ダンジョンに強さを求めるのは間違っているだろうか |迷宮神聖譚《ソード・オラトリオ》 作:ベル虐サイコ〜!!!
地面を踏み荒らす無数の脚は蹄を持ち、身体を覆う体毛も皮膚も人のそれではない。
頭髪のない頭部からは一対二本の角が伸び、口元から覗く牙もまた同様に鋭い。
その数は優に百を超え、真っ赤な眼球がギロギロと周囲を吟味している。
モンスターは鈍器を持つ太い腕を頭上高く振りかぶり、そのさまに身をすくませる前衛に即座に盾を構える指令が送られる。
「「「「「「「─────ッ!!」」」」」」」
直後、一際大きな轟音と共に大地が大きく揺れた。
前衛がその一撃を大盾が受け止める衝撃で土煙が立ち昇り、辺り一帯に蔓延る砂塵が視界を覆う。
「ティオネ、ティオナ!左翼への支援急げ!!」
「あ~ん、もう!!身体がいくつあっても足らないよ!!!」
「泣き事言ってないでさっさと働きないティオナ!!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで前見ろバカゾネス共!!!」
ティオナの泣き言が飛び、それに対して姉のティオネが叱咤、そんな二人を見ながら灰狼の前衛 ベートが二人を一喝。
「分かってるわよ!!」「分かってるってば!!」
そんなベートの叱咤を聞き、感情をあらわにしながらモンスターを殴り倒していく。
そんな中、後衛で弓を構える
「団長ぉ〜」
「情けない声を出さないでくれ、僕らはダンジョン攻略パーティ【ロキ・ファミリア】なんだから、こんなの慣れっこだろ?」
「は………、はぃ〜〜〜」
そんな弱気なラウルを横目にフィンは自信の更に後方で今も歌を紡いでいるハイエルフを一瞥する。
(まだリヴェリアは詠唱中、だかこのままでは前線は崩壊する。どうする?後進の育成もここまでにするか?)
一瞬の思考の末、前線で今も細剣を振り続け魔物を屠り続ける金髪金眼の少女、アイズ ヴァレンシュタインに再度戦線の維持を命ずる。
だが、アイズはその命令を無視し、前線を更に押し上げ、魔物を屠り続ける。
それを見たフィンは単独行動を咎める事を決意しながら今も隣で仏頂面で戦況を見定める白髪の
「ベル、モンスターを掃討しろ、これ以上の被害は今後に差し支える、構わない、殺れ」
「分かった、リヴェリアの詠唱時間を稼げば良いんだな?」
灰色の左目と翠色の右目をフィンに向け、たったの数手言葉を交わしただけでフィンの真意を感じ取り、それを再度確認するベル。
それを少し笑いながらフィンは肯定する、するとベルは腰に刺していた一本の剣を地面に刺す。
「剣は持っていかないのかい?」
「これがあると被害が拡大する、不要なときはなるべく使わないようにしているんだ」
「そうか、まぁ君に限って重傷を負うなんてありえないし、別に良いか」
「ああ、ただアイズの単独行動には目が余るぞ?あれば後でリヴェリアにこってり絞られるな」
そう笑いながらベルはモンスターの居る前線へとひとっ飛びした、それを見ながらフィンはこの戦闘の終結を確信した。
ベルはモンスターの居る前線のど真ん中へと飛び込み、一言、無詠唱の速攻魔法を使う。
「【ファイアボルト】!!」
たったの一言、なのに放たれる魔法の威力は辺り一帯のモンスターを滅却するに至る。
ファイアボルト、速攻魔法でありながらその威力は長文詠唱魔法に匹敵する威力であり、放たれた雷線は地面を走り、放たれた炎は波打ちながら雷線と共にモンスターを魔石へと変え続ける。
「【
またしても紡がれる、今度はスキルの
放たれる魔法の効果を増幅させたり、一撃の威力を増幅させる事が出来る、その力は今も右手へと集約し続ける。
そんな中今も尚モンスターを狩り続けるアイズを見てベルは一言「下がれ」と言う、それを聞いたアイズは一瞬反論しようとするが、ベルの右手を見て瞬時に撤退する。
そうして20秒のチャージが行われた右手には純白の光が強く宿り続ける、その光を放つ右手を前方、すなわちモンスターのいる方へと向け一振りする。
「【
無造作に、ただ右腕を横に振っただけ、それだけでそこから放たれた斬撃は極光となりてモンスターを掃討する。
それでも残るモンスターをリヴェリアの第二階位魔法が殲滅し尽くす。
「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!!」
「レア・レーヴァテイン」
特大の魔法陣から放たれる炎柱、その一撃は全てのモンスターを焼き払った。
こうして49階層での戦闘は終わり、ここは50階層。
モンスターの生まれない冒険者の
そんな中一人のエルフが、山吹色の髪の少女がその長い耳を垂れながら涙を浮かべていた。
「元気だしなってばレフィーヤ!」
「そうよ、結局は誰も傷ついていないんだしさ、気にすることないわよ!」
「で…でも…、魔道士がモンスターにビビって詠唱をおろそかにするなんて…」
「こりゃ重症じゃ」とティオネとティオナはお互いを見合いながら意思を交わす。
それを遠巻きに見ながらベルは苦笑する、「そんなの誰にでもある」と心のなかで思いながらも鍋の中身を回し続ける。
あたりには腹をすかせた団員達が集い、今にも出来上がりそうなベルの作るご飯を睨みつける。
早くできろと言わんばかりに鍋を見つめる団員達にベルは一言。
「お前達、鍋を見ていてもご飯は出来上がらないぞ!大人しくテントの位置でも決めて待ってろ」
その一言に集っていた団員達は散開し、各々が白い布を持ってテントの位置を決める。
そんな中ベルの隣で皿を運ぶ
「あいつらも懲りないわね、結局どんなに待っていてもベルがつまみ食いさせてくれわけないのに」
「そうですね、ラウルなんて見捨てられた兎見たいな顔してましたからね」
そう言いながらベルは鍋からお玉を引き上げ、皿とスプーンを一つづつ手に取る。
「全くよ、ってもう出来上がったの?」
「はい、そもそも皆さんが溜まってたから追い出しただけですし」
「それは?誰かに届けるの?」
「はい、今頃命令違反で怒られているであろう人に」
「あぁ、そうね、それじゃあ私も『見捨てられた兎さん』にでも届けてあげますか」
そう言いながらアキはお皿にシチューをよそる、それを見たベルは『はよ、結婚しろ』と言いたくなったのを心の奥でぐっと堪えた。
湯気がのぼるシチューの皿を手にし、一際でかいテントの方へとベルは足を運ぶ。
その中では今まさにアイズが怒られている最中だった。
アイズが命令を無視するのは今回が初ではない、だがその際は大体仲間が危機に陥りそうな時である。
だが、今回は確かに危ない場面はあったが人死が出るほどでもなかった、なのにも関わらずアイズは命令を無視した、流石に今回は見逃すこともできず、フィンやリヴェリアはアイズに説教を食らわせていた。
「―――――――――窮屈かい?今の立場は」
「うぅん、ごめんなさい」
その一言に私は首を横に振った、別にそういう訳ではない、私は…私は強くなりたい、どこまでも、限界の
そんなアイズを見てフィンは苦笑しながらもアイズを叱咤しようとする、そんなフィンを対して垂れ幕の外から声が掛かる。
「フィン、それぐらいにして上げてくれ、アイズだって皆を庇ってくれていたんだしさ」
「ベル、そんな事を言っていても彼女はロキファミリアの主力だ、もし彼女が落ちることがあればそれはその後の指揮にも関わる、それにその内容に是非を問わず彼女の行動は下の者にも関わるんだよ」
「もしアイズが殺られそうになったら俺が助ける、それじゃあ駄目か?」
ベルはアイズにシチューの入った皿とスプーンを渡しながらフィンの方を向く。
フィンもベルに視線を飛ばしながら、呆れたように言葉を口にする。
「分かったよ、今回は君の言い分を聞こう」
「ありがとうフィン、ほらアイズ!とっととご飯を食べろよ、ティオナ達も待ってたぞ」
「う…うん、ベルは?ベルは食べないの?」
「俺はもう食べたよ、だからアイズも食べてきな」
ベルは優しく諭すようにアイズに言う、それを聞いたアイズはフィンにもう一度ごめんなさいをしながらテントを出た。
そしてベルも出ようとした時、フィンがそれを遮るように言った。
「君たちは…、本当によく似ているよ、似なくても良いところが特にね」
「そうだな、昔の僕もあんな感じだった?」
ベルの一人称が俺からの僕に変化していた、フィンやリヴェリア、ガレスの前ぐらいでしか聞かないそれを聞いて、思わずリヴェリアは笑ってしまっていた。
それを見たベルは「なんで笑うんですか?」と、少し頬を膨らませながら問うた。
「なに…すまない、ついに…昔のお前を思い出してな、それを重ねてしまうとどうも笑ってしまう」
「ベルよ…、もう少し物腰を柔らかく下ほうが下の者にも好かれやすいぞ」
「そうだね、あまり威厳にばかりに気を取られていると、そのうち君は見ながら恐れられるだけになってしまうよ」
「それでも僕は第一級冒険者です、ある程度の風格がないとそれはそれで駄目でしょ?」
そんなベルの問いに、フィン達は笑ってしまった。
そんな中、今も尚笑いをこらえ続けるリヴェリアを見て、更にベルは頬を膨らませて拗ねる。
そんなベルを見かねて、リヴェリアはベルの白髪を撫でた。
それに思わずベルは目を瞑り頭をかがめてしまった。
子供らしい、それがベル クラネルの原点、それがいつの間にかレベル7へと至り、都市内外問わず、更にはファミリア内でも一線を置かれる存在となってしまっていた。
元来ベルの性格はお人好しで人見知り、そんな彼の自信を顧みずに他を救うという心情にリヴェリア達は苦労させられていた。
6年前、入団当初のベルは正しくアイズの再来だった。
誰の言葉に耳を貸さず、その身一つでダンジョンに赴いてはいつも体中に傷をつけて帰ってきてはリヴェリアに怒られていた。
そんなある日、ベルがダンジョンから帰ってきてステイタス更新を行うとレベル2へとランクアップしていた。
入団してからたったの一ヶ月でのランクアップ、これに対してリヴェリアは激怒、それを見たフィン達は「またリヴェリアが怒ってベルは逃げるな」と思っていた。
だが、そうはならなかった、その日を境にベルは無理をすることをやめた、窶れた白髪はその純白さを取り戻し、ベルの身体はどんどん栄養を取り戻していった。
何があったのかリヴェリアはベルに聞いた、するとベルはゆっくりと振り返る様に言った。
『お義母さんがね、『お前の髪は母親そっくりだよ』って言ってくれたのを思い出して、それでふと鏡を見たら僕の髪は白じゃなくなってた。このままじゃあの人達に貰ったものまで忘れちゃう、それはやだったから…だからやめた、それにお義母さんは僕に最後に『お前が健康に育ってくれる事を祈ってるぞ』って、それに叔父さんには『山程飯を食って大きくなれ!』って言われたから、それを思い出したら…なんだか今の僕はすっごく駄目な気がして……このままじゃお義母さん達もゆっくり眠れないから、だから無理をするのはやめる、ゆっくりとしっかりと地道に僕は前に進むよ!!』
その時のベルの顔をリヴェリアは一生忘れることはないだろう、復讐とは違う…そんな優しい眼差しを空に向けながらベルは言った。
自分の思いが通じた訳ではなかったが、この子が無茶を辞めてくれるならっとリヴェリア少し嬉しかった。
そんな事を思い返しながらリヴェリアはベルの頭を撫でるのをやめ、テントの外へと送り出す。
それを見たフィンは一言。
「変わったね」
「ああ、アイズ達も…無論あの子も、本当に変わっていったよ、気づかないうちにベルは私達の背を超えていた」
「そうだね、そして変わったのは君もだよ、リヴェリア」
フィンはリヴェリアの瞳を見ながら笑って言う、昔のリヴェリアは本当に高慢だった、それを思い返せば君もずいぶんと丸くなった…とでも言わんばかりに意地の悪い顔をしながら。
「そうだな、そうかも知れないな」
―――――――――――――――――――――
いつからだろう?私があの人を…ベルを兄のように思ったのは。
昔からこういう訳ではなかった、最初の頃は「あの子も、私と同じ目をしていた」と親近感を覚えていた。
復讐に駆られた眼、どこまでも闇を孕んだ灰色と翠色の瞳は、私を見てはいなかった。
それが悔しいと思うことはなかった、私も彼を見ていなかった、お互いに親近感だけを感じながら、昔は殆ど話すこともなく、いつもリヴェリアの勉強から逃れる為に協力し合っているだけの関係だった。
それがある日、彼が一ヶ月と言う期間でランクアップを果たした次の日からあの子は変わった。
あれば駄目だ、復讐を忘れている、思い出させてあげないと…と、私の中にいる私が…そう言った。
どこまでも黒い風が再び彼を捕らえようとした時、それは叶わなかった。
あの子は変わってしまった、憎しみを忘れ、笑顔を取り戻したあの子の顔は、もう私と重なることはなかった。
それからの彼は人が変わったかのように笑顔を浮かべる回数が増えた、リヴェリアに勉強を教わり、フィンやガレスに技を教わり、それでも傷だらけで帰ってくる事だけは辞めなかったけど、その傷はどれも致命傷に至ることはなかった。
いつもアミッドに怒られながら傷を癒してもらい、リヴェリア達に心配されながらも笑顔を浮かべている彼に私は吐き気がした。
復讐を忘れ、ただただ優しい理想に逃げるだけの彼が、そして私は失望した、何よりも自分自身に…彼を羨む私自身に。
それは自分で殺したんだ、強くなる為に…斬り捨てたんだ、そうするしかなかった…無かったのに、彼は違った、全てを捨てる事なく、全てを守り抜いていった。
そんな彼がロキファミリアに入団してから三年が経ち、彼はいつの間にか私と同じレベル4へと至っていた。
その少し前から、私とベルはフィンの計らいでリヴェリア達と共にダンジョンに潜る回数が増えた。
私とベルは少しづつ話す回数が増えた、お互いに笑い合いながらも、ダンジョンに強さを求めて。
ベルとの時間が、私はだんだん好きになった、この時だけは、私は私でいられる、そんな気がした。
そんなある日、私達は37階層へと降りていた、リヴェリアとフィンとベルと私の四人だった、その頃には既にベルの方が強くなっており、私よりも効率的に、圧倒的に、無慈悲なまでにモンスターを狩り続けるベルを見て私は恐怖した、どこまでも強くなり、それでも前を見続けて、その憧憬はどこまで強いのか私は気になった、だからリヴェリアに聞いた。
リヴェリアは答えてくれなかった…いや、答えられなかった、その答えをリヴェリアも知らなかった、それだけは頑なに答えようとしなかったからだ。
その答えを聞こうとベルに話しかけようとした時、ダンジョンが吠えた、猛々しく、何かに挑むように。
そしてベルはダンジョンに飲まれた、下の階層へと落ちていった、私を庇ったせいだ、私のせいでベルが死ぬ…それは嫌だった、何でかは分からなかった、それでも走り出した、リヴェリア達を置いて、その制止を振り切って。
その先に待っていたのは一匹の竜だった、漆黒を纏い、何処までもこちらを睨みつける紺碧の瞳を見て、私の中の黒い風は歓喜した。
その竜と殺し合い、それでも倒れない竜に、まるで私の前に立ちはだかるようにする竜を見て思い出した、私はベルを助けなきゃいけないんだと。
そう思った時、黒い風が白く変化し、 私はその風の名前を呼んだ。
「【
白い風が竜を穿ち、私は漆黒の竜に勝った、その後からリヴェリアとフィンも来て、私達はベルの下へと向かった。
そこにあったのは死闘だった、漆黒のミノタウロスが…その凶暴な片角をベルに向け、ベルもその漆黒の長剣と赤の長剣を向け、繰り広げる戦いはどこまでもお互いを求め合っていた。
まるで英雄の様に、そうしてベルと漆黒のミノタウロスとの戦いにも終わりが見えてきた。
大鐘楼の鐘が階層中に鳴り響いた、ベルの右手から白銀の光が漏れ出していた。
――片や、漆黒をその身に纏い、どこまでも凶暴な片角を持って英雄を打ち砕かんとする
――片や、純白の大火と雷轟をその身に宿し、どこまでも真っ直ぐに敵に挑む、神話の英雄を彷彿とさせる少年。
その戦いは次の一撃を持った終結した。
ベルの身体が白く光り、手に持っていた双剣は大剣へと変化し、放つ轟音の鐘は白き炎雷となった。
ミノタウロスはその意を受け取ったのか、両腕を地につけ、巨大な片角をベルに向けて突進体勢に入った。
そうしてお互いが一直線上に向き合い、最後の大技を放つ。
地を蹴る轟音が、走る雷鳴が、敵を焼き尽くさんとする大火が、一つに集約された。
「【
凄まじい極光が、漆黒のミノタウロスを断ち斬り、階層ごと斬り裂いた。
正しく英雄の一撃、リヴェリアとフィンは目を見開いていた、私もその一撃を見て驚いた、同じレベル4なのに、私では絶対に出せない威力の一撃だった。
勝ったのだ、恐らく推定レベルは5以上、『力』と『耐久』は恐らくレベル5の中でも上位に君臨する強さだった。
そこでの死闘が終わり、私達は地上へと戻った、ベルアミッドの所へと行き、こってりと怒られていた。
昔から無茶をするベルをアミッドはいつも叱っていた、その銀髪の髪も相まって二人は姉弟にも見えた。
そんなベルがホームに帰ってきたのは3日後の事だった、そして私達はロキにステイタスの更新をしてもらい、レベル5へとなった。
そこから私とベルは背中を合わせて戦うことが増えた、沢山の後輩が入り、レフィーヤやティオネにティオナ達と一緒にダンジョンの遠征へと潜った。
だが、そんな日々は長くは続かなかった、ベルはあれから一年という歳月でまたしてもランクアップを遂げた、私も追いつこうと必死に努力したが、叶わなかった。
そしておよそ半年前、私達ロキファミリアは行きで37階層の
そんな中、フィンは最も効率的に、そして冷徹に次の言葉を発した。
「ベル、君があれを足止めしろ」
その一言にベルは言葉を発することなく動いた、ウダイオスの左腕を粉砕し、
ベートさんやティオナ、ティオネや私も反対した、加勢の許可を貰おうと必死に抗議した。
そんな時、ウダイオスはその残った右腕を地面に突き刺し、そこから黄金の大剣を引き抜いた。
そこから放たれた黄金の斬撃は、【
その一撃が私達を襲う…筈だった、その斬撃は直前でベルの双剣によって阻まれた。
「大丈夫だよ、アイズ」
その一言に、私は立ち尽くしてしまった、その場にいる殆どの人が、その勇姿を目に刻もうと立ち尽くした。
地面から這い出るスパルトイが消え、
そして、両腕を失い、抵抗の術を失ったウダイオスはみっともなく吠え、剣山を隙間なく出し、最後の抵抗だと言わんばかりにその力を発揮した。
だが、その一撃がベルに届くことはなかった、破壊していった、破壊する度に威力が上がり、ベルの全身からはあの時と同じ大鐘楼の鐘が鳴り響いた。
全ての剣山を破壊し、裸の王となったウダイオスにベルはあの人は違う一撃を放った。
「【
それは恐らく、私と一緒にじゃが丸君ノ屋台を巡っている時、屋台にいる一柱の神、炉の女神ヘスティア様のもう一つの名前を借りたのだろう。
ベルが興味本位で聞いた事、私と行っていなければそれは聞くことはなかっただろう名前。
その名前を借り、聖火の如き白の大火が、ウダイオスを飲み込んだ。
そして地上へと戻り、ロキの一通りのセクハラを終え、ベルはロキの自室へと向かう。
そしてステイタス更新を終え、ロキの奇声がホーム中に鳴り響いた。
聞かなくても皆わかっていた、ランクアップしたのだと、あれ程の戦いをしたのだ、ランクアップしないほうが可笑しい話、だけど私は悔しかった…いや、それ以上に悲しかった。
ベルは前を歩き続け、私は停滞したまま、その差をありありと感じる日々は辛かった。
きっと私が言えば、ベルは隣を歩いてくれる、そんな予感はしてる。
けど言えない、ベルの悲願が…それを邪魔するのを私は許せなかったから、これ以上ベルの足を引っ張りたくなかったから。
半年前、ベルはレベル7となり、名実共にオラリオ最強の【
都市最速の異名を【
ベルの起源が知りたい、ベルは何であそこまで強さを求めるのか、私は知りたかったから。
―――――――――――――――――――――
僕は半年前、レベル7へとなった、黄金のウダイオスを下して。
正直嬉しかった、強くなり続けている事が分かって、アルフィアお義母さんやザルド叔父さんに近づいている事に。
そうしてまたダンジョンに入り浸り、砕けた長剣【
37階層の黄金のウダイオスを討ち取り、その際にドロップした金の大長剣を遠征帰りにヴェルフに預けた。
僕としてはこれで代わりを打ってくれという善意のつもりだったが、ヴェルフ曰く、これを打つのには準備も時間もかかり過ぎる、三ヶ月は待てと言われた、正直それは良かった、僕が言い出した事だったし、だけどヴェルフはヘファイストスファミリアの第二級
最初は剣を打つのを嫌がっていたヴェルフ、そんな日、僕が「それは僕の力じゃないから、僕はあまり頼りたくないかな」と言う僕の嘘偽りのない言葉を聞いて、ヴェルフは僕と専属契約を結んだ。
アイズ達と潜れない日は二人でダンジョンに潜ったり、ヴェルフと共に沢山の冒険を繰り広げ、ヴェルフは気づいたらレベル3になっていた。
最初は「『鍛冶』のアビリティを得るまで」と言う期限だったが、それからも一緒に中層、下層と潜る度に強くなっていき、気づいたらレベル3、ヴェルフは「椿と同じになっちまったぜ、あいつの様な変人にはなるまいと思っていたのにな」と苦笑していたが、その顔や声からは喜びが見えた。
僕の力になる為と言ってプライドを捨てて魔剣を打ち、クロッゾの魔剣をロキファミリアに提供する代わりに遠征へと帯同を申し出るヴェルフにフィンは目を見開いてい快諾した。
今回はヴェルフは帯同していない、僕の剣を打つために今も鍛冶場に籠もっている…筈、愛想をつかされていない限り。
僕がレベル7になって三ヶ月が経った頃、お金を稼ぐ為にダンジョンに一人遠征へと赴こうとしていた。
同じレベル7のオッタルさんは一人で深層に遠征を行っていたと聞き、僕もそれをすれば良くね?と思ったのである。
アルフィアお義母さんが言うには――
『37階層には、無限にモンスターの湧き出る
と言っていた。ザルド叔父さんも――
『37階層のコロシアムにはモンスターが山程いる、そいつらを食えば食料には困らん、金が掛からねぇのに金が稼げる、お得だろ?お前も俺等に追いついたらやってみろ!!』
と言っていた、それを実行すべくダンジョンに1週間分の食料と僕の主装備を身に着け、お義母さんから貰った純白の腕輪【
そんな中、僕と同じように大きなリュックサックを背負い、一人で深層へと赴かんとする武人が一人。
道中でオッタルさんと出会うとか言うアクシデント、いつもならここで殺し合いが始まるのだが、今回は違った。
オッタルさんも僕と同じでお金を稼ぎに深層へ単独遠征を行っていたらしい。
何でも「俺の大剣の整備に馬鹿みたいな金が掛かると【ゴブニュファミリア】の主神が言ったのでな、金を稼ぐために俺は深層へ行く、お前もか?」とのこと。
「そんな感じです、俺はお義母さんと叔父さんの助言を頼りに金策を行うところです」
「ザルドとアルフィアか?」
「知っていたんですか?」
「安心しろ、誰にも話していない、ザルドから最後に頼まれた、『俺らの息子がここに来る、そんときゃテメェが俺等のようにあの子の前に立ちはだかれ』とな、それを聞いていたフレイヤ様と俺以外は恐らく知らんだろうな」
「そうですか、そうだったんですね!!」
「恨んでいないのか?俺はお前の親を…」
「僕もオッタルさんが停滞を赦していたらきっと恨んでいたでしょう、でもオッタルさんは強くなろうとしている、ザルド叔父さんの意思を受け継いでいる、オッタルさんにその自覚があるかは知りませんけど…、だから俺は別に恨んでませんよ」
そんな会話を下層行い、僕はついオッタルさんに金策のことを話した。
するとオッタルさんは苦笑しながら「あいつらなら言いかかねんな」と言っていた。
そんなこんなで僕らは二人で37階層のコロシアムのど真ん中に陣取り、そこで寝泊まりをした。
モンスターを掃討してはドロップ品を回収し、また中央で焚き火の火にあたっていた。
オッタルさんは僕にザルド叔父さんの事やアルフィアお義母さんの事について話してくれた。
ザルド叔父さんから何度も泥の味を教えられ、アルフィアお義母さんからは何度も地に叩き伏せられ、辛酸を舐め続けた日々を。
僕はお義母さんとおじさんとは7、8年の付き合いしかなく、鮮明に覚えていたのは僕を甘やかすアルフィアお義母さんと美味しいご飯を作るザルド叔父さん、アルフィアお義母さんと僕が寝る寝室に入り込み添い寝をしようとするお祖父ちゃん、それに対して【
だからその話は意外というわけではなかったけど、知らないお義母さん達の事を知れて嬉しかった。
「女神神殿浴の覗きという偉業をなしたのは本当だ」とオッタルさんから言われたときは顔を引きつった。
お祖父ちゃんは、『もし儂に
生粋の武人肌だと思っていたオッタルさんは、意外にも感情豊かだった。
団長と言う立場、下の者や幹部の者からは常に恨まれ、女神フレイヤにはいつも我儘を言われ、その板挟み。
そもそも口下手でフィンの様な統率力もなく、圧倒的に僕と同じ背中で語る派のオッタルさんは団長としての立場に苦労していると言っていた。
そうしてコロシアムに居座って五日が経ち、そろそろ帰るかとなって上層を目指した。
ゴライアスが偶々いたので一撃で粉砕、リヴィラの住人はそれに絶句、ボールスさんも流石に絶句していた。
そんな中、17階層で僕らは剣を抜き、殺し合いをした、本来なら37階層程度であれば数時間もあれば戻ってこれる、それをわざわざ早めたのはこの為である。
言葉はなかった、ただお互いに分かっていた、ゴライアスを粉砕し、ドロップアイテムの入ったリュックサックを階層の隅っこに置き、ボールスさん達に「ここに入ってこれないようにして欲しい」と頼み、それを快諾してくれたボールスさん達(ゴライアスのドロップ品譲渡)はそそくさと17階層の出口と18階層の入り口に立ち塞がり、そこを出入りしようとしていた冒険者に警告、それでも聞かない奴には直接その戦場を見せることで、通れないことを確認させる。
一撃一撃が階層を揺らし、轟音を撒き散らす。
お互いにメインウェポンではなかったり、もう片方の剣がなかったりと本気ではなかったが、それでもレベル7の攻防、オッタルさんの黄金の光が、僕の白き大火と雷轟が、大精霊ジュピターの力を行使する僕に肉薄し、引けを取らない威力を持って応戦。
その戦いの決着は引き分けだった。
僕は右腕が断ち斬られて右目が潰れかけた、オッタルさんは全身の骨にヒビが入り左腕が動かなくなっていた。
これ以上は流石に自分達の派閥に迷惑が掛かるため辞めた。
兎にも角にも僕は負けた、引き分けは引き分けでも僕は右腕を失ったのだ。
そんな事を考えながら左腕で取れた右腕と握手をしながらホームへと帰りで、戦利品を置いてデェアンケヒトファミリアへと言った。
その道中かなり視線が痛かったが何のその、リヴェリアやアミッドさんに怒られるのに比べたら軽い軽い。
そうして僕はアミッドさんに大目玉を食らい、そしてリヴェリアにもしこたま怒られ、アイズによる事情聴取が行われた。
後日、ダンジョン探索中の冒険者達の足止めを行ったとのことで僕とオッタルさんはギルドに呼び出し、そのまま怒鳴怒鳴されてしまった。
負けた…受け入れ難い事実、僕は全ての
全ての力を使って尚負けた、僕の力やスキルはどこまでいってもレベル7のまま。
オッタルさんの使う『
レベル7でありながらレベル9の女帝を下したお義母さんを超えられない。
オッタルさんを下し続けたザルド叔父さんを超えられない。
これが意味するのは…、【
つまり―――
―――黒龍には勝てない―――
それは僕にとって認められない事実。
僕はアルフィアお義母さんとザルド叔父さん、お祖父ちゃんの悲願を果たさなきゃならない、それがあの日僕の眼の前から去った二人に対して…、僕が無力だったが故に二人は世界の
それを成し遂げるのは僕…俺でなければならない。
それがゼウスとヘラの最後の眷属である俺に課された使命であり、俺が俺に課した
ベル君の装備
【
・ミスリルと
【
・精霊の力を宿しており、ベルの中の大精霊ジュピターと共鳴していて、その硬度は第二等級である。その為ベルは深層でも大体装備は身につけていない。そもそもベルを傷つけられるだけの『敏捷性』と『力』を持ったモンスターがそんなにいない為、そもそも防具はそんなにいらない。
【
・アルフィアがベルに別れ際に贈ったもの。それは大聖樹の枝とミスリルにユニコーンの角と
今回は見ていただきありがとうございます。