「全く酷い目にあった」
俺はひとまず奉仕部から逃げて帰る事にした。ひとまずといわずにふたまず逃げたい。
逃げるは恥だし役立たずとはよく言ったものだ。……ん?
まぁいい。今日はこの程度にしてやるか。俺の心の魔王もそう言っている。
「ヒッキー!」
校門をくぐろうとした瞬間聞き覚えのある声が聞こえた。心の魔王を倒しに来た勇者だろうか?
まぁ勇者エイトマンとして迎え撃ってやろう。魔王?知らんな、なぜなら俺は勇者だから!
「俺の
「どしたの急に?!」
まずい口に出ていたか。材木座の原稿にあった必殺技をつい呟いてしまった。
俺を呼んだのは由比ヶ浜か。
「気にすんな。独り言だ」
「それはそれでやばいけどね……ってあの、今日、一緒に帰らない?ゆきのんはいろはちゃんの手伝いしてから帰るみたいで。あたしもやる!って、言ったんだけどちょっと……」
由比ヶ浜が言いづらそうにするなんて珍しい。
両手の指をつんつんしながら口もツンツンさせている。急にデレてくるタイプのツンデレかよ。
「何かあったのか?」
さっきまであんなにくっついていたのにもう喧嘩した、とは考えづらいが。
まぁあの悪鬼惨虐非道羅刹ノ下さんならあり得るか。っと、なぜか寒気が……
「何かあったわけじゃないんだけど……」
「……」
こんな時は沈黙で追撃だ。……漆黒の
「……えっと……収支の計算、仕方わからなくて……」
なぜそこで照れる。
「当たり前のことを重要なことっぽく言うな」
「ごめん……ってなんで?!」
由比ヶ浜は俺の肩をぽこぽこ叩いてきている。ちょっと!ボディタッチに弱いから!やめて!お触り厳禁よ!
「じゃあ帰るか」
由比ヶ浜に手を差し伸べる。
「へ?……へ?!……ん」
顔を真っ赤にした由比ヶ浜が俺の手に自分の手を重ねてきた。いや、えっと……
「いや、由比ヶ浜の荷物を自転車のかごに載せようとしたんだけど」
「へ?!」
あ、固まった。
「えい!」
「ぐへ」
俺の顔にカバンを投げてきた。俺の顔が吹っ飛んだらどうするんだ。新しい顔を投げてくれるのか?バタ子さん見習いとして努力するんだぞ。
「え、なににやけてんの?」
「いや、パン焼く人の事考えてた」
「いやなんで?!」
カバンを自転車のかごに二つ載せ、由比ヶ浜と歩く。
「ヒッキーって時々、いやよく、いやずっと、なんかキモいよね」
「急な罵倒に涙が止まらない、というか時々で止めてよかっただろ」
「……まぁその分、かっこいいところもあるけど…」
……急にそういう事言うなよ……
会話が止まった。ナンテコッタ。俺は止められた時を動かすのと同じくらい止まった会話を
「……」
「……」
厨二風に言うと今の状況はこうだ。
沈黙が場を支配した。
………
「ゴラムゴラム!」
「ねぇヒッキー、なんか聞き覚えのある鳴き声しない?」
「せめて声って言ってやれ」
その鳴き声は真後ろから聞こえる気がするがここは振り向いてはいけない小道!振り向くとあの世に「ゴラムゴラム!」
あ、逃げれないやつだ。RPGで言う強制クエストという奴である。
電源落としてでも逃げたいが現実にセーブやロード、切断なんて概念はない。
セーブロードがあればこいつもこんな事には……いや、なろう系主人公になったみたいだとかなんとかほざいて悪化しそうだな。そろそろ向き合おう。そう、この神出鬼没君の名前は
「足利義輝だ」
「中二じゃん」
「この中で一度も名前呼ばれてないの酷すぎ……ないか材木座だし」
みんなの人気者⭐︎材木座義輝⭐︎だ。
そういえばやっとこいつの暑苦しいロングコートが目立たない季節になったな。
どんどん日も短くなっていて今もまだ5時過ぎだと言うのに空は赤みがかっている。
「せっかくヒッキーと2人で帰れてたのに……」
「ゴラムゴラム!」
由比ヶ浜が何か言っていたが材なんとかの咳払いのせいで聞こえなかった。いやうるせえよ。今度こそ
「八幡よ!我が宿敵であり我が
「どっちだよ」
「原稿持ってきたから……読んで?」
………いや。
「奉仕部で渡せよなんで下校中に目を汚さなきゃならないんだ」
「今日奉仕部に行ったら……なんか、人たくさんいたし……」
「それは悲しいね」
「由比ヶ浜、悲しくなさそうに言うな」
まぁ、あそこに材木座がいればもっとややこしくなっていただろうから丁度よかったか。それにさっきまでの口ぶり的にも平塚先生との会話の時はいなかったようだ。尚更丁度よかった。
「というか八幡」
「なんだ?」
「……世間の高校生っぽい日常、とはなんだ?」
……
「いやバリバリいるじゃねえか」