なんて出来るわけが……
「ちなみにこの罰は戸塚が考えたものだ」
「はは、こんなの罰になってないですよ。謹んでその罰(笑)を受けさせてもらいます」
やっぱり戸塚の考えはなんかとつかわいいなぁぁ。
不思議と世界が綺麗に見えてきた。
「ヒッキーって彩加ちゃんにも甘いよね……」
「あと小町さんにもね」
彩り加えると書いて彩加!すばらしいな世界。
「まぁ嘘だが。100%私の思いつきだ。だがもう受けると答えたんだから受けてもらうぞ」
「……え?」
おい世界?話が違うぞ?
「いつもは賢いのにこういう時ヒッキーってEQ低いよね……」
雪ノ下がこめかみをおさえながらEQじゃなくIQと答えてるがどうでもいい。「EQも低いからあながち由比ヶ浜さんの言ってることも間違いじゃないわ」とか言ってるがそれもどうでもいい。いやよくない。
や、やはり。
やはり俺の日常生活も間違っている。